ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?〜雷霆兎の神聖譚〜   作:bear glasses

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宿敵(ミノタウロス)運命(アイズ・ヴァレンシュタイン)

ヴェルフとパーティを組んでから数日。

ヴェルフは今日【ファミリア】で色々と雑務があるらしく、今日は不参加となった。

 

その中で、ベルは一人ダンジョンに潜っていた。

 

ヴェルフの作品たるナイフに、祖父から貰ったナイフを付けて、駆けていた。

 

零細ファミリアである為、社畜の如く働かざるを得ないのだ。

 

しかし、今ベルは正しく脱兎のごとく駆け抜けていた。なぜなら――――――――――

 

『ヴモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

「ハ、ハハハ」

 

「なんで、第五階層(・・・・)にミノタウロスが居るんだよ………ッ!!!」

 

ミノタウロス—————————Lv.1のベルでは到底倒せない敵が現れた為だ。

 

かといって、逃げることも出来ない。逃げ出そうがいつかは死ぬ。だから————

 

『ヴゥウウ…………!!』

「ぶっ潰す!!」

 

たとえ無理でも此処で倒す!!

 

『ヴゥウウウモォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』

「—————————ッ!」

 

振りかざされる攻撃を避ける。そして

 

――――――想起する。

 

ああ、そうだ。あれしかない。ミノタウロスと戦った非力なる英雄など、あの英雄しかいないだろう。

 

『ヴモォオオオオオオオ!!』

「うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

高速で移動し、襲い掛かる刃をすり抜け、想起された英雄の魔法を詠唱していく。

 

 

「【嗤え。謳え。滑稽たる英雄(道化)】!」

 

振りかざされる暴力を避ける。詠唱を続ける。

 

「【才持たぬ身を以て嗤え!始まりを謳え!人の嘆きと悲しみを破壊しろ!】」

 

1歩間違えれば死ぬ。冷や汗が止まらないがしかし、頭は冷静を保つ。

 

「【精霊の雷を、友の魔剣の炎を以て迷宮の怪物を討滅せよ!その生と死を以て英雄の時代の幕開けを叫べ!】」

 

そしていよいよ最終節まで移行する。

 

「【偉大なりし英雄の船よ】!!【アルゴノゥト】!!」

 

祖父のナイフが雷を、ヴェルフのナイフが炎を纏う。

心が高揚する。身体を迸る雷がその強さを増していく。

思考すらも加速する。雷が()()()

駆け出す。

 

雷と炎の2つが連撃とともにミノタウロスに叩き込まれる。

この魔法は『ナニカ』が違う。何故か違う。体に馴染む。魔力が迸る。

このまま【ロスト・ケラウノス】を放っても大丈夫なくらいに。

 

『ヴ、モォオオオオオオオ!!!!!!!?』

 

しかし。あくまで感覚。確証はない。しかし、決定打がないのも事実。

ならばっ!

 

チャージ実行権を使用する。

 

リン、リン、リン、鈴の如き音が静かに鳴り響く。

 

振るわれる刃の嵐を避けていく。拳が自身の数ミリ横を掠り、奥の壁を殴り砕く。

 

怖い。逃げたい。投げ出したい。しかし、そうはいかない。自身は逃げ切れるだろう。

しかし、それを己が是とするか?否。断じて否。負ける訳には行かない。逃げる訳にも行かない。これで逃げたらもっと大勢が犠牲になる。

誰かを護れ、力を尽くせ、心を燃やせっ!

 

リィイイイイイン、リィイイイイイン⋯!!と、音は凄まじさを増し、感覚的にもう無理だと察知した、10秒のチャージ後。

 

「【遺されし我が身に来たれ雷霆】!」

 

詠唱を開始する。

何かを察知したのか、先ほどよりも焦ったようにミノタウロスが攻撃を加えていく。ベルは付加魔法のリソースをひたすら回避に使い、避け続ける。

 

『ヴモァアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛! ! ! ! ! !』

「【灰燼すら残さず焼き尽くせ】!!」

 

苛烈になっていくミノタウロスの攻撃。進む詠唱。

 

『ウ゛モ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛! ! ! ! !』

「【失われし大いなる雷光(ひかり)よ】!!!」

 

そして、最後、全霊の拳がベルに迫る。しかし、それよりも1拍早く、魔法は完成した。

 

「【輝け】、【ロスト・ケラウノス】!!!!」

 

瞬間、眩い雷火が迸り—————————————————

 

世界が、白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が消えて、残った迷宮には

 

精神枯渇(マインド・ゼロ)』で気絶し、倒れた少年(ベル・クラネル)と、ミノタウロスの魔石、そして、戦いの一部始終を見ていた(・・・・・・・・・・・・)剣姫(アイズ・ヴァレンシュタイン)が居た。

 

「ミノタウロスを、倒した—————————?」

 

全くの無名の、恐らくはLv.1であろう少年が、ミノタウロスを倒したという事実に、剣姫は暫く放心していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—————————————

 

剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインは愕然としていた。

自身が逃したミノタウロスを倒してしまった兎の様な少年の強さに。

 

「(一体、どうすればこんな強さを……)」

 

純粋に、興味が湧いた。この少年に。この強さの秘訣に。

 

「(知りたい。教えてほしい)」

 

自然と、足が動いた。近くまで来て、しゃがみ込む。

 

「(気持ちよさそうな寝顔)」

 

安らかで、庇護欲をそそられる寝顔。

 

「ふふ……」

 

かわいいな。と、純粋に思った。何故だろう、初対面の筈のこの子をとても好ましく思う。

 

「たしか、こういう時は—————————————」

 

膝枕?すればいいんだっけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————

 

 

ふと、目が覚める。瞬間、目に入ったのは————————————

 

金色。輝くような、美しく、艶やかな金色の髪と瞳を持つ、綺麗な女性。わかった、わかってしまった。金の髪と金の瞳、青い装備に身を包む、美しい女性。

第一級冒険者。

————【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

「あ、起きた………?」

「う、あ………」

 

顔に熱が集中する。喉が乾く、動悸が激しくなる。

 

「あ、ああああ」

「……?」

 

ああ、僕は、僕はアイズ・ヴァレンシュタイン(このヒト)に、

 

恋を、した。

 

「ねぇ、大丈夫?」

「だ、大丈夫ですっ!!」

 

慌てて状況を把握する。後頭部に柔らかな感触。視界に少女の顔。これは、これは———

 

膝枕だ。

膝 枕 だ っ ! ! !(大事なことなので二回(ry)

 

「失礼します!!」

 

慌てて起き上がり、飛びのく。

 

「あっ……」

 

何故か残念そうな声が聴こえたが、気のせいだ。気のせいったら気のせいだ!!

 

「すいませんでしたぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

急いで地上にダッシュする!!

今の真っ赤な顔を見られたら恥ずかして死んでしまう———————!!!

 

 

 

 

因みに、このことは秒速で触れ回ったらしく、ベルはその後非公式に「剣姫お気に入りの愛玩兎(アイズのペット)」という。不名誉な2つ名をつけられることとなった。

更には、ロキ・ファミリアとアイズのファンからの視線が針のむしろレベルでやばくなった。

ベルの胃は軽く死んだらしい。

 


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