闇を照らす闇   作:点=嘘

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台風19号が来てますがいかがお過ごしでしょうか。
ウチの周りは死ぬほど平和です。稀に見る快晴。


それ、ドッキリするやつ。

八月三十一日。

世間ではもっぱら夏休みの終わりだとかいう話で持ちきりで、それは神奈川の海岸で暴走する大天使『神の力(ガブリエル)』と世界の命運を掛けた死闘を繰り広げ、しかるのち学園都市に生還したツンツン頭の少年、上条当麻にとっても同じことだった。

 

思えばとんでもない夏休みを過ごしたものだ。上条は記憶喪失であり、七月二十七日以前の出来事は一切覚えていないという身の上だったりするのだが、この夏休みは普通のそれと比べてかなりドラマチックかつファンタジックかつアクロバティックであったと断言できる。

三沢塾の錬金術士に始まり、学園都市第一位の超能力者(レベル5)、トドメに今回の件ときた。いくら特殊な右手を持っているからって、ごく普通の高校生には荷が重過ぎるというものだ。

 

しかし待ってほしい。最も肝心かつ強大な『敵』は未だ健在である。

ソイツは世界中の人々に絶望を振り撒く邪悪な『敵』なのだが、この一ヵ月間様々な騒ぎに乗じて上条の無意識に滑り込み、存在を悟られもしなかった狡猾な『敵』でもある。そして平和を取り戻すためには、八月三十一日の終わりというタイムリミットまでに大量の『敵』を一匹残らず殺し尽くさなくてはならないのだ。

 

状況は極めて絶望的である。だが、やらなくてはならない——他でも無い上条自身が、やらなくてはならないのだ!

 

八月三十一日、午前〇時十五分。

夏休みの終わりまで、残り時間はおおよそ二十四時間。

 

「……、うふふ。不幸だー、とか言うと思っただろ?でも人間ね、本当の本当に不幸な時ってそんな事を言ってる余裕もないの。うふふ、うふふふふふふ」

「とうま、なんか口調が違うし誰に向かって説明してるか分からないんだよ」

 

——一ヵ月分の宿題を片付ける時が、ついに来た。

 

 

 

 

 

 

 

「……………で、何でテメーは呑気に女の子とクソ高ぇホットドッグを買い食いしてやがるんだ?」

「女と見ると見境がない。まさに女の敵。」

「ち、違う!これは事故、もしくは天災と呼ばれるナニカであって決して俺の本意という訳では……ッ!!」

 

ヒマそうだった姫神を誘って一緒に街中を散歩していた折、街中で偶然出会った上条から壮絶な宿題事情を愚痴られた城島は、言葉と裏腹に随分と余裕そうにしている天然ジゴロ野郎に早くも頭痛がしてきていた。

必死の弁明を聞く限り、最初は長期戦になると踏んでただコーヒーを買いに外へ出ただけらしいが、それからなんやかんやあって中学生に拉致されたらしい。『なんやかんやあって』とか言っちゃうあたりもう説明になってないが、上条にとってはあくまで自分は潔白だと言いたいらしい。

 

と、そこで見知らぬ茶髪の女の子から誰何(すいか)の問いが発せられた。どうやら知り合いである様子の三人に気を遣って今まで黙っていたようだが、話に置いてきぼりになるのが早くも嫌になってきたようだ。

 

「誰よ、アンタ達?」

「あー、名乗るほどのもんじゃねーさ。ただのコイツの知り合い。……そーだ上条、この際だからアドレス交換しとこうぜ?ここんとこ連絡つかなくて心配したからよ。」

「あ、ああ。別に良いけど。」

「サンキュー。」

 

偶然会ったついでに面倒な用事を済ませられてご満悦な様子の城島。

一方、軽くあしらわれた女の子はそんな態度にムッとしたが、「まあ私は無理矢理コイツを連れ回してるだけなんだし、知り合いっていうなら身を引くしかないか」と思い直す。

 

「あ、」

 

しかし、ある事に気がついてからはそうも言っていられなくなった。

紙ナプキンで綺麗に包まれたホットドッグが二つ、上条と自分の間にある、わずかなスペースに置いてあった。言うまでもなく上条と自分のホットドッグだが、どちらが上条が食べていたものか見分けがつかない。

 

「えっと……。アンタ、どっち食べてたか覚えてる?」

「ん…さあ?でも多分、右の方だと思うぞ。」

 

対して深く考えずに、上条は右のホットドッグへ手を伸ばす。と、茶髪の女の子が恐ろしい速度でその手首を掴んで止めた。

 

