【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか?   作:米ビーバー

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時系列:中等部3年生時代。

中等部でみぽりんたちと連絡先を交換するちょっと前辺り


閑話:聖グロの聖夜流儀

 

 イギリスの街並みを参考にした時代を感じさせるレンガ外観の建物が並ぶ聖グロリアーナ学園艦。その街並みを見下ろすように立つ赤い服と白い付け髭の幼女というクッソ怪しい人物、これは通報不可避ですわ。

 

 

 

 ―――まあ俺なんだが。

 

 

 

 伝票をポケットから取り出して確認。

 

「じゃ―――行きますかね」

 

屋上から地を蹴って跳ぶ。空中で態勢を入れ替え、身をひねってサンタ服の下に仕込んだフック付きワイヤーを投げる。そのままSWATのロープ昇降かどっかの蜘蛛男のようにフックを支点にして壁を走る。屋上の屋根の雨樋(あまどい)にひっかけたフックが樋の上を滑るように移動するのに合わせて体重移動して壁を駆け抜け――

 

 

 跳ぶ。

 

 

ターザンジャンプとかそういうモノではなく、ただの勢いをつけたジャンプで近くの邸宅の屋根の上、飛び出た煙突の中にそのままホールインワン!両手両足を広げて、手袋とブーツで壁面の煤を掃除削りながら暖炉の入り口まで一直線に。

 音もなく暖炉から這い出して、隣の部屋へとスニーキング。

 

施錠はされていない、“そうなっている”。

 

 スルリと部屋に滑り込み、煤除けのために袋に突っ込んでたプレゼントを静かに眠る少女の枕元にそっと置いてもう一度逆回しの手順で煙突の外まで這い出して、一仕事終了。伝票に完了済みのスタンプを押してから腰のポーチに捩じり込んで耳のインカムを起動させる。

 

「デルタツーより本部へ、西地区の配達終了。次はどっちだ?」

『本部よりデルタツー、アルファワン・アルファツーのお手伝いをお願い。全体的に配達が遅れてるから――あなたの活躍に期待してるわ』

「了解。とっとと終わらせてあったかい珈琲が欲しいとこだわ」

 

通信を切って溜息を吐くと白い煙になって消えていく。

今宵はクリスマス。世界中で親御さんが財布と相談しつつ子供の夢を護る日である。(偏見)

 

 

 

 ********

 

 

 

 ―――なぜこんなことになったのか? 話は数日前にさかのぼる。 

 

「―――サンタクロース?」

「ええ、サンタクロースです」

 

 紅茶の園でいつもの仕事をしていた俺こと天翔エミは話を持ってきたダージリンにクッソ間抜けなツラで聞き返していた。っていうかサンタクロースって何やねん(素)

 

 

「ご町内でサンタの国家資格を持っていたご老人が毎年サンタを引き受けてくださっていたのですが」

「待て待て待て待て、情報が飽和する情報が飽和する」

 

 国家資格サンタのお爺さんって何やねん工藤()というツラの俺に「無学とは恐ろしいものですね」と煽りから入るブリカスの鑑。

 

 

 

 

 

 

 【サンタクロース資格試験】

 なんかグリーンランドにある『グリーンランド国際サンタクロース協会』が実施している資格試験をクリアすると『グリーンランド公認サンタ』の資格を得ることができるらしい。

 主な試験内容は『体力試験』、荷物の入った袋を背負って平地を走り抜け、屋根の上に昇り、煙突を潜り抜けて対象の部屋に潜り込みプレゼントを置いて撤退するまでのタイムアタック。

 『面接試験』デンマーク語と英語、アイルランド語でそれぞれ自己紹介して面接官にアッピルする。

 『身だしなみ試験』サンタの普段の服装をして着こなしが完璧であること、そして体重が装備込みで最低120kg以上の「サンタ体型」であること。

 「サンタとしての活動実績がある事」と「既婚済みで子供がいること」である。

 

 

 

 

 

 

 

「ダメじゃん」

「ええ、ですから私たちはあくまで代理のバイト、でした」

 

 

