「やはり"ソウゾウシュ"が選んだのは貴方たちだったのか。実力の差、認めなければならない...」
「外の世界の私によろしく、と... それと、これをあなた達に...」
沈みゆくティルピッツから白とと薄い水色に輝くキューブを受け取る。
「フィーゼも...グラーフも... あなた達に託した,,, ならば、私もあなた達とともに行ってみるのも悪くはない...」
目を閉じながら、途切れ途切れの言葉で静かにティルピッツは呟く。そのまま体の力を抜いたかと思うと、その体は静かに橋面海域の海中へと沈んでいった。
「...」
やるせない気持ちが押し寄せてくる。グラーフたちを撃破した後、中心部への道の最後に待っていたのが彼女だった。まるで雪の女王とでもいうべきその白い姿に似合わぬ苛烈な砲撃でこちらを苦しめてきたが、辛くもこちらが勝利を収めることができた。
...彼女は戦いたがっていたようには見えなかった。戦っている最中も、まるで沈めてくれと言わんばかりに隙ができる場面がいくつかあり、そのたびに彼女の表情はどこか諦めにも似た表情を見せていた。何故、戦わなければいけなかったのか...そんなことを考えながら手のひらの上のキューブを眺める。彼女の姿によく似た、美しい光をキューブは放ち続ける。
「...ご主人さま。いよいよこの先にセイレーンが待ち構えております。ご指示を...」
「...みんなよくやった! いよいよこの先はテスターと名乗るセイレーンとの戦闘になると思われる! 補給を済ませ次第、中心部に突入するぞ!」
「「「了解!」」」
今ここであれこれ考えても仕方がない。いま自分たちがやるべきは、このキューブを託して沈んでいった彼女たちの思いとともに母港に無事帰ることだ。
改めて軍帽を深くかぶり直し、中心部を見据えるのだった。
「ティルピッツも、グラーフも... アイツらみんな満足そうな顔して逝きやがって...」
あの下等生物率いる艦隊は私の予想以上の力を発揮して立ちはだかる鉄血の艦隊を打ち破り、これからまさにこの海域の支配者たるセイレーンに挑もうとしている。
「これが...この実力が、あの下等生物のおかげだっていうの...?」
今まで狩ってきた連中の指揮官と呼ばれる奴らはみんなKAN-SENを物のように扱い、あまつさえ自分の盾になれと言わんばかりに艦隊の構成員を酷使していた。私が全員倒して銃を突きつけると、みっともなく命乞いをして許しを請うてくるやつまでいた!
...だけどアイツは違う。艦隊とともに前線に出て、彼女たちと共に戦っている。
「分からないわ... もう一度、アイツに会ってみなきゃ.,,」
答えの出ない問答に心の中をかき混ぜられながら、ドイッチュラントは静かに一人中心部へと向かうのだった。
「はぁい。やっとご到着ね。予想到達時刻よりも早かったわ。」
中心部、赤い渦が唸りを上げる場所へ向かうと、予想通りテスターと呼ばれるセイレーンが待ち構えていた。即座に艦隊全員に指示を出し、臨戦体勢を取らせる。
「あら、せっかちね... その目、国や理念、記憶には存在しない、人間との"絆"... あなた達が持っているその"因子"は、私達が求める進化にとって必要不可欠」
テスターが怪しげな笑みを浮かべながらゆっくりと背後のエイのような艤装を展開していく。
「その"因子"が果たして本物かどうか..."テスター"として創造されたこの私が、しっかりと見定めてやるわ!」
「ちょっと待て!」
「あら...?」
笑いながら砲撃を始めようとするテスターに対し静止するように声を掛け、ゆっくりと艦隊の前へと出る。
「何かしら? わざわざ一番前に来て。撃ってくださいと言っているようなものよ?」
「聞きたいことがある。」
俺の問いかけにクスクスと笑いながら、何かしら、とテスターはこちらの言葉に反応する。
「今まで出てきた鉄血の面々... お前が指示して戦わせていたのか?」
「...? ええ、そうよ。彼女たちは私達の所有する"駒"... あなた達を見定めるために私達が遣わしたチェスの駒のようなものよ。」
テスターが表情を変えずにそう告げる。
「...そうか。 質問は以上だ。邪魔して悪かったな。」
テスターの返答を聞き、俺はゆっくりと艦隊の後ろへと下がる。それを見届けたテスターは、何だったのかと首をかしげるが、すぐに再び戦闘を始めようと身構える。
