Infinite Dendrogram 切断王イシュトール 作:イシュトール
「………」
うん、死んだな。
横になった体を起こしそう呟く
「ふぅ…」
しかしディスプレイに、【ペナルティ期間中です。あと23時間54分56秒】と表示されるのみだった
<Infinite Dendrogram>にログインしようとするが当然の反応である。ログイン制限を受けてなぜすぐに入れると思ったのか。
「出血死か、ショック死か。致命傷の腹は治療してもらった、他の要因は病原菌か。あんな蟲がいんならウイルスやらバクテリアやら寄生虫だって馬鹿げた強さを持っててもおかしくないか。もしくは植物の方か?」
死因となりうる物が多すぎるんだよなぁ。治療しきれていなければ出血死するし、驚きや恐怖のあまり血圧上昇したりアドレナリン分泌されすぎてショック死したり、傷口や呼吸による吸引で他の物を体内にいれたり。フライとかデカイ蝿だし病気とか寄生虫持っててもおかしくないしエッグプラントとか毒が気化して散布されたり根で苗床にするとかありえそうだし、繁殖の仕方は種とか胞子ならいつ吸っててもおかしくないし、まさか分け身とか。低レベルだとほんと何もかもが死因になるな
一通りの死因の考察を終えると次に出てくるのはスファルフラーメと防具を付けていた人たちだ。スファルフラーメにはまた助けて貰った恩があるし後でお礼を言わないと。少女にも治療してもらったりとか恩があるしお礼をしてこないとなぁ、でも目の前で死んだ事になるんだろうけど大丈夫だよね?男性の方はこう言っちゃあれだけど見慣れてるだろうけど少女の方は引きこもりになったりしないよね?今後の地雷を踏み抜いたりしないように気をつけないと。
シュウはたぶん大丈夫だよね?あいつだしたぶん生還能力も高いだろ。あの状況なら即死さえ回避できればたぶん生きてる可能性は高いと思うんだけど
一度深呼吸をして、ベットの側面に腰をかける。ログイン制限を受けて入れないなら今の内に考えを纏めて、次のログインに対する準備をしよう、と思ったがこのままでは暫くベットから出ないだろうからカーテンを開けよう
「眩しい」
目に注がれる陽光から逃れようと再び寝具へと倒れ込む。時計を見るとまだ朝だ。時間に余裕はある。その日の朝に入ってその日の朝にログイン制限を受けるとは
「スファルフラーメ、か」
ベットから下りてデスク脇にある箱へ向かう。今まで放置されていた使わなくなった教材の下から取り出したノートは私の恥ずかしくて封印したくなるほどのノートだ。設定は酷いしキャラ作りは滅茶苦茶だし、自作小説と言うのも憚られるような普通に設定纏めた方が面白いと思える代物だ。なんでこれを同人誌に出したのだろうと思う。たぶんこの後また封印されて数年後ぐらいに発掘されるんだろう
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やぁやぁ元気だったかい?」
「何の様だ、エルフォルン」
白い肌に白い翼に白い服、天使の如き姿をした彼は玖音を吸血鬼として転生させた者だ。幼い少年の姿をしているが今までの苦労のほぼ全ての原因を担うほどに力の強い神だ
「ぶー、そんなに怒らないでもいいじゃないか」
「ついこの間、戦争の真っただ中に出されたのは忘れてないぞ」
「平行世界の自分は見れたでしょ?」
「見せてと言った覚えはない」
苦しそうに仲間に死ねと命じる自分の姿など見ていて楽しいものか。そう文句を言うが彼はそれさえも楽しんでいる様に見える
「それで様は何だ。ないなら帰れ」
「そうそう、これだよこれ。はい」
彼が懐から取り出したのは金色に輝く刀を取りだした。彼は鞘から抜いて玖音に見せつける
「これは?」
「魔剣ティルウィングの原典だよ。ちょっと手を加えたから聖剣になっちゃったけどね」
「…性能は?」
「祝福によって所有者を守る力を持つよ。凄い切れ味とか狙ったものは外さない力は切断っていう性質になってる。後は願いを叶える力かな。」
それだけならばただの凄い刀で終わるだろう。だがあの剣は悪魔の契約と同じだ。
ティルヴィングは黄金の柄によって装飾され、決して錆びることはなく、岩や鉄をも布のように容易に裂く切れ味を誇り、狙ったものは外さない。しかし制作者たる二人のドヴェルグはその剣にある二つの呪いをかけた。
