鋼鉄の咆哮~蒼海の戦士たち~   作:瀬名誠庵

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今回より新章『越海編』となります。


越海編
第6話 ハワイ燃ゆ


西暦1939年4月6日 アメリカ ハワイ

 

ハワイ沖に停泊する「スキズブラズニル」の会議室に、多くの軍人が詰めかける。中央の玉座にウィルキア国王のマンフレート・フォン・ウィルクが座り、会議が始まる。

 

「…諸君、ついにウィルキア帝国を中心とする帝国派諸国…通称『連合帝国』が、本格的な軍事行動を開始した。すでにヨーロッパ東部と東アジア、ブラジル以外の中南米諸国は連合帝国の支配下に置かれているといっても過言ではない」

 

ガルトナーの説明に、一同は緊張に満ちた表情を浮かべる。すると今度は、ウィルク国王が口を開いた。

 

「そこで、余を始めとした政府首脳はアメリカ・イギリス両政府と会談を行い、近衛軍全部隊をイギリスに移動させてヨーロッパでの対連合帝国軍反攻作戦に参加する事となった。アメリカ及びイギリスも、我らが亡命政府及び近衛軍に対して出来る限り協力するとの通達があった。恐らくこの戦いは、歴史に残る規模の戦争となるであろう」

 

そこでウィルク国王は「しかしだ」と区切り、一瞬目を閉じる。そして表情を諦めのないものに変えて続ける。

 

「如何に世界中を巻き込んだ戦争となったとはいえ、近衛軍の目標は変わらぬ。余はここに、近衛軍を中心とした対連合帝国抵抗組織『ウィルキア解放軍』の設立を宣言する!そして日本海軍亡命艦隊を解放軍に協力する義勇軍として迎え入れ、最終的にウィルキア帝国の打倒による祖国の解放と、国体及び国家独立を侵犯する日本クーデター政権の打倒を目指す!」

 

宣言に多くの将兵が「ついに来たか」という顔になり、一層緊張感が増す。そこでガルトナーが説明を引き継ぐ。

 

「解放軍設立に伴い、現時点で近衛海軍艦隊幕僚の中で現時点での最高幹部である私が、解放軍司令に着任する事となった。近々ここにいる将兵の殆どに昇進の辞令が言い渡される事となるだろう。それでも我らのやるべき事は変わらないと思ってくれ」

 

「まず我々解放軍全部隊はアメリカ本土から合衆国軍増援部隊が来るまでハワイ防衛に協力し、太平洋側の防備が固まり次第、大西洋側に渡ってイギリスに向かう。そこでイギリスを中心とした対連合帝国陣営に参加する事となる。偵察機及び潜水艦からの情報で、連合帝国軍の艦隊がハワイに向けて侵攻しているとの情報が入ってきた。恐らく明日には、ハワイ沖200カイリの地点にまで到達する事となるだろう」

 

ガルトナーはそう説明して、そして一層大きな声で命令を発した。

 

「ここでウィルク国王に代わって解放軍全軍に命じる。直ちに出撃し、アメリカ本土からの合衆国海軍増援艦隊が到着するまで連合帝国軍艦隊を迎撃せよ!」

 

『了解!』

 

将兵達は一斉に敬礼し、会議は短時間で終わる。多くの将兵が退出していく中、シュルツとヴェルナー、ブラウン、筑波、北、ブリュンヒルデはその場に残される。そしてガルトナーは、彼らに説明を始めた。

 

「さて、君達に残ってもらったのには理由がある。実は解放軍設立時に、独自に作戦行動を取って連合帝国軍部隊を撃破する独立機動打撃部隊を編成する事を決定したのだ」

 

「独立機動打撃部隊、ですか…?」

 

シュルツ達が首を傾げる中、ガルトナーはウィルク国王の顔を見て頷き合い、一枚の書類をシュルツに渡す。

 

「我ら解放軍の最終目標は、あくまでも祖国ウィルキアの奪還と帝国派の鎮圧だ。政治パフォーマンスの一環で、対連合帝国抵抗戦の旗印となる存在が必要となったのだ。それも一際目立ち、かつ一際優秀な部隊がだ。手っ取り早く言えば、この戦争における『英雄』が必要なのだよ」

 

騎士道と武士道が兵器の発達と戦術の変化で廃れた今、圧倒的劣勢の立場にいる解放軍には、その戦局を打破する程の力を有した存在が必要だった。その旗印として、近衛軍の中でも優秀な部類であるシュルツに注目が置かれたのだ。

 

