この素晴らしい世界にもナワバリを!   作:黄金の鮭

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Splatoonシリーズを知らない方向けに、簡単な解説を前書き、あとがきに書いています。

・インクリング
 海に住むイカが、地球の急激な海面上昇により地上に足を踏み入れ、人の姿に変形するよう
独自に進化した種族。体内にインクを墨のように貯蔵し、ブキを使って発射する。
 水の中は泳げないが、自分のインクの中なら素早く泳ぐことができる。
・3号
 Splatoon2の前作、Splatoonの主人公であり、プレイヤーであるボーイのインクリング。
 主人公がある事情で所属するNew!カラストンビ部隊に3番目に所属したため、そのまま3号と呼ばれている。他のインクリングに比べて真面目だが、楽観的な性格はそのまま。



茶色のインクリング

 インクリングが支配する地上へナワバリを広げるべく、地上の重要なエネルギー源である

デンチナマズを奪いさり、巨大な兵器を作り出し地上への侵攻を企むオクタリアン(タコ)

 

 オクタリアンの侵攻を止めるべく、New!カラストンビ部隊3号は1号や2号、アタリメ司令と協力し、全てのデンチナマズを取り返すため、オクタリアンと激しい戦いを繰り広げたのは、もう3年前の出来事だ。単細胞で楽観的な性格のインクリング達は、3年前に起こったこの戦いをすっかり忘れて、ハイカラスクエアでいつもと変わらない日々を過ごしていたが、3号の戦いはまだ続いていた。

 

 現在、3号は突如発生した謎の電波の調査を行っている。ただ、電波といっても街中の通信回線を滅茶苦茶にしたり、インクリングに悪影響を与えるものではなく、3号のスマホに直接サインを

送る、いわゆるいたずらや嫌がらせのような電波だ。ただ、いつでもどこでも電波を送信してくるので、送り主はとても危険な状態で、直接助けを求めている可能性を考えた3号は、New!カラストンビ部隊の誰かと発信源に向かうことにした。とりあえず1号と2号をメッセージアプリで調査に誘うと、すぐに返信がきた。

 

「ゴメン! これから仕事が忙しくなって行けそうにない!」

「アタシも1号と同じく仕事だわ~ ごめんね3号」

 

 2人の本業はアイドルなので予想はできていたが、1号と2号は仕事で忙しいそうだ。3号はアタリメ司令と最近加入した4号と8号に期待を込めてメッセージを送る。しばらくして、アタリメ司令

から返信が送られてきた。

 

「まごの らいぶに いきます atarimeyosio」

 

 1号と2号のライブに行くそうだ。高齢の司令は慣れないガラケーでメッセージを送信してくれたのだろう。3号は今度ガラケーの使い方を教えに行くことを予定に入れた。

 その後、4号と8号は二人でアルバイトをするようで、3号が単独で調査することが決まる。だが、諦めきれない3号は顔なじみのブキ屋にサポートを頼み込み、ブキの輸送をお願いした。かな

り遠い場所への調査になるので、数多くのブキを輸送してもらえるのはありがたい。電波がはっきりしているので、送るだけなら朝飯前だそうだ。

 

 大きなスーツケースにありったけのギア(衣服)とブキを詰め込み、遠く離れた電波の発信源へ向かう。インクリングの移動手段である、スーパージャンプを使えば目的地まで一瞬で到着するの

で、移動時間が長いわけではない。鼻歌を一曲歌っていれば到着するだろう。

 

 

 到着しなかった。鼻歌が三曲目に入った段階でおかしいと思ったが、どうやら間違った場所にジャンプしてしまったようだ。

 こんなことは生まれて初めての出来事だが、すぐに再度目的地めがけてジャンプしようとしたその時、3号の後ろにいる何かから声を掛けられた。イカになったまま振り向くと、なにやら大きな

インクリングが3号に話しかけているようだが、3号はそのインクリングが話す言葉がさっぱり理解できなかった。ただ、ハイカラスクエアでも見かけないような変わった服に、滅多にいないであろ

う銀色の長いゲソがとてもイカしていたので、記念に写真を撮ることにした。スーツケースからゲソを使って器用にスマホを取りだし、1枚写真を撮る。……上手く撮れた。

 銀色のインクリングは目の前のスーツケースを器用に持ったイカに写真を撮られたことに驚いているようだが、3号がここにいる理由も無くなったので、イカした銀色のインクリングに感謝し

