Fate/IronAvenger   作:デイガボルバー

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Episode24:冬木教会にて

 

 

 

2004年 1月下旬 夕刻

 

 

冬木市 冬木大橋

 

 

 

 

「これは一体、どうしたコトだ?

守護者よ、何故に魔術師なぞを連れている。」

 

 

教会に向かう最中、僕とリン・トオサカはギルガメッシュに遭遇した。

 

 

「やあ、ギル。

怪我の具合はもう良いのかい?」

 

 

僕の言葉を、彼は歩みながら鼻を鳴らして一笑に伏す。

 

 

「侮るな。

この(オレ)が、斯様な炸裂如きの痕をいつまでも引きずる筈があるまい。

そんな当然の事実は横に置き、我が問に答えよ。

貴様こそは、星に喚ばれし裁定者。

マスターを伴とし魔力を獲得する必要なんぞは皆無であると、我は記憶していたが?」

 

 

興味があるのかないのか良くわからない目付きで、僕に隣立つトオサカ嬢を眺めるギルガメッシュ。

当の彼女は、明らかな警戒の眼差しで彼を睨んでいた。

恐らく、彼の存在を彼女は今まで認識していなかった筈だ。

前回の戦争から十年、宝物を適当に扱いそのように行動していた()()と彼は言っていた。

ならば、突然現れたトップ・サーヴァントを目の前にして緊張するのも無理はない。

 

 

「ああ、君の記憶通りだよ。

厳密には主従契約の必要が無いってだけで、不可能なワケではないんだけどね。

ともあれ、彼女は僕のマスターというワケじゃない。

今回の件を調査するにあたっての協力者さ。」

 

 

僕の紹介を受け、ギルガメッシュは目を細める。

些かの興味を持った、というコトだろうか。

 

 

「ほぉ…?」

 

 

彼女を眺める目付きには、しっかりとした意志が宿る。

トオサカ嬢も、その視線に対する嫌悪を(にじ)ませ眉間の力を強めた。

 

 

「…フン、成る程な。

そういう因果もある、か。

まあ、我にとっては興味の埒外よ。

良かろう、せいぜい好きに足掻くが良い。」

 

 

雑多に言い放つギルガメッシュ。

ともすれば、挑発ともとれる語調。

しかし、それを受けてもトオサカ嬢は迂闊に言葉は発さない。

ギルガメッシュの強大さを肌で感じとり、出方を伺っているのだろう。

彼女は未だに召喚を成し得ないマスター候補であれど、一廉(ひとかど)の魔術師だ。

そういう素養は十分に備えているのだろう。

 

 

「ああ、勿論そうするさ。

ところで…君はこれから出掛けるのかい?」

 

 

彼女が自ら名乗らないのならば、僕が野暮なお節介を焼くわけにもいかない。

魔術師にとってもサーヴァントにとっても、名は個々人の大事な要素だ。

迂闊に開示するワケにもいかないだろう。

 

だから、話を変える。

もうじき夜にさしかかるこの時間に、彼は拠点であろう教会方向から反対側の此方…トオサカ嬢やシロウの家が在る深山町へと足を向けていた。

今の時期の冬木市夜間の野外は、それだけで魔術的存在にとって警戒すべき領域と化している。

彼の行動が気にかかるのも、また事実であった。

 

 

「ああ。

何、ちょっとした日課の戯れ…謂わば漫遊よ。

貴様が気にかける程のコトでも無い。」

 

 

目を伏せ薄く笑い、ギルガメッシュが歩み出す。

 

 

「ではな、守護者よ。

此度の聖杯戦争、開幕の時は近い。

良く見極め、励めよ。」

 

 

もはや語る言葉は無いとでも言うように、我々の横を通り過ぎる。

トオサカ嬢については、端からそこに居ないかのように無視を決め込んで。

 

 

「…貴方も、サーヴァントなのでしょう?