 何でも聖グロでは社会奉仕の一環とかでサンタのお爺さんのお手伝いを毎回やって来ていたらしい。紅茶の園のトップが毎年お手伝いでサンタの恰好をしてお爺さんと一緒にプレゼントを配っていたらしい。のだが、寄る年波に勝てなかったサンタのじいちゃんが腰をイワしてしまってダウン。残されたのはサンタ経歴ナシのひよっこだけという状況。地味に詰んでんなこの状況。

 

「そこで、紅茶の園のメンバー、それこそ下働きの生徒たちも含めた人海戦術でサンタのお仕事を代行することになったのです」

 

 

 

 

 

 

 そういうことになった(夢枕獏感)

 

 

 そんなこんなで体力試験を簡素に行った結果、パルクールでそのまま団地や個人宅の煙突まで駆け上れる俺を筆頭に、片手にティーカップとソーサーを手にしたまま片手でキューポラを昇降できる筋力のダージリン、素の陸上ならば俺の速度にそこそこついて来れる速度を持つ舎弟ヒップがサンタ役でコスプレしつつ配布担当。

 データによる計算管理が得意なアッサム、サポート特化なペッコは本部で指示を出す役目と割り振りされ、なんか普通に遊びに来てたパイセンが自前のミニスカサンタ衣装で追加のサンタとして参戦し、他の紅茶の園の下っ端の方々を動員して、どうにかこうにか配達を終えたのであった―――。

 

 

 

 *******

 

 

 

 「最後の配達?」

「そう、私たちが本来するお仕事はこちらなの」 

 

 『がんばったねみんなお疲れ様会』と称した打ち上げ会でしこたま飲み食いしていい気分で帰って行った皆を見送ってから、やにわにそんなことをぶちまけてくれたのは当然今回話を持ってきたダージリンだった。お前ホントそういうとこやぞブリカスゥ!!

 

 

「今回聖グロリアーナ女学院の紅茶の園のメンバーを駆り出してしまったため、本来は紅茶の園の主要メンバーだけで済んでいたところを全員が寝入ってから朝までの間に全員分のプレゼントを配らなければならなくなりました。

 

 ―――よって、貴女に追加任務を与えます。天翔エミ」

 

 

 一方的にそんな感じの命令をぶん投げてくるブリカスに若干物申したいところではあった。が、最終的に俺はこの追加依頼を受けることになった。

 

 

 

 

 

 

 Case,1 ペッコ

 

 同じ寮なのでペッ後輩の部屋に侵入するのは割かし簡単だった。というか寮長に話を通しておいたらしくマスターキーを貰っていたので普通に入り口から入った。

 恋愛小説や詩集がきちんと整頓され、小物に混じって紅茶の缶が並んでいて、配合量やブレンド比率が缶の表面に記載されているマメな性格を表してる清潔なお部屋といったいかにもな部屋にベッドがあり、その上でペッコが寝息を立てていて、傍らにはクリスマス用のブーツサイズの靴下型手提げカバンが置いてあった。

 

「メェ~リィ~クリィィィスマァァァス」

 

 小さな声で囁きつつ靴下の中にプレゼント品【英国御用達の紅茶】の缶をねじ込んでミッションコンプリート。さて帰ろうかというところでテーブルの上に置いてあるものを視界にとらえた。

 やや冷め加減ではあるが暖かい紅茶の入ったポットとティーカップ、それとお皿の上に置かれたミンスパイ。英国クリスマスにおける【サンタさんへのもてなし】である。

 

 サンタクロースがプレゼントを持ってくるのに対し、返礼としてうちのテーブルに牛乳とクッキーを置いておくのが古来の習わし、マナーのようなもので、英国ではそれがホットワインや紅茶と英国の伝統菓子ミンスパイになっている。サンタはそれを一口ずつ頂いて帰るのがマナーとなっている―――ってサンタの簡易試験受けた時にパイセンがゆってた。

マナーにのっとりミンスパイを一口だけ齧って、同じく一口分の紅茶で流し込む。ミンスミートに使われたドライフルーツのオレンジと、ペッコオリジナルのブレンド紅茶がいい感じにマッチしていた。

 

 

 

 

 部屋を出たあとムクリと起き上がった小さな影は、食べかけのミンスパイと飲みかけの紅茶を専用の入れ物に移し替えて、薄く微笑んだ。

 

 

 

 

 

 Case.2 ローズヒップ

 

