不思議パワーで何とかしよう!
2周年イベに紛れて投げつけてやろうとして諦めたお話。いわゆる供養。
キリの良いところでバッサリ切って、雑に打ち切りエンドにしています。
よくもこんなものを読ませてくれたな! ってなるじゃろ?
俺が本物を見せてやる! ってミリシタ小説が増えるとおもってたんじゃよ。
馬鹿なことは考えるものじゃあないねぇ……。
「何を言ってるんですか社長」
「い、いや、私もまだよくは分かっていないのだが……」
俺が、しらーっとした視線を送ると社長は慌てたように弁解……もとい説明を始めた。
曰く、今朝、事務所にいた社長は、アイドルたちに俺や社長の友人である黒井社長とのあれこれを聞かれたらしい。その熱量たるやすさまじく、先週俺と飲みに行ったと話しただけで黄色い歓声があがり、中には鼻血を出していた子もいたとのこと。レッスンの時間が近づくと、おとなしく劇場へと向かったそうだが……。
「まさか私が女の子から黄色い声を上げられることになるとはね……」
遠い目をした社長は、疲れたような声で笑った。いつも朗らかな社長が、心なしかやつれているように見えた。
なるほど、確かにこれは異常だ。昨日までの皆はBLに興味を持っている様子はなかったのだから。仮に持っていたとしても、人に迷惑をかけるほどにそれを表に出すこともなかったはずだ。それを踏まえて考えると、この現象は自然と発生したブームではなく、何かしらの外的要因によるものであると推測される。
それを社長に伝えると、社長は大きくうなずいた。社長も同じことを考えていたようだ。
「そこでだ、君には原因を究明と問題の解決を頼みたい」
「わかりました! ……って、丸投げじゃないですか」
「いやいや、私は私で知り合いにあたってみるつもりだ」
「む……」
これが本気で頼もしく感じるのだから不思議だ。この人の化け物じみた人脈は、この事務所で働いている事務員の全員が知るところである。俺も、社長の人生を映画にしたら興行収入ランキングの頂点を飾るのではないかとこっそり思っていたりする。
「わかりました。じゃあ俺は劇場を見に行ってきます!」
「うむ。くれぐれも彼女たちに飲み込まれないように!」
そうして俺は、社長の激励を背中に受けながら劇場へと向かうのであった。
……そういえば、劇場にいるであろう青羽さんはともかくとして、小鳥さんも事務所にいなかったのはなぜだろう……?
…………
劇場の扉を開けてエントランスに入ると、ミントを連想させる色合いの髪に大きな赤いリボンを飾り、同じく赤を基調にしたロリータファッションに身を包んだ少女──徳川まつりの後ろ姿が見えた。彼女は壁に飾られた、イベントのポスターを眺めていたようだ。扉を開く音が聞こえたのだろう。彼女はクルリと振り返り、俺の姿を見ると歩いて近づいてきた。
「プロデューサーさん、おはよう、なのです!」
「おはよう、まつり。……なんだ、全然普通じゃないか」
「ほ? ……プロデューサーさんは何を言っているのです?」
「いやな? 実はここに来るとき社長にさ……」
不思議そうに首をかしげるまつりに、俺は社長から伝えられたことをそのまま話した。
「……社長さんは何を言っているのです……?」
「まつりから見た他のメンバーの様子はどうだった?」
「まつりもたった今ここに着いたばかりだからわからないのです……」
「そうか……ちなみに原因に心当たりは?」
「ない……というより、まつりはまだ信じたわけではないのですよ?」
「えっ」
「急に皆が腐女子になったと考えるよりも、寝坊助の社長さんが夢を現実だと思い込んだと考えた方がまだ説得力があるのです」
「正論すぎてぐぅの音も出ない……!」
魔法学校で妖精と一緒に魔法の勉強をしているまつり姫から、説得力の何たるかを突き付けられて色々な意味で崩れ落ちそうになっていると、彼女から手を差し伸べられた。
「だから、一緒に皆の様子を見て回りましょう? ……ね?」
「お、おう……そうだな」
まつりの手を取ると、満足そうにうなずいたのだった。
…………
「あ、志保じゃないか。おはよう!」
「おはようなのです!」
「プロデューサー、まつりさん。おはようございます。…………」
「……志保ちゃん? どうかしたのです?」
廊下を歩いていると、向こうからこちらへと歩いてくる志保と出会った。挨拶をすると、志保も足を止めて挨拶を返してくれた。だが、志保の声はどこか熱に浮かされているように感じる。現に志保は挨拶をしてからぼーっと俺を見つめ、ピクリとも口を動かさない。不思議に思ったまつりが声をかけても「いえ……」と生返事だ。
「……志保、大丈夫か? 熱でもあるんじゃ……」
「……んっ」