それなのに、その基底に存在する筈の…聖杯に対する執着を、微塵も感じさせない態度。

ルーラーと同じ様に、この闘争そのものには興味がないとでも言うわけ?」

 

 

トオサカ嬢が、精一杯の強気を振り絞って問う。

過ぎ行く彼に振り向きもしないが、しかしその語調は名を表す如く凛としていた。

 

 

「…ハ、遠坂の娘よ。

()()()()()聖杯戦争について…いやさ、英霊存在(サーヴァント)についての理解が浅いと見えるな。

その様な頑迷さを抱えていては、折角の黒く澄んだ瞳も曇ろうというもの。」

 

 

家名を言い当てられ、強く肩を揺らすトオサカ嬢。

英雄王の言葉には、少しだけ愉悦の色が滲んでいた。

その感情の正体は、我々には計り知れない。

少なくとも、興味の対象としては認識されたらしかった。

 

 

「…この遠坂(わたし)の理解が浅いだなんて、そんなコトは有り得ないわ。

どういう意図の発言よ、ソレ。」

 

 

名を知る理由を問うのでもなく、真意を探るトオサカ嬢。

やはり、彼女は気丈だ。

 

 

「さて…それは開戦の時を迎えれば自ずと解ろうさ。

もし貴様が此度の余興を戦い抜き、我が前に再び現れたならば、答え合わせをしてやる。

良いな、また一つ楽しみが出来た。

それまで貴様もまた、せいぜい励めよ…雑種。」

 

 

歩みを止めず、彼は言い残し去って行った。

夕日の落ちかけた冬木市。

橙色が映り照る未遠川の反射光を浴びながら、我々は佇んでいた。

正確には、トオサカ嬢の足が動かないのである。

 

 

「大丈夫かい?」

 

 

僕は、ありきたりな言葉で心配の意を示す。

 

 

「…貴方、余程現行人類(ヒト)に対して優しい英霊だったのね。

ああも獰猛で傍若無人な魔力の塊に出会ってしまうと、それを実感するわ。

……あの金ピカな雰囲気のサーヴァントと、一体どういう関係なのよ、貴方?」

 

 

どういう関係…か。

友人と呼ぶにはまだ日が浅いし、彼が居ない場所で勝手に仲間と認定するのも違う気がする。

もちろん、現状は敵対もしていない。

 

 

「うん…君と同じかな。

協力者だよ、今回の異常解決にあたってのね。」

 

 

僕の言葉は素直な今の気持ちだったのだけど、彼女は胡散臭そうに僕を睨む。

 

 

「あれと協調して見せるとか。

貴方…案外なりふり構わない性格してるのね。」

 

 

「…ハハ。」

 

 

何か真を突かれたような気がして、つい笑ってしまった。

 

 

「…ともかく、彼の王気(オーラ)に当てられて、無理をするのも良くない。

ペースを落として、のんびり向かおうか。

一先ずは──」

 

 

僕は、背負ったバックパックから水筒を取り出す。

 

 

「彼処でコーヒーブレイクといこう。

紅茶をご馳走になったお返しだ。」

 

 

河川敷の公園を指差し、笑って提案する僕。

それを見た彼女は、呆れたように息を吐いた。

 

 

「ほんと…変な使い魔ね、貴方。

いいわ、その好意を受け取りましょう。

夜中の非常識な時間に殴り込んで、せいぜいあのトンチキ神父を困らせてやろうじゃないの。」

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

2004年 1月下旬 夜

 

 

冬木市 新都 冬木教会

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ…キャスター陣営と戦り合ったか。

かの陣営は、確かに今回の聖杯戦争攻略に於ける大きな障害と言えるだろうな。」

 

 

夜中の教会で、私は旧き戦友…言峰綺礼に負傷箇所を診て貰っていた。

彼の大きく無骨な掌…いや、治癒の手腕を私は信頼していた。

かつて共に戦った折、何度も助けられたコトを思い出す。

…不覚にも、戦地に在るというのに安堵してしまう。

 

 

「成る程、そう考え真っ先に対処に打って出るのも頷ける。

しかし来日早々行動するのは、些か早計に過ぎたやもしれんな、マクレミッツ。

何せ、彼らは既に冬木市全土を表面から掌握し、ライダー陣営や…()()()()()()()を退けているのだから。」

 