 英国淑女を手本としたお部屋に並ぶ江戸っ子か何かと見間違う謎のアイテムたち。土産物屋で買ってきたお土産物か何かなのか謎のペナント、形だけどうにか真似したくなったのか封が切られてない紅茶の缶。あとテーブルの上でしこたま濃厚な脂の匂いを放つ“ミンスパイらしきもの”とペットボトルの“●後の紅茶”

 いっそ清々しくも男らしい様相のお出迎えだが舎弟の部屋と考えると何もおかしなところはないな。(ブロ感) ともあれ、ベッドの上で半分ほど布団を跳ねのけて絶妙な寝相で眠っている舎弟のオフトンを直してやったりしつつ傍らの靴下(バッグ)に包装されたプレゼントボックスをねじ込んで、ミンスパイを一口。

 

 鼻の奥に抜ける濃厚な脂の香り、舌の上に乗っかる肉汁のソース……一口齧った断面図に映るみっちり肉。……まぎれもなくひき肉ですミンスミートのミートってそういう意味じゃねぇんだよヒップ*1……あ、でもきちんと火が通ってて若干冷めてたけど普通にピロシキかミートパイっぽくて美味かった件。

 

 

 ―――翌日から真新しいシューズでパルクールを追いかける忠犬がいたのだとか。

 

 

 

 

 

 

 Case.3 パイセン

 

「いらっしゃーい」

 

 普通にパイセンは起きてた。ライン越えとるやろパイセン!(素)

 

「私はいいのよアールグレイだから」

「(理由になって)ないです」

 

 そんなこんなで手ずから淹れてもらったアールグレイのフレーバーブレンドと苺のミンスパイでもてなされて部屋を後にしたのだった。サンタの仕事一切してないけどなんか満足げな笑顔をしてたんで良いのだろう。ヨシ!(現場猫)

 

 

 

 

 

 Case.4 アッサム

 

 一通りお仕事を終えて紅茶の園に戻ってくるとアッサムが珈琲を入れて待っていてくれていた。夜も遅いというのにお仕事熱心なことだと思う。

 

「とりあえず今度ジムに付き合ってくれる?貴女の身体データが取れたら今後のミッションに反映できるから」

「それでいいのかアッサム……」

 

 なんてやり取りがあったりした。アッサムと二人きりで外出とか実質ピロシキ案件じゃない?処すべきじゃない?(べき)

 

 

 

 

 

 Case.5 ダージリン

 

 全部が終わって「お疲れ様ー」した後で、紅茶の園をダージリンと一緒に退出。

 

「あぁ、忘れてた」とバッグからゴソゴソと取り出したのはプレゼントボックス。

何のことはない。パイセンから「コレ、渡しておいて」と言われていたシロモノである。やや呆然とこっちの説明を聞いてたのかも分からんレアフェイスなダージリンがハッと復活するまでしばらく。お疲れも―どで帰ろうとする身体をぐっと抱き上げられそのままぬいぐるみ状態でお持ち帰りされた件。なんでやねん

 

 なんかそのまま部屋まで連れ帰られた上、お客様テーブル降ろされて「少し待ってなさい」と言われた件―――誘拐かな?

 

 所在無さげにぼんやりと空を見上げながら、黒森峰のみぽりんとエリカがどんなクリスマスを送っているだろうか?と思っていたところ不意に口元に熱々の何かをねじ込まれた件。何しやがんだこのブリカスゥ!!?

 

 

「わたくし手ずから焼いたミンスパイですわ。お紅茶と一緒に粛々と召し上がれ、クソ生意気なサンタさん」

 

 

 そんな感じの言葉で煙に巻かれて紅茶で強引に流し込まれてよくわからんまま部屋から外に押し出された件。わけがわからんぞ、説明してくれ苗木ィ!!

 

 

 

*1
ダジ「ミンスパイは元々肉を使ったもので、ミンスミートのカツレツが日本でメンチカツの語源となった説がありますから、的外れでもありませんのよ?」」





 ――月――日

 ぼくはいま、びょういんにいます。


 豚ミンチを火を通さずにパイ生地に入れてレアかどうかもわからんまま食わせてはいけない。みんなも気を付けような!!

次回更新のお相手()

  • ダージリン
  • ペッコ
  • 舎弟ップ
  • アッサム
  • パイセン
  • その他
  • 本編更新して、やくめでしょ
  • 休憩やで

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