Fate/IronAvenger   作:デイガボルバー

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五話目にして、やっと戦闘回です。


Episode5:魔術師(キャスター)VS騎乗兵(ライダー)

相手方のサーヴァント…おそらくキャスターは、空中に静止しながら攻撃を開始した。

そのメカニカルなボディの肩部が展開し、数発の小型ミサイルが発射されたのだ。

バカな、魔術儀式でミサイルだと!?

神秘に満ち溢れたサーヴァント戦らしからぬ光景に目眩がしてくる!

 

『ライダーのマスター君。

巻き込まれたくなきゃ、引っ込んでろよ!』

 

馬鹿にしやがって!

そんな忠告、撃ってからするな!

鎧が遮蔽物となり顔もステータスも覗けないが、奴の浮わついた口調は腹が立つ!

 

 

「ライダー!

ぼくのコトは構わず奴を攻撃しろ!」

 

ぼくは、片手に“偽臣の書”を握りしめながら走り出す。

ミサイルに狙われてしまっては堪らない。

それを眺めるアトラム・ガリアスタの、獣を追い立てる様な…獰猛で嗜虐的な瞳が気に食わない。

ああ、確かにお前にとってぼくは罠に迷い混んだ獣にしか見えないだろうさ。

だが、獣を侮ると痛い目を見るコトを教えてやる…!

 

「…っ!」

 

ぼくの言葉に反応し、ライダーが駆け出した。

その両手には鎖つきの短剣が握られ、それを巧みに操りながら迫り来るミサイルを叩き落として行く。

その鎖の軌道は、獲物を狩り取る蛇の如くであった。

 

『Wow!

なんとも扱いのメンド臭そうな武器を使うな、レディ!

とんかち振り回してた、どっかのサーファー君と良い勝負だ!』

 

しかし、キャスターはその動きを読んでいた。

数発のミサイルは、動き方を限定するためのモノだったらしい。

奴の両掌が、ライダーの脱出コースに向いていた。

瞬間、そこから輝く炎とも雷ともとれる一閃が放たれた。

まさしく光線(レイ)と称するに相応しいそれは、避ける間もなくライダーに襲いかかる。

だが、直撃は免れた。

ライダーの敏捷値はB。

如何に光の一撃と言えど、そう易々とはいかない。

しかし…それでも、ライダーの腕を掠り、黒く焼き焦がす程度のダメージは与えられてしまった。

それは即ち、一つの真実を浮き彫りにする。

 

「アレは…あの機動兵器らしきモノはやはり、“神秘を宿している”というのか!?」

 

サーヴァントの体は、高密度のエーテル体だ。

神秘に満ちたその霊基(からだ)は、元来高ランクの神秘を宿す攻撃以外では傷一つ付けられない。

刃物だろうがミサイルだろうが、神秘の伴わない攻撃など意にも介さず、疲れも知らずに戦い続けることが可能な最上級の使い魔なのだ。

それを…(ロボット)が間違いなく傷を付けた。

その事実。

奴は、“此方で作ったアーマー”と言った。

つまり、奴はサーヴァントを傷付けるに足る兵器を製造するコトが可能な英霊と言うコトになる。

その脅威。

 

「…っ!

ライダー、そいつを放置するのは危険だ!

何がなんでも仕留めろ!!

“外して”も構わない!」

 

ライダーは、無言の同意とでも言わんばかりに歩みを速めた。

ビルの壁面…ではなく、あの光の壁。

強い反発力のあるエネルギーの障壁を、あたかもそれが当然であるかの様に二本の足で駆け上がり、瞬く間に飛行するキャスターの目線まで登り詰める。

 

『おいおいマジか。

バリアをよじ登るなんて、そんなのアリか?』

 

あっという間にコチラの射程範囲に入ってしまったってのに、キャスターは間の抜けた調子で言葉を漏らすのみだった。

しかし、一々大袈裟な身ぶりでリアクションをとるやつだ。

気に食わないが、だからこそ逃がさない。

ライダーの鎖が、キャスターの右腕部を絡めとる。

 

『ゥわわっ!?』

 

そのまま、鎖を勢いよく引き込んだ。

ライダーはCランクの筋力に加え、Bランクの『怪力』スキルを持つ。

恐らく足からの噴出で浮力を得て、腕からの噴出で姿勢制御していたキャスターでは、ライダーのパワーで引っ張られてはバランスを保てまい。

鎖に絡まったキャスターが眼前まで迫ったところで、ライダーは“眼帯”に手をかけた。

 

『えっ…?』

 

ライダーの顔が、(あらわ)になる。

此所からは確認できない。

出来てしまうと、マスターであるぼくでも影響を受けていただろう。

“眼”を解放したライダーの存在を認識し得る距離に居るコト。

それが、ライダーの“魔眼”の発動条件だった。

これでキャスターの奴は“石”になる。

もう、飛び回るコトは…

 

『…アー、お嬢さん?