 

綺礼の言葉は、私に稲妻の如き衝撃を(もたら)した。

彼が、既にこの街に広く陣を敷いている事実そのものは把握していた。

この街で、既にサーヴァント戦が幾度か繰り広げられていたコトも。

しかし…それら戦闘総てにガリアスタが関わり、優勢をもって切り抜けていたなどと。

 

 

「信じられない、という様な表情だな。

どうやら、かの中東の富豪相手に注視し警戒したつもりが、その実は度し難い侮りが君の胸中を支配していたらしい。」

 

 

…そうなのかもしれない。

最大限警戒している、つもりだった。

なのに、この結果なのだ。

見積もりが甘かった。

調べも足りなかった。

だって、ガリアスタの前情報を精査した上でも、信じられない成果を彼らは積み上げているのだ。

 

元来の聖杯戦争では勝率が低いであろうキャスタークラスを操る、外様の魔術師。

魔術使いとさえ揶揄される様な、邪道のやり口の成金政治屋。

絡め手を整える為に多く時間を儲けたのだから、相応の準備はしたのだろうと考えた。

 

しかし、私とて封印指定執行者だ。

辺境に籠り、膨大な時間と才能、贅を凝らした魔術師の…それこそ、“神殿”に届く程の魔術工房とて潰した経験が在る。

急拵えの拠点など恐るるに足らない…そんな考えが少しも無かったとは言いきれなかった。

 

 

「…奇しくも、十年前。

君と同じ様にランサークラスのサーヴァントを従えた時計塔からのマスターが、旧く尊き血筋を誇りに参戦し、慢心の果てに()()使()()に敗北した。

君程の戦士ならば、その情報から心を武装して挑むモノと思っていたのだがな。」

 

 

…十年前の、ランサー陣営。

マスターは、希代の天才と名高かった先代のロード・エルメロイ。

そしてサーヴァントは、名高きフィオナ騎士団の一番槍であったという。

つまり、()()()()()()

 

彼ら陣営は、御三家の一たるアインツベルンが雇った()()()()()の傭兵に敗北したという。

魔術師一族の命たる、魔術の源流刻印すらズタズタに破壊されるほどの酷い末路を遂げたと聞いた。

今回私が敗北した相手も、それとは異なるとしても魔術使いめいた輩だ。

旧い魔術師一族。

ケルトの偉大な槍兵。

そして、魔術使い。

皮肉が過ぎる程、近しい状況だった。

 

…似たような無様な敗北を、私は大英雄クー・フーリンに(もたら)す所だったのだ。

 

 

「ランサーのサーヴァントを教会外にて警()に回しているのは、敗北による自責の為かね?

合わせる顔がない…という訳か。」

 

 

その通りだった。

恥ずかしかった。

申し訳なかった。

失望して欲しくなかった。

だって、ランサーは私の大英雄だったから。

短時間接しただけでも解るほど、彼は強く優しかったけれど。

だからこそ、今はランサーのそれを受け取るコトが辛かった。

 

マスターとして、魔術師としては愚かで弱く用心の足りない命令を彼に下してしまったと自分でも思う。

しかし、今ランサーの顔を見てしまうと、私はダメになる。

 

それに…綺礼と一緒ならば、少なくともランサーの考える様な不安要素はきっと少ないだろうと思うから。

 

 

「ふむ…それをサーヴァントも察している様だ。

確かに、君は前回のランサー陣営と似た失態を演じたと言えよう。

しかし、それでもその主従関係に於いては比べ物にならない程良好である様だな。」

 

 

…そう、だろうか。

 

 

「そうだとも。

互いを尊重し、尊敬しあっている。

共に強く、補い合い、傷を糧とし高め合える。」

 

 

不意に、胸中が言葉に漏れていたコトに気付き、頬が熱くなる。

心臓が、早鐘を打つ。

そんな私を見て、綺礼は小さく微笑んだ。

 

