「…何故に“魔法少女”なんだ」
「何故でしょうかぁ?運命ぃ?宿命ぃ?とにかくぅ、言うのが筋というものですよぉー」
僕の周りをフヨフヨと浮かぶ物体が徐々に近づいてくる。
そして、こう、ねっとりとした視線を向けてきながら。
「…それで、お前は何なんだ」
「あらぁ、忘れましたぁ?言ったじゃないですかますたぁ。私はダイヤ。ブラックトリガーですよぉ?」
「…意志を持つブラックトリガーなんて聞いたことが無い。それに、そんなトリガーを僕達は知らない」
ボーダーが所有しているブラックトリガーは二つ。
一つは迅さんが、そして天羽が持っている。
あの問題児の天羽ですら、ボーダー内では情報が出回っているのだ。故に、ボーダーにブラックトリガーがもう一つあることなど決してない。
だから、一番の可能性として、
「…
何時、侵入したのか分からない。
しかしながら、近界のブラックトリガーであることは間違いないと断定できる。
ダイヤと名乗ったブラックトリガーから瞬時に距離をとり、戦闘態勢に至った。勿論、片手にはいつでもトリガーを起動できる。
「酷いですぅますたぁ。私は折角貴方のためにやって来たのにぃ」
「…おい。どういう意味だ」
「文字通り、私は貴方に出会うために
………怪しすぎる。
何故、僕の名前を……いや、今日一日は監視されていたのだ。分かるのも理解出来る。
だが、僕の元に来たという理由が不明だ。
「…話すつもりは無い、ということか」
「もちろんですよぉ。今はこんな
元々が乙女。ね。
「…では、いくつか質問する。それで君への対応を決めさせてもらう」
「まぁあ。“お前”から“君”に変えてくれましたねぇ。行く行くは“はにー”になるのでしょうかぁ~」
いや、多分ない。だから早く質問に答えて欲しい。
日も暮れた時間帯。傍から見たら変な独り言を話す痛いヤツなのだ。
ってか、早く帰りたい。
「………もぉ~。すこしジョークを言っただけですのにぃ」
「…ジョークの割には本気の声色だったぞ。手短に尋ねる。何故、ブラックトリガーなのに意志がある」
「そうですねぇ。本当なら乙女の秘密、と言いたいのですがぁ……許しませんよねぇ?」
「…当たり前だ」
「でもでもぉ。ブラックトリガーたる私が
僕のサイドエフェクトにより嘘を吐いた場合は直感で是非は何となく分かる。
自称ブラックトリガーに通用するか不明だったが、杞憂のようだ。
リングの中にある七芒星の中心部。
その奥底から、プレッシャーが全身を貫くように放たれた。
「───アイツら、
直感が働く前に、僕は異界のブラックトリガーの手?羽?を握っていた。
……アレだ。お偉いさんと会うと目を合わせる前にお辞儀して握手を求めるようなものだ。
あまりのプレッシャーに、身体が強化されたが中身は社畜心の僕は咄嗟の判断で面倒事に足を踏み入れたのだった。
***
『…ひとまず、君の処遇については僕が受け持つ。だけど、決して他の連中に見つからないように』
自称ブラックトリガーの
一度、本部に戻るため道を引き返そうと慎重に人の視線を気にしている最中だ。
「もぉ〜っ。ますたぁ、私のことはダイヤって呼んでくださいよぉ。前に“愛しの”って付けてくだされば幸いなのですがぁ?」
「…呼ばない。あと、肌を必要以上に触るな」
「やぁーですぅ」
目立たせないためにパーカーのフードの中に身を潜めるダイヤだが、先程から首元を羽で触ってくるので鬱陶しくて仕方がない。
叱っても尚態度を改めないダイヤにより、歩幅が自然と大きくなる僕だった。
しかし、ふと歩みを止めた。
「…珍しいですね。ボーダー本部以外で会うなんて」
「そうだな。しかしまぁ、今回は俺から会いに来たもんだから偶然じゃないぞ?」
「…知ってますよ、迅さん」
数年前に破壊された民家のブロック塀。そこに背中を預けていた迅さんが、僕を見つけると進路を防ぐようにして立ちはだかった。
「…何か面白い未来でも見えました?」
「お前が胃薬を購入する未来が確実になったって言うのは面白いか?」
「…薬を服用できる暇があるなら十分楽ですね」
「あれ?俺の予想と違うな、そこだけ」
何を言う。元社畜の僕にとって薬など最早意味が無い。
入社してすぐに大量のエナジードリンクや胃薬を吸収した結果、身体が順応して効果がみられなくなったからね!人間の身体って凄い。
あと、純粋に薬飲む時間があるなら寝てるか資料の整理をしていた。
「…それで、いつになったら本題に入れるんですか?早くコレについて報告して帰って寝たいです」
「あぁ〜、酷いですますたぁ。私をコレ扱いなんてぇ〜。────モノ扱いも少しばかりいいですけどぉ」
最後のセリフを無視して、フードの中から取り出したダイヤを見せる。
頼むから熱を籠らせて身震いしないでくれ。それは僕の胃に効く。
「ほぉー。それがお前のブラックトリガーか」
「…やっぱり未来予知してたんですね。じゃあ、僕を止める理由はなんですか?どうせ本部に連絡しますよ」
「本人の同意もしてますぅ」
歩いている最中に話したが、僕がブラックトリガーとしてダイヤを使うなら後はお任せしますと本人から言われてる。
一体何が狙いなのか。僕一人では捌けない案件故、上層部に事の詳細を伝えようとしたが、そこで迅さんが待ったをかける。
つまり、
「…城戸司令相手に切り札でも必要なんですか?」
「流石阿宮だ。俺はいい部下を持ったよホントに」
そうですね。僕も生前欲しかったですよ、ちゃんと働いてある程度こちらの意図を汲み取ってくれる後輩が。
『新人なんで』を二年間も使われるとは思いもしなかったよ。きっちり定時に帰ってくれたおかげで僕の仕事量は倍増。後輩がミスをしたら僕の責任となり、いい成績をだしたら独り占め。
最終的に僕より立場上になってたけど、何もできてないが大丈夫だったのだろうか?