「意味のわからない質問だったけど、戦闘には関係ないわね。さあ、あなた達の性能を見極め―――」
「艦隊の全員に告ぐっっっ!!!」
「っ...!?」
俺の怒号にも似た指示が艦隊の全員へと響き渡る。
「"テスター"と呼称するセイレーンの個体を撃滅せよ!!! 戦争を遊戯と例えるアイツに、ありったけの弾丸を叩き込め!!!」
俺の言葉に反応し、艦隊の全員が雄叫びを上げながらテスターへと攻撃を始める。普段は優雅とよく口にしているロイヤルの皆も、俺の言葉に反応しその勇ましさをむき出しにして砲撃を放つ。アイツは彼女たちのことを駒と呼んだ。彼女たちは戦いたいと願ったわけではなかっただろうに、アイツがまるでゲームでもするかのように彼女たちを戦わせたのだ。
俺の怒りを代弁するかのように、艦隊皆の砲身から火が吹き出す。次々と繰り出される高火力の弾幕を前に、テスターは驚きを隠せない様子だ。
「...!? この強さは、演算を遥かに上回っている!?」
アイツだけは許さない。ここで沈めなければ気がすまなかった。
「ぐっ...ああっ!?」
テスターが焦りながら応戦してくるが、勢いの乗ったこちらの攻撃には太刀打ちすることができず、徐々に劣勢に追い込まれていく。そのまま反撃する間を与えることなく、最大火力を叩き込み続けテスターに致命傷を負わせるのだった。
多くの砲弾をその身に受けてボロボロになったテスターがフラフラと立ち上がる。
「まさか自然演算システムの予想を遥かに越えるなんて...人間という生物はやっぱり最高だわ!」
「この進化スピードがあれば、"再現された戦争"を...ううん、"仕組まれる戦争"をもっともっと繰り返せば、いつかきっと...!」
「ごちゃごちゃうるさい。とっとと沈め。」
止めのひと押しを放たせ、テスターを沈める。これ以上わけのわからないことを聞かされる気にはならなかった。
「ふふ...ソれデいいワ...」
体の所々に穴が空きながら、それでもテスターは不敵な笑みを浮かべ実験ハ成功ネと告げる。
「サあ! アナた達の信ジてきタ道ヲ、最後まデ進ムがいいワ!」
最後の断末魔とも取れるメッセージが海域にこだまする。その音が止んだとき、中心になった赤い光と渦は消え、鏡面海域全体から入ったときに感じていた嫌な気配が消えた。どうやらこれで終わったらしい。
「ご主人さま。母港との通信、復旧いたしました。」
鏡面海域に入ったときに途切れていた通信も復旧する。スピーカーからは絶え間なく母港のみんなが慌ただしくこちらの安否を確認する声が聞こえてくる。
「......帰るか。」
今回の調査はどこか悲しいことが多かった。託されたキューブを眺めながらひとりそんなことを考えながら進路をもと来た方へと切り返そうとする。
「ちょっと待ちなさい!」
声のする方を振り返ると、最初に戦ったドイッチュラントがそこに立っていた。どうやら戦いの傷は回復しているらしく、その姿には傷一つ見当たらない。
「...なんだ。戦いに来たのか...」
俺の言葉にドイッチュラントは銃を構えることで応じる。だが、この海域を支配していたセイレーンが倒れた今、彼女に付き従う量産型の船はもうどこにもいなかった。
「いいのか? こちらも消耗しているが...今戦っても、また勝つのは俺達だぞ?」
銃を構えたまま、つかつかとドイッチュラントは俺がいる船に向かって歩いてくる。ベルファストたちが身構え止めようとするが、俺はそれを静止し攻撃しないように指示を出す。
「セイレーンすら倒してしまったのね。随分と今回の獲物は強かったようだわ。」
ドイッチュラントがそんなことを言いながら銃をくるくると手の中で弄ぶ。俺はそれを眺めながら彼女の続く言葉を待っていると、そんな俺の様子を見たドイッチュラントがため息を突きながら銃の構えをおろす。
「グラーフもフィーゼも...あまつさえティルピッツまで... あんたに自身を託して沈んでいった。」
よく見ると彼女の体のあちこちから金色の光が漏れ出し、わずかずつその体がそこから欠け始めていっている。
「おい...それ...」
「ああ、これ? この鏡面海域も廃棄されるようだから、この海域の駒である私もお役御免ってところかしら。」
