鬼舞辻無惨の娘   作:メガラプラス

17 / 19
第17話 藤花 (2日目)

「アア、アア、アーッ!タンジロォ〜これは一体どういう事だよ?何箱の中から可愛い女の子出て来てるんですかッ?!しかも超俺の運命の人なんですけどッ?!桃色の着物で顔可愛いッ!何!?俺が死なないように頑張ってる中でお前はずっとこんな可愛い子とキャッキャウフフお気楽にやってたのねッ?!ああそういえばタンジロォ。お前俺の一度目の婚約を無理に破綻させた挙句に正一君を家に帰してサァァ。それでいて何?一人鬼殺ぶらり散歩とか言ってこんな可愛い子とずっと旅してたの?!」

 

以下、省略。

 

後ろから障子を蹴り倒したのは、紛ごうことなき善逸。

 

こんな夜に騒音も甚だしく、目は血走って、心なしか電流をビリビリと纏いながら、一気にまくし立てる。

その上時々汚い高音を発するこのゼンイツに、炭治郎と、今度は十十乃も、初心に返って引いた。

 

「善逸、禰豆子は…」

 

「禰豆子ちゃんって言うのねッ!ネズコちゃんおいでっ!俺のここ空いてるよッ」

 

ゼンイツが両手を広げる先には、目を点にしてキョトンとする禰豆子。

彼女は十十乃が珠世の家で見た時と、全く姿が変わっていない。

 

「善逸……。」

 

しかしその時、善逸の耳に、恐ろしい音が響いた。炭治郎の音である。

まるで炎が燃え盛るかのような……

 

 

 

 

だが、愛の力は強いのだ。

 

「ネズコちゃぁ〜ん」

 

ゼンイツは鼻の下を伸ばしながら、ホワァァ〜と一人勝手に花を漂わせている。

禰豆子本人は、まるで道に咲いたタンポポを見つけたような、そんな顔をしていた。

 

「可愛いッ!可愛いよネズコちゃん〜」

 

「なあゼンイツ。」

 

「ヒエ」

 

しかし、ゼンイツの視線の先に現れたのは、顔を引攣らせた炭治郎。

轟々と燃えるような音を感じたゼンイツは、一瞬固まる。

 

「一回部屋に戻ろうかそしてもう寝ようゼンイツ」

 

「…ハッ…ハイ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十十乃におやすみ、と言ってゼンイツを連行して行った炭治郎を、十十乃はどういう表情で見送ればいいのか分からなかった。

 

そして一人、隣の部屋に戻り、薄暗がりの中溜息を吐く。

 

「やっぱり臆病だな…」

 

自分にしか聞こえないくらいの声で、寝転がりながら天井にそう言う。

 

珠代から届いた手紙の内容を、炭治郎に言うべきだったか…胸のあたりまで出てきた言葉を、十十乃は全部飲み込んでしまった。

しかし、禰豆子のことを聞いてから、余計に言い出せなくなったのだ。

 

勇気を一瞬振り絞ったが、ゼンイツが来た時、時を同じくして勇気がどこかに消え去った。

 

枕に突っぷす。

 

向こうの部屋から、ゼンイツと炭治郎の声が聞こえてくる。だが、

聞いて驚いた。

 

なんと善逸も、あの箱を庇って怪我を負った時から、禰豆子が鬼だと知っていた、と彼が言う声が薄っすらと届く。

 

やっぱり善逸は凄いやつだ。

 

改めてそう思う。

最終選別の時もだが、あんな光速の技を繰り出せる者はそうそういないのではないか。

 

だが、当のゼンイツの声は段々奇声に変わり、それはやがて汚い高音になったので、十十乃は布団を頭からかぶった。

だが寝る前に、枕下に手を入れる。確認だ。

 

 

ちゃんと手紙はある。

 

 

そういえば朝から晩まで、歩き詰め 戦い詰めだった。

 

最後に、炭治郎に撫でられた頭の方に、また無意識に手をやると、十十乃は泥のように眠りに落ちた。

 

 

 

 

屋敷中が寝静まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りは真っ暗で、頭上に広がるのは青黒い夜空。

 

 

 

その空に流れる美しい大河に、十十乃は思わず固まった。こんなに美しく彩られた夜空を、今まで一度も見たことがなかった。

 

 

うん?一度も…?