「私が、英雄の役ですか…正直言って、似合わないですね」

 

「同感だ。私だって解放軍司令なんていう柄ではない。だが、そうは言っていられないのもまた現実だ。特に祖国から斬って捨てられたも当然の日本亡命艦隊は、な」

 

ガルトナーの言葉に、北と筑波は顔を暗くする。今の日本からしたら、彼らは国家を裏切った存在。今頃は身内が危機に晒されているだろう。しかし彼らは今ここで戻る事など出来なかった。

 

「とにかく、今の我らには戦局を打開してくれるであろう力強い存在が必要なのだ…この「スキズブラズニル」を預けてまでも頼りにせねばならない英雄が、な…頼めるか?」

 

ガルトナーの問いに、シュルツは暫し瞑目する。がすぐに目を見開いて答える。

 

「…お受け致しましょう。全ては祖国を取り戻し、世界に平和をもたらすために」

 

「頼んだぞ、少佐。それに北中将も、よろしいですね?」

 

「構わんよ。それとシュルツ少佐、筑波大尉を補佐として使ってやってくれ。何せ亡命艦隊で漆露戦争の事を知る数少ない軍人だからな。十分に少佐の役に立てるだろう」

 

北の言葉に、シュルツはやや困った表情を浮かべながら答える。

 

「すみません、中将…教官殿、改めてお願いします」

 

「ははは、今は少佐が私の上官なのですぞ。しっかりと上官らしく振る舞ってもらわなければ困りますわい」

 

筑波は豪快に笑ってシュルツの肩を叩き、シュルツは恥ずかしげに笑みを浮かべた。

翌日、シュルツを司令とする独立機動打撃部隊、『第零遊撃部隊』の編制が発表され、シュルツは早速、優秀と名高い者を中心にメンバーと艦船を集めた。そしてすでに準備を整えているであろう連合帝国軍艦隊の迎撃準備を開始した。

 

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西暦1939年4月7日

ハワイのどこかに存在する、とある洞窟。

そこでは、一人の人影が目の前の物体を見上げていた。そしてその人影は、物体に向けて呟く。

 

「…暫く、ここを離れるね。ちょっと都合が悪くなっちゃって」

 

人影の呟きに対し、物体は音には出さない声で尋ねる。

 

『…ドコニ行クノカ』

 

「そんなに遠くの場所じゃないよ。それに離れたとしても、あなたの声は届くし、あなたも私の声を聴く事は出来る。見る事が出来なくなっても、私達はまた話し合えるから…じゃあね」

 

人影はそう言って、その場から離れていく。その施設の外側では、マンフレート達が資料をトラックに載せて運び込んでいた。

 

「急げ、本土行きの貨物船はそろそろ出港してしまうからな!太平洋艦隊の護衛があるとはいえ、ここももうじき戦場となる!その前に必要な資料は全て運び出せ!」

 

マンフレートの指示に従い、重要な資料を載せたトラックは港に向かって一目散に走り、ハワイからの脱出を進める。すると一人の職員がマンフレートに駆け寄り、報告する。

 

「所長、最重要区画を完全封鎖しました!また標識も全て撤去した上で施設もこの後爆破します!これで発見される可能性は低くなるハズです!」

 

「念のため発電施設も破壊しておけ!万が一占領されでもしたら、目も当てられんからな!」

 

マンフレートの指示に従い、最低限の破壊工作を行いつつ、ハワイからの撤収が進められていく。その最中、遠くから羽音が聞こえてきて、一同は顔を青くする。

 

「ついに来てしまったか…急いで港に向かうぞ!」

 

マンフレート達は急いでトラックに乗り込み、施設から離れていく。そして小高い丘を降りていく途中、プロペラ音にしては奇妙な音が響き始めた。

真上を見上げると、十数機の奇妙な形状をした飛行機が多数襲来し、トラックの列に向かって突撃してくる。飛行機はトラックに向けて銃撃を開始し、何台かが銃撃を受けて爆発炎上する。その飛行機に描かれた国籍マークを見て、研究者の一人が顔を青くする。

 

「うぃ、ウィルキア帝国軍だぁぁぁぁぁ!!!」

 

白鳥をモチーフとした白十字(ヴァイス・クロイツ)のマークを付けたその飛行機は、上部に巨大なプロペラを付けた奇妙な形状故に、低速で高度を維持しながら飛行しており、機体両翼部に装備した機関銃でトラックを攻撃する。するとアメリカ陸軍航空隊の〈P‐40〉戦闘機が飛来し、トラックに気を取られていた飛行機を銃撃して撃墜する。他の飛行機は敵戦闘機を警戒して離れていき、トラックはその隙に港の方に向かっていく。

