Fate/IronAvenger   作:デイガボルバー

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あともう一戦くらいサーヴァント戦を挟んだら、本編と同様の時間軸まで進めたいですね。


Episode12:多元宇宙論(マルチバース)

2004年 1月中旬 夜

 

 

 

冬木市 新都 ガリアスタ・マンション

 

カフェテリア

 

 

 

 

 

 

 

私はキャスターさんの提案で、ガリアスタ氏と共に彼の所有するマンションの食堂(カフェテリア)に来ていた。

本来向かう予定だった喫茶・アーネンエルベの代わりということだろうか。

しかし、広い。

それに、ビュッフェ形式の飲食物も様々に豊富だ。

ガリアスタ氏ともなれば、お抱えの魔術師や従者の数も半端ではないため、彼ら彼女らの為の設備でもあるという。

先程の未来的な管制設備もさることながら、非常に洗練されていると感じられた。

時計塔という巨大組織が、彼との繋がりを重宝せざるを得ない理由が良くわかる。

 

私達は、思い思いに品をトレイに乗せ、カフェテリア中央のラウンドテーブルにちょこんと座った。

三者がそれぞれの顔を見渡せる配置。

 

「…サジョウ君、君はまた随分と食べるね。」

 

デーツ(ナツメヤシ)がいくつか入った小鉢と、一杯の香り良い紅茶を目の前に置いたガリアスタ氏が、呆れの混じった顔で言う。

 

「ええ、まあ。

好きなものを食べたまえ、と仰られたので。

そろそろ夜ですし、晩御飯も此処で済ませちゃおうかと。

何か問題が?」

 

とりあえず私は、サラダをたっぷり挟んだサンドイッチと、ローストビーフ、ポークチョップ、マッシュポテト、これまた野菜たっぷりのスープを盛り付けさせてもらった。

タダだと言うのだし。

相手はお金持ちだ、遠慮はむしろ失礼にあたるだろう。

従業員用の料理も出来立てだと言うことで、おいしい料理をおなかいっぱい食べて帰りたい。

 

「いや、まあ…構わないんだがね。

ん…オイ、キャスター!

お前もか!?」

 

私の食膳から目を離したガリアスタ氏は、声を張り上げる。

見ると、キャスターさんのトレイには、いくつかのバーガーや山盛りフライドポテト、それに大きめのシェイクが乗せられていた。

ベタなファーストフード店の様な取り合わせだ。

 

「何だ、なんの問題が?

せっかく美味そうなチーズバーガーが在るんだ。

食べないなんて選択肢は僕には無いね。

良いだろ、僕が何を食べようが。」

 

嬉しそうに手を擦り合わせるキャスターさん。

サーヴァントなのだし、食事の必要は無い筈だと思うのだけれど。

好きなのかな、チーズバーガー。

 

「まあ、構わんが…今から始めるのは契約確認や情報開示といった…いわば会議だろう。

ガッツリ腹に溜まるものを食い出すとは思わないじゃないか。」

 

「へえ、そう?

でも君らはともかく、僕はランチだって大したものを食べちゃいないんだ。

スタッフのみんなはスシの気分じゃなかったみたいでね。

一人で食べても味気ないから、そのまま一人寂しく作業を行っていた。

その分、進展はかなり望めたがね。」

 

…なんだか言葉に刺がある気がする。

そういえば、キャスターさんはアーマーとやらを遠隔操作してガリアスタ氏を護衛していた。

だから、お好み焼きが食べられないと嘆いていたのだっけ。

 

「…ヒゲ親父が拗ねて見せたところで、気色悪いだけだな。

で、その進展とは?」

 

紅茶を一口、その後に呆れ顔で問うガリアスタ氏。

 

「ああ、“新元素”の精製だ。

まあ新しいと言っても、それは“この世界”での話だがね。

“僕の世界”のアーマーは、mk-6以降すべてこの新元素…バッドアシウムをコアとしたリアクターで機動していた。

エネルギー効率は段違い、旧型では若干漏れ出していた汚染物質を生むこともない。

完全なるクリーンエネルギーさ。」

 

一口に言ってのけ、その口でそのままバーガーにかぶり付くキャスターさん。

…半分以上、何のコトを言っているのかはわからないけれど。

でも、魔術的にも聞き逃せないワードが在った。

それは、ガリアスタ氏も同じであったらしい。

 