 

 

銀砂と水晶の粒が溢れ出たような、銀と青と黒の空。

溢れ出したその先で、仄かに光を瞬かせる大きな川が流れ出す。

 

この天の川のうち、一粒でいいから、水晶が欲しい。

 

 

 

天の川は、こんなにも素晴らしい星の集まりだったのか。

 

 

でも、なぜ今…

 

 

「あれが欲しいのかい。」

 

と、誰かの声がする。靄がかかってよく聞こえないが、何を言っているかは聞き取れた。

 

「ここからでは届かないよ。それに星は人間の幾倍も大きい。人間など簡単に潰れてしまう。」

 

全く、人が良い気分で空を見ているのに水を差さないで欲しいものだ。

だが、こちらから口は開けないし、なぜか開こうという意思すら湧かない。

 

もしかしてこれは…夢なのか。

ならば明晰夢とかいう、“夢の自覚がありながら夢を見る”という類のものを見ているのか、自分は。

 

書物で手に入れた知識で勝手に納得しながら、再び空に目を向けた。

 

「夜の方が良いだろう。鬱陶しく照りつける日光よりも。」

 

やけに憎悪が篭ったような声が、耳に届く。誰の声か、やはり靄がかかってて聞こえない。

 

 

 

そういえば、なぜ天の川が見えるのか。少し理由が分からなくもない。

 

十十乃が引き取られた日、天の川が綺麗だったらしい、と。昔坂部に言われた事があるのだ。なら、これはその時の記憶が勝手に出てきて夢を見せていると………疲れ過ぎているんだろう。今日はずっと動いていたから。

 

 

しかし、この声の主は。

 

 

だが思考が定まりかけて、再びボヤける。

 

頭に何かが触れる。武骨な、大きい手だ。氷のように冷たいが、どこか懐かしい。暖かい炭治郎の手ではないが…

心地は悪くない。

 

そういえばあの感覚も、こんな感じだったような……

 

 

 

 

 

 

 

ただ綺麗な星空を、十十乃はずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネーズーコちゃぁぁん〜」

 

「ゼンイツ…」

 

朝目覚めて一番に目に入ったのは、残念ながら朝陽ではなかった。

 

ゼンイツが禰豆子に花を渡しているところだった。

 

「これも夢かな」

 

ゼンイツがかなりの顔をしていたので、十十乃はそう思わざるをえなかった。

伊之助は何やら庭で騒いでるし、炭治郎の堪忍袋もそろそろまずい。ゼンイツはニヤケてホワアとしてるし、禰豆子はタンポポを摘んでいる。

 

本当に自分は何を見せられてるんだろう。

 

そして、

 

「ねえ“お義兄さん”、ネズコちゃんなんだけど……」

 

 

ゼンイツの一言と共に、炭治郎の堪忍袋は爆発した。

朝から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳なんだ。伊之助、さすがにその状態のゼンイツを蹴飛ばすのはよして差し上げろ。」

 

「俺ァそんなのどーでもいいんだよ!」

 

綺麗に整えられた純和風の庭園で。

その庭園の枯山水の砂模様を破壊しながら、十十乃、ゼンイツ、伊之助は色々と転がり回っていた。

 

 

色々と酷いことになってしまったゼンイツを、更に酷くしようとする伊之助。

ちなみに禰豆子への接近禁止命令が出されたせいで、ゼンイツは魂が抜けたようになっている。

 

 

「ネズコちゃぁぁん…」

 

「元気出せよゼンイツ。まだお互い若いんだ。この先いくらでも…」

 

「ムリ!俺はネズコちゃん以外を愛せないッ!」

 

「うるっせええよ紋逸!」

 

「紋逸じゃないッゼンイツだよ!いい加減名前覚えてッ」

 

 

3人揃えば文殊の知恵など、一体何の根拠があるのだろう。

3人揃えば事態は悪化の間違いである。

 