て、目的地を目指してジャンプしようとする。しかし、今度は頭が急に痛み出し、ジャンプを断念。思わず頭を抱えるが、痛みはすぐに引いた。すると今度は、ひっそりと、聞き取れる言語で声を掛けられる。

 

「あの……あなたはもしかして、転生者なのでしょうか?」

 

 言葉が通じることに驚きながらも、転生者が何なのかさっぱり分からない3号は、自分に向けて送信された電波の調査に来たことと、転生者を知らないこと、最後に写真について感謝し、急い

で目的地までジャンプした。今度は無事にたどり着けるといいが。

 一人取り残された銀色のインクリング……ではなく、女神エリスはただ呆然と目の前を見つめていた。突如天界にスーツケースを器用に抱えたイカがやってきて、写真を撮られたことも驚いた

が、一応転生者かと思い言葉が通じるよう魔法を使ったところ、転生者では無いとイカが話して、どこかへ飛んでしまった。この時3号はエリスを自分と同族だと勘違いしているが、これは3号の住

む世界では遥か昔に人類が滅んでいるためだ。人間を知らない3号の勘違いはもう少し続く。

 

 3号のジャンプもようやく終わりが見えてきた。ジャンプする場所を間違えたものの、あれから特にトラブルもなく目的地に無事着陸した。そこまではいいが、3号が想像していた状況とは違っ

て、3号が着陸した場所には何もなかった。オクタリアンの残党がいるわけでもないし、助けを求めるイカがいるわけでもない。念のためにヒトの姿になってあたりを注意深く見渡す。樹木か大

量に生えているということは、ここは森だろうか。都会で日々を過ごした3号にとっては、ここまでの森に入るのは初めてだった。空はまだ明るいので、しばらく周囲の調査をすることにした3号

は、部隊の仲間に連絡をしようとする。しかしスマホの右上に表示された文字に3号は驚愕する。

 

 圏外である。このことは本当に頭になかった3号。生まれてから今まで、回線が使用できない場所にいたことがなかった3号は、私生活ではかなりスマホに頼っていた。特に地図が使えないのが

3号にとって辛いところだろう。こんな森の中を地図無しで抜けるなんてできそうにないし、スマホで電波を受信してスーパージャンプする以上、家にもハイカラスクエアにも帰れない。

 

 3号はしばらく悩んだが、イカが通りそうな場所に潜伏し、通りかかったイカに話を聞いて、道案内してもらうことにした。そうと決まればちょうど開けた地形の電波の発信源の茂みに潜伏する

ことにする。スーツケースからスプラシューターを取り出し、足元に向けてインクを発射する。スーツケースを隠し、イカになってインクに潜伏すれば準備完了。あとは誰かが来るのを待つだけだ。

 

 日が沈むまで待つことも考えていたが、昼のうちに誰かがやってきた。黒、茶色、水色の、三人組のインクリングだ。すぐさま電波が通りそうな場所に案内してもらいたいが、茶色と水色のイン

クリングがなにやら大きな声で話を始めたので、3号は潜伏したまま話を聞くことにした。

 

「ねえカズマ、私はこんな胡散臭い機械なんて気にせずとっとと帰ったほうがいいと思うのよ。そもそも知らない誰かに延々と電波を送り続ける機械なんて何の役にも立たないし、何に使うつもりなの?」

「腕を引っ張るのをやめろ駄女神、これもパーティ募集の手段だ。アクセルじゃおまえの悪評が広

がってるし、めぐみんみたいなのが何人もいるわけじゃない。説明書には電波は届くって書いてあ

るだろ? 電波に釣られて強そうな奴が寄ってきたら、アクアとめぐみんの強さをアピールしてス

カウトするんだよ」

 

カズマと呼ばれた少年が話し終えると、今度は黒いインクリングがカズマに質問する。

 

「確かに私の爆裂魔法は最強ですけど、アクアの知力が低いのはどう説明を?」

「言うわけないだろ。強力な補助魔法が使えるアークプリーストに、爆裂魔法を覚えたアークウィ

ザード。2人をまとめる天才冒険者の俺。これをアピールすれば大抵の冒険者はスカウトできるだ

ろ。あと爆裂魔法が一回しか使えないのも言わないぞ」

「聞いた私が間違いでした。相変わらずのクズっぷりですねカズマ。いや、別に間違った点は無いですけど」

 

 潜伏している3号は会話を最後まで聞いていたが、あの3人が電波を発信していたインクリングだということ以外は話の内容を理解できなかった。とりあえず道を尋ねるべくヒトの姿に戻った3号

は、スーツケースを引きずりながら3人のいる方に向かう。

 

