Fate/IronAvenger   作:デイガボルバー

16 / 34
Episode14:明くる日、技師と王

2004年 1月中旬 昼

 

冬木市 新都 ガリアスタ・マンション

地下工場“G(ガリアスタ)&S(スターク)ファクトリー”

上部・集中監視室

 

 

 

 

 

 

「さて、マスター。

僕は昨日、英雄王ギルガメッシュというド級の対戦相手を目の当たりにし、痛感したコトがある。」

 

キャスターは、空中に浮かぶ立体画面(ホログラム・インターフェイス)の前に立ち、画面を指差しながら言った。

其処には、あらゆるアイアンマン・アーマーのスペック・ノートが映し出されている。

全て、実際にこの工房(マンション)で作り上げたものだ。

そして昨日、悉く英雄王に破壊された。

 

「正直、あの辺りのアーマーをどれほど量産したトコロで、英霊存在…即ち一騎当千のサーヴァントが相手では歯が立たない。

有象無象、一山いくらの賑やかし扱いが精々だ。」

 

確かに。

初見の上に拠点で戦ったライダー戦は難なく退けられたが、英雄王相手だと弾除け程度にしか機能していなかった。

掘削と分離・捕縛・自爆コンボによる奇襲なぞ、そう何度も通用するものではない。

 

「だが、これはお前が英雄王に指摘された変えようのない事実でもあり、ボクが事前に聞いていたコトでもある。

今までのアーマーは、全て()()()だ。

そうだろう?」

 

ボクは、座っていたリクライニング・チェアから立ち上がり、キャスターに並び立つ。

 

「全ては布石だ。

そう…お前が持つ技術の全てが、()()()()でも再現可能であるかを確かめるための布石。

昨日の…平行世界の与太話。

あれが真実であるなら、そういうコトになる。」

 

一通りアーマー・デザインを眺めた後、キャスターに向き直る。

 

「ああ、そうだな。

その通り。

当初にも言った通り、僕の世界の物理法則が、この世界でも適応されるのかを調べる必要があった。

まずはリアクターの作成、次にアイアンマン・アーマーの製造。

そして、昨日完成したバッドアシウム。

この新元素を生み出すコトに成功した時点で、ほぼ確定と言って良いだろう。」

 

キャスターは、胸のハート・リアクターを指で叩いて頷く。

 

「僕の操るテクノロジーの全ては、この世界でも再現可能だ。」

 

そう言って、キャスターは立体画面をスライド操作する。

無数のアーマーの設計図は、その最も長所的な部分を残して消え去り、それらが組み合わさってゆく。

さらに新たな記述も複数出現し、やがて一つの図面となった。

 

「だから…ここからは一気に“到達点”にかけ上がる。

ここまで来て、ようやく僕らは彼ら…他の英雄と覇を競い合うラインに届くハズだ。」

 

そう、全ては試行錯誤(トライアル・アンド・エラー)だ。

トニー・スタークが人生をかけ、たどり着いた“究極の一”にたどり着くための道筋。

 

「フン、そうなってもらわなければ困る。

そもそも、ボクがお前を自らのサーヴァントとして戦い抜く覚悟が決まったのも、コレを見たからだ。

お前の持つ技術の全て…我が財力で、その再現をする。

そのためには…」

 

 

 

「アイアンマン・アーマーmk-85。

僕の最強の“ナノマシン・アーマー”。

その製造に着手する。」

 

 

 

映し出された図面を前に、宣言する。

 

…改めて考えると、途方もない話だ。

ボクはこの戦争に際して、あらゆる点に於いて世界の技術レベルを何十年分と更新してしまっていた。

確かにキャスターの宝具と陣地によって、恐るべき効率化は成されている。

宝具によって再現されたツールにより、急ピッチで我が工房地下は巨大工場(メガ・ファクトリー)と化したのだ。

しかし、それは単に時間短縮(ショートカット)をしているに過ぎない。

結局のところ、これらは全て()()()()()()()()()()な超技術なのである。

アーク・リアクターも、パワー・アシストツールも、ドローン・テクノロジーも…あまりに多くの技術革新が、この極東の小さな地方都市で成されていた。

この上、更にあのレベルの…魔術と見紛う程のナノマシン技術とは…。

 