ドイッチュラントが平然と言い放つが、俺はその言葉にグラーフたちが言っていた言葉の意味を思い出し絶句する。
――我らはセイレーンに作られし素体のバックアップ... この海域を出ることは叶わぬ。魅力的な話ではあるが、その願いは叶わない――
「そんな顔しないで頂戴。あんたなんかに同情される筋合いなんてないの。私は、確かめたいことがあって来たのよ。」
そう言い放つドイッチュラントは、再び銃をこちらに向け更に艤装を展開する。
「もう一度私と戦いなさい。負けたまま終わるなんて、私のプライドが許さないわ。」
「だが、さっきも言ったとおり...」
「そんなことは百も承知よ。いいから黙って私と戦いなさい。」
ドイッチュラントの強い意志に押され第一艦隊に臨戦態勢を取るよう指示を出す。それを満足そうに眺めたドイッチュラントは、こちらの艦隊から離れた後、銃声を響かせ戦闘を開始してくるのだった。
「何故...? どうして私はお前たちに負けたのかしら...」
戦闘が終わり、仰向けに海上に倒れたドイッチュラントが俺に向かって問いかける。6対1ではあったが、こちらも消耗していたこともあってか予想以上の接戦となった。艦隊のみんなも肩で息をしている。
「それはお前が一人で戦っているからだ。いくら強力な力を持とうと、一人で戦っている以上限界が来る。俺たちには皆との絆がある。そこが決定的な差だ。」
「あなたは自分の力を過信しすぎた。それに、私達には頼りになる指揮官もいます。」
ベルファストの言葉に艦隊の皆がそうだと言わんばかりに頷く。
俺とベルファストの言葉にドイッチュラントはそうか...と静かに目を閉じる。体から漏れ出す光はその量を増し、もう限界が近いことを示していた。
「仲間...それに指揮官がいたから、アンタたちは強くなったって言うの...?」
「ええ。私達はKAN-SEN。守るべきもの、一緒に戦ってくれるものがいれば、私達は強くなれる。」
「ティルピッツも、グラーフも、フィーゼも...みんなアンタに託して逝った... だったら私もそれに習おうかしら...」
「おい、まさか...」
ドイッチュラントがこちらに自分の体から取り出したキューブを差し出す。黒と赤、それにわずかに白が混じった光を放つそれを躊躇いながらも大事に受け取ると、ドイッチュラントが何かを思うように目を細め、宙を見つめる。その体はゆっくりと、光を放ちながら海中に沈んでいく。
「せいぜい"私"を強くしてみせなさい... ただし、そう簡単にはアンタの言うことなんて聞かないでしょうね...」
望むところだと言いながら、ドイッチュラントの手を握る。振りほどいたり握り返す力は残っていないらしく、力の抜けた手からも光が溢れだしていく。
ドイッチュラントはそのまま目を閉じ、その手が俺の手からするりと抜け海中へ入ったかと思うと光の粒となって消えていく。そしてそのまま光は全身へ広がり、粒状となって海中へと消えていった。
「...」
「ご主人さま...」
俺は無言でしばらくその場に佇む。最後の戦いで、ドイッチュラントにどのような心境の変化があったかはわからない。だが、彼女からも託された物がある。懐にしまった4つのキューブを感じながら、踵を返し母港へと帰るのだった。
「なあ明石。お前が艦隊に加わってくれればもっと楽に戦えると思うんだが...」
「それは大本営に言ってほしいにゃ。それに、明石が今工廠とかから抜けたらこの母港は機能しないにゃ~」
後日、膨大な量の鏡面海域の調査書類を白目を剥きながら片付け、ようやく自分の時間がとれたころ俺は四人に託されたキューブを使用しての建造をしに工廠に足を運んでいた。明石の後を歩きながら、工廠の奥へと進んでいく。
やがて建造用のカプセルの前に到着すると、明石がいそいそと建造の準備を始める。
「今回の建造は今までやったことのないやり方だから正直どうなるかはわからないにゃ。それでもやるのかにゃ?」
「ああ。彼女たちが託したキューブだ。変なことは起きないさ。」
そう返事をしながらまずは銀色の光をたたえるキューブを装置にセットし起動する。建造装置が大きな音を立てて稼働を始めた所で、高速建造用のドリルをつっこみ建造を終了させる。プシューと音を立てながらカプセルが開き、もうもうと立ち込める煙の中から姿を表したのは...
