【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
「あっ。お姉様、ごきげんよう。申し訳ありませんでした、今お紅茶をお持ちしますので―――」
「ごきげんよう。気にしなくても良いわ。
―――そうだ。ねぇ貴女、紅茶の園に向かうのなら、コレ、途中で処分しておいて頂けるかしら?」
プラチナブロンドの髪を揺らし、どこか艶のある微笑みでにっこりと微笑むと、彼女はポケットに入っていたモノを取り出す。
シルクのシンプルなハンカチに包まれていたそれを、女王から下賜されたかのように恭しく受け取って、下級生の少女は首を傾げた。
「あの……お姉様?なんでこんなにたくさんのエチケットガムが?」
「―――こんな言葉を知っていて?“Speech is silver, silence is golden(雄弁は銀、沈黙は金)”」
薄く微笑んで去っていくその背姿を見送って、どういう意味なのか首をひねる下級生だった―――。
聖グロリアーナのモットーは「優雅に、華麗に、大胆に」
―――何故だろう?金髪縦ロールの悪役令嬢染みた河北の覇者様が垣間見えるのは。
冗談はさておき、グロリアーナの戦車たちは基本的に「鈍重」と言って良い。
聖グロの中枢、紅茶の園にはかつて現役だったOGたちが割と日参レベルでやって来るのだが―――こいつらが聖グロの弱点と言っても過言ではない。
チャーチル歩兵戦車推しのOG会「チャーチル会」
クルセイダー巡行戦車推しのOG会「クルセイダー会」
マチルダ歩兵戦車推しのOG会「マチルダ会」 の3つが最も有力なOG会で、
こいつらが「スポンサーについてやるから自分のとこの推しの戦車しか使うんじゃないぞ?」という縛りを与えて来る。
我らがダージリンやダージリンの上位存在アールグレイパイセンですら、この連中の相手は難しいらしく、こいつらの排除ができたとしても今度はスポンサーとして戦車道の資金源になってくれる後ろ盾が存在しなくなるのだそうな。
かくて聖グロはマチルダ・チャーチル・クルセイダーが主力の貧弱な火力、鈍重な足回りの車輛群になり、戦術もそれを活かした戦術しか取れなくなるというわけである。ぶっちゃけ、コメットやクロムウェル、ブラックプリンスがメインになれば聖グロは黒森峰相手でも引けを取らない練度がある。と、胸を張って言える。
浸透強襲戦術の基本、隊列を組んでの単縦陣。二重線複縦陣、斜行陣にヘリンボーン。頑丈で鈍足、貧弱な火力をカバーするために強靭な練度とたゆまぬ努力に裏付けられた一糸乱れぬ隊列行軍。経験した身としては操縦手や各車の車長、通信手の手腕に舌を巻かざるを得ない。
そしてそれを総括して俯瞰した盤面から動かして見せるのが―――所謂『天才』と称される所以なのだろう。
「全車、一斉射の後反転。―――美味しい紅茶が入ったころでしょう、帰還してティータイムにしましょうか」
『了解!!』
チャーチルの車長座席で通信機を使ってそんな指示を出したダージリン(真)は、操縦手の肩をソフトに蹴って指示を与える。
「お疲れ様。では、皆さんお茶にしましょう」
―――“あの一件”から早くも1か月、コイツは正式に「ダージリン」を下賜され、名実ともにダージリンとなっていた。
―――ええ、記憶消去失敗しましたよ?なにか?(恨み節)
実のところこの身体に転生し、TS人生を送り始めてからというもの、性欲とかそういうものとは完全に無縁の人生を歩んできた。崇高な使命を果たすべく巡礼を続ける聖職者の如くみほエリの成就のために努力を重ねてきた日々を顧みても、性欲とかそう言うのは別にないかなって……(みほエリ妄想はみほエリウムの摂取という必須作業なのでノーカン)
俺自身のことはさておき、実を言うと俺は自分の脳裏によぎるあの光景のフラッシュバックを恐れるあまり、ダージリンと会話ができないまま1か月が経過していたりする。ダージリンも俺との距離感を測り間違えたのは自覚してるのか、どうすればいいのかわからないまま、ただただ無為に時間だけが過ぎていく状態が続いている。今後も聖グロで戦車道を続けていくうえで、この空気のままはよろしくない。よろしくないのだが……
「―――それなりに長い付き合いの相手と距離感を間違えた。けれど現状それをどうするべきかわからず困惑中―――という心的状況の確率、73%ね」
「―――――!?」
背後からかけられた声に身を竦ませて振り返る。後ろに流した金髪と、髪を留める黒のリボン。おでこが特徴的なデータ主義の英国淑女。その名は
「―――ご、ごきげんようアッサム、さん」
「アッサムでいいと言いましたのに……ダージリンの友人なら後輩と言えど無下にいたしませんわよ?ヒルデ」
ヒルデ、というのは俺の烏帽子名「ぶりゅんひるで」を短縮したものらしい。もっとも、この名前で呼ばれるの好きじゃないってのは周知の事実なのでそう呼んで来るのはアッサムかパイセンくらいしかいないけども。
「ダージリンには気安く話しかけているのに私には気安さ80%減というのは、あまりいい気分ではないんですけど?」
「はぁ、すいません」
正直、ガルおじ的にもアッサムの印象が原作で薄すぎてどう対応していいやらわからんのだが……まだオレンジペコの方が出番多いしローズヒップくらいキャラが前面に押し出されてたらなぁと内心で愚痴ってみるテスト。
俺の気のない返事にどう思ったか定かではないが、「はぁ」と一息溜息を吐くと
「紅茶の園でダージリンが今一人で執務を行っている確率90%。空気を読まない闖入者がいる確率10%―――面倒なことになる前に、一度会話をしなさいな」