「…話に聞く第三次聖杯戦争の開催時期は、第二次世界大戦(セカンド・ワールド・ウォー)の前年であったという。

故に、当時の世界情勢を反映した前哨代理戦の体を成し、各国軍事勢力が聖杯戦争に極秘参加したらしいが…。」

 

ボクは、改めて工場内部を見下ろした。

最新機器で構成された製造ライン。

そこでは、我がガリアスタ少数精鋭の技師達と、マシン・アームが淡々と作業を続ける。

バッドアシウム精製と、アーク・リアクターの量産。

 

金を湯水のごとく使っている自覚はあった。

…が、それを補って余りある莫大な利益を確信しているし、何より“菩提樹の葉”を手に入れるために確保していた資金も残っていた。

問題はない。

代わりに入手した古代ギリシアの文献も、思いの外安値で手に入ったし。

…今思えば、それは文献が偽物であったからなのだろうが。

 

……いや、もうそれはいい。

良くはないが、とりあえず今は飲み込みこもう。

で、それはそれとして、だ。

 

「第三次聖杯戦争当時に匹敵する程の戦争準備を、個人で行った魔術師などボクが初めてだろうな。」

 

気持ちを切り替えると、思わず笑みが溢れる。

自嘲ではない。

慢心でもない。

ただ、なんとなく可笑しかったのだ。

 

これを、大人げないとは思わない。

確かに、間桐の当主は少年だったが、魔術師などという生業は金をかけてナンボなのだ。

外部から挑戦者を募るということは、射程外(アウト・オブ・レンジ)から財力でブン殴られる覚悟をして然るべし、という話である。

 

「まあ、英雄王なんていう、一人で戦争がやれてしまうような怪物を相手にするんだ。

それに…敵は奴だけじゃない。

こちらも、出来る限りのコトをやらないと、だな。

何せ…残り半月だ。

準備期間はもう少ない。」

 

キャスターは、改めてボクの方に向き直った。

 

「残りの期間で、僕は工房の製造レベルを到達点まで持っていく。

だから、君にもやるべきコトをやってもらうぞ。

マスター。」

 

テクノロジーにおいて、サーヴァント…トニー・スタークが最高のパフォーマンスを発揮するならば。

マスターであるボクも、やるべきコトをやる。

 

「ああ、当然理解っているさ。

お前のテクノロジー総てに、魔術の神秘を付随させる。

その為の、神秘を貶めない上での()()()()()()()

それは、ボクが必ず成して見せよう。

M.P.Sリアクターの数を揃えるには、絶対に必要だからね。

そして…」

 

僕は、キャスターに用意させたタブレット・ツールを取り出した。

軽く叩き、空中に立体映像を展開する。

 

「コレらの解析も、完璧にこなすさ。」

 

そこには、複数の物体が、二つのグループに分けて映し出されていた。

一つの映像群は、英雄王に破壊された後、回収したアーマーの残骸。

 

そして、もう一つは…ライダー陣営が退去する際、こちらを妨害した飛来物。

複数のエーテル体。

回収した、その姿カタチは…

 

「ああ、頼むよ。

しかし…こりゃ、何だろうな?

いや、何かは理解できるんだが…こういうビジュアルのものは、珍しい気がする。」

 

ふむ、なるほど。

欧米人(アメリカン)のキャスターには、そう感じられるかも知れない。

しかし、ボク…中東魔術師(エミラティ・メイガス)としては、実は解析するまでもない見慣れた代物だった。

 

なにせ、これは黒塗りの投擲剣(ダーク)

我が中東地域における暗殺者(アサシン)が扱う武器としては、ありふれたモノだったのだから。

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

2004年 1月中旬 昼

 

冬木市 新都 冬木ハイアットホテル

最上階・ロイヤルスイートルーム

 

 

 

 

「……ム。」

 

柔らかな陽光が降り注ぐのを肌に感じ取り、(オレ)は覚醒する。

薄く開いた眼に映るは、寝室。

冬木ハイアットホテル、そのロイヤルスイートルーム。

つまらぬ冬木の街の中では、我が評価基準に於いて及第点ギリギリと言える、数少ない寝床であった。

 

「…そうか。

貴様が、我を此処に担ぎ込んだ訳か。

守護者。」

 

我は身を起こし、此方に歩み寄ってくる人影に向かって言葉を投げた。

 

「ああ。

知り合ったばかりとはいえ、ボロボロの君を見かけたというのに捨ててはおけないからね。」

 

その両手に湯気立つマグカップを持った守護者が、ベッド脇のサイドテーブルにそれを置きつつソファに腰かける。

 

「備え付けのマシンがあったので、ラテを淹れてみた。

良かったら、どうだい?