「私を呼ぶのはあなただろうか?私は……口悔しいが、名乗れる名前がない私を、今しばらくZ46"フィーゼ"と呼んでおくれ」
あの海域で出会った二人組の片割れの女の子だった。俺は挨拶を交わした後様々なことを聞いてみるが、あの鏡面海域での記憶は持っていないようだった。あの子とは別の子、ということだろう。
また遊んでほしい、というあの子との言葉を思い出し鼻の奥が熱くなるのを感じながら、フィーゼを抱きしめる。一瞬困惑したような顔をしたフィーゼだったが、何かを察してくれたのか静かに抱きしめ返してくれた。
「フィーゼ、か。これからよろしくな。」
「"フィーゼ"というのは仮初の名前。よければ指揮官、私の所有者である貴方が私に名前を付けてほしい。」
「名前を!? そうか...ちょっと考えてみる。しばらく待っててくれるか?」
俺がそう返すと、フィーゼは嬉しそうに頷き俺の傍らにちょこんと寄り添う。なんとなく、ハルカが小さかった頃に似ているのでついつい甘やかしてしまいそうだ。
気をとりなおして、今度は銀と黒に光るキューブを装置に入れ建造を始める。しばらくして装置から出てきたのは...
「指揮官か......我が名はツェッペリン。さぁ条件が全て揃った。では開幕するとしよう......終焉のシンフォニーを」
二人組のもうひとり、グラーフ・ツェッペリンが姿を表す。傍らのフィーゼもヒラヒラとグラーフに向かって手をふる。
「む、フィーゼも建造されていたか」
グラーフに歩み寄っていったフィーゼをグラーフが抱き上げる。鏡面海域のときも思ったのだが、この二人は仲が良いのだろうか?
「なんだ卿よ... 空母たる我と駆逐艦であるフィーゼが仲睦ましげにしているのが不思議か?」
どうやら表情で考えていることがバレたようだ。確かに気になったので、そのまま質問してみる。
「何故かはわからんが不思議と初めて会ったような気がしなくてな... 我らはどこかで、共に戦ってきたような感じがするのだ。」
「私も同じ感覚がする。この母港で会ったのは初めてだが、別の所で会ったことがあるような...」
うっすらと鏡面海域で二人でいた記憶が残っているのだろうか。二人でしばらく喋った後フィーゼを降ろしたグラーフがこちらに手を差し出してくる。
「どのような縁でここに来たかは分からぬが...フィーゼの反応を見るに、悪い場所ではないのだろう。フィーゼ共々よろしく頼む。」
「ああ。こちらこそよろしく頼む。」
差し出された手をしっかりと握り返し、お互いに笑みを浮かべる。言葉の端々から出る言動とは裏腹に、彼女の内面は至って常識人のようだった。濃いメンツが多い中で、常識人枠が増えてくれるのは非常にありがたいところ。
「さあ、次行くぞ!」
「卿よ、そのキューブは...」
俺が装置に突っ込んだキューブにグラーフが反応を示す。白と水色の光をたたえながら建造装置から出てくるのは、
「北に長く囚われ、故郷に戻ることさえ叶わなかったこの私を、今更連れて行く気?――そう。お前についていってこの世界を見てみようか」
鉄血艦隊最後の砦、ティルピッツだった。あの海域で見たときと同じように、凍てつくようなオーラを放ちながら鋭い目でこちらを見据えてくる。最初はその目に威圧され萎縮しそうになるが、負けじと胸を張りティルピッツに向かって手を差し出す。
物憂げに俺の差し出した手をしばらく見つめていたティルピッツだったが、やがて何かを決めたように俺の手を握り返してきた。
「貴方には...どこかで世話になったような、そんな気がする。きっと、私ではない私がなにかしたのでしょう。」
「まあ、色々あったが... 気にしなくていいことだ。どうか、この母港では楽しく過ごしてほしい。」