君の顔や瞳が美しいのは、十分に理解したよ。

だから、そんなに情熱的に見つめないでもらえるかな?

僕には愛を誓った妻子が居るものでね。

君の想いには応えられないよ。』

 

「なっ…!」

 

バカな、無事!?

ランクAの対魔力を持ってたって、かなりの重圧を与える『宝石』ランクの魔眼だぞ!

 

面を食らうライダーとぼく。

驚愕はまだ終わらない。

終ってくれない。

 

『しかし君の鎖のパワーといったら、参るね。

引き剥がそうにも、装甲が凹んで食い込んでしまって。

なら、こうするしかない。』

 

いいながら、至極あっさりと。

キャスターは、己の右腕を“切り捨てた”のだった。

身体が自由になったキャスターは、そのままライダーに向き直る。

 

『さあ、次のはさっきより強烈だぞ。

効果は如何程に…っと!』

 

瞬間、キャスターの胸部が強烈に輝いた。

光の炸裂。

ほぼゼロ距離で、さっきの光線の何倍も強烈な光の束(ビーム)が…

今度は、ライダーに直撃した。

 

「ぁああ…っ!」

 

光の束に圧され、光の壁に叩きつけられる。

二つの高エネルギーに挟まれたライダーは、堪らず小さな呻き声をあげた。

…ああそうだ、分かってたコトだ。

あのバリヤーだって、宝具の突撃をはね飛ばすほどの神秘を内包してるってコトくらい…!

 

「ライダー!

光の壁を思い切り後ろ蹴りしろ!」

 

身体が焼かれる痛みに耐えながら、力を振り絞ってぼくの命令を実行するライダー。

その勢いで、なんとか挟撃から脱出する。

 

『おっと!

無茶するなあ、お嬢さん。

ウチのチームに居た、青い肌の良い子ちゃんを思い出すよ。』

 

最初のしなやかさも見る影もなく、なんとか着地するライダー。

若干ふらついた手つきで、なんとか眼帯をかけ直す。

ダメージが思ったよりデカい。

ライダーの耐久力は、最低値のEだ。

うかつにダメージを貰えばこうなっちまうのは分かってたコトだってのに…!

 

『…なるほど。

君のサーヴァントの真名に、アタリがついたよ。

マトウのマスター。』

 

僕の隣に己の映像を映し、アトラムが言う。

 

「…へえ?

そいつはすごい、今のちょっとしたやりとりだけで、もう把握できたって言うのか?」

 

心臓が早鐘を打つ。

 

『いや、随分と分かりやすいと思うがね、アレは。

ましてや私は此度の聖杯戦争で、君と同じ『古代ギリシャの英霊』を喚ぶつもりだった。

一通りの逸話については頭に置いてあったので、推察は簡単なものだったよ。』

 

…ああ、クソっ。

こいつは、完全にたどり着いている。

 

『キャスター、先程の熱烈な視線は、お前に対する求愛行動ではない。

“魔眼”を利用した、立派な攻撃だよ。』

 

『そいつはまた…ありがたいやら残念やら、複雑な心境だね。』

 

キャスター陣営の主従は、余裕綽々といった風体で会話する。

片腕では姿勢制御に難があるためか、金属音と共に地面に降り立ったキャスターではあるが、その焦りは欠片も見られない。

 

『確かに。

映像で見る限り、かなりの美女だ。

あの格好にもそそられるものがあるし、“海神”に見初められたのも頷ける。』

 

ライダーはその言葉を受け止め、不快そうに歯軋りをする。

アトラムが言うや否や、上空に映像が写し出された。

何もない空間に、前触れもなく。

アトラムの姿を映している術の応用だろうか。

その映像は、ある一コマを切り取って静止していた。

 

『直ぐに宝具を隠して、姿形を見られない様にする発想は良かったけれどね。

それは古くさい魔術師連中の、時代遅れな決闘ごっこでしか通用しないと理解すると良い。

科学技術による映像解析と魔術を併用するコトが出来る相手には、一瞬の油断が命取りになるのだよ。』

 

その映像は、宝具が消滅する直前。

光の壁と宝具の激突による衝撃光は、なんらかの手段で取り払われていた。

そこに映るのは…。

衝撃で投げ出されるライダーと、“白い天馬”の姿であった。

 

『ははぁ、なるほど。

視るだけで攻撃手段になる眼と、美しい天馬(ペーガソス)

これなら僕にも正体がわかったぞ、マスター。

お嬢さん、貴女の真名(おなまえ)は『メドゥーサ』だろう?