一つ。この剣は一度鞘から放たれれば、誰かを殺さなければならない。
一つ。この剣は所有者の願いを三度叶えるが、必ず所有者の命を奪う。
即ち神話のドワーフの手によって呪われた魔剣なのだ。その剣の原典など赤子が振るっても神殺しができそうだ
「安心して、必ず願いを叶えるわけじゃないから呪いの力は弱くなってる。精々が所有者の命と引き換えに相手を殺す程度だよ」
「それ方向性が変わっただけだろ」
「大丈夫、君なら扱える!」
「そんなことは聞いてない」
「狙ったものは外さないから概念も切れるんだよ。聖剣だから祝福があるんだよ。いらないの?」
「要らないな」
「でもでも、鞘はあらゆる害を切り裂く力を持つんだよ」
その言葉にピクリと耳を動かした。そしてそれを見逃すエルフォルンではない
「これがあれば今までの生活とはおさらばだよ」
「…何が目的だ」
「何も。今まで楽しませてもらったお礼に休暇をあげたいだけだよ」
この刀の鞘は害を切り裂く。刃は概念さえも切り裂く。願いを叶える力に呪いの変化。そうした力が無くともこれが良い刀であることは分かる。だがエルフォルンが持ってきたという事実によって一気に胡散臭くなる
「じゃ、そういうわけだから!!」
そういい残して返ってしまった。原典を置いていったまま
「他のやつが持っていっても面倒だし保管しとくか」
刀の保管のため刀を手に取ると刀は大きな魔力を放出した。魔力は次第に形を取り一人の女性となった
「初めましてマスター。私はこの刀に宿る精霊よ」
その精霊はエルフの姿をしていた。耳は長く金髪の碧眼であった。
魔力の質も同じ、放出量ともつりあうか
「マスターになったつもりはないのだが」
「そう…ならせめて私に名前付けてくれないかしら」
「まぁ、保管するにしても名前はいるか。名前は、そうだな―――」
―――スファルフラーメ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パタンっと、ノートを閉じて元の位置へと戻す。改めてこれは酷い作品だと言える。彼の神を警戒してるのにその神の手が加えられた剣を警戒しない所とかもうちょっと話を広げられたんじゃないかなと思う。しかもここで終わりで先は一気に時間が飛ぶという
「スファルフラーメ容姿、なんで書かなかったかな」
俺のエンブリオになるって分かってたら絶対書いてたよ。
ああ、エンブリオと言えばメイデンの名を冠するだけあって女性型だったな。別に当時の男尊女卑を考えれば男装した王もありえなくはないからそこはいいが。気になるのは原典のスファルフラーメは王の事だがあの王にあんな能力はない。もちろん魔剣ティルウィングにも存在していない。
じゃあなんでそんな能力を持ってるか。そこにエンブリオの特性が加わるんだろうな。空想具現化、後は種類や誕生の経緯か。記憶も精神も経験も、あらゆるものを参考に生まれるのがエンブリオだ。現実の神話や伝承に関わる事なら、根本が覆され完全に別物になっていないなら、記録に無い伝説の武具もエンブリオとして具現化されるのかもしれない。それとも空想具現化で成りたたせているのか?
「いろいろ気にはなるがとりあえず飯にするか。腹減った」
そう呟いて先に昼食を用意しようと冷蔵庫へ向かおうとした瞬間、インターフォンが鳴った。あの音を聞き間違えるほど耳は衰えてはいないがタイミングが良さに疑ってしまった。
インターフォンと言えば修一の家は長女の手によってフ○ミマの入店音だった時があったな。管理人室に行き呼び鈴鳴らすと入店音、中でドタバタと焦った音が聞こえてきてあれは笑ったぞ。返玄関へ向かい相手が椋鳥修一であることを確認するとドアを開ける
「お、やっぱりいたか」
「飯おいてけ、あと何の用だよ」
「冬眠できなかったクマかよ」
「そのネタはもういいから」
修一の飯は美味しいの一言ですまないときがある。つい最初に出てくる言葉が飯になるぐらいには美味い。初めて修一の作った餃子を食べた時はご飯とみそ汁もセットで四人前だか食ったんだったか。その所為で今もクマネタ使われるが、クマはお前じゃねえの?