「…待て。

新元素云々、また聞き捨てならないワードが飛び出したことには目を瞑るとしてだ。

“この世界”と“お前の世界”という言い回しは、不自然じゃないか。

この場合、世界ではなく時代と表現すべきだ。

お前の生きた時代は…今更サジョウ君に隠しだてするコトも無いだろうから言ってしまうが、そう遠い時代ではないだろう。

神代のテクスチャが張られていた、異界が如き時代などでは無いのだから。」

 

それは、私も感じていた。

彼の立ち居振舞い、戦い方、それに発想や知識…どれをとっても現代人に限りなく近しい感覚を覚える。

そんな彼が、明確に“違う世界”というニュアンスを強調してくるというのは…不思議な話だ。

魔術という、なんでもアリな世界の住人である、私たちの観点から見ても。

 

「うん、いい指摘だ。

まず話したいのはソコ…僕という英霊の出処だよ。」

 

そこでキャスターさんは食べかけのバーガーを皿に置き、私の方に体を向ける。

 

「では…改めまして、ミス・サジョウ。

僕の真名(なまえ)はトニー・スターク。

西暦2023年に死亡した人間。

妻と娘を何より愛する、天才発明家だ。」

 

突然の告白に、ガリアスタ氏も私も驚愕する。

今、真名と享年を明かした…!?

でも、未来の英霊って…!

 

「…確かに、未来の英霊であるお前は、真名からでは弱点を計り得ないと思われる。

だが、お前と同じく未来からの英霊が他で喚ばれないとも限らん。

だのに、お前というヤツは何の断りもなく…!」

 

わなわなと震えるガリアスタ氏。

そりゃそうだ。

ちょっと迂闊に過ぎる気がするが…

 

「まあまあ、落ち着いてくれよマスター。

先ずは聞いてくれ。

僕だってバカじゃない。

実際、時代云々どころの話じゃなくなっているからこそ、この話を二人にするんだ。

言ったろう?

僕の世界と、この世界。

二つは恐らく、決定的に違っている世界なのだと思う。

貧富の差とか、国籍の違いとか、時代がどうとか…。

そういったニュアンスの違いではない。

明確に、異世界…異なる次元の存在であると、僕は考えているんだ。」

 

…これだ。

この発言が、魔術的にすら突飛な話なのだ。

何故なら、彼…スタークさんの言い分をそのまま信じるならば…

 

「…バカな。

ではお前は…平行世界の人間だ、とでも言うつもりか?」

 

胡散臭そうに顔を歪めるガリアスタ氏。

当然だ。

平行世界の存在を確認し、運用するなど…それは“第二”に分類される、魔法と呼ばれる奇跡に他ならない。

たしかに、英霊召喚という術式そのものも、魂という情報体に実体を与えて顕現せしめる、“第三”の魔法に類する奇跡の術理であるが…。

だからと、また別の奇跡が付随して発生したというのは、中々飲み込めない事実だった。

 

「その通り。

何せ、ざっとネット経由で調べたところ…トニー・スターク。

本名エドワード・アンソニー・スタークという人間は、この世界、この時代の地球上には存在しないのだからね。

更には、父であるハワード・スターク。

母であるマリア・スタークも同様に存在せず。

故に当然、我が父が創業した巨大軍需産業…僕の時代にはそうではなくなるが。

ともかく、スターク・インダストリーズも存在しないわけだ。

こういう事例が、軽く調べただけでも複数見受けられたよ。

妻も、友人達も、何もかも。

生前、僕の周囲に存在した様々な馴染みのあるモノが、この世界には影も形も、痕跡すらも存在しなかった。」

 

言い切り、シェイクを一口含むスタークさん。

…突拍子もない話を、事も無げに語ってくれる。

 

「…そんなもの、言葉だけではな。

証拠はあるのか?」

 

ジトっと睨んで、己が僕に問いかけるガリアスタ氏。

 

