トリガー使えば『宝具擬』が可能な説   作:癒しを求めるもの

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わーとり好き(・ω・)

宝具かっこいい(・ω・)


『突き穿つ死翔の槍』を鉄パイプで

最初に言うと、僕は転生者だ。

 

 

社会人になって早数年。社畜の才能を発揮していた僕は無難に生き抜くため、会社員として日々、消化されることのない量の仕事をせっせと残業しながら片付けていた。

別に、作業の効率は普通だ。あくまで社畜としての才能(意味不明)があっただけで、特別優秀じゃない事務能力を駆使していた。

 

思えば中学生だったあの頃。

全てにおいて平均か、少し上の成績を維持して、生活態度も時折忘れ物があるくらいで悪くなかった僕は担任の教師に勧められて生徒会に入った時だろう。

 

勿論、庶務。所謂雑用だ。

相も変わらず無難に仕事をこなしていたらその習慣が定着していた。いつしか働くことが一種の趣味となるまで成長?した。

 

そこそこの給料とそこそこの友人に囲まれ、殆どないといっても過言ではない休日をダラダラと無駄に過ごした虚しいような、楽しい生活も、仕事帰りに起きた交通事故でおじゃんになってしまった。

 

 

 

しかし、生前は全くと言っていいほどなかった運勢が味方したのか、僕は優しそうなお爺さんの神様とやらに会って転生することとなった。

 

俗に言う転生特典も貰った。

まぁ、僕はここでも無難に『頑丈な身体』にした。しかし神様は不思議そうにした。

「もっと欲を叶えてもバチは当たらんよ?」と。

 

──いや、別に欲も何も。

身体が頑丈なだけでホントに助かるんで。あ、ならついでに精神耐性もあったら嬉しいです。具体的には徹夜作業でも平気なレベルだったら幸いです。

 

 

 

そう言ったらなんか泣かれた。そしてお茶と茶菓子を出してもらった。今まで食べた菓子の中で一番美味しかった。

 

 

そのまま、中々言えない愚痴を流れで聞いてもらったり、聞いたりして過ごすこと数日。漸く転生の時がやってきた。

 

どんな世界か分からないらしい。だからって頭を下げないでください。寧ろ何もお返しできないこっちがするのに。

───え?僕が元気に第二の人生を過ごしてくれればいい?

 

本当、感謝の一言では言い表せないくらい良くしてもらった。これから毎日、感謝のお祈りをしますね。作業にならないよう心を込めて。

 

 

それを聞いてか、また泣いた神様に何度も感謝の言葉を述べ、こうして僕は平和な日本に転生した─────

 

 

 

 

 

 

 

 

────────筈だった。

 

 

「………What?」

 

 

中学生になったある日、僕は今も尚破壊されている三門市を見て無意識に呟いた。

 

 

「…あの白い……ゴキブリ?いや、コオロギ?」

 

 

転生したと自我を持ったのは三歳の誕生日。

両親が居らず、孤児院でお世話になっているこの頃。頑丈な身体を使って子供たちと和気藹々と遊び、二度目の学校生活で必要になったノートなどの物資を少ないお小遣いでやりくりしながら買い物を終えた帰り道に、それは突如として現れた。

 

いきなり現れた巨大化した昆虫のような何かが大量発生しており、街を、人を、殺戮の渦に貶めている。

 

 

「……っ!…あの子達は……!」

 

 

少し高い丘にいるため、街全体が見渡せる。神様が余計に身体能力も上げてくれていたのか、視力はかなりいい。

 

かなり広い範囲にコオロギのような奴や、大きな四足方向のそれが散らばって蹂躙を繰り返している。

その範囲内に、弟妹のように接している孤児院の子供達がいる施設があった。

 

 

───少し、話を変えよう。

 

転生する前。神様と話していると休日の過ごし方について話した。丁度神様も休日扱いにしてもらったらしく、幻想郷のような神界?という場所を眺めながら縁側で茶をしたり、将棋をしてみたりとゆっくり過ごしていくうちに、気づいたのだ。

 

─────もう、ゆっくりしよう。と

 

仕事が趣味?───違う。それは唯の現実逃避だったのだ。

 