リビングへ戻り机の上に料理を置いてもらうとそれを口に運ぶ。うん、美味いな餃子。なんでこうなるのかまるで分からん。焼く炒める揚げる煮る蒸すと一通りできるがなぜこうも違うんだ。やっぱり下味とか下ごしらえとかかな。芸術とも言うべき料理を味わっている所で修一が声をかけてきた
「それで、あの後どうなったんだ」
「見ての通り死んだよ。目の前でな」
「救助に来た人達の目の前でか」
「そういえば蟷螂は?」
【キラーマンティス】の攻撃避けたのか、という意味で聞いたがうまく伝わったようだ。攻撃は見えたが体が追いつかず回避できなかったとか。ちなみに着ぐるみを着ていなければ反対からの攻撃は避けれたらしい。それつまり着ぐるみ着てなくても避けれなかったことじゃないですかやだー。
そう言ったら攻撃は先読み出来ていたが足下に穴を空けた蟲達に殺されたという事実を聞けた。【キラーマンティス】の位置低いのは切られたとか考えてたけど穴に落ちたからかよ。つまり【キラーマンティス】を足場にしても足下の蟲に集られて一緒に喰い殺されると。こいつ殺すなら二段・三段構えの罠がいるな。
そして修飾語が抜けていたのにあの人達だと分かった修一の理解力も凄い。あの状況で誰の目の前で死んだかなんて彼女等しかいないけどさ
「すぐ治療してもらうとか、絶対に死なせないとか言ってくれたんだが…」
「治療が間に合わなかったと」
「ああ、それで彼女随分と酷い顔をしていてな。こっちが悲しくなるよ」
あの子、結構精神ダメージあると思うけど大丈夫かな。復帰できてるといいんだけど。死んだりしてないよね。まさか…いや、でもなぁ
「どうした?」
「死ぬ直前に渡したレムの実どうしたのかなって」
誤魔化で言ったけどそういえばレムの実はどうなったのかな。もしマスターだと気付いてなかったらあれが遺品として墓に飾られてしまうのだが。気付いたら自分の名前が墓に刻まれていてその目の前にポツン、とレムの実が一つ置かれている。悲しいなそれ
「掲示板、見てこいよ」
「掲示板?」
修一に進められるがままに掲示板を覗く。あれって公式掲示板がないから良いサイト探すのが大変なんだけど。この掲示板の、アルター王国のスレ―――
「俺、後であの子に会いに行くわ」
小さく静かに、だが確かな意思の籠められた言葉を発した。そこには、こう記されていた
ティアンの少女が泣いてるから保護者らしき人から話を聞いたら治療が間に合わずマスターを見殺しにしたってんで泣いてるらしい。腹に向こうの景色が見える程の大穴なんて開ければ普通諦める所なんだが、必死に救命しようとして…
でもこれはクエストとかじゃなくて、彼女自身が悲しいと感じて悲しいと思って泣いているんだ。ただNPCにこんな事できるか。俺、もうただゲームとは思えなくなってきたんだが
昼、早めの昼食を済ませた久遠は次のログインに備えて冷蔵庫を覗く。野菜、肉、魚は十分な量が保存されている。
お茶と卵と調味料が少ないな。それに缶詰やレトルトみたいな保存食の類も買っておくか。努力はするがこの生活が続くとなれば調理時間も限られてくるだろう。馴染みのお店でセールが行われるのはもう少し後だ。今の内に他の物を済ませよう。