「ねぇぇえ?十十乃ちゃん?ネズコちゃん何あげたら喜ぶのかなぁぁあ、許してくれるかなぁぁあ」

 

「どっちかって言うと炭治郎の怒りが収まるのを待った方がいいんじゃないのか。怒らせたのは炭治郎の方だ」

 

「でもざぁぁあ、お花あげてもなんかイマイチなんだよッ!ないのッ?!女子的に嬉しいものとかさぁぁ!ていうか十十乃ちゃんは何貰えば嬉しいの?」

 

「鮟鱇。」

 

「え」

 

「鮟鱇。」

 

十十乃の返答に、ゼンイツはポカンとする。

そんなにポカンとされると、された側も傷つくものだ。

 

十十乃はゼンイツに言う。

 

「私が鮟鱇鍋好きなだけだ…それより、禰豆子ちゃんにあげるなら桃色の物とかはどうだ?いつも桃色の着物着てるし。」

 

「桃色…?桃とか?」

 

「それはちょっと違う」

 

だが、ゼンイツは次の瞬間、まるで天啓でも受けたかのような、何か良い案を閃いたような、そんな表情になる。

 

「着物……ありがとう十十乃ちゃんッ!会えないなら会えない時のためにネズコちゃんと会えるようにすればいいんだねッ」

 

「何するつもりだ…?」

 

完全に会話が噛み合わなかったのは気のせいではあるまい。

 

ゼンイツは急に走り出し、広い屋敷のどこかに消えた。

その速さたるや、とても人間のものとは思えなかった。

 

とはいえ、これでひと段落が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

十十乃は、炭治郎に声をかけようかと思ったが、やはり心の準備ができない。もう少し、もう少しだけ、このまま言わないでおきたい。

それに彼は今、ゼンイツの件でやや機嫌が悪いだろう。

 

十十乃が自室に戻ろうとした、その時。

 

 

「おいババア!俺の布団に何しやがってんだアァァ?!」

 

 

先程散々ゼンイツに当り散らした挙句、どこかに消えた伊之助の声が聞こえてきた。

ババア、なんて言ってるあたりもう悪い予感しかしない。

 

「今度は一体なんなんだ…」

 

声がした隣の部屋を見に行くと、伊之助があのお婆ちゃんの頭を掴んで、布団で海苔巻きみたいにしていた。

 

十十乃は顔面蒼白で、すぐにお婆ちゃんを海苔巻きの中から出した。

 

「すみません、大丈夫ですか?お怪我は?ていうか何かされてませんか?投げ飛ばされたりとか…」

 

「いえいえ、ご心配には及びません…」

 

それでは、と言って、お婆ちゃんはまた音もなくスゥ、と消える。

 

「イノスケェ〜。どうすればあのお婆ちゃんを海苔巻きにする事になるんだ。」

 

「あのババアが俺の寝床をいじりやがんのが悪りぃんだよッ!ていうかノリマキってなんだ?!」

 

「それは、布団片付けようとしてくれてたんだろ?!海苔巻きは食べ物だ!」

 

「意ッ味分かんねえ!」

 

「こッちも分からんッ!」

 

 

猪突猛進ッ!

キー!

 

と、訳の分からない声を上げながら、2人はひたすらに投げ技を掛け合う。

伊之助が蹴飛ばしてくれば、十十乃は腕十字。

受け身を取れば、受け身を取らせる間も無く伊之助の投げ技が飛んでくる。

 

 

 

特に意味のない戦いは、昼前くらいまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目ですよ。怪我が悪化するじゃないですか。」

 

「はい。」

「ハイ。」

 

「なんで休息のために来ているのに、鍛錬をしようとなんてしたんですか。」

 

「はい。」

「ハイ。」

 

「とにかく2人とも、今日はもう動かないで下さい。重傷。」

 

「はい。」

「ハイ。」

 

十十乃と伊之助は医師に怒られた。

 

あの無意味な戦いは、第一発見者の炭治郎が通報し、及び止めてくれたことで一応事無きを得た。

しかし善良な医師には散々絞られた挙句、今、4人揃って変な薬を飲まされそうになっている。

 