 

「第四次聖杯戦争を、運営側から見届けた私が保証しよう。

その始まりから君達ランサー陣営は、前回に於いて最高峰の相性を誇ったキャスター陣営やライダー陣営に比肩する程に、理想的な主従関係であると。

君達ならば、あらゆる困難を乗り越えられるだろう。」

 

 

 

 

…何故だか、目頭が熱くなるのを感じた。

それほどに、彼の言葉に心が緩んだからなのだろうか。

その言葉に、歓喜してしまったのだろうか。

 

己が心の、なんと弱いコトだろう。

 

でも……そう、なのだろうか。

そうだったら、良いな。

 

嗚呼、また私は…綺礼に勇気付けられている。

強く厳しく、しかし整然としていた彼。

何時も苦悶に耐えるような()()()()在り方で、真っ直ぐな真実ばかりを口にした。

 

久々に会った彼は、少し雰囲気が違って見えたけれど。

それは、経年による()()を含んだ優しさなのかもしれない。

そう思った。

彼もいくらか変わったのかもしれないが、それでも彼から向けられる言葉は心地良かった。

 

 

「だからこそ、まだ戦争が開始する前に君に出会えたのは幸運だった。

この戦争()()の監督役である私が、戦争を放棄していない君を保護する現場を、他者に気取られずに済んだからね。」

 

 

………。

 

唯一の、監督役?

 

 

()()()()。」

 

 

それは、おかしい様な。

 

監督役は…他にも居た筈。

 

裁定者(ルーラー)のサーヴァントが…。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

ルーラーの存在を知らないのだろうか。

 

その存在を、隠している様子もない。

 

人類側の監督役として聖杯戦争を運営する聖堂教会の神父が、未だ世界側の監督役であるルーラーと接触していないのか?

 

そうだとしても、監督役は保有するとされる霊基盤によって召喚されたサーヴァント総てを把握している筈だ。

 

その効果では、ルーラーを感知できない?

 

もしくは、あの溶け込むような、()()()()()()()()()ルーラーの雰囲気が理由か?

 

或いは、その両方か…。

 

そうだとするならば、ルーラーは敢えて綺礼に接触していない?

 

 

「君の召喚したランサーは優秀だ。

開戦前に墜ちるには、なんとも惜しい英霊だろう。」

 

 

ルーラーは、一度顔を合わせただけの相手だ。

 

しかし、彼は誠実で真っ直ぐだった。

 

陥れる様な企みは、恐らく無い。

 

そのルーラーが、なぜか。

 

 

協力者たり得る聖堂教会の神父…。

 

綺礼との接触を、避けていた?

 

 

 

「…あの、綺れ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、ナニカが私のカラダを貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「故に、彼は私が引き取ろう。」

 

 

 

 

 

 

 

内側から、熱を持つ血液が溢れるより速く。

 

 

激痛が、喉の奥から悲鳴を捻り出すより早く。

 

 

事態を、私のココロが理解するより疾く。

 

 

(かつ)て幾度も見た、聖なる刃が彼の聖衣(カソック)より現出する。

 

 

懐かしさすら感じるその閃きは、私に瞬く間すら与えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…──」

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向く最中であった私の視線の端には。

 

 

 

 

 

 

 

「君のこれまでの克己の総ては、無明の闇に消える。

眠りたまえ、バゼット・フラガ・マクレミッツ。」

 

 

 

 

 

 

 

血肉の(アカ)と、令呪刻印の(アカ)

それらが鮮やかな己の腕部が、カラダを離れて斬られ舞い…。

鮮明に、確かに映って見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございます!
というわけで、冬木教会での出来事に話が推移する回でした。
ルーラーとあかいあくまが、のほほんとコーヒーしばいてる間に、バゼットさんは原作再現してしまいました。

言峰とバゼットさんはね…やはり、この流れをやっとかないと!
この後、ルーラーやら凛が絡んでどうなるか…みたいな。
なんか教会周りは原作より大分カオスになりそうな気もします。

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