異世界に集団転移したけどみかんしか出せない   作:winter先輩

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前回のあらすじ

田中正康(エヴグレハーツ・サヴェルディ)がフィクサーに負けた。大敗を喫した。


契約

正康の死を来夢たちは諦めていた。

最初から29人だったということにしよう。強力な固有スキルを持っていたが、別にうちには恭也がいるし。

 

しかし、彼の固有スキルの強力さは、来夢たちが想像を遥かに超えた。

 

フィクサーの剣が正康の首を刎ねんと近くまで来たところで、フィクサーの動きは停止した。

正康の背後に、誰かがいた。

 

「な、何だお前は」

「死神グリム、こいつの契約者だ」

 

彼(彼女?)は死神と言うにふさわしい格好をしていた。黒いローブは地面に付くほどで、フードの奥には暗闇と、その中に紅く光る眼が見える。

身の丈ほどもある大きな鎌を背後に構え、左手は前に掲げている。それがフィクサーを押さえつけているのだろう。

 

ただ、予想と違ったのは、その身長だ。

140センチないくらいの身長で、声は男性とも女性ともつかないような声だ。死神と言えばもっと格好良いか、もしくは恐ろしいものだと思っていたが、どちらかといえば可愛い部類だろう。

 

「グリム……何故でしゃばってきた……力は借りるが、お前は干渉しない、そういう契約だろう!?」

「契約?僕の力を使う代わりにその力で標的(ターゲット)の魂をこちらに寄越す、それが契約だ。ここで死なれたら困るんだ。それに、無関係の他者を巻き込むな」

 

それでも『神』というだけあって、威圧的な怖さはあった。逆らうだなんて、とても出来るような隙は無い。

 

「と、言うことだ。悪いな。こいつを殺すのは後にしてくれ。こいつを殺せるのは標的(ターゲット)だけだ。これ以上は僕も干渉する気はない」

 

フィクサーは解放されたようだった。

 

「馬鹿なことは考えるなよ」

 

そう言い残すと出現した時と同じ様に何の前触れもなく消えた。まさに、神出鬼没。

 

正康を除いて、その場にいた全員は呆気にとられていた。正康の死神の力とは、死神の力のほんの一部に過ぎないというのか。

 

「あ、田中君、大丈夫、回復、回復しなくちゃ」

 

一時の沈黙を破り、愛華が正康に駆け寄る。彼はこのまま放っておけば死んでしまいそうなほどだった。

 

愛華のお陰で少しは良くなったが、全快とはいかなかった。

 

「私に任せて」

 

そう言いながらゆっくり歩いてきたのは、宍戸笑美花。通称『天使』。

 

高校1年生とは思えないほど、とまでは言わないが、大人の雰囲気を醸し出しており、スタイルもいい。また、およそのことは笑顔で対応してくれる優しさも兼ね備えており、頭もいい。才色兼備とはよく言ったものだ。

 

笑美花はいつもと同じ優しい笑顔で、回復の魔法をかけた。魔法と言うのは、魔法だ。比喩的なものではなく、彼女は問題なく魔法が使える側の人間だ。

 

上位魔法では無いようで、多少時間はかかったが、正康の怪我はほぼ完治した。

 

ほぼ、というのは、魔法で治せる傷には限りがある、と言うことだ。具体的にどういった傷かと言えば、長いこと時間が経った後の傷や、骨折や火傷、あるいは凍傷などの単純な外傷以外の傷だ。

 

そう言った傷は病院へ行き専門医に診てもらうか、前述したような傷を治す魔法を使える人に頼るか、自身の持つ自己修復能力に任せるほかない。また、病気も普通の魔法では治せない。

 

「アイボルトさんも、お疲れでしょう。回復いたしましょうか?」

「……悪いな」

「いえいえ、お気になさらず。私の固有スキルは【永久魔力(エターナルマナ)】。一切の魔法やスキルの発動に必要なSPを0にするもので、いくら回復をしようとSPが枯渇することはありませんから」

「いや、そうではなく、仲間のこと、本当にすまなかった」

「良いんですよ。貴方はただ、一国の軍隊長として、正しいことをしました。国において最も大切なのは、民を不安にさせない、判断力のある貴方のような方ですから」

 

これが年上でないのだから、驚きである。その寛大さと穏やかさを見て、誰からともなく天使と呼び始めるのは当然といえよう。

 

「本当は貴方も、こんなことしたくはなかったんでしょう?だから、死神が現れたとき、実はほっとした」

「……何故そう思う?」

「あら、図星でしたか?田中君の容態を見るに、そんなに深い傷がなかったので、ああ、手加減をなさったのだなあと。本当の貴方は、もっと強いと聞きますよ。なんでも、街一つ滅ぼしてしまうほどだとか」

「……もういい。ありがとう」

 

フィクサーは立ち上がり、城の出口の方へ向かった。

 

「どこへ行かれるんですか?」

 

来夢からの問いに、答えることはなく、立ち止まることもしなかった。

そのままフィクサーは城下へ降りて行った。

 

「宍戸さん、街一つ滅ぼすっていうのは?」

「ミルトア西部の【フィニートロン】という街は、20年以上前の未曽有の雪害でゴーストタウンと化したの。フィニートロン廃墟化はその後の大陸戦争の引き金となるのだけど、これはただの自然災害ではなく、人災だという説があるの」

「それを、アイボルトさんがやった、と言うこと?」

「あくまで噂よ。確証はないし、彼がそんなことをするメリットがない。何より、そんなことするような人じゃない。ただアリバイが無いことと、『雪害』という偶然だけで疑われている」

 

フィクサー・アイボルトは、国の正義の象徴だ。同時に、暴力の象徴でもある。

彼は国民からの人気も高い。同時に多くの反対派が存在するのもまた事実。

 

雪はもう降っていなかった。雲の隙間から覗く太陽は柔らかく、崩れ去った王城を照らしていた。




キャラクター紹介

宍戸笑美花(ししどえみか)

永久魔力(エターナルマナ)
いかなる魔法や、スキルに必要なSPを0にする。なので厳密にはSPが無限にある訳ではない。また、ドラクエで言うマダンテの威力は0になる。

通称『天使』と呼ばれる程の人格者で、善人で、美人。穏やかな性格だが、やや抜けている部分もある。才色兼備のお姉さん。

ありがとうございました。

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