「ああ、僕の宝具端末は全て、一つのネットワーク・ラインで繋がっている。

アーカイブに保存された僕の世界の情報を、必要ならいくらでも開示するさ。

例えば1940年代、アメリカ合衆国は戦争に勝利するために“超人兵士(スーパーソルジャー)”を生み出し、ナチスドイツはオカルト兵器開発機関“ヒドラ”を設立した。

例えば1995年、僕の世界の地球は異星人の攻撃を受けかけた。

それに、僕の世界で言う魔術師とは、チベットの山奥で修行して世界を裏側から守護する存在らしい…まあ、これに関してはうろ覚えの伝聞だが。

だが、この世界ではそんな事実など存在しない…とかね。

これらはつまり、僕の居た世界と君らの世界は“良く似た別世界”である、という証明だ。

そうだろう?」

 

またまた、さらっと次々繰り出される驚きの事実。

証明内容ひとつひとつとってみても頭痛がするが…。

自分という存在の痕跡がこの世界には無い。

そんな事実を、あっけらかんと証明するというスタークさん。

 

「…すでにお持ちの情報ならともかく、この世界の住民情報とか。

そういうこと、あっさり調べられてしまうものなのですか?」

 

私は遠坂さんほど情報弱者ではないつもりだが、それでも胸を張れるほどコンピューター関連に強いわけではない。

せいぜいが、友人や師匠とネットゲームで白熱するぐらいのものだ。

彼の言葉を、うっかり信じるわけにもいかない。

 

「ああ、国防総省(ペンタゴン)の機密情報だって、学生時代の僕が手作りPCで暇潰しに盗み見ることが出来たんだ。

ましてや、今は僕の宝具…開発したテクノロジーの総ても手の内にある。

インターネットに接続されたこの世界の情報で、僕が閲覧できないモノなど存在しないと断言しよう。」

 

…なんというか、この英霊は現代に喚び出されてはいけない種類のサーヴァントな気がする。

過去の偉人でもなんでもない、世界の構造を知りつくし、あっさり変えてしまえる存在なのだ。

どんな魔術的な存在よりも、恐ろしいものと対峙しているのではないか…そんな気分にさせられる。

 

「…確かに、ボクもスターク・インダストリーズなんて企業名は聞いたことがない。

石油産出国である我が国が、経済大国アメリカの巨大軍需産業の存在を知らない、などというコトはあり得ないからな。」

 

魔術とは全く違う方向性で、肯定せざるを得ないと呻くガリアスタ氏。

その表情は、完全に企業人のそれだ。

なんでこの人、魔術師なんてやってるんだろう。

 

「だな。

因みに我が世界に於いて2010年頃以降、我が国とお隣のカナダは“合成石油”の大量生産・輸出を開始する。

君の国にとっては強力なライバルになるはずだ。

気を付けてくれたまえ。」

 

タイムスリップもののタブーめいた予言発言に、ガリアスタ氏はがっくり肩を落とす。

 

「やっぱりかぁ…!

新世紀に突入した辺りからヤバそうとは思っていたんだ…!

君らアメリカは、金稼ぎに関してだけはガチ過ぎるくらいにガチだものな…!

こうなれば、やはりリアクター技術の確立は急務と言わざるを得まい…!」

 

…この人、もはや聖杯戦争とかやってる場合ではないのでは無かろうか。

 

「あの…いくら平行世界とはいえ、こういう未来云々の話って、簡単に口走っても大丈夫なものなのですか?」

 

素朴な疑問をぶつけてみる。

 

「おや、この世界では魔術師までもが、バック・トゥ・ザ・フューチャー理論を信じているのか?」

 

おどけた調子で訪ねるスタークさん。

…腹立つ言い方するな、この人。

 

「…それで?

その平行世界の存在云々の話が、なんだと言うんだ。

何故、この話が我々に関係する?」

 

紅茶を飲んで気持ちを落ち着けて、ガリアスタ氏は問う。

確かに、言ってしまえば彼の出自などは“聖杯戦争でのアドバンテージ”にこそなれど、敢えて今日であったばかりの私に開示するメリットが見受けられない。

 

「ああ、問題はソコだ。

それには、僕がこの聖杯戦争に参加した目的を説明しなければならない。

まずは…こいつを見てくれ。」

 

そう言って、スタークさんは何やら平たく黒い板を取り出した。

表面のすべてがディスプレイで構成されている。

…ゲーム機、じゃないよね。

流石に。

 

そう思っていた矢先、彼が板で空を叩いた。

その瞬間、“空中に”複数の映像が写し出される。

彼の宝具によるものか、未来の科学技術の賜物か。

まるで、本当に…SF映画の世界のようだ。

 

「これは…?」

 

「僕が先程、トオサカ嬢に渡そうとしたUSBメモリに納めた情報と同じものだ。

この世界に現れた可能性のある…()()()()悪党(ヴィラン)達。」

 

映像には、様々なものが写っていた。

無機質なロボットの軍団や、金角の兜を被った男。

それに見るからに地球人類ではない亜人や…惑星ほどある顔面…!?