もう姫神は色々と察した。そして城島は使い慣れていない携帯の操作に四苦八苦していた。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。確かめさせて。」

「は?」

 

これから始まるであろう展開が読めて早くも胸焼けしつつある姫神は、城島の脇をちょいちょい肘でつついて催促し始めた。

 

「JOJO。もうすぐ昼食の時間。それに二人も用事があるから一緒にいるのだろうし。そろそろお暇しなきゃ。」

「ン?あーー、そうだな。でもちょっと待ってくれ。ここをこーして…」

 

まだ終わっとらんのか。そしてまだ何も察していないのかコイツは。そんな感じで姫神はあらゆる意味で呆れていたが、幸いにも程なくして登録は完了した。どうやら機械音痴という訳では無いらしい。

 

「よし。…じゃあな上条。あんまり宿題で参るよーなら、連絡してくれりゃあ手伝ってやっても良いぜ。」

「ま、マジですか!?……こういうのってなるべく自分で済ませたいんだけど、どうにもならなくなったら容赦なく頼むぞ。今日の上条さんは手段を選ばねえからな!!」

「お、おう。」

 

途端にギラついた視線を寄越してくる上条を見て若干後悔し始めていたが、吐いた唾は飲み込めない。姫神にグイグイと手を引っ張られながら、嫌な予感を拭えないでいる城島なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

姫神が言うように時刻はもう正午に差し掛かっている。とりあえず何か食べようということで話し合いをした結果、どうやら二人ともハンバーガーが食べたい気分らしかった。当然、最寄りのファーストフード店へと向かう運びとなったのだが…

 

「……混んでるな。」

「………。」

 

何が楽しいのかは知らないが、このクソ暑い中、どこもかしこも並ぶ人で溢れている。ファーストフードは手早く食べれるから「ファースト」だというのに、炎天下の中延々と待たされるとはどういうことだ。そも、”fast”なのに「ファースト」というのもおかしいではないか。”first”じゃないんだから「ファスト」で良いだろ、舐めてんのかチクショー!!…表には出さないものの、城島はそんな下らないことを考えるぐらいイラついていた。

とはいえ、その面倒を姫神に背負わせるわけにもいかないので自分が並ぼう…と、思ったのだが。

 

「はぁ…。それじゃ、適当なところで座って待っといてくれ。注文したら戻ってくるから。」

「いいの?私が行ってもいいけど。」

「バカ。それやった瞬間、オレにどんな肩書きが付くか文字に起こしてみろ。」

「『炎天下の中にも関わらず連れの女の子に並ばせておいて、自分は座って待つ男』…なるほど。でもJOJO。真夏の直射日光を考えると。店の中で並んでるより外で待ってる方が辛いと思う。」

「…………………………………確かに。」

 

そう言われればそうかもしれない。結局どちらがマシかは関係なく、城島は『炎天下の中にも関わらず女の子に並ばせておいて、自分は座って待つ男』という不名誉な称号を背負うという運命にあるのだった。…惨めである。文字に起こしてみろなんて言わなきゃ良かったものを。

 

そんな葛藤に苦しんでいる間に、姫神はさっさと列に並んでしまった。よほど人気のある店なのか、すぐに後続が並んであっという間にその姿が人の山の中に消えていってしまう。

あの人山を無理にかき分けて姫神の元まで行くのも周りの人に迷惑をかけそうだし、城島は諦めて、一人店の外でポツンと待つ事にする。

 

すると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「昼メシはも〜決めたかぃ?俺ぁパスタにしよっかなぁー。日本生まれ日本育ちっつったってさぁ、イタリアの食いもんがミョーにしっくりくるんだよなぁー。」

「テメーは何でも食うだろーがよ。どうせなら酒が合うもん、に、したら……、」

 

 

 

 

 

とても、とても聞き慣れた……忘れもしない、声だった。

 

「何ぃー?パスタに酒が合わねーっつーのかぁ?そりゃツマミとは言えねーけどよォ。お前は相変わらず、酒のなんたるかを分かってねぇぇなぁぁ。…ま、分かっていようが分かっていまいが……」

 

ゾクッ…と。ありえないほどの悪寒が背筋を(つた)う。

「気配がブレる」「切り替わる」。()()()といた時に数え切れないほど感じたその『感覚』が、感じられるはずのない場所から感じたからだと気づく間も無く。

 

背後から抱きつき、喉仏に『鉄球』を押し当ててきた()()()は、囁くようにこう言った。

 

「二度と機会は訪れないだろうが。…お前が俺と酒を飲む機会はな。」




うーんこの唐突なシリアス。バランス悪くないかなぁ…。

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