じゃあ、何をすればいいのか───のんびり、ゆっくり人生を謳歌しよう、と。

 

僕が生み出した最終結論を聞いた神様は、なんか「お主の特典を強化すれば、必ず報われるじゃろ。安心して楽しむんじゃぞ」と言われてたけど、これ以上頑丈にしたらゾンビじゃないの?と思った。

 

でも、神様の目が慈悲溢れるもので、僕のいままでが報われたような気がしたので何も言えなかった。

 

閑話休題

 

短い時間だったが、この転生を僕は意識をガラリと変えた。

 

────仕事は趣味じゃない。働くのは自分の利益のために!

 

これ以上身をすり減らすのはゴメンだと初めて思えた新しい人生。

年齢も年齢だから労働はしないが、中学生では部活も、勿論生徒会庶務にも入ってない。

 

放課後は気ままに散歩したり将棋したり、そこそこ走っても疲れない身体で軽く運動するくらいだ。

 

 

だけど、今はその考えを破棄する。

昔からお節介とよく言われる僕は、子供達や親代わりとして育ててくれた役員さん達を見捨てて逃げる道はない。

 

少しばかり震える足を掌で叩き、街の中へ駆け出した。

 

 

 

状況は酷いの一言。

破壊されて瓦礫となった建物には血を流す人が多くいた。息がある人を昔、会社であった災害訓練の時に覚えた簡易の処置を済ませて、体力が残っている人の手を借りながら、変な奴らがいないルートを探り、避難を開始する。

 

しかし、何事も上手くいかないものだとわかった。

 

 

「───きゃぁぁぁあっ!」

 

 

近くで悲鳴が聴こえた。

急いで其方に向かうと、恐怖のあまり腰が引けて座りながら後退りする同い年くらいの女子がいた。

だが、目の前には素早い動きで少女に迫るコオロギ擬が。

 

 

「チッ……!」

 

 

瞬間的に動き出した僕は、鋭利にとがった脚部を振り上げる直前のコオロギ擬の前まで飛び出す。

丸腰の僕に防ぐ手段はない。故に回避を選択し、少女を抱き抱えて横に転がる。

 

 

「…痛い」

「……ぇ。ぁ、あれ?」

 

 

少女に怪我のないように慎重になりすぎて、コオロギ擬の攻撃が背中の服を切り裂いた。

一直線に走る痛みを脳が受け取るが、すぐに消える。

つまり大した傷ではない。

 

 

「…立てる?」

「ぇ、あ、あの……」

「…失礼します」

「え?……え、わっ!?」

 

 

転がる流れで上半身を起こした僕は、胸に収まるように抱きついた状態になってしまった少女に声をかけたが、混乱してまともに会話できない。

一刻も時間が欲しい僕は、一応の断りを入れて少女を腕で抱えて走り出す。

本当だったらそんな勇気はない。寧ろセクハラで訴えられないかドキドキして過ごした社畜時代が思い出されてしまうからだ。

 

 

「…しつこい……!」

 

 

反応速度は遅いようだが、コオロギ擬は此方に狙いを定めて走ってくる。

一人だけなら追いつかれない。だが、今は少女を抱えているため上手く走れない。

 

このままでは無抵抗に殺られる。

 

 

「…賭けになるけど……仕方ない」

「あ、あの……」

「…ごめん、危ないから引っ付いてて」

「は、はい……!」

 

 

少し落ち着いたのだろう。声をかけてきた少し茶髪のセミロングをした少女にぶっきらぼうにお願いして動きやすいような体勢になってもらう。

 

……緊急事態にセクハラ扱い、ホントにされないよね?

 

震えながらもしっかりくっ付い──抱きつかれている状況に女性慣れ皆無の僕は一瞬だけ硬直した。

 

このままでは不味い……!

だから、禁断となった社畜心を思い出せ僕よ!

