鬼夜叉と呼ばれた男   作:CATARINA

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帰蝶さんがサーヴァントになるならこんな感じかな、と。


毒蛾

ミゼーアが去ってから半刻ほど経っただろうか。

どうにか身体を動かし、立ち上がる事に成功する。

一先ず応急処置程度だけど、と言う帰蝶に素直に応じて一息つく。

身体では今直ぐにでもミゼーアの援護に回らねばならないのは分かってはいるが…

心に身体が着いて行かない。どうにもその力が湧いてこないのだった。

「心配かしら?」

妖艶な笑みを浮かべながら帰蝶は問う。

心配……と言うのとは違うのだ、その……

「大丈夫ですよ。マスター。」

市は語る、自らも時折無力感に苛まれて居た事を。

「でも___それで良いんです。自分に出来ることを出来るだけ全力で。

マスターは貴女のベストを尽くしました!褒めてあげます!」

座り込む所長の頭をわしゃわしゃと撫でる市。

雷光に巻き込まれたジャックの傷も大事には至らないと分かり、力が抜ける。

 

 

 

 

 

_________だからソレの接近には気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

圧倒的な威圧感、強大過ぎる力、吐き気を催す程の嫌悪感。

なんだこれは。

刹那、猛烈なプレッシャーを感じ、即座に市と帰蝶は二人を抱えて飛び退る。

そこに居たのは____

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。」

「多少は使えるかと思ったが―――小間使いすらできぬとは興醒めだ。」

「下らない。実に下らない。やはり人間は時代(トキ)を重ねるごとに劣化する。」

 

姿を見るまでもない。名前を聞くまでもない。

 

「………む?どうした塵芥共、何をそんなに惚けている?知能のない猿か?」

「だがよかろう、その無様さが気に入った。聞きたいなら教えてやろう。」

「我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。」

 

それは諦観にも似た絶望。

その乱入者はそれ程までに強大だった。

 

 

 

 

「名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ。」

 

 

 

 

 


 

 

 

冠位。

童話作家曰く通常のサーヴァントよりも一段階上の器を持って顕現した英霊。

 

曰く人間(霊長)と、人間によって築き上げられた文明を滅亡させる大災害、即ち人類悪を滅ぼすため、天の御使いとして遣わされるその時代最高峰の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。

曰く人類存続を守る抑止力の召喚、霊長の世を救うための決戦魔術である降霊儀式・英霊召喚によって召喚されるのであり、召喚システム「聖杯戦争」の原点であり、此方は人間に扱えるように型落ちにしたもの。

 

尤も、正史にてそれを指摘する筈童話作家(アンデルセン)はこの場にいないのだが。

 

まず、構える間もなく帰蝶が閃光に灼き飛ばされる。

初撃では即死に至らぬも少なくともマトモに戦闘を行う事は、不可能に近い。

一拍置いて置かれている状況に気が付いた市の判断は早い。

同軌道で苦無を二本投合しつつワイヤーを帰蝶に絡め、テコの原理で引き寄せる。

その力を無駄にせず飛び上がり、ソロモンに切りかかる。

 

しかし、ソロモンが一度手を払うとそれだけで市は吹き飛ばされた。

そもそものスペックが違うにも程がある。

 

冠位(グランド)

それは星の数ほども存在する英霊達の中でも特出して選ばれた七騎に与えられる。

つまりだ、相性や状況の差異こそあれ____

冠位を持つソロモンはサーヴァントの中で()()でも七番目には強いのだ。

 

 

 

 

所長はここに来てようやく我に返る。

しかしそれはあまりに遅く、あまりにも致命的だった。

魔法陣がこちらに照準を定める。とても避け切れない。

あの魔法陣から射出される魔術の威力の程は優にかの聖剣に匹敵するだろう。

その威力も、規模も、速さも。

とても生身の所長に避けられるものではない。

 

しかし十全たる殺意の篭った光は僅かに人の一人分を避けて外れた。

外した?何故?

ソロモンも意外だったのか顔を顰めると数回に渡って攻撃をする、が。

それらは全て僅かに逸れ、かすり傷一つ与える事が出来ない。

やがて所長は___恐らくはソロモンも。

ほぼ同時に気が付く。戦場に何故か甘ったるい香りが漂っている事に。

その発生源をサーヴァントの優れた五感によって特定し、ソロモンは歯噛みした。

 

「ッ……そうか、貴様か!存在価値もない毒虫風情が!!!」

 

ソロモンが睨みつける先。

特に空気が淀み、濁ったその先にて妖艶なる笑みを携えていたのは………

「あらぁ…バレちゃったかしら?ふふっ………勘が良いのね。」

 

傷だらけながら、微笑みを携えた帰蝶その人であった。




おまけ

地上では___

「吹き飛べ、必殺! 『黄金衝撃(ゴォォオルデン・スパァァァァクッ)』!!!」

「―――成る程、雷神の子と言うだけはある!」
「活性魔霧の中でよくやる! 通常のサーヴァントであれば霊核を呑まれていよう!」

ロンドンに召喚されたはぐれのサーヴァント、坂田金時とニコラ・テスラが鎬を削っていた。

「ちょっと! 金時さん、近寄らないでくださいますぅ!? 静電気で毛なみがパーリパリするんですけどー!」

……そして何故か金時に着いてきた(玉藻)
戦場は混沌としていた。


さーて、どうなってるんですかね。
夢の二階建てバスはいずこ? 大英博物館、時計塔、セント・ホール大聖堂はいずこ?
この不気味な霧は何です? どうして、昼日中なのに誰もいないんです?
楽しみにしていたフィッシュアンドチップスは? 密かに憧れていたアフタヌーンティーは?
スコーンは? クロテッドクリームは? フォートナム&メイソーンの本店は?
これ、もう半分以上は廃墟っぽい雰囲気ですけれど?
みこっ? もしかしてロンドン、サクッと滅びかけてません?
ご主人様とのハネムーンへの予行練習にと、ロンドン旅行に付いて来てみれば何ですこれ?

この狐、金時の召喚にタダ乗りしてきた割にこの態度である。

ああもう、どうなってるのでしょう。
あーせめてなーどこかになー抜群のイケメンでもいないかなー…

『失礼、お若いレディー。ここは危険かと。今少し下がる事をオススメ致します。』

へ?

『……む…これはこれは位の高い神の名を冠するお方とお見受けしました。知らぬ事とは言え、無作法をお許しくださいませ。』

優雅に一礼、その作法はまさに完璧であり、誰もが規範とすべきものだった。
それを見た玉藻は_____

「あっ、イケメンだ。」
無意識下にそう呟いたのだった。

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