ログインのために早々に動き出す。靴下や襟汚れへの下洗いをして洗濯機を動かす。部屋の掃除をしてゴミ箱からゴミを集める。 少し散らかった物を整理をして、いらないと断言できる物はゴミ袋に直行。空いた時間に久しぶりに木刀を取り出して振るったりして、洗濯物を干して、また木刀を振るい。セールに向かう。追加で安くなってたお米とパックご飯を買って晩御飯を食べて風呂に入る。その日は早々に眠ると翌日ペナルティが解除された<Infinite Dendrogram>へログインする。
俺は確かに死を体験しあの世界に行くのは非常に怖い。だがそれ以上に彼女に礼の一つも言えないのか、と思うと勇気が湧いてきた。いや、この表現は少しおかしいのかもしれない。お礼を言うだけ、そう考えてこうなるなら俺は戦闘が無いと思っているから、死ぬことが無いからと考えているからかも知れない
だからいつもの言葉を言う。分からないときは、見失いそうなときは、己を奮い立たせるときは、この言葉を使うことが多い
「あまり一つの向きに拘るな。死はあくまでも一側面、こちらでもそれは変わらない。下ばかりでは地面しか、後ろばかりでは過去しか見えないんだ」
後ろを見ぬ者は過ちを繰り返し、前を見ぬ者に先はなく、今を見ぬ者は無知である。そのために全体を俯瞰して外から見る力がいる。
今も逃げている。他人から逃げて、現実からも逃げようとして、あの世界からも逃げようとしていえる。生物として死を避けるのは当然と言える。だがそれは全てから逃げるための大義名分にはなりえない。いずれ向き合わなければならないのことだ。だからといってそう簡単に死ぬつもりなどない。俺はこの世界でもあの世界でも生きるのだから
<Infinite Dendrogram>では三日過ぎていると聞く。場所は大噴水広場、時間は昼のようだな。昨日より人が増えてる気がする
「デスペナルティ明けだとセーブポイントからのスタートか」
「……イシュトール」
俺の足下まで伸びた人影の先には人間形態のスファルフラーメが立っていた。少し間を開けて立つ彼女の顔が以前より暗く見えるのは日差しだけによるものではないだろう
「その、ただいま」
「……ええ」
「………」
その言葉に対する返答には間があり出てきた言葉も非常に弱々しいものだった。
どうしよう、かなぁ。身を捨てて助けてくれたのに直後に死んだとか。あーうー、どう声をかけたらいいんだろう。ああでもなぁ
人生を通して大勢との関わりが少なかったイシュトールには半身と呼んでも過言では無い彼女にどう声をかけていいのか分からなかった。そんな中、その空気を破る一声がかかった
「あ、あの!」
「え?あっ…」
その少女は昨日の死に際に見た少女だった。暗い顔ではないがどう接すればいいか困っている顔だ。
どう対応すればいいんだろう。掲示板民の熱心な情報収集によると、リリアーナという名前らしいが。って現実逃避してる場合じゃねぇ
「その…この前の方々ですね」
「あ、ああ」
「ええと、あの…」
彼女も話辛いのか口籠ってる。そう思うと少し気が楽になった。冷静になると周りから注目されている事に気が付いた。ここではまずい、場所を移さなければ
「えっと、どこか落ち着いて話せる場所を知らないか?」
「こ、こちらです」
少女はこちらの手を引いて案内をしてくれる。いや、それ自体は構わないのだが周りからの視線が痛い。浮気とか隠し子とかそんな昼ドラ的な展開を期待されてるような気がする。その目を本当にやめてくれ
そうして連れられてきたのは貴族街に近い場所にある飲食店だ。なぜか自分より幼い子に支払われる状況になっているが、店員は特に何も言わなかった。変な誤解されてないよね?