 

 

「…よし大丈夫」

 

 

仕事用の顔に切り替え、僕は目的地の下町工場に駆け寄った。

すぐ迫るコオロギ擬を確認しながら、丁度いい物───見つけた、長めの鉄パイプ。

 

少女を抱える左手は無理なため、右手一本で鉄パイプを握ると、タイミング良くコオロギ擬も工場の中に入ってきた。

 

コンテナの後ろに隠れて、少し息を整えると、がんっと大きな音を鳴らした。

せっかく隠れたのに、と心配そうに見てくる少女に目を合わせ、子供たちにやるように頭を軽く撫でた後、集中するために目を閉じる。

 

ガツンっと音がした。

───コンテナの上にコオロギ擬が飛び乗った音

 

カツン、カツンと音がした。

───その上を歩くコオロギ擬の音

 

そして、ギギィっと金属が擦れる音。

 

 

「──…今!」

 

 

声と共に、鉄パイプを狙った部分に突き上げる。

 

予測通り、此方を覗き込むような位置にいたコオロギ擬の腹部に目掛けて鉄パイプの先端が突き刺さる。

が、貫通することはなく、鈍い音がするだけ。

 

 

「…分かってたがっ…!」

 

 

貫通しないだろうというのは何となく分かっていた。だから、僕の狙いはそこじゃない。

 

鎧のように硬い甲羅の間、そこに鉄パイプを引っ掛けて、地面に思いっきり叩きつけた。

コオロギ擬が空中に放り出された間に力を調節して、奴が上下反対を向くように。

 

すると、案の定、奴は起き上がれないでもがいていた。

 

 

「凄い……!」

 

 

隣から感嘆の声が聞こえて少し気分がいいが、先にコオロギ擬の処理だ。

生まれ変わってから何かと感じる直感だと、一部甲装の着いていない目?のあたりが怪しいが………。

 

 

「…ふっ!」

 

 

ジタバタ動くコオロギ擬の目に思いっきり鉄パイプを刺した。

次は漸く貫通し、コオロギ擬は完全に動かなくなったようだ。

 

────なんか、仕事終わりみたいに疲れた。

 

 

「あ、あの!け、怪我はない?」

「…大丈夫。特に問題は──」

「あっ!背中!大きな傷がっ!………って、あれ?」

 

 

コオロギ擬が動かなくなって安心したのか、少女が安全確認をしてきた。痛みも何処もないため素直に頷いたが、背中を見た少女が息を飲んだ。

そう言えば切られたなぁ、と他人事のように思っていると、可愛らしく首を傾げる少女。

って、よく顔みたらかなりの美少女だった。

 

後で慰謝料来ないかな?お小遣いないんだけどな?と考えていると、おずおずと少女が尋ねてきた。

 

 

「ねえ、あの、背中、切られたよね?」

「…血は出てないなら大丈夫じゃないかな?」

「えーっと、確かに傷はないんだけど……」

 

 

ふむふむ。

僕の身体が『頑丈』だ、と。

 

 

神様。強化してくれたのは有難いですけど、人や建物を八つ裂きした刃物も傷つけてないなんて聞いてません。嬉しいですけど。

 

 

「…いけない。時間がなかったんだ」

 

 

神様には感謝しますが、まだ子供たちの元に着いていない。

残業をするような気分だが、もう一度気を入れなければ。

 

 

「えっと、あの、名前は?」

「…阿宮(あみや) 輝耀(きよう)。苗字は好きじゃないから名前で呼んで」

「わかった、輝耀くんだね。あっ、私は綾辻遥。遥でいいよ?」

「…え?名前?」

 

 

少し余裕が持てたのか、話をしながら互いに情報交換をする。

その際、名前呼びを提案されたが、此方は前世含めて女友達はゼロ。苗字は一応、僕を捨てたこの世界の肉親のもののため好んでないのだ。

 

こっちから言っといてあれだが、僕は綾辻と呼ぶことにした。

 

さて、話を戻そう。

あれから、避難の列から離脱したため、綾辻を一人置いていく訳にはいかない。

歩けるまで回復したとのことなので、服を掴ませながら何かあっても対処しやすいようにできるだけ近づけながら一緒に孤児院に向かう。

 

え?なんで手を握らないのかって?

