その戦いに終わり無く
例え血と硝煙に塗れた魂は穢れていても
是非もなしと笑い飛ばすのだ
______疲れた、果てしなく眠みぃ。
そう言って寝転がる。
遠方のウルクではティアマト神が鎖に縛られているのが辛うじて見えるが。
身に纏う怨嗟は最愛によって鎮められた反面、それにより格が不足している。
無理矢理拡張した器と中身が吊り合わずに消えかけている長政にそれはあまりに遠い。
激しい憎悪に、怨嗟と憤怒。
狂気に焼べたそれらが燃え尽きて、満身創痍といった風情。
何より悪感情が尽きた今、ティアマトに対して感じるのはだだ
憐れな事だ。
かつては原初の海、全ての母として多くから愛されたモノが今は人類に仇なす悪となるとは。
刹那、天空からの閃光が神を穿つ。
眩い光は神を射抜き、地を崩してその巨体を地に叩き落とした。
中々やりおる……さて、そろそろ……動くかね。
我が愛しき家族を守る為、そして運命に踊らされた女神を終わらせる為。
策は有る、最高に狂った奴が、一つ。
口笛を吹けば傷だらけの愛馬がそれでも創健な姿で現れ、長政のプランは決まった。
『おいバカ共、まだ生きてんなら……一つ賭けだ、乗れよ。』
悪かない、ここでミスったら全滅だが、ミスらなきゃ行ける。
「今更何をするんじゃ………」
「正直私はともかくもう二人は動けませんよね?多分。」
そうだな。
俺一人じゃ無理だ。
ずっと考えてた。
俺の宝具。
人と人とを繋ぎ合わせる宝具。
正直な話………しょぼい。
直接的な破壊力も、有用性も殆ど無い。
誰だってカッケー宝具が良いだろ?
だが、今になって理解した。
俺を_______浅井長政を英雄たらしめたのは、その武勇じゃなかったワケだ。
織田と上杉を
領民と兵らを
戦国の世を
故に浅井長政は英雄と呼ばれる。
戦乱の中、それが一時のまやかしだったとしても。
誰もが無理だと考えた泰平の世を創った。
それが、それだけが、夜叉に依らない浅井長政としての偉業。
つまり俺の宝具は、これが相応しいらしい。
元より俺は混ざり物。神と魔を有する怪物なら、自らを形取る楔であり。
そして二人の友の肩を抱く。
右に魔王、左に神。
魔と神は水と油、強大さ故に決して交わらぬ。
ならばやる事は変わらない。この身は半ば神、半ば魔。
いつものように
それしか俺には出来ないし、俺には残ってないが………………
存外、これが俺の生きた意味だったのだろう。
「!?!?!?なんじゃコレぇぇぇ!?」
『ふむ、偶には食べられる方も悪くは……』
「余裕かお主!」
刹那、我が身が鎖へと変貌した錯覚に囚われ、友らの身体を貫き。
絡み合い、喰らい、繋がって___________人の形を得る。
随分と高くなった背に少々困惑しつつ、腰袋から煙草を取り出して指先の炎で灯す。
『人の力奪っといて最初に使うのがそれかの………』
何処かでドヤされた気もしたが………気の所為だろう。うん。
風貌も一新。
全体的に和甲冑の雰囲気を残しつつも何処か異国めいた風貌。
信長の無駄に大きいマントは今の姿を予測した様に適合。
急所を重点的に守りつつ動き易さを重視した鎧。
充分だ、急ごうか。
『変化の象徴たる貴様が〖悠久〗を望むとは実に皮肉な物だな、ティアマトよ。』
『だが我はそんな貴様を許そう。貴様を仇の様に愛し、我が子の様に憎もう。」
仰々しく手を開き、戯曲的に語る。
『我が身は滅び。人の世を蝕み続け、発展を促し生を尊ぶが為の自浄作用。
世界の為に
より良い未来へと進むための犠牲。
ささやかな平和を築く為の自浄機構。
かくして、必要悪は人類悪を嗤う。
世を呪い続ける悪逆は世を愛する悪辣を嘲罵する。
『未来の為、明日を拓く為。我は無限に滅ぼし、夢幻に滅ぼされるのだ。』
世界が焼けていく。
大地から。海から。
使い魔から。地母神から。
神性が火の粉を上げて、ゆっくりと。
「あつ!ちょっと!どうなってるのだわ!?」
『藤丸君!所長!そっちはどうなっているんだい!?観測グラフが滅茶苦茶だ!』
「たわけめ!見て分からぬか。アレは破戒だ、神という戒めとの決別よ。」
ギルガメッシュ、エレキシュガル、イシュタル。
彼らもまたその身の一部を焔に焼かれていた。
『この世に蔓延る神よ、その神性は人の世には最早不要。ならば我が滅ぼそう。
忌まわしき戒律を破戒し。呪われた世界を破界し。その神格を破壊し尽くす。
我が此処に訣別を宣言する、この身を薪と滅ぼしたとしても。』
それは禁忌。
神とその所業の否定。
神を焼き殺す神が……或いは、魔を裁く魔が。
それらを地に叩き落とす為に生み出した炎。
漏れ出た炎が既に神性を焦がし、その身を薪に。
「ここから先は人の時代だ。『一期栄華是夢幻の如く』_______墜ちな、お嬢ちゃん。」
爆散し、燒き滅ぼす。
氾濫した焔はティアマト神を焼き焦がし、世界を業火に包み込んだ。
明転した世界はやがて形を取り戻し、元あった姿を取り戻す。
地底の一同さえ思わず目を瞑る程の光が収まれば、地に堕ちたティアマト神が。
そして爆炎を伴い、地に降り立った男は一同を激して叫ぶ。
『こっからだお前たち。同じ土俵に、同じ地平!地に堕ちた神を終わらせてみせろ!』
その手に持つ巨大な金棒が地母神を指す。
こうして、神殺しが成されようとしていた。
『一期栄華是夢幻の如く』
世を蝕み続ける滅びは世を愛し続ける。
呪いが例え誰に望まれぬ物だと知って尚。
生きる為には、滅びねばならない。
かくして狂気孕む偏愛は神を穿つ焔となった。
いつか見た、眩き輝き身を焦がす星に。
憧れ、焦がれ、届かぬと分かれど手を伸ばし続け______漸く辿り着いた。