奥の席に座るも何をどう話せばいいか出てこずに無言となってしまった。カフェとか本当に一度も行ったことないし余計にどうすればいいかわからない。どうしよう、取りあえず昨日の事を話せばいいのかな。あーどうすればいい。
長い長い沈黙の後俺は意を決して口を開いた
「…先日は申し訳なかった。二人とも、俺達を助けようとしてくれたのに無駄に終わらせてしまった」
「い、いえ、それは私が至らなかったからでその、こちらこそ申し訳ありませんでした」
「私も貴方のエンブリオでありながら突き飛ばすことしかできなかった」
彼女たちもそのことを気にしていた。少女は辛そうに悲しそうに俯き、スファルフラーメは自らの無力さを攻めるように唇を噛み締める。俺はスファルフラーメから声をかけた
「まず、スファルフラーメ。俺はお前がいなかったら既に【ギガントビー】の群れに蜂の巣にされていた、もしくは【ブラックロール】に引き殺されていただろう。あそこまで生き延びることできたのはお前のおかげだ。ありがとう、スファルフラーメ」
「で、でも私は! 私は…貴方の生きたいという思いに、応えることができなかった……」
今のスファルフラーメにあの時の頼りになる姿はどこにもなかった。自らの分身たる彼女のそんな姿を見ていられずさらに声をかける
「俺はお前に助けられた。「あの時の生きたい」という願いは叶えられた。その後に「生き残れなかった」だけだ。願いは叶えられた」
「でも、貴方は生きて帰りたいと」
「それにな、俺は力を求めたが守ってほしいと願ったわけじゃない。俺自身が戦う力を求めた。痛覚を弱めれば戦えたはずなのに、俺は見ていることすらできなかった」
その言葉にスファルフラーメは言葉を詰まらせてしまった。助けてほしいと願ったならばガードナーのエンブリオになるはずだ。だが、彼女はアームズのエンブリオとして生まれた
「お前が気にしてるのはわかる。俺から生まれたんだ、全てでなくとも分かる。自分は何もできなかった。だからこれは自分の所為だ、と。」
「はい」
「だが、俺はあそこまで生き残れたのはお前のおかげだと、せっかくお前がくれた機会を無駄にしてしまったと考えている。だから、これは俺達が至らなかったということにしよう。そして今後も俺に手を貸してくれ、支えてくれ。俺は「力を貸してくれ」と願っただろう?」
「…ええ、そうね。貴方はそう願ったんだもの。必ず貴方の力になるわ」
スファルフラーメは力強く返事をした。元気になってくれてよかった。実は俺が離れてたら犠牲なくいられたのではと思ってたことは言わないでおく
「それで君の方だが…」
女の子の方を向き声をかけたが、声をかけたが…どう切りだしたものかな。初対面があんな形になるとなぁ。あんな形なんて初めてだし。そう考えていたらスファルフラーメが仲裁に、仲裁なのか?に入ってくれた
「まずは自己紹介からしてみてはどうかしら」
「そう、だな。俺はイシュトール・オルバスだ。彼女はスファルフラーメ」
「イシュトールのエンブリオ、スファルフラーメよ」
「リリアーナ・グランドリアです」
マジで合ってるよ、掲示板民すげーな。よく実名を聞き出せたものだ。その努力はちょっと別の場所に向けて貰えると嬉しい。俺が死んですぐの上たいから聞き出すとか口が上手いと言えばいいのかリリアーナ達の口が緩いのか。ってそうだよ、もう一人いたじゃんその人どこに行ったんだ
「昨日、じゃない、三日前に男の人もいなかったか?」
「彼は父の同僚です。父がアルティミアの護衛をしているのでその間お世話になっているのです」
「護衛?」
「えっと、この国の騎士団長で第一王女の留学のためにドライフ皇国にいるのですが…」
騎士団長って……凄い人の娘だった。しかも今第一王女と思われる人を呼び捨てで呼んだぞ。俺、首飛んだりしないよね
「三日前に初めてこの世界にやってきたから、それ以前の事情はそれほど詳しくないんだ」
「そうですか。三日前に…」
「納得してないか。俺達が死んだことに」
「分かりますか?」
「分かりやすいな、とっても」
リリアーナも自分は俺を救えなかったと思ってるのだろうか。そうだとしたらそれは違うと伝えてやらねばならない。