 

「ウルトロン、ロキ、ダークエルフ、ドルマムゥ、エゴ・ザ・リビングプラネット、クリー人…それにチタウリや、サノス。

僕が直接対峙した奴ばかりじゃないが、それでも僕の世界で猛威を振るった恐ろしい奴等だ。

ウルトロンは…僕のせいだが、それ以外にも複数の脅威があった。

大半が、地球の常識では計れない恐ろしい存在だ。

星を破壊する、なんてのは当然にやってのけようとするクレイジーな輩ばかり。

確かに、英霊と呼ばれる単一戦力は強大だった。

メドゥーサ嬢も、ギルガメッシュ王も。

だが断言しよう。

猛威を振るった場合の厄介さの度合いでいえば、こいつらは引けをとらない…。

いや、場合によっては遥かに上回るだろう。」

 

…情報が、ブッ飛びすぎている。

脳の処理が追い付かない。

ただ、これだけは言える。

こんな、魔術世界にとってすら常識はずれと考えられる存在達を相手に戦ってきたのが彼だというのなら。

キャスター…トニー・スタークは、間違いなく英霊(ヒーロー)である、と。

 

「…こいつらの内の誰かが、この世界に現れた可能性がある。

他にも様々な悪党は居たが、平行世界…多元宇宙(マルチバース)の壁なんてものを越えて見せられるような輩は、限られてくるから…このリストの内の誰かで間違いはないだろう。」

 

恐ろしいことを言い放ち、一拍空けた後でスタークさんは続けた。

 

「僕は、そいつを倒すために喚ばれたんだ。

これが、僕の戦う理由。

僕の世界の厄介事を、こちらに持ち込むわけにはいかない。」

 

極めて真面目に言ってのけた後、スタークさんはバーガーに大きくかじりついた。

 

…沈黙。

スタークさんが新鮮な野菜を咀嚼する音だけが、カフェテリアに響く。

 

「…そいつは、聖杯戦争に関連してこの世界に現界しているというのか?」

 

「だろうと思うよ。

でなければ、“抑止力”とやらと聖杯なんてものを通じて、遠い異世界人の僕なんかが喚ばれる理由が無い。

サーヴァントの一騎として喚ばれているかは不明だが、関わってはいるハズだ。

ならば…万能の願望器なんてモノを、キケンな奴にとらせるワケにはいかない。」

 

抑止力…また、頭痛のするような単語が出てきた。

世界の総意、防衛機構とされる、この世界のルールそのものが如き存在…だったかな。

 

情報を整理しながら問いを絞り出すガリアスタ氏を尻目に、ばくばく食べながら答えるスタークさん。

まあ…私も言えたことじゃないけど。

ローストビーフお代わりしたいし…。

でも、話が重くて腰をあげるのが憚られる。

 

「…なるほど。

そういう意味で、ボクとお前の目的に食い違いは無い。

戦争に勝つ、という思いだけは共通しているのだからな。

しかし、我々二人がその悪党とやらと結び付いていないとも限らないのではないか?」

 

敢えて悪い仮定を提示するガリアスタ氏。

確かに、少なくとも半月は付き合ったガリアスタ氏はともかく、今日であったばかりの私に情報を開示する理由はなんだろうか。

 

「まあ…そういうリスクが無いワケでもないが。

かといって、悠長に構えてる時間もない。」

 

そう言って、スタークさんは納得したように頷き、私たちを交互に見る。

 

「だったら、僕はとりあえず自分の審美眼を信じるさ。

ビビって縮こまってちゃ、物事は解決しない。」

 

言いながら、食べきったバーガーの包み紙をくしゃくしゃと丸めるスタークさん。

…何がそんなにお気に召したのかはわからないけれど。

 

「では…結局のところ、やること自体は変わらないわけですね?