あの宝具(かわいこちゃん)は、貴女のご子息…ご息女?

どちらかわからないが、お仔さんかな?』

 

「…っ!」

 

…最悪だ。

戦闘では、右腕を貰った分こちらが優勢と言えなくもない。

だが、聖杯戦争は情報戦の側面が強い戦いでもあるのだ。

名だたる英霊は、その逸話に栄光の側面も彩られれば、同時に弱点なども強く映し出す。

真名が知れてしまうと言うコトは、攻略法を知られてしまうコトと同義だった。

…いや、本来はこんなことになるハズは無かったのだ。

魔眼が…石化の魔眼さえ通用していれば!

 

「…なんなんだ、お前。

なんで、魔眼が通用しないんだ!

おかしいじゃないか!」

 

堪らずぼくは、叫び声を上げる。

応えが返ってくる筈もない。

聖杯戦争は情報戦なのだ。

己の秘密を、容易く明かす筈が…。

 

『ふむ、君は戦術眼そのものは悪くないが、状況を見通す観察眼が些か鍛練不足だな。

冷静に考えれば、理解できそうなものだが。

いや…それとも魔術師の常識と我々の常識は別なのかな?』

 

キャスターが、残った左手を腰に当てて、わけのわからないコトを言う。

 

『“人間が、腕がもぎ取れて平気なワケがないだろう。”』

 

その瞬間、空をつんざく轟音が鳴り響いた。

キャスターが現れたビル上部。

其処から、複数の何かが飛び出す。

人影が一つ、二つ、三つ…いや、十体以上は出現していた。

 

「ば、バカな…!」

 

それは、キャスターだった。

細部の形状は違うが、基礎には同じ設計思想が存在するであろう機械(ロボット)の群体。

その光景に、やっと理解した。

今まで、ぼくらが戦っていたキャスターは。

ぼくのライダーに、ダメージを与えてくれたソレは。

“本人”じゃあ無かったのだ。

まさしく外見通り、ロボットだったのだ。

奴の“作った(アーマー)”という言葉に、引っ張られてしまっていたのか。

敵の英霊という、常識の埒外に在る者の姿を、突飛な姿であっても不思議ではないと、思考を放棄していたのか。

ステータスが確認できない時点で、疑問に思うべきだった。

リモコンロボットには到底見えない、血の通ったような動きに騙された。

 

腕を一本貰って優勢など、馬鹿げた話だ。

奴にとっては、数多ある手駒が少し欠損した程度の損害でしかなかったのである。

魔眼が効かないはずだ。

奴は離れた場所で、映像に写ったライダーを眺めていたに過ぎないのだから。

如何に神代の神秘だとて、こちらが仕組みを把握して適切に対応でもしない限り、現代の無機質な科学技術を突き抜けて発揮など出来る筈もない。

 

『さあさあ、まだまだ試したいアーマーは沢山在るんだ。

マーク47からの遠隔システム移植実験。

この“マーク7”は引き続き僕が操作しよう。

F.R.I.D.A.Y。

他のアーマーの機動テストは君に任せるぞ。』

 

『了解しました、“キャスター”様。

“ハウスパーティー・ドライラン・プロトコル”を実行します。』

 

無数のアーマーの眼光が、此方を射抜く。

…駄目だ。

勝てない。

少なくとも奴の拠点を舞台にしたんじゃ、“今の”ライダーではジリ貧になる…!

 

「ッライダー!

再び宝具を発動しろ!」

 

ライダーが、その首筋に刃を突き立てる。

 

『ゥわ、何やってんだ?

見目麗しい女性の自殺願望なんてのは、絵になり過ぎて逆に怖いぞ!』

 

ドン引きしながらも、アーマー軍団を殺到させるキャスター。

ライダーの宝具発動には、若干のタイムラグが存在する。

間に合うか…いや、間に合わせる。

“奥の手”を使ってでも…!

 

『レンジ外から、高速で飛来する複数の微少なエーテル体の反応を感知しました。』

 

『何?』

 

瞬間、連続した金属音と共にアーマー軍団に“ナニカ”が激突する。

衝撃こそ大したことはないが、鋭い。

深く、浅く、突き刺さった複数のソレは、一瞬キャスターの駒の歩みを止めた。

その間に、ライダーは宝具を完成させる。

首から滴った血液から、天馬が産み出されたのだ。

すかさず騎乗し、駆け出す。

 

『っ…クソ!