「俺はさ、死にたくないと思った。生きたいって走って足掻いて大怪我しても、それでも必死に足掻いてきた。【キラーマンティス】に襲われて死にかけて」
「ッ……」
「けどさリリアーナが助けに来たときは凄く安心した。嬉しくて嬉しくて、安心したんだ。死にたくない死にたくないって必死こいて生きようとしてたのにさ、自分の死を受け入れられた。俺はお前に救われた。体じゃねぇ、俺の心が救われた」
「そう、でしたか」
「リリアーナは確かに俺を救ったんだ。それなのにそんな顔されちゃ俺の方が申し訳なくなってくる。お前にそんな顔させちまったのが問題なんだ。だから笑ってくれ。その、お前は笑って方がいいからさ」
その言葉にリリアーナは暗い顔を上げて小さく笑うと言葉を返す
「ふふっ、それ口説いてるんですか?」
「そうじゃない。俺に幼女趣味はない」
「私はもう14ですよ」
「俺は19だよ」
もうってなんだ。子供が大人になりたいって表れか、それともこっちでは14が成人なのか
「俺があっちで世界で20になるとお前は17か」
「あちらの世界ですか?」
あっ、設定は“マスターは頻繁に別世界に飛ばされる”しか書いてないんだった。ティアンはゲームの謳い文句で来てるとは知らないからマスターと同じ対応をしても通じないよな
「マスターが飛ばされる世界は大体同じなんだよ。ただ時間の流れが違うんだ」
「へぇ、そうなると6年後には一つしか違いませんね」
この当たりの時間の差が暮らしにくいだろうな。今後もこっちにいるとなるとそれには慣れないといけないな
「こっちでも生きるつもりだが、死ぬなよ。お前みたいな奴が早死にしたら目覚めが悪い」
「イシュトールさんも死なないでくださいね。ってマスターに言っても本当の意味では死ねませんよね」
「ああ、今は死ぬつもりはない。この世界のことを知りたいと思えたしスファルフラーメともいたいからな。死にはせん」
「えっ、それはつまり…お付き合い、とか?」
なぜそこまで飛躍したし。その疑問は否定しておかなければならない
「異性として付き合ってるとかじゃないぞ。パートナーというか、姉いうかそんな感じだ」
「私も大事な存在であるとは思うけど、そういう感情ではないわね」
「そ、そうですね。ははは」
こういう年代だとそうした話に興味があるのだろうか。青春は流れゆくままに過ごした感があってそういうのはよくわからん。そういったものだという認識があるだけなんだよ。
しかしこの感覚は妹、じゃないな。姉、家族…友達、かな、うん。友達か、そっか。口籠りもなくなってるし凄く気楽と言うか楽しいし、友達か。
俺は意を決して口を開く
「なぁ、リリアーナ」
「何ですか?」
「俺の友達になってくれないか」
「はい」
あまりにもあっさり了承を得られて拍子抜けだった。何も言わなくなった俺を不思議に思ったのかリリアーナはこちらに尋ねてくる
「どうしました?」
「あ、いやそれは」
「彼、友人と呼べた相手がいないのよ」
「ちょっおま!」
友人がいないことをばらすとはっていうか何で知ってんだお前!?
「私は貴方のエンブリオよ。貴方が私のことを知っている様に私も貴方のことを知っているわ」
「ぐぬぬ…」
「そう言うわけで、親しい相手はいるのだけれど友人がいないのよ。それでも大丈夫?」
「はい、構いません。私もアルティミア以外は友人と呼ばれる相手いなくて」
これは、よかったと言っていいのだろうか。騎士団長の娘となると知人は多くても友人は少ないようだ。あれ、そうなると一般市民でありながら友人のいない俺は………これ以上はやめておこう
「イシュトールさんは三日前に来たばかりなのですよね」
「そうだけど」
「なら、私の家に来ませんか?」
「はい?」
この娘は何を言っているのだろうか。襲われるとか考えないのか。親がいないというのに男を家に招くなんて何を考えている
「こちらの事情には明るくないそうですし、妹の世話にも手をかしていただければと」
「いや待て待て待てその理由で男を理由にはならないマスターだしそれは別にいい!」
「それにお友達を家に呼んだことがなくて、是非イシュトールさんをお呼びしたいなと」
「三日前を含めて出会ってから一時間もたってないぞ、そこはせめて食事にすべきだ」
「既に食事に来てるわよ。ここは彼女の厚意に甘えさせてもらったらどう?」
