ジオン共和国の正体~地球の重力に魂を引かれた精神病者たちの隔離施設~   作:ミノフスキーのしっぽ

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 その身に生贄を取り込んだアートラストが、サイド4コロニーの市街地に迫る!


蒼き闘争

 ズゴゥッ!

 

 ズゴゥッ!

 

 ドォオオオンッ!

 

マーゲイの操るペンギンAIたちによってロックされていたハッチが、物理的な攻撃によってこじ開けられた。手持ちの棍棒で、強烈な物理攻撃を放ち、無理矢理破壊するという方法である。

 

 如何に電子世界でぺンギンAIが強くても、現実世界への物理攻撃は阻止できない。

 

 ソフトとハード。

 

 明確に区切られた限界がそこにあった。

 

 アークラストのAIへと進入できない現在、マーゲイたちには、その進撃を食い止める手段がもう存在しなかった。

 

 それ故に、ズンッ!ズンッ!と重量感を感じさせる足取りで、悪霊神機アートラストは悠々とハッチ残骸の側を通り抜けていく。

 

 市街地エリアと港湾エリアを分ける境界を邪魔されることなく抜けて、運河を通ってアムールたちの待つ市街地へと入っていく。

 

 タァアンッ! 

 

 タァアンッ! 

 

 そこに、狙撃兵の待ち伏せによる対物理攻撃がなされた。

 

 パァアアッ! パァアアアンッ!

 

 しかし、謎の禍々しい輝きが、障壁のようにアートラストの装甲を覆っており、その力が着弾するはずだった弾丸を逸らせてしまう。逸れた弾丸は港湾《ベイ》エリアの障壁に着弾し爆散。アートラストのボディは無傷だ。

 

 

 

 「バリアーか!?」

 

 着弾を監視していたフェンサーが叫ぶ。予想外の事態だった。

 

 「ガロウ・ランは、そんな兵装まで実用化しているのか!?」

 

 驚愕を隠せないフェンサーチーム狙撃班。

 

 (なんだ? このプレッシャー!)

 

 (普通じゃないと、肌で感じる!)

 

 「引くぞ!」

 

 「了解した! 異論はない!」

 

 「ああ!」

 

 あの巨人兵器は普通じゃない! 理屈はわからんが、何か異様なプレッシャーを感じる!

 

 狙撃兵という兵士のセンスでそう理解した三人は、取るべき武器もそこに残し、素早く後方へと逃げ去っていく。 

 

 ここでは不利と、留まることに見切りを付け、後方の本体への合流を急いだのだ。

 

 その一番の目的は、敵起動兵器が禍々しい障壁を纏っている情報を、生きて持ち帰り隊長に伝えることだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 「対物理ライフルの銃弾が効かない?」

 

 アムール・トーラーは、部下の報告に自分の耳を疑った。なぜなら、それは遠距離攻撃が無効であることを意味するからだ。

 

 「はい。ロケットランチャーは使用してみなければ有効かどうか判断できませんが、ライフルの弾丸は外装を覆う障壁の阻まれ、逸らされてしまいました」

 

 「自分も同様です!」

 

 「そうか………あれ止めるには、何か別の手段が必要か」

 

 信頼する部下たちに弾丸無効を告げられたなら、疑う理由もない。敵の起動兵器に弾丸での攻撃は通用しないのだろう。ならば、アムールいては、何か別の手段を用意して、敵機の進撃を防がなければならない。

 

 「…」

 

 正直、今の限られた装備では、作戦通りの行動しか実行しようがない。アムールには都合よく、新たな作戦を立案することはできなかった。

 

 とはいえ、職務を放棄して逃げ出す選択肢などアムールには存在しない。

 

 ガロウ・ランの起動兵器を放置すれば、このコロニーだけでなく、サイド4全体が危機に陥るかもしれないのだ。

 

 アムールたちフェンサーチームに、それを座視することなどできなかった。

 

 「用意したトリモチ利用作戦でいく。みんな覚悟を決めろ………」

 

 それ故に、敵のバリア情報が齎される前に立案した計画続行を部下たちに告げるアムールだった。その表情には苦渋が満ち満ちており、部下たちを死地に追いやる決断に苦しんでいることが解る。

 

 そんな隊長の立場を理解できるフェンサーたちも決死の思いで敬礼を返す。

 

 「…」

 

 「「「「「…」」」」」

 

 一同無言。

 

 合流したチーム一同は死兵となる覚悟を決めて、その状況を受け入れ、共有して事に当たろうとしていた。

 

 「待ってください。これを見てください。こちらが切れるカードはまだあります」

 

 しかし、まだ別の対応方法があると、覚悟を決めたフェンサーチームに新たな手段を提案する存在がその場にいた。フェンサーチームの会話に割り込んできた人物は、電子戦担当のマーゲイであった。

 

 マーゲイは、パソコン画面をアムールたちに見せるために豊かな胸の前に置き、そのデータを映し出させた。

 

 「サイド6に出荷前のmidori型触手列車四両が、このコロニーに運び込まれていました。これを接収して、敵の起動兵器に対抗させるのです!」

 

 「…話を聞こう」

 

 予想外のところからの新たな提案に、アムールが耳を傾ける。今は、テロリスト制圧のために勝利し、生き残らねばならない時である。そのためならば、アムールはどんな提案も受け入れる気になっていた。

 

 「敵起動兵器が周囲にバリアを纏う事ができても、機体を稼働できない程の圧力を銜えれば動きを停止させることは可能なはずです。midori型の触手で絡め獲り、そこをコーキング材トリモチで固め、大量の建物の瓦礫で圧し潰してしまえば、勝ち目はあるはずです!」

 

 自身の言葉と、画像の簡易33Dアニメーションで作戦を説明するマーゲイであった。

 

 「いけそうだな。手段は理解した。早速、ばかわー型を接収してくれ」

 

 「もうやっています!」

 

 コロニーインフラ制圧をやらせていた電子ペンギンたち半数を、すでに接収に向かわせていたマーゲイである。

 笑顔を浮かべ、そのことを報告するマーゲイであった。 


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