キャスター、“逃がすな”!』

 

『ああ、了解!

F.R.I.D.A.Y、全機ミサイル発射!

フォーメーションH.L.Fだ!』

 

『了解しました。

キャスター様。』

 

一斉に撃ち出される、無数の小型ミサイル群。

くそっくそっ!

ふざけやがって、これじゃあ本当の戦争じゃないか!

アトラム・ガリアスタ!

金に明かして、日本国内でなんて戦い方しやがる!

 

「ライダぁーー!!」

 

ぼくは、駆け寄るライダーに手を伸ばした。

それをひっ掴み、素早く内側に招き入れる。

攻撃からぼくを庇う姿勢。

この女は、カンこそ多少鈍いが冷静な判断には優れているので最短の言葉で状況を把握できる。

これなら…!

 

途端、急加速。

 

迫り来るミサイルを、全速力で駆けながら難なく(かわ)して突き放す。

そうしている内に、ミサイルもキャスターも見えなくなり、奴等のビルさえも彼方の光点と化したのだった。

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「…行ったな。」

 

ガリアスタビルの一室、管制室にてモニターを眺めながら、アトラムは呟いた。

 

「みたいだな。

まあ…逃がしはしていないが。

F.R.I.D.A.Y?」

 

『はい。

ミサイルフォーメーションH.L.F。

The best place to hide a leaf is in a forest(木の葉を隠すなら森へ)”。

成功しました。』

 

「OK。

位置座標を表示すると同時に、音声を拾ってくれ。」

 

『了解しました。』

 

僕とのやりとりの後、F.R.I.D.A.Yはシステムを繋げる。

モニターに冬木市の地図と、同時に音波グラフが出現した。

 

『…クソックソックソッ!!

お前のせいだ、お前の宝具さえ初手で決まってりゃ、こんなことにはならなかったんだ!

どう責任をとるつもりだよ、ライダー!』

 

『…申し訳ありません。』

 

『謝ったって、なんの解決にもならないんだよ!

こっちはお前の真名も!

もしかしたら“切り札”の存在も見破られちゃったかもしれないんだぞ!?

まだ正式に戦争開始もしてないってのに、大ダメージじゃないか!』

 

スピーカーから、とある男女の会話音声が流れる。

苛烈に罵声を浴びせているのがライダーのマスター、シンジ・マトウで、それに平謝りしているのがライダー…メドゥーサその人だった。

名高きギリシャ神話に伝わる美女に、好き勝手怒鳴り散らす少年。

 

「…盗聴機を仕掛けられたのは良いが、これは……。

なんとも聞き苦しいな。」

 

そう、あのミサイル乱射は囮だったのだ。

フォーメーションH.L.Fは、アトラムの“逃がすな”の言葉を合図に発動する、全力で、しかも気付かれる事なく盗聴・座標把握を行う装置を取り付けるための戦術だった。

ミサイルはそれなりの破壊力こそあるが、その弾速ではサーヴァント相手に易々と当たるものではない。

しかし、確実に牽制にはなり、相手の行動を大幅に狭めるコトが出来る。

とりあえず靴に取り付けたし、拠点に帰られた後も広範囲で盗聴できるので、彼の行動は今後我々に筒抜けということになる。

…思春期のティーンエイジャー相手には、些か気が引ける話ではあるが。

しかし…

 

「いや、僕の見立てでは、もし君が女性のサーヴァントを召喚してたら、こんな感じで無闇に強気になってマウント取りに行ってたと思うぞ。」

 

「……。」

 

僕の指摘に、押し黙るアトラム。

己の事ながら、容易に想像できてしまっていたのだろう。

相手がメドゥーサの様に、仕事に対して冷静に動けるタイプならまだしも、我の強いタイプとかだったら反逆されて殺されていたかもしれない。

そんな光景を、僕でさえ容易に想像できてしまう男だ。

なぜ出来るかって?

僕も似たような経験があるからだ。

懇意の女性に手をあげたり罵声を浴びせたコトはまず無いが、恨まれたコトは数知れず。

極めて恥ずべき過去だが、事実だから仕方がない。

口には出さないが。

 

「…ソレはともかく、奴が向かっている場所は何処だ?

この方角なら、マトウの屋敷とやらではなさそうだが。」

 

気を取り直し、話題を変えるアトラム。

この十数日で僕の態度に慣れたのか、もう一々目くじらを立てることも無くなった。

そうなれば、彼は優秀な戦略家であり戦術家だ。

非常に頼りになるマスターである。

 

「フム…此方の尾行を警戒して、迂回して戻るつもりなんだろうな。

彼は若者らしいピーキーさこそあるが、中々戦術にかけては優秀であるらしい。」

 

僕は、正直感心してモニターを眺める。

魔術師ってのは、みんなああなのか?