 

「て、敵飛行物体、離脱を開始しました!」

 

「よし…この隙に急いで港へー」

 

マンフレートがそう言ったその時、1機の黒色の航空機が急降下して接近し、直後にマンフレートの乗ったトラックの近くに爆弾が落ちた。

 

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同日 ハワイ沖

 

ハワイが連合帝国軍の攻撃を受け始めるその前、ウィルキア解放軍艦隊はハワイ北西沖に展開し、連合帝国軍艦隊を待ち受けていた。

 

「現在、ハワイは厳戒態勢が張られ、市民は全員病院や学校に避難し、艦隊は動員可能な艦全てを展開して敵艦隊の攻撃に備えているそうです。陸軍航空隊も出せるだけの航空機全機を稼働させているそうです」

 

「最初からヴァイセンベルガーが狙っていたとはいえ、アメリカを完全に我らの戦いに巻き込んでしまいましたなぁ…」

 

「シグルド」の艦橋で、ナギが不安そうに現状を報告する中、筑波は大きくため息をついて呟く。シュルツも深刻そうな表情で外を見つめ、今の状況を憂う。

 

「近衛軍でウィルキア本土から脱出できた艦は40隻程度、日本亡命艦隊は30隻程度、アメリカ太平洋艦隊は50隻程度とこのハワイを守る分にはいいが、それでも数も弾薬もかなり少ない…」

 

今の連合帝国軍の戦力は、太平洋エリアだけで従来のウィルキア国防軍全軍に加えて属国となった大日本帝国軍、正王朝の率いる中国軍という大規模な戦力が存在しているのだ。それだけでもアメリカ海軍太平洋艦隊を遥かに超える戦力を有しているというのに、あの超高速戦艦も加えれば、圧倒的に不利な状況であるのは自明である。

 

「とりあえず今は、出来る限り敵艦隊をハワイに接近させない事が重要ですね…」

 

「ああ…各艦、引き続き警戒態勢をー」

 

シュルツが指示を出そうとしたその時、ナギがそれを遮る様に報告してきた。

 

「艦長!解放軍第二艦隊旗艦「スカアハ」の偵察機より入電!別方面より連合帝国軍艦船と思しき超巨大艦及び多数艦船がオアフ島に接近しているとの報告が入りました!なお偵察機はその超巨大艦から放出されている謎の電波で通信が阻害され、母艦に直接報告しに行ったために発見の報告が遅れたとの事!」

 

「何、別動隊がいたのか?」

 

シュルツが報告内容に驚く中、筑波は顎をさすりながら呟く。

 

「恐らく、こちらに向かってきているのは陽動でしょう。本命の上陸部隊は、何らかの方法で無線通信を阻害し、出来る限りこちらの索敵網を掻い潜ってハワイに接近してきた、というところでしょうな」

 

「もしそうだとしたらまずいな…直ちに「スカアハ」に対し、ハワイに接近しつつある敵艦隊を迎撃すると伝えよ!本部隊は敵上陸船団の迎撃に当たる!」

 

第零遊撃部隊は、敵艦隊迎撃部隊の旗艦である「スカアハ」に断りの通信を入れ、巡洋艦3隻に駆逐艦8隻の計11隻からなる部隊は急いでハワイに戻る。巡航速力で向かうと、ハワイ列島の島々とともに、幾つもの艦船が見えてくる。すると、突然スピーカーから雑音が入ってくると同時に、レーダーのスコープも乱れ始める。

 

「つ、通信機に異常発生!」

 

「レーダー、謎の不調を来し始めました!」

 

「通信機の異常…まさか…!?」

 

突然の異常に、シュルツは嫌な予感を覚える。すると、双眼鏡で遠くを見ていた管制員が大声で叫んだ。

 

「か、艦長!て、敵超巨大艦及び護衛艦船を視認!馬鹿な…きょ、距離2万からも十分に見えるサイズです!」

 

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推奨BGM、鋼鉄の咆哮2ウォーシップガンナーより『超兵器戦Aテーマ』

 