「カズマ、誰か来たわよ。本当に来るなんて思ってなかったけど、この子をスカウトするならさっさと済ませなさいよ」

「ま、まさかスーツケース持った子供が来るなんて思うわけないだろ。あー、君、名前は?お父さんかお母さんはいる?」

 

 3号を迷子の子供だと勘違いしているようだ。身長はインクリングの中では平均だが、目の前の少年は一回り3号より大きいためだろう。

 3号はコードネームと、1人で来たこと、道に迷ったので近くの街まで案内してほしいことを伝えた。

 

「3号なんて変わった名前だな。俺はカズマ。こっちの青いのがアクア、小さいのがめぐみんだ」

 

 雑な紹介に、左右の2人が抗議するが、カズマは話を続ける。

 

「とりあえずアクセルのギルドまで案内するから、ついてきてくれ」

 

 カズマは近くの街まで3号を案内してくれるそうだ。出会ったばかりなのに親切にしてくれるカズマには感謝してもしきれない。

 アクセルを目指して歩き出してすぐ、アクアが話しかけてきた。

 

「3号はどうしてこんなところに来たの?大きなカバンを持ってるみたいだけど、旅行かしら?」

 

 3号はスマホに電波を送られてきたと伝えた。アクアは納得したが、めぐみんはスマホを知らないようだ。しかし、スマホという単語を話した瞬間にカズマの様子が変わる。

 

「3号、スマホを持っているってことは日本人か?どこから転生してきたのか教えてくれないか?」

「あなた日本人だったの?髪も青いし、目の周りも黒く塗ってあるから違うと思ったんだけど……あっ私下界にいるから知らないんだ」

 

 3号は日本人を知らないので、とりあえず違うと答えておく。転生もしていない。

 

「日本人じゃないってことはどこの国だ?髪の色を青くする国なんて聞いたことがないな。そもそも地球って分かるか?」

 

 ようやく知っている単語が出た。カズマに3号の知っている地球のことを説明する。表面のほとんどが海で、元々海に住んでいた海洋生物が進化して地上に住むようになった星だ。

 

「表面のほとんどが海……まあ大体海だな。海の生き物が地上に住むって、俺のいない間に地球って変わったんだな」

 

 カズマは多少は気になる点があるが納得したようだ。話が終わってしまったので今度は3号がカズマに質問することにした。とりあえず気になっていた爆裂魔法について聞いてみる。

 

「ふっふっふ。3号は私の爆裂魔法が気になって仕方がないようですね。いいでしょういいでしょう。我が最強の魔法を見せてあげますよ」

 

 カズマに質問したはずだが、めぐみんが爆裂魔法を見せてくれるそうだ。4人は足を止め、めぐみんが魔法を唱えるのを待つ。詠唱が終わっためぐみんが態勢を整えたところで、はっと気が付い

たカズマがめぐみんに駆け寄り、動きを止める。

 

「ごめんな3号、爆裂魔法はまた今度だ。一回使うと、次に唱えられるまで時間がかかるからな」

 

 カズマはもがくめぐみんを抑え、めぐみんに何かを伝えると、納得したような様子で再び歩き始めた。一度使うとしばらく使用できないといえば、スペシャルウェポンのようなものなのだろう。

 

 

 時刻はもう夕方、人が集まってきた冒険者ギルドにいる3号とカズマ一行だが、3号は落ち込んだ様子だった。

 

「仕方ないだろ3号。ここどころか、この世界に通信回線なんてないんだから、電話も地図の確認もできないぞ」

 

 未だに信じられない3号。カズマが言っていることが本当なら、3号はこの場所から帰れないことになる。家に帰れなくなった3号を見て、アクアとめぐみんはカズマを鋭く見つめる。

 視線に耐えられなくなったカズマは、3号にいくつか質問する。

 

「なあ3号、財布の中にはいくらぐらい入っているんだ?そんなスーツケースを持っているってことは、旅行に来たようなもんだろ?1000エリスあれば、ここで冒険者として生きていけるぞ」

 

 とりあえず仕事はあるらしいが、問題はお金だろう。アクセルの街ではナワバリバトルは行われていないようで、3号がお金を稼ぐことはできない。そもそも3号は財布を持ち歩かない主義なの

で、スマホを封じられた3号は現在無一文だ。

 