この聖杯戦争に於いて、冬木の町を守護する。

それが、スタークさんのやりたいコトにつながる、と。」

 

それならば、脅威の度合いこそ増したものの、私としては問題ない。

 

「その通り。

僕は聖杯戦争に勝ち抜くことと同等に、ミス・サジョウの目的にも共感するのさ。

だからこそ…今後の方針として、優先的にやらなければならないコトがある、と思うワケだ。」

 

ソースがついた口をペーパータオルでぬぐいつつ、スタークさんはこちらを向く。

 

「…それは?」

 

にこやかな笑顔。

…なにか、嫌な予感がした。

 

 

 

 

「もちろん、冬木の町と市民の皆様に、我々キャスター陣営の味方になっていただくコトだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

2004年 1月中旬 夜

 

冬木市 深山町 間桐邸

食堂

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今夜も、サーヴァント戦が行われた様じゃのう。」

 

ぼくらは、食卓を囲んでいた。

家族の団らん…一般家庭では、こういう状況をそうやって表すのだろう。

知識の上では知っている。

でも…ぼくは、そんなものを経験したコトなんて一度だってない。

 

「片や、十年の時を生き延びし“英雄王”。

片や、此度の戦争にて喚ばれた魔術師(キャスター)。」

 

祖父…間桐臓硯(ぞうけん)言葉に、ぼくの体は思わず大きく体を揺れた。

キャスター…ぼくが、してやられた相手だからだ。

 

「かつての聖杯戦争を生き抜いた彼の王は、その性能においてトップサーヴァントと呼んで差し支えがない。

其れに対し、ライダー戦に続いてまたも引き分けという結果を勝ち取った訳じゃ。

此度のキャスター…中々に侮れぬ。

そうであろう、慎二?」

 

落ち窪んだ眼窩(がんか)の奥で、鈍く輝く瞳がぼくを見据える。

…ああ、まただ。

 

「…ライダーの傷は、回復しました。

次は、奴のテリトリーで戦り合ったりはしない。

次は…次こそは、ぼくは負けたりしませんよ。

お祖父様…。」

 

震える唇で、なんとか言葉を発する。

隣に座る妹…桜は、俯いて微動だにしない。

お祖父様の隣に座る父…鶴野(びゃくや)は、無表情にぼくを見つめる。

 

…変わった。

十年前…決定的に変わってしまったぼくの保護者達に、ぼくは逆らうことなど出来なかった。

いや、以前から問答無用の気はあった。

が…それとは明らかに異質な何かに変貌したのは、間違いなく10年前のあの日からだ。

 

「当然じゃ。

そうでなければ、お前を()()()()()()()()()甲斐が無い。

そうでなければ、切り札を握らせた甲斐も無い。

ライダーのサーヴァントをも任せるコトなど出来ぬのじゃ。

…慎二よ。

儂はな、()()()()()()()()()

そうであるからこそ…思うのじゃ。

“嗚呼…此れでは足らぬのじゃな”と。」

 

「………っ!!」

 

震えが止まらない。

まただ…また、ぼくは()()()()()

 

ぼくは間桐の長男だ。

マキリの魔術を扱うためだったならば、あらゆる苦痛に耐えもしよう。

魔術師になれるならば…そうであったならば。

でも…これは違う。

違うのだ。

ぼくは、また…違うものに()()()()()()()ゆく。

十年前、間桐家が別のものに書き換わった様に。

 

「お祖父様…ぼくは……!」

 

「心配するでない、慎二。

第五次聖杯戦争は、まだ始まってさえいないのじゃ。

備えの必要性を、キャスターめから感じ取ることが出来た…この事実こそ僥倖。

故に…残りの半月。

お主の備えを万全に整える。」

 

…ああ、逆らえない。

 

「全て、儂の望むままにせよ。

さすれば…勝つ。

さすればこそ、お主は儂の孫として…。

“絶対の存在”と成るコトが出来るのじゃ。」

 

何故なら、ぼくは思ってしまっている。

間桐家は変わってしまったけれど、それでも願ってしまっている。

 

 

 

 

 

 

「さあ、慎二…共に世界を救おうぞ。」

 

 

 

 

 

ぼくは、お祖父様に認められたい…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧、ありがとうございました。
ということで、長々としたトニーの状況説明と、間桐家のお話でした。
マーベルユニバースと型月世界の平行世界観の違いは、深く考察すると頭がフットーしそうになるので、なんとなくの感じで進めようと思ってます。

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