水平線の向こうに見えてきたのは、艦と呼ぶには余りにも巨大すぎる2隻の軍艦だった。

1隻は、二つの船体を横に並列で繋げた双胴艦で、船体を繋げる構造物は横に広い飛行甲板となっており、艦橋のあるアイランド型構造物は二つ存在していた。艦首辺りには多数の三連装砲塔や四角い箱の形をした砲塔が備え付けられており、四角い箱型の砲塔からは、大量のロケット弾が白い煙を引きながら発射され、その猛烈な弾幕でハワイの沿岸部に築かれた砲台やトーチカを吹き飛ばしていた。しかも艦尾には巨大なハッチがあり、そこからは大量の揚陸艇が発進しているため、揚陸艦である事が伺える。

もう1隻は単胴艦であるが、円形の土台の中心に奇妙な形状の塔が設置された装置に、幾つもの三連装砲塔を装備し、通常の軍艦とは違った禍々しい雰囲気を醸し出していた。その見た目から戦艦である事が分かる2隻目の超巨大艦は、接近してくるアメリカ海軍艦艇に対して幾つもの大口径砲弾を降らせて木っ端みじんに叩き潰し、一方で陸軍航空隊や海軍航空隊の戦闘機に対しては、大量の対空砲による弾幕で迎撃し、これらをまとめて叩き落とす。さらに装置からは光の線が迸り、艦艇や航空機を切り裂いていく。そのアメリカ軍を蹴散らして叩き潰す光景はまさしく『苛烈』の一言に過ぎた。

 

「あ、アメリカ軍が…」

 

「な、何て巨大な軍艦だ…アレが戦艦と呼べるモノなのか…!?まるで島ではないか!」

 

ナギがその光景に言葉を失う中、筑波は敵艦に対する率直な感想を漏らす。シュルツも歯ぎしりしながら真正面を見つめるが、すぐに表情を戻してナギに尋ねる。

 

「解放軍司令部と本隊は今、どうしているか?」

 

「はいっ、現在はハワイから離れてアメリカ本土の方へ向かっているとの事です。また第二艦隊も敵艦隊と短時間交戦した後に後退し、主力本隊との合流を始めたとの事です!」

 

「そうか…となると本隊と合流した方が先決だな。これより本艦隊は、主力本隊がハワイより脱出するまでの殿を務める!敵艦隊を解放軍本隊の方に行かせるな!」

 

艦隊は敵艦隊に向けて突撃を開始し、揚陸艇に近付く。しかし片方の超巨大戦艦が警戒しており、接近しようとすれば砲撃が飛んでくる。しかし彼らの目的は揚陸艇の撃破ではなかった。

 

「敵艦隊の注意、こちらに向きました!駆逐艦が数隻向かってきます!」

 

「よし、全艦魚雷一斉射!その後追い掛けてくる敵艦に応戦しつつ、主力が敵艦隊の攻撃範囲外に出るまで粘るぞ!」

 

シュルツの命令と同時に艦隊は魚雷を一斉射し、大量の白い航跡が海面に浮かび上がる。何隻かが回避軌道を取るが、魚雷の数本は奥の超巨大戦艦に命中し、水柱がそびえ立つ。

 

『グウッ、貴様ラ!』

 

超巨大戦艦は激高したかの様な声を上げ、舵を切って第零遊撃部隊の方に向かう。目の前に連合帝国軍の駆逐艦がいたが、超巨大戦艦はそれを気にする事無く進み、駆逐艦は慌てて道を開ける様に離れる。しかし艦橋に乗っている乗組員達の制御によって制止され、同時に別の声が超巨大戦艦に向けて放たれる。

 

『止メナサイ、「ムスペルヘイム」。今ノ我ラノ作戦目標ハハワイノ占領。アノ雑魚ニ構ッテイル暇ハ無イ』

 

『ウグッ…貴様ラ、覚エテイロヨ!』

 

兵器にしては人間臭い言葉に、シュルツは思わず笑みを浮かべかける。しかし直ぐに表情を戻し、シュルツは大声で命じる。

 

「よし、ここいらで現海域を離脱する!全速で逃げるぞ!魚雷をばら撒いておくのを忘れずにな!」

 

艦隊は逃げ際に魚雷を一斉射し、追撃しようとした巡洋艦に駆逐艦が被雷して轟沈する。艦載機の何機かが襲い掛かるが、全速力で逃げる艦艇に正確に攻撃を命中させるのは厳しく、第零遊撃部隊は東へ逃れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ハワイは連合帝国軍の強襲を受けて陥落。

しかしながらウィルキア解放軍及びアメリカ海軍太平洋艦隊主力は少数の市民とともに脱出に成功し、一路アメリカ本土に向けて東に進んだ。




早速『灼熱』が出てきたって?ガンナー2の設定を知っている人なら…お分かりですね?
次回、西海岸防衛戦開始。

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