痴漢扱いで警察に行くのは嫌です。

 

ちらちらと見てくる綾辻を気にしながら、孤児院のある方面に向かった。

 

 

 

その時には時間がかなり経過しており、息がある人は避難しに移動し、手遅れな人のみが倒れていた。

口元を抑えて震える綾辻に言葉をかけながら進んでいくこと数十分。

 

少しずつだが数が減っているコオロギ擬や大きい奴に遭遇することなく逃げ切ったことに安堵していると、丁度孤児院が見えた。

 

 

そして、その近くに大きい奴が。

そいつの視線の先には、たまに遊びに来て子供たちと遊ぶ小学生の女の子と、その子を庇うように身を小さくする少し年下のような小柄なショートカットの少女がいた。

 

 

「…綾辻!あの二人を頼む、注意をこっちに向ける」

「輝耀くん!」

 

 

綾辻にも危害が及ぶ可能性があるが、絶対にさせない。

 

わざと声を出して綾辻の名前を呼んで、さらに大きい奴に近づいたため、完全に奴の視線は僕に向いた。

元いた場所を一瞥すると、綾辻は此方を見ながら、指示通りに救助に向かったようだ。

 

一先ず安心と思った、その矢先だった。

 

 

「…っ!────ビームまで装備してるなんて……!」

 

 

大きい奴の目と思わしき部分に青白い光が凝縮していた。

嫌な予感がしたため、地面に鉄パイプを刺して、ギリギリのタイミングを見計らって逆方向に転換する。

それと同時にビームが発射され、方向転換していなければ直撃していたビームがアスファルトを粉砕した。

 

 

「…さっきのコオロギより遅い。でも、高さが面倒だ」

 

 

奴らの弱点と思わしき目と同じ位置に立つには、少なくとも2〜3階は登る必要がある。その間、相手は待ってくれないだろう。

 

僕の能力じゃ、奴を仕留める、もしくは足止めは難しい。

思考が優先的に行われていたため、先程よりビームの撃つタイミングを見誤った。

 

 

「…まず───」

 

 

直撃は避けられた。

だが、強烈な爆風が僕を襲う。

 

口の中に砂が入る不快感よりも、全身を打ち続ける痛みが対抗策を考える邪魔をする。

痛みを抑えて受身をとり、起き上がった僕は煙を吸わないように身を屈める。だが、すぐにまた光った。

 

煙をなぎ払うように放たれたビームが通過すると、大きい奴がかなり近づいてきていた。

 

いつの間に。そう焦る僕を待つことなく、光はどんどん収縮していく。

名前を呼ばれたようなきがしたが、応えている時間はない。

早く対策を………!

 

選択肢のない中、必死に使えるものを探す僕に、小さな何かが飛んできた。

 

 

「──トリガー起動!そう言うんだ!」

 

 

遠くから声が聴こえた。

そして、器用に手に納まった物を確認し、指示に従うべきという直感に従って声を上げた。

 

 

「…『トリガー起動(オン)』」

 

───トリオン確認………該当なし。

 

───臨時接続………実行。

 

───トリオン体完了

 

 

その時間僅か一秒以下。

身体が変わっていく感覚に違和感を覚えながらも、より研ぎ澄まされた五感と身体能力に気づいて動き始めた。

 

前に前身。

一歩で通常の数倍もの距離を短時間で詰められたことに驚きながら、ビームを撃った直後で動きが鈍い大きい奴を下から見上げた。

 

 

「…行ける……!」

 

 

そのまま持っている鉄パイプを両手で掴んだ。

身を屈めて、感覚に任せた力を出して地面を蹴る僕は、身体を捻って鉄パイプを、異常な速さで投擲する。

 

 

「…『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』」

 

 

何故か、前世で友人に勧められてプレイしていたゲームの宝具名を口に出しながら。

 

………死にかけだった身で言うのは躊躇うが、その、スカッとしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの少年が迅が言っていた分岐点になる子、か……」

 

 

そして、自分のミスで輝耀を危険な目に合わせてしまったと反省をする刀を持った男性は、迅と呼んだ青年の言ったように予備のトリガーを持っていたことに安堵しながら、大の字で倒れた彼の元に駆け寄った。

 




続くか分かりませんが、読んでくださりありがとうございます<(_ _)>

リメイク予定ですがこっちの更新も必要?

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