スファルフラーメが正論を言ってきたぞ。それによく考えたらリリアーナは俺より強いよな。ってなんだその顔、そっちに何かあると……
その視線の先にいた存在に思わず叫びながら指を刺してしまった
「おいクマてめぇそこで何やってる!!」
「見ての通り食事クマ」
シュウめ、すでに20リルしかなくて金欠の癖になぜこんな所にいる
「俺も一度は会いに行く予定だったんだがイシュトールが連れられてるの見たから後をつけてきた」
「お前金欠だろ、というか着ぐるみ屋はどうした」
「店のほうはこれ着てる時点で既に宣伝になってる」
「貴方もマスターだったんですね。先日は申し訳ありませんでした」
「シュウ・スターリングだ。そのことは気にしなくていい」
着ぐるみだもんな分からないよな普通。マスターの証も見えないしティアンだと思ってもおかしくはない
「折角の厚意を何だから泊めて貰ったらいいクマ。宿なしは辛いぞ」
「金欠で牢屋に泊めてもらった奴が言うと説得力が違うな」
「それは言わない約束だろ」
した覚えねえよ。そして店の奥がざわつき始めた。先ほどの会話など既に牢屋のインパクトに持って行かれてしまったようだ。さすがに牢屋に泊めてもらったというのは衝撃が大きかった様だ。牢屋に泊めてもらったマスターとして有名になるがいいわ
「やはり無理でしょうか」
「女だけの家に行くのは問題だ。勝手に婚約者だのと噂にされると家族も困るだろ」
「ロリコン扱いされるのも、でしょう」
その通り、勝手に婚約者扱いされても困るしロリコン扱いも困る。俺とリリアーナの今後に問題が出るからな
「食客として泊めればいいクマ。マスターならその手が使えるクマ」
「おいこら何言ってやがる」
「宿に泊まるとなるとお金がかかるクマ。でも食事を取らないと【空腹】になるクマ。牢屋がいいクマ?」
「お前がクマって言うときは大体からかってるときだよな。そんなに俺をいかせたいか」
「もちろんクマ」
たしかにティアンであればマスターを先行投資の意味合いで食客として泊めるのもいいだろう。恩を売れるし、食客の時点で宿を対価に雇ってるものだし
「その家の主がいないのにできるのか?」
「今は私が代理の主ですので」
母親でなくリリアーナが主なのか。それってつまり……いややめておこう
「ほら、そういってるしお邪魔するといいクマ」
「はぁ、分かったよ」
「本当ですか!」
【クエスト【食客――リリアーナ・グランドリア 難易度:ニ】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
これ、クエストになるのか。だから進めてきたわけだ。チラリとシュウを見るとがんばれと言ってきた。
こうして俺の居候先は決まった
□■□
「どうぞ、上がってください」
「お邪魔します」
ポーチ、玄関、ホール、廊下だ。玄関からホールに下駄箱がある。ホールの横に天地風の襖がある。そのすぐ前に階段と廊下に扉が二つ。外はファンタジーって感じなのに、中は現代日本の家だな。スファルフラーメは暫く俺の中にいてもらおうか
「こちらの部屋が天地の和室と呼ばれる部屋です。奥の右手がリビングで反対がお手洗いになります」
二階は書斎と父とリリアーナと妹の自室と空き部屋の四部屋。この家は5LDKだったらしい。
借りる部屋は二階の空き部屋になった。玄関から一番遠くで彼女達の自室と反対の位置だからな。本音を言うと和室の布団で寝たかったが、玄関のすぐ横は問題だなと。トイレ等を除いてバルコニーが二階の全部屋に繋がってるのは諦めるか。同僚の騎士には和室で寝てもらおう。
妹、ミリアーヌ・グランドリアに会いに行った。ミリアーヌは今年で2歳だが0歳の時から子供部屋ってなるとやっぱり日本と違うなここ。そして可愛い
「あっ、カルロスさん」
「リリアーナ」
この声は、あの時の声だ。噂の同僚騎士さんだな
「おや?先日の…」
「今日から食客としてお部屋をお貸しすることになったイシュトールさんです」
「マスターのイシュトール・オルバスです。前日は助けに来てもらい感謝いたします」
「王国近衛騎士団の聖騎士カルロス・ルラルです。騎士として当然のことをしたまでです」
カルロスってどこの王だってイメージが強い。今更だけど父親の名前知らな―――ッ!
