「はいとーちゃーく!こちらが我々の前線基地となりまーす!」
「………ん、ついた…ウォッカ……アルコール……」
「あーちょっと待って05さん!先輩が居ないのに貴女がアルコール入れるのは不味いですよ!」
「……むー…02、ケチ…仕方ないから……待つ……Zzz…」
何だこの幼女…(身長128cm)
そう、それは兵士と呼ぶには余りにも幼すぎた。
小さく、非力で、カルデアの
それはまさに幼女であった。
そのまま基地にて夜を迎えた。
基地に居たサーヴァント、ナイチンゲールによってあわや首を切られる所々だったりしたのだが、
何とか切り抜け、立香はそのまま寝込んでしまった。
目が覚めると時刻は深夜。
男に無理矢理犯されかけた嫌悪感からか、風呂に入っていない事を思い出し、身震いする。
『……ああ、貴女、お風呂は共同ですが二十四時間空いてますから好きに入って下さいねー。』
02と呼ばれた女が確かそう言っていた筈。
この時間なら入る者も居ないだろう。身体だけ流しに行こう。
目的の浴場は簡単に見つかった。
どうやら日本の浴場と同じくしっかりと湯を張るタイプの浴場のようだ。
それはいい。お風呂に入れるのはとても有難いのだ。
問題は一つだった。
丁度服を脱ぎ始めた時に扉が開き、入ってきたのは____
「……………すまない。邪魔をしたなら後で入ろう。」
血塗れの01だった。
……………………?
……………………
……………………!?
『お風呂は共同ですが__』
…混浴じゃん。
思考停止する事数十秒。
「おい、おい!」
声をかけられて気が付いた。
すると先程まで扉の所に居たというのに手が届くような位置に男は居た。
分かっている、自分の事を心配して声をかける為に近付いたのだ、
分かっている。分かってはいるが___
「ッ……!!!」
思わず身体が強ばる。
男に力づくで組み伏せられた瞬間の恐怖が過ぎり、声が出なくなる。
「………ああ、お前は……配慮に欠けていた。本当にすまない。」
あ、ああ。
違う、この人は別に悪くないのだ。
ただ自分の一方的な感情で、相手を不快にさせているのだ。
話題、何か別の話題を、話さなきゃ。
「あ、え、えっと、その怪我、大丈夫ですか!?」
去ろうとする男の背中に問う。
「…いや、殆どは返り血だ。怪我は負ってない。」
「あっ、じ、じゃあ!」
どうしてこうなった。
何故私は『一緒に入りませんか?』なんて言ってしまったんだ。
正直、気になってしょうがない。
これじゃ私痴女みたいじゃ___「おい。」
「はひっ!?」
しまった、変な声が出た。
「なんだそりゃ…本当に出なくて良かったのか?
……あんな事があったんだ。その反応も無理はねぇさ。」
………うん。落ち着いてきたから。
「……強えな。信じられん。今までどんな経験をしてきやがったんだお前…」
呆れた様な表情を浮かべて苦笑いする男。
その表情は何時だか見た事があった気がした。
「…まぁ、無理はするな。見たところお前はまだ16か17そこらだろう。
確かに随分な経験を積んだようだが…まだお前は親に甘えてたって問題無い歳なんだからな。」
冷静になった立香はぼんやりと男の姿を見る。
局部こそ隠してはいるがその肢体は筋力隆々であり、
恐らくは長政にも劣らない程に作り込まれている。
そしてよく見れば、五体の隅々まで余すこと無く大小様々な傷が全身に刻まれている。
切り傷、弾痕、火傷に打撲痕。
一つ一つが命に響きかねない様な傷も幾つも有るようだ。
「なぁ…そんなに気になるか?面白いモンでもあるまいに。」
いや、よく似てるのだ。
『どうしたよ立香ちゃん…ああ、この傷痕か?…まーまー気にすんなって。
何かを守る為の傷は幾ら負っても恥にはならねぇからなぁ。』
「……成程。随分と幸せなサーヴァントなんだな。」
…………逆上せそうだ。
先に上がる旨を伝えると男は「……無理かもしれんが良く休んでおけ。」と呟くとそのまま目を閉じた。
立香は着替える(02から借りた。本人曰く私服。)とそのままベットに潜り込んだ。
不思議と、先程までの嫌悪感などは薄れ、穏やかな気持ちで意識は闇に呑まれていった。
…………守る為の傷か。
守る………ねぇ。
……………忘れちまったなぁ。そんな事。
凶悪で、下衆な危険人物から未来を奪った。
将来の危険に
罪の無い人々から平穏な日常を奪った。
老人も、青年も、女に、子供。
………生まれたばかりの赤子だって。
何かを奪う度に一つずつ身体に疵が増えた。
一つ、一つずつ。
最初は、苦痛に喘いでいた筈だ。
だが、もはや何も思う事が出来ない。
空っぽだ。俺は、空っぽなんだ。
積み上げて来た過去がその人間を成すと言うのなら、俺は何なんだろうか。
……分からない。
答えは見つからず、否、最初から答えなど無いのかもしれない。
何の意味も無い問いに自嘲し、風呂から上がる。
………自室へと帰りながら考える。
ここまで欠損しているなら、いっそ感情もなにもかも、消えてしまえば良いのに。
部屋で銃の手入れでもするか…そう思った刹那隣の扉が開き、中に引き擦りこまれる。
腰に回された小さな手を見て気がつく。
「………
「ん……なやんでそうだったから…」
そう言って一度01を解放した少女はベットに腰掛けると手を差し出し、告げる。
「なにもいわなくていい………おいで。」
「………………」
そのまま二つの影は重なり合い、やがて動かなくなった。
どっかで見た事あんな?こんなやつと思った人へ。
ヒント、UBW