疲れがいくらか落ち着くよ。」

 

芳しい湯気が、鼻孔をくすぐる。

この我が、あの程度の戦闘で疲弊しているであろうという、その浅慮こそは不敬である。

が…しかし、気遣いそのものは悪くはない。

 

「フン…安物であろうとはいえ、香りは合格点だ。

良かろう、受け取ってやる。

…おっと、これは。」

 

いかんいかん。

手を伸ばし、漸く気付いた。

マグへと伸ばした腕が()()()()()()

今現在、我が身は“宝具の指輪”効力でもって透明化していたのだった。

指輪を外し、庫に収蔵する。

 

「成る程。

そういう芸当が可能な宝物もあるんだな。」

 

守護者めは、別段驚いた様子もなく笑う。

姿を消すような存在は見慣れている、と言わんばかりだ。

まあ、そうでなければ当然のように、身の透けた我を担ぎ込むコトなど出来まいが。

 

「当然だ。

我は、世の総ての財宝を収集せし王。

我が行使できぬ奇跡など、そんなにない。

昨夜の負傷後、咄嗟に使用した回復薬の作用で眠りに落ちた身を護るために身を消していたが…。

裁定者(キサマ)の眼だけは欺くコトなど出来なんだか。」

 

ともあれ、回復薬の後味で不快感の残る口を直す意味では調度良い。

マグを手に取り、香りを楽しみ、スプーンを回す。

クリームが溶け、装いを変える。

表層の白と(うち)なる黒がカタチを変えて変容する様は、中々に愉快であると言えよう。

まるで、何処ぞの性悪神父の様ではないか。

思わず溢れた笑みのまま、開いた口にカフェ・ラテを流し込んだ。

 

「…ほぉ。」

 

不覚にも弱味を晒してしまった腹いせに、軽く扱き下ろしてやろうとも思っていたが。

それも、悪しき点が見当たらぬのであれば叶うまい。

その程度には、この安物のカフェ・ラテは洗練されていた。

 

「お気に召したかい?」

 

そう言い、微笑みながら自らもラテを口にする守護者。

 

「うむ。

モノの安っぽさはともかく…それを鑑みても尚、悪くない。

コレは、一つの生涯をかけて磨かれた感覚の賜物であろうよ。」

 

我の言葉に、守護者は満足そうに頷く。

 

「そう言ってもらえるのは光栄だ。

日課のモーニング・カフェラテだけは、僕が夫婦生活に於いて欠かすコトの無かった役割だからね。」

 

…ふむ、そうか。

あの儚く憐れな竜の娘と似ているなどと、些か的を外した考えであったやもしれんな。

何せ此奴は、満足している。

己が生、其の総てに。

その終わりに。

ならばこの煌めきは、()()()()などと謳われ使い潰された…憐れにして尊く、美しい娘のモノとは根本的に別種であろう。

どちらも美しく、どちらも収集するに値する。

 

「それで、ギルガメッシュ。

昨日、僕と別れた後の話だが…。

あの後君は…サーヴァントと戦った、というコトで良いんだろうか。」

 

語気が変わり、此方を見据えて問い掛ける守護者。

フン…別段、隠しだてする必要も無い。

 

「応とも。

賢しい人形遣いの英霊であったわ。

この我の虚を突き、幾ばくかのダメージを与えおった輩よ。

お陰で、我が財を二つ駆使して即座に対応せねばならなかった。

奴の方もあの場所には居なかった故に、迂闊に次の攻め手を打てなかった様だがな。」

 

…思えば、この我が怒りよりも存続を優先し生存策に打って出たコトは、守護者によって齎された二画の令呪による気紛れやもしれぬ。

強制された感覚こそ皆無であるが、ふと選択肢が浮かぶ程度には効力を発揮している様だった。

まあ、構わぬがな。

あの優れた人形技師を、思うままに屠ってしまうのは惜しいというコトは、気の鎮まった今だからこそ考えられる。

 

「…ああ。

確かに昨夜、あの場所にサーヴァント反応は君のものしか確認出来なかった。

遠隔でサーヴァント相手にダメージを与える程の存在というコトは…相手のクラスはキャスター?」

 

…此奴め。

何かを確信しておるな?