風邪でもひいたかと思い、志保の額に手をあてた。
──熱い……というわけではなく、自分の額と比べてみても違いがわからなかった。特に熱があるわけではないようだ。しかし志保の目は潤み、頬は上気して赤く染まっていた。顔が明らかに風邪っぴきのそれである。
「……わからん。志保、ちょっとごめんな」
「──!」
「ぷ、プロデューサーさん!?」
手のひらじゃわからないと判断し、額同士を重ねようと顔を近づけようとする──と、
「……ブフッ!」
──志保の鼻から血が噴き出した。
「うわああああ!?」
「きゃああああ!?」
俺とまつりが悲鳴を上げる。志保はハッとした顔をすると、慌ててティッシュで自分の鼻を抑えた。
「なんだなんだなんなんだ!? 志保、大丈夫か!?」
「すみません。おじ様が年下に下剋上されることを思い浮かべたら、つい」
「志保はいったい何を言っているんだ!?」
「説明不足でしたね。プロデューサーのような若い部下に迫られる、紳士系のおじ様上司を思い浮かべたら、ということで」
「いや説明されてもわかんないから!?」
キリっとした顔で怪電波を発信する志保に愕然としていると、隣にいたまつりが口を開いた。
「……もしかして、これがプロデューサーさんの言っていた腐女子化なのです?」
「そ、そうか! ……だが、どうやったら元に戻せるんだ……?」
動転していてすぐに結びつかなかったが、言われてみればその通り……というよりそれ以外に考えられなかった。しかし、それがわかったところで治療方法が分からなければ意味がない。社長からは連絡が来ていないし、俺とまつりだけではお手上げ状態である。
いったいどうすれば……! と頭を抱えていると、まつりが力強くうなずいて、言った。
「……わかったのです。プロデューサーさん、ここは姫に任せるのですよ!」
「え……もしかして、元に戻せる方法を知っているのか!?」
「知らないのです! でも、姫がなんとかするのです……!」
「……二人とも落ち着いてください。驚かせてしまった私も悪いですけど、鼻血が出ただけで慌てすぎです」
「いや、鼻血について……も、そうっちゃそうなんだが、違うんだ!」
わちゃわちゃと話し合う俺とまつりに向かって冷たい視線を送る志保。さも常識人のようにふるまっているが、そもそもこうなった原因は志保である。俺はビシリと志保に指をさす。
「志保! 今の志保は狂っているんだ。何者かによって操られているんだよ!」
「……まさかBLが好きなだけで狂っていると言われるとは思いませんでした。そういった価値観は、視野を狭くするだけだと思いますけど」
「そういうことを言っているんじゃなくってだな……そうだ! じゃあ考えてもみろ、もし志保の弟君が彼女じゃなくて彼氏を連れてきたらどう思う?」
「……りっくんが……?」
ピタリと動きを止める志保。
これで改心してくれるはずだ……と考えていると、まつりが自分の頭を押さえながら俺の耳元でささやいた。
「プロデューサーさん……それは逆効果なのです……」
「へ?」
まつりの言っていることの意味を理解するまでに、そう時間はかからなかった。
志保の鼻に詰められたティッシュがどんどん赤くなっていったからだ。
「りっくんと、ショタ……いえ、りっくんと、クマ系の……先生……ブハッ!?」
「志保おおぉぉぉぉ!?」
「言わんこっちゃないのです……もう、おとなしく姫に任せるのですよ」
鼻血を噴き出しながら膝から崩れ落ちる志保。
慌てて支える俺。
呆れながらなにやら肩をまわすまつり。……まってなにするつもり?
「……お、おい、まつり? いったい何を……」
まつりはおもむろに右手を中指を内側に丸めた状態で志保の額に伸ばし──
「はいほー!!!!」
謎の掛け声と共にデコピンを放った。
「うわっ!?」
視界が一瞬、謎の光で覆われたかと思うと、志保の身体から一切の力が抜け落ちる。志保は気絶していた。慌てて支える腕に力を籠めて、その後ゆっくりと志保を横に寝かせた。
「ど……どうなったんだ?」
「姫が悪いの悪いの飛んでけーをして、悪いのが飛んで行ったのです!」
「えぇ……?」
とても信じられないが、志保の顔を見ると確かに、憑き物が落ちたようにすっきりとした表情で眠っていた。ふと気が付いて志保の鼻からティッシュを取ると、なんと鼻血が止まっていた。あれだけ出ていたのにも関わらずだ。
「マジか……」
「この調子で他の子たちも元に戻していくのです!」
「ちょ、志保を運ぶからちょっと待ってくれ!」
はいほー! と控え室に向かって歩いていくまつりを、俺は慌てて追いかけたのだった。
俺たちの冒険はここからだ!
すみませんでしたァー!(土下座)