「地球じゃキャッシュレスが進んでたもんな。じゃあ3号は無一文で家に帰れないわけか。……あれ?俺とんでもないことをしてるんじゃないか?」

「あー、3号、残念だったわね。連れてきたのはカズマなんだし、1000エリスぐらい貸してあげなさいよ。家に帰るまで、カズマとめぐみんと一緒に生活すればいいでしょ」

「そうですね。寝る場所ぐらいは用意してあげますよ、馬小屋ですけど」

 

 どうやら見ず知らずの3号に身分証明書を作る手数料と寝床を用意してくれるらしい。3号は3人に深く感謝して、貸してもらった1000エリスを持って奥のカウンターに向かう。

 受付の人に要件を伝え、冒険者についての軽い説明を聞き、手続きを進める。差し出された紙に身長と体重を記入、年齢は17歳、名前は本名を書くか迷ったが……3号でいいだろう。

 

「では、こちらのカードに触れてください」

 

 3号は言われるがままにカードに触れると、自分の潜在能力が読み上げられる。

 

「能力は全体的に平均以下、少し俊敏性が高いくらいでしょうか。こうなると選択できるのは冒険者くらいですね」

 

 身分証になればいいと考えていた3号は、じゃあそれで、と受付の人に任せる。 

 完成した冒険者カードを受け取った3号は、カズマの下に報告しに行く。

 

「終わったか。ちょっとカードを見せてくれ……俊敏性が高いぐらいで、他は俺より低めか。あれ?俺より低めってことは3号、お前冒険者になったんじゃないか?」

 

 大正解だ。能力を見ただけで職業がわかるなんて、さぞかしカズマは賢いのだろう。職業を当てられてなぜか喜ぶ3号。一方で、3人は静かに3号のカードを見つめていた。カードを3号に返したカズマは、3号に話を続ける。

 

「登録が終わったし、改めて自己紹介するか。俺はカズマ、3号と同じ冒険者だ。これからよろしくな」

「私はアクア。職業はアークプリーストの女神よ。よろしくね」

「我が名はめぐみん!アークウィザードにして、最強の爆裂魔法を操る者!」

 

 めぐみんの挨拶に目を輝かせる3号。思った以上に反応が良かったのでめぐみんも少し困惑する。

 3号も自己紹介を終えると、カズマ達は席を立った。時刻はもう夜。寝床に案内してくれるそうなので、3号はカズマについていく。

 

「悪いな3号、俺たちは馬小屋を借りて寝てるんだ。じゃあ、俺はもう寝るから。おやすみー」

 

 馬小屋に関しての説明が一切されないのは、この世界では馬小屋がよくあるものだからだろう。3号はカズマ達と、馬と呼ばれた未知の生き物にもあいさつを終え、3号はこの世界で初めて眠る。

 帰ることができなくなったことは、もう気にしていないようだ。

 

 

 翌日。朝早くに起きたと思った3号だったが、カズマ達はすでに出発しているようで、書置きが残されていた。

 

『俺たちはクエストに出発するので、これで適当に朝ご飯を食べてください』

 

 思ったより起きるのが遅かったのだろうか。3号はスマホを取り出し確認するが、バッテリーを節約するため電源を切っていたのを思い出した。充電もできないので、スマホの出番はしばらく無

いだろう。3号は書置きに添えられた500エリスを受け取り、スーツケースから再びスプラシューターを取り出す。確か冒険者はクエストに行ってお金を稼ぐらしい。3号はカズマに借りた1500エ

リスを返却するため、朝ご飯の前に冒険者ギルドで依頼を受けることにした。スーツケースを引きずり、仕事を探しに冒険者ギルドへ向かう。

 

 ギルドに到着した3号は、受付の人に初心者向けの依頼はあるか尋ねると、ジャイアントトードの討伐依頼を勧められた。アクセル近くの草原に現れたジャイアントトードを2匹、1日で討伐すれ

ばいいそうだ。条件として、近辺の牧場に侵入された際は無条件で失敗となるそうだ。報酬は10000エリス。借金を返しても大きな収入になるだろう。3号はすぐに依頼を受けて、目的の草原へと出発した。

 

魔物を討伐するということを軽く見ていた3号は、この依頼に少々苦戦することになる。




・ナワバリバトル
 4人でチームを組んだイカが、相手のイカと決められたステージを塗りたくり、最終的に多く塗ったチームの勝つ、インクリングの仕事のようなもの。勝っても負けても賞金がもらえる。

・スマホ
 イカしたインクリングの必需品。人類が使っていたものと特に変わりはない。

・スプラシューター
 水鉄砲のようなブキで、インクを連射して地面を塗る。射程、攻撃力、連射速度のバランスが良く、初心者から上級者まで広く支持されている。

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