以前と同じ危機感を感じた。己の勘に従い横へ動くとともにスファルフラーメを取り出す
「この程度は避けるか」
「カルロスさん!?」
危機感の正体はカルロスからだった。ただのパンチだが十分に脅威だ。推定【キラーマンティス】を軽々倒せる実力の持ち主、そうでなくとも格上なのは分かりきっている。ともすれば敢えて避けれるようにしたか
「何のつもりだ」
「私はリリアーナの父、ラングレイ・グランドリアより彼女達を任されている。食客と言うならばそれ相応の実力を見せてもらおうと思ったまでのこと。どうやら素質はあるようだな」
マスターならばエンブリオがあるから戦闘職も悲戦闘職も一定以上の将来性は見込まれる。昔のマスターも強かったらしいとシュウや掲示板民が言っていた。なら気にしているのはそれ以外だ。家の顔か男女の関係かな。だから自分の実力を見せつける。一定の実力があれば差は分かるし、実際に助けられてているなら分かって然るべき。となると俺はカルロスがチラついて手を出せない。それすらも見抜けない未熟者か浅ましい考えの持ち主ならお帰りいただこうと、優良物件ならなんとか引き留めようってことか
「抑止力にでもなるつもりか」
「頭の回りもいい様だ」
「買いかぶり過ぎだ。この程度しかできんのだよ」
「十分だ」
カルロスは構えを解いた。なんとなく大丈夫な気がしたがまだスファルフラーメを構え続ける
『平気よイシュトール、これを見て』
スファルフラーメが開いたウィンドウには彼女のスキルが記されていた
《祝福》
所有者に祝福を与え、その力を引き上げる
直感
直感 感覚でこうした方がいいと分かる
《虚鏡》
達筋を読ませず、如何なる状況に置いてもその剣技を十全に発揮できる。
前から感じていた感覚は直感の効果か。《虚鏡》の問題は剣術の範囲が体捌きも含まれるのかだな
『敢えて言うなら剣術は対戦時の哲学、思想を含み、戦略的なもので地形効果や心理作戦も含む。剣技は対戦時の剣のテクニックを主眼にしている。《虚鏡》は剣技に効果があるスキルだから体捌きも含まれているわ』
そうか、ありがとう。
スキルの効果も分かったのでスファルフラーメを仕舞う
「言っておくが、彼女への劣情や恋愛感情は皆無だ」
「今後のためだよ。抑止力は知られなきゃ抑止力にならないからね」
『ねえイシュトール、横を見て』
スファルフラーメが急にそんなことを言い出した。横に何があると言うんだ
「そんなに私は魅力がありませんか?」
あー、うん。まずいなこれ。女の子の目の前で言うことじゃなかった。これは下手に誤魔化すと面倒な奴だ、なのに正直に言ってもダメな奴だ
「先程口説いてきましたよね」
「それ否定したよな、それっぽい言葉になっただけだよな」
嘘ですさっきから散々否定してるけど実は幼女にも反応できます、特に
だからと言ってリリアーナに欲情している訳ではない。恩人や優しい子としての印象が強すぎて欲情できないから。だからその発言はカルロスの目が怖くなるからやめてくれマジで
『どれだけ言い訳を述べて目を逸らせても貴方がロリコンであると言う事実からは動かないのよ』
ロリコンじゃない、
「魅力はあると思うぞ。ただもう少し成長してくれないと対象として見れないと言うか、ねぇ、カルロス」
「えっ私ですか?」
「カルロスさん、本当ですか」
ふふふ、お前も苦しむがいいわ。そして私の身代わりを果たすがいい。
このタイミングで自分に話しを振られるとは思っていなかったのか多少驚いているがそこはベテラン騎士、否定しつつも彼女を傷つけない言葉を選んで発言する。だがカルロスが当たり障りのない発言をするなど予測済み、ここで会話も主導権を握り彼を後手に回らせる
「私も魅力的だとは思いますが、娘の様に思っていますから」
「幼女趣味?」
「ま、まさかミリアーヌを…」
「違います、私はすでに結婚しています」
「つまり奥さんが大変魅力的なのでリリアーナに強い魅力を感じないという惚けか」
幼女趣味だと言えば彼は否定する、結婚を名目に。妻の事出させれば勝ちだ
「カルロスさんはとってもお熱いのですね」
私とスファルフラーメに男女関係があるのでは疑ったほどなのだ。惚け話だと言ってそっちに意識を向けさせれば彼女はそちらに釣られてしまう。私はこのまま離脱させてもらう、すぐに入ってきたから一度ログアウトしないといけないしな。【アナウンス 尿意】と気がきいている
「少し部屋で寝てくるよ。別世界に置いてきた体があるからね」
「イシュトール!」
「15分くらいで戻ってくるから」
ふははははさらばだカルロス、強く生きろ!
『逃げられたわ…』
やはりこいつは俺のエンブリオだったようだ。そんな所まで似なくてもいいって
ちなみにこの後やり返されて幼女もいけることがバレそうになった
家が漫画番と違う?知らなかったんだ。戦争前後辺りに変わったことにしてください