しかし、婉曲に問い掛けている。

認めたくない事実でも、そこには在る…か?

 

「ほう、そう考えるか。

我はアーチャークラスのサーヴァント。

対魔力スキルを所持する故、並みの遠隔魔術など歯牙にもかけぬと自負しているが。

それを、裁定者たる貴様が識らぬワケはあるまい?」

 

返す問い掛けに、発言を窮する守護者。

ハ、そら見たことか。

性分でもあるまいに、遠回りなどして見せるからそうなる。

 

「…ああ、そうだね。

実際、そうだという確信があったんだ。

アレのコトなら、僕は…恐らく、制作者の次に良く識っているからね。」

 

そう言いながら、守護者は部屋の片隅を見やった。

其処には、我が破壊した人形の残骸が転がる。

…ほほう?

 

「成る程、そういうコトか。

あの人形遣いめは、貴様の世界の住人であった…というコトだな?

そうであろう、守護者よ。」

 

一瞬の間の後、守護者は口を開く。

 

「…アレを作り出すコトの出来る人物には、心当たりがあるよ。

確信は持てないけどね。

僕の友人かもしれないし…それに通ずる何者か、かもしれない。

いずれにしても…ああ。」

 

我の指摘に、記憶を反芻する様に眼を瞑り、頷く守護者。

 

「彼らは僕の世界の人間だし、もし召喚されるならば、当てはまるクラスは恐らくアーチャーかライダー、そしてキャスターだ。

この戦争に於けるアーチャーはまだ召喚されていないし、ライダーなら、姿を実際に確認した。

容姿も性別も結び付かない。

エクストラクラスの可能性もあるが…その召喚は、確認出来てはいない。

ならば…そういうコトなんだろう。」

 

マグの把手(はしゅ)を掴む指に力が込められ、そこから僅かに感情が見てとれる。

 

「ハ、二つか三つの隣枝どころか、根本の大元すら異なる平行世界の英霊存在が、こうも集まるとは。

面白いではないか。」

 

我は寝具より身を乗り出し、縁に腰掛けて守護者と向き合う。

 

「それで?

其奴に対する確信を、貴様はどうするつもりなのだ。」

 

此奴の心の裡を計り試す。

 

「…先ずは、探る。

キャスターが何者なのか…これは、今回の戦いに於いて重要項目になるはずだから。」

 

慎重を期する、か。

最適解ではあるが、些かつまらぬ。

此奴らの状況が進展せぬのではな。

我も“行動”を起こす前の戯れとはいえ、飽いてしまうというものだ。

 

「そうか。

では…生意気にも我が身を救い上げた件についての褒美をとらそうではないか。」

 

時が進む早さを、後押しをする。

 

「我が眼が捉えた、彼奴の所感を伝えよう。

マスターに関する情報も含めて、な。」

 

「………。」

 

精々、我を愉しませろよ。

何せ貴様達は、そうするコトでしか価値を示せぬ。

 

貴様達、平行世界の英霊共が元来喚ばれた抹殺対象は、聖杯戦争の火蓋が切って落とされる前に…

 

 

我が、完膚なきまでに消滅させてやるのだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧、ありがとうございました!

というわけで、トニーサイド&ギルサイドの話でした。
話もほぼ進まず、内容も短め。
キャスター陣営がマーク85相当のアーマーを量産可能になると、製造戦力だけで第四次アサシンくらいの性能を発揮できるイメージ。
アトラムの金が続く限りは。
まあ、第四次アサシンの長所は直接戦闘能力ではないので、完全にイコールというわけでもないですが。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。