あの若さで、よくもあんなクソ度胸を発揮できるものだ。

 

「…それに関しては、ボクも認めるがな。

中々興味深い少年である、とは。

しかし、それと戦いは別の話だろう。」

 

アトラムは、モニターを眺めながらも顔をしかめて言った。

 

「僕が、マスターを攻撃しようとしなかったことを責めているのか?」

 

「…まあ、今回は良い。

突発的だったし、兼ねてから考えていた設備のテストを行えたのだからな。」

 

僕のスキル…

至高の科学者(サイエンティスト・スプリーム)』は、生前に造ったすべての発明品を再現可能とするものだ。

さらに、召喚後に培った新たな知識すらも、スキルの一部として取り込むことが出来る。

生前、親父の研究を吸収してアーク・リアクターを完成させたり、ロキが悪用していた四次元キューブ(テッセラクト)を探し出すために、一夜漬けで熱核反応物理学のプロになったりした時の逸話が、サーヴァントの性能として設定されたものらしい。

お陰で、アトラムが纏めてくれた魔術資料を読破した僕は、偽物とはいえキャスター本来の『道具作成』スキルを習得するに至った。

つまり、魔術兵器作成のプロというわけだ。

何、宇宙の特異点を操作するガントレットを作るよりは、簡単な仕事だったさ。

 

これに加え、僕には『陣地作成』スキルがある。

つまり、アベンジャーズマンションとか、本部基地とか、ああいったテクノロジー満載の設備を設置することが出来るわけだ。

それも、素材さえあれば比較的容易に。

 

これらスキルの組み合わせで、僕らは基地を作り上げた。

ワカンダ国やヒドラの基地を参考にしたエネルギーバリアも張ることが出来た。

仕上げは上々。

 

本当は、宝具である『鉄人兵団(アイアン・レギオン)』の効果も試そうと思っていたのだが…これは、一部とはいえF.R.I.D.A.Yの機能を試せただけでも良しとする。

他にもまだまだ改善の余地はあるが…この僕とマスターが、半月かけた準備だ。

学生の軽いノリで突破できると思われちゃ困る。

そう考えていたんだが…。

 

「戦争も始まる前の前哨戦だ。

功を焦ることもあるまい。

だが…」

 

モニターから目を離し、こちらを見据えるアトラム。

その眼は怒気を孕ませるでもなく、ただ真摯な思いだけが伝わる眼差しだった。

 

「素材にするはずだった子供たちを哀れむのは、まだ良い。

共感はできないが、理解はしよう。

だが、戦争が始まったとき…覚悟を持って対峙した魔術師相手ならば、例え相手が子供だとしても情けをかけるな。

敵として闘え。」

 

今までで、最も熱意を込めた口調で、アトラムが言う。

 

「戦う意思に応えないのは、戦士としてもっとも恥ずべき侮辱だ。

それだけは、ボクが絶対に許さん。

我がサーヴァントとして戦争を勝ち抜く覚悟が在ると言うのなら、それを肝に命じておくが良い。」

 

そこまで言い切ったマスターにの言葉に、僕は『坊や』の姿を思い出した。

親愛なる隣人として、怯えながらも懸命に戦ってくれた彼を。

そして、集ってくれた様々な仲間も。

戦う意思に、年齢も性別も、国や星だって関係ない。

それを、僕は理解しているはずだったが…。

今から臨む戦いに於いては、まだ足りなかったらしい。

 

「ああ…了解した、マスター。

これは戦いだ。

貴方と共に、目的のために死力を尽くすことを誓おう。」

 

 

 

 

…口では、そう言える。

だが、その状況を前にして、果たして僕はそれを選択できるか?

答えは…いくら悩んでも、見出だせない。

状況に直面するまで、僕は悩み続けることになるだろう。

少年の罵倒音声を聴きながら、僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧、ありがとうございます!
アトラム&トニーの組み合わせは、かなり強力である、という話でした。
第三次聖杯戦争では、各陣営に国家のバックアップがついていたという話がありますが、アトラム陣営にはそれ級の資金力があります。
マネーイズパワー。
バゼットさん含め、時計塔枠のマスターは、まともに戦ればガチ勢過ぎておっかないのです。

しかし、シンジについても当作では地味に上方修正が成されてます。
調子こいて無い、ガチで優秀な面が出てきてるシンジです。

もう少しだけ、開戦前の小競り合いの話が続くと思われますが、ご了承ください。


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