私にできるかしらね。と言いながらグラーフたちに合流する。やはりティルピッツだったが、と少し嬉しそうにグラーフが反応し、フィーゼも親しげにティルピッツと話している。ティルピッツも表情こそ変わらないが俺のときよりは少し声のトーンが柔らかくなっていた。
「さて、次で最後か...」
黒と赤、そして白に光るキューブを取り出す。託されたキューブはこれで最後だ。きっと彼女ではない彼女が出てくるのだろう。最後に言っていた言葉の通り、せいぜいこの母港で幸せに過ごし、存分に強くなってもらおうじゃないか。
建造を終えカプセルが開く。煙が立ち込める中、出てきた少女が俺の前にたち、こちらを指差して笑う。
「ふぅん。あなたがここの指揮官? あなたはもうこのドイッチュラントの下僕よ?光栄に思いなさい。それから、「うん」はダメ、返事は「はい」よ?わかった?」
これが俺と、レイシェたちとの最初の出会いだった。
「と、言うわけだ。」
懐かしの出会った頃の話を終える。随分と色々と端折ってしまったが、これがレイシェたちと出会ったときの大体の事の顛末だ。
「久しぶりにその話聞いたけど、私も随分性格が丸くなったものねぇ。」
レイシェがグラスを片手にしみじみとそんなことを言う。確かに、最初は俺のこと下等生物なんて呼んできたからな。
――そう簡単にはアンタの言うことなんて聞かないでしょうね――
ドイッチュラントのあの言葉を思い出す。まさしくあの言葉の通りで、ここまで来るのには様々なことがあったわけだが、今語ることではないだろう。
「同感だな。まさかレイシェと卿が結婚までするとは誰が予想できただろうか。」
グラーフの言葉にティルピッツが同感ね、と頷く。一方話を聞いていたビスマルクは、そんなことが会ったのかと俺の話を聞き目を丸くしていた。
「まさかそんなことがあったなんてね... 大変だったでしょう。」
ビスマルクがこちらにねぎらいの言葉をかけてくる。その優しげな声色にやすらぎを感じながら、飲んでいたお酒のアルコールが体に回っていっているのを感じる。
「指揮官顔が真っ赤よ。ホントにお酒弱いのね...」
「いや、すまない。頭はしっかりしているんだが、どうにも体に出ちゃうみたいでな...」
そんなことを言っていると瞼がだんだん重くなってくる。酔っ払うとこうなるのはいつものことだが、話に夢中になっていたせいで普段よりも多めに飲んでしまった。
「すっごい眠そうね... アナタ、ちょっと。ここで寝ないで頂戴。」
レイシェに揺さぶられなんとか起きようとするが、正直もうフラフラでいつ眠ってしまってもおかしくない状況だった。
「はぁ...こんな状態じゃダメね。みんな、申し訳ないけど、話の続きはまた今度でいいかしら?」
「ああ。卿がその状態ではこれ以上の話は聞けそうもないからな。今回はここでお開きとするか。我はレギの様子でも見に行くとしよう。」
「私と姉さんはしばらくここにいるわ。他にも話したいこともあるしね。」
そう、それじゃあおやすみ。と言い残し、レイイェは俺に方を貸しながら部屋に戻っていく。
「鏡面海域にいた私は何を思ってたのかしらね?」
レイシェが独り言のように呟く。その言葉に分からん。と返事を返すと、そりゃそうでしょうよ、と返答が返ってくる。
「でもきっと...今の私の置かれている姿を見たら、きっと悪いようには言わないわ。」
だって他ならぬ私がそう感じているのだもの。と笑うレイシェの顔を見ながら、俺の瞼は閉じていくのだった。
「...! ちょっと! こんな所で寝ないでよ! ああもう重いじゃない!」
―翌日―
「頭いたーい...」
「ホントに弱いわねー そんなんじゃあ鉄血ではやっていけないわよ?」
「酒を飲まない指揮官がいたっていいと思うんだ俺は...」
「まったく...今日は執務はほどほどにしておきなさい。」
「はーい...」
過去編はこれで一旦終わりになります。レイシェと結婚するまでのエピソードもそのうち書いてみたいですが、それはまた今度で。