「えっと…これは何ですか…?蜥蜴の匂いが…」

 

「いや待てよ炭治郎、蜥蜴の匂いするのか」

 

唐突な炭治郎の発言に、十十乃は思わず聞き返す。

 

「ああ…あと何だこれ…蛇と蜂の………」

 

「もう言わないでッ!」

 

返答しようとした炭治郎を止めたのは善逸だ。

伊之助は、目の前に並べられている変な薬の茶碗を割ろうとして、医師に怒られていた。

 

この変な薬、医師によると“骨があっという間に治る”凄い薬らしいが、こんな緑と紫の毒毒しい固形と液体の間みたいなもの、どう頑張っても飲む気がしない。

 

しかも蜥蜴の匂いとは。

 

「効き目はあるんでしょうか」

 

十十乃は訊いた。

 

「はい。最新の薬ですから。」

 

医師はニコニコしながらそう言う。

なんか平安時代にいそうだな、この人。

と、薬の外見にやられて変な事を考え始める、

 

「こんな不味そうなの効く訳ないでしょッ!なんか気持ち悪い音するしッ」

 

「意外とうめーぞ」

 

「伊之助、茶碗は食べちゃ駄目だぞ。」

 

3人が恐る恐る口を付けようとする中、十十乃には、薬が効かずにキレてる誰かの姿が浮かぶが、多分それはそう遠くない未来の自分だろう。

この薬が効くなどあり得ない。蜥蜴。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論からすると、4人とも薬は効いた。

そして全員吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日には完治しますよ。ハイ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「禰豆子ちゃん…」

 

箱の中にピッタリ収まって、スヤスヤ寝息を立てる禰豆子の横で、4人は布団に巻かれて転がされていた。

昼過ぎから転がされ、かれこれ数時間は経つ。

“治療中”

の張り紙を貼られて。

 

「そういえば明日また任務があるだろう?今度は確か…」

 

「那田山?だっけ。」

 

「そうだ、そんな名前の山。」

 

隣で転がされてる炭治郎と善逸が、そんな会話をするのを聞いて、十十乃は再び溜息を吐く。

 

「どうせ俺次の任務で死ぬんだ…脳みそ吸われて…」

 

善逸はガタガタ震えだす。

 

「また言ってるのか善逸…夕食の鮟鱇少しあげるから元気出せよ。」

 

「え?今日って鮟鱇なのか?今冬じゃないけど…」

 

十十乃が言った言葉に、炭治郎が反応する。

 

「天麩羅と鮟鱇鍋だって。タラの芽のお浸しも作ってくれるって言ってたぞ。」

 

あの後蜥蜴スープを飲み終えた4人に、お婆ちゃんが、わざわざ1人ずつに好物を訊きに来てくれたのだ。

この家で過ごす、最後の一晩だからと。

 

十十乃は一番最後に聞かれたので、3人が何て答えたかは知っていた。

 

ちなみに伊之助の口数が少ないのは、好物を聞かれたとき、なぜかホワァァァ〜としていたからだろう。

 

「へえ、そうか〜楽しみだなぁ」

 

炭治郎が嬉しそうに笑う。

 

善逸はまだガクガクしている。伊之助はホワァ〜の余韻に浸っていた。

 

十十乃は、禰豆子の箱と、炭治郎の屈託無い笑顔を見て、少しだけ唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤花の家紋の家で過ごす、5人の最後の一晩だ。

 

 

 

 

 

 

 




流れがちが……


呼吸もあるだろうけど、完治するには特別な治療でもしたのかなと考えた結果蜥蜴スープに。



詰め込み過ぎ。




次回累ファミリーのご登場です。



鮟鱇鍋美味しい。冬だけど。



時間飛び方が酷いのはお約束。



朝の時点で伊之助は既に猪を被っている(設定)。



ゼンイツの愛が原作を更に超える勢い。



愛じゃよ愛。



藤家紋のお婆ちゃんの労力が×4に。



休憩時間終了のおしらせ。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。