………いや、もう社畜時代の僕は死んだのだ。余計な心配はしていられない。
「…迅さんは僕にどう動いて欲しいんですか?納得できる内容なら僕もカバーしますよ」
「そう言ってもなー。どっちかって言うと、保険なんだよ、俺の」
保険?
「あー、お前と、後そこのブラックトリガーちゃんには説明してもいいか」
「私のことはダイヤちゃんで構いませんよぉ?」
「おっ、そうか。んじゃあダイヤちゃんって呼ぶが、彼女は将来必ずお前に必要な存在になる。つまり信用に値するって言うのを俺が保証するんだが………その情報を教えたってことで俺に従ってくんね?」
迅さんがそう懇願してくる。が、答えは別にどちらでもいい。
本来なら上層部で信憑性を確かめたかったが、予知のできる迅さんが保証するのだ。迂闊に情報を漏らしても安心な味方なのだろう。
「…わかりました。但し、貸一つですよ」
「そりゃ了解だ。むしろ、俺に貸しがないと困ることが近い未来にやって来るぜ───」
──俺のサイドエフェクトがそう言っている。
いつもの決めゼリフを悠々と出すのかと思った。
しかし、【風刃】を起動させている迅さんが構えの姿勢になったことで否と認識した。
「───それと、どうせなら貸二つにしとけ」
悪意のない視線だった。
ホントに悪意が篭っていないので、迅さんが言うように貸しを二つ作って置いた方がこちらの身にいいのだろう。
それでも、風刃を使った攻撃を行う迅さんに呆れながら避けようと…………
あ、トリオン体じゃねぇ。
言わずともトリオン体と普通の体では能力に大きな差が出る。
トリオン体になっていたと勘違いしていた僕は余裕を持って回避できるよう神経に伝達をしたが、これだと間に合わない。
かと言って、そこそこの近距離で放たれた風刃の刃は既に目の前に。トリガーを今から作動しても間に合わない。
────あ、つんだなこれ。
やっちゃったーと思いながらせめて片腕だけをスケープゴートにしようと必死に身体を動かそうとしたその時だ。
「トリガーの起動を承認、
光る刃のラインと僕の間に入り込んだダイヤがそう言うと、もうすっかり慣れたトリオン体へ身体が変換されるのがわかる。
肌に伝わる服の違和感が気がかりだが、頭の中に入ってくる
これって……まさか………!
「…【
呟きとともに、犠牲にしようとした右手から真紅の蕾が出てきた。
瞬く間にそれは広がり、光の盾が花弁のように展開されていく。
Fate作品における重要な英霊エミヤが持つ結界宝具にして最強の防具。
かのギリシャ神話のトロイア戦争において、英雄ヘクトールの投擲を防いだアイアスの盾だ。
やってみたいと鬼怒田さんに説明して頭を悩ませていた幻想的な暖色の光による花弁が、いとも簡単に再現されていた。
風刃の刃など既にアイアスの盾により消滅したが、しばらくの間、僕は盾を見て物思いにふけていた。
「ハハッ。予知していた以上の能力だな」
「当たり前ですよぉ。ますたぁが
僕の周りを飛びながら、ダイヤはさぞ楽しそうに冷や汗を流す迅さんを見下す。
「
強すぎるブラックトリガーだった。
一つあれば劣勢の国でも逆転に押し返せると言われるブラックトリガーだが、ダイヤはその中でも上の性能をいく。
それでも、僕は
試したい宝具のリストアップをするので精一杯だった。
リメイク予定ですがこっちの更新も必要?
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必要!
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いらない!