「アッハイ」
アッサムに促されて紅茶の園に向かうことになった。のはいいのだが―――実際問題、会って何を話せばいいのやらわからん。
現実として既にこの上なく面倒な状況になっている。解決の糸口も見えんし何よりダージリンが何であんなことやったのかの理由がわからん。一時の気の迷いとか、天才の考えが合理的過ぎて俺に理解できないという可能性もあるので一概にどうともいえないが―――まぁ腹割って話そう。今後に差し支えるとみほエリにも影響が出るし。
****** E for D
―――なぜあんなことをしてしまったのだろう?ここ最近、ずっと考えている。
あの日、ちょっとした悪戯心でエチケット用品をすべて隠して、困惑する彼女の様子を眺めているつもりだった。けれど紅茶の園に来てみれば、備品の茶葉が入って居らず、準備もできていない。下級生が蒼い顔をして慌てて学外まで買い付けに飛び出していく様子を尻目に、平常心を保とうと思っていても、嫌が応にもイライラは募っている。
そんな中にいつもの調子で入ってきて、いつもの調子で気のない返事を返し、いつもの調子で珈琲をがぶ飲みしている気楽そうな少女に、少しだけイライラをぶつけたかったのかもしれない。或いは、紅茶を未だ飲めていない喉の渇きを潤すために口に入れたキャンディが思ったよりも苦みが深く、“できなおし”を求めていたのかもしれない。
―――或いは、あれこそが私の求めていたものなのかも……
いやいやいやいやそれはない。彼女に求めているのは私が成長するための踏み台としての役割であり、いわば彼女は超えるべき壁の一人なのだ。現にこれまで彼女をそういう目で見てきたことなど一度たりとてなかった。
とはいえ、行動に移してしまったのは確かで、私はやってしまった後で状況に気付いて足早に外に出てしまっていた。内心での動揺を隠したまま部屋を出られたことについては自分を褒めたいと思う。
―――その後紅茶の園に入室した下級生が血を流して倒れている彼女の惨状を見て悲鳴を上げ……
―――病院から戻ってきた彼女は、私を露骨に避け始めた。
我ながら愚かにも程がある。こんな事態を予測できないはずがなかったというのに……。もはや彼女との関係は修復不可能になっているかもしれない。けれど、それを問い質すだけの勇気が私にはない。なにがしかの理由をつけて私と接触しないように立ち回っている彼女が“そう言う理由なのだ”と思えてしまえる今が精神的にどれほども楽で―――自己嫌悪が渦を巻く。
結局のところ私は、彼女に嫌われる理由を作っておきながら、彼女に拒絶されたくないのだ。傲慢にも程がある―――。
「―――はぁ……」
何度目になるのかわからない溜息を吐く。執務に関しては全く仕事にならない。負担が増えていると文句を言うアッサムは自分の仕事を片付けると自分の担当の苦情整理に向かうと言ってさっさと出て行った。
「――――――はぁ」
溜息は尽きない。答えは出ない。迷いは晴れない。重く、重く、沈んでいく。
ここ最近深く眠れていない―――――――
「久しぶりー……って、寝てるのか?おいフッド、起きてるか?」
―――揺蕩う様に微睡む思考の中、幽かに聞こえる声に。
「―――ごめんなさい」
縋るように手を伸ばし、掴んだそれを強く抱きしめて、何度も何度も繰り返し繰り返し謝り続けた。
「―――ごめんなさい、ごめんなさい、許してください、嫌わないで下さい。お願いします、お願いします―――」
―――数分後に掴んだ“それ”が何かに気付いたときに自分が何を口走っていたかを思い出し、穴があったら入りたいとはこんな気分なのかと理解することになる。
死にたい。
****** D for E
アッサムに言われるままに執務室に入ったらデスクに突っ伏して寝てたダージリンがいたので声をかけたところ、いきなり抱きしめられて何度も何度も繰り返し謝罪された件。
―――なんで?(困惑)
なんでこいつこんなに真に迫った心からの謝罪を繰り返してんの?なんで泣いてんの?何で俺に嫌われるのが悪いことなの?こいつ俺のライバル(自称)だったんじゃないの?なんなの?マジなんなの??(困惑)
という感じの困惑がひとしきり続き―――ダージリンが正気に戻り……
―――今しも切腹を始めてもおかしくないくらいハイライトが消えてる死んだ目のダージリンが床の上に直で正座してる件。
―――だからなんで?(二度目)
状況を改めて整理する。こいつのこの神妙な態度から考えて、さっきまでの謝罪は寝ぼけて間違えたとかではなく、俺に向けて宛てられたモノであると考えて良いだろう。となると何に対しての謝罪か というとこないだのアレなのだろう。
で、嫌わないでください。というワードにつながる。
俺の灰色っぽい脳細胞はフル回転していた。与えられたワードとヒントから正解を導き出してしまわないとこのままだとコイツが目の前でセップク☆チャレンジ!(きらきら道中)しかねないからである。頼んだぜ(脳内の)フィリップ!
で、出た結論なのだが―――
―――「ダージリンは効率的とかそういうぶっ飛んだ考えでやったわけではなく、最初からそれを目的として俺に口移しで飴玉を渡してきた。目的は俺とキスをすることである」かーらーのー
「何故俺をターゲットにしたのかは定かではないがコイツが同性相手にキスを迫るそっち系の趣味があることは間違いない」という結論に達した。
―――これは由々しき事態だと言わざるを得ない。
ダージリンはみぽりんの成長に欠かせないファクター足りうる存在だ。聖グロでの敗北があったからこそ決勝戦でティーガーの背面まで一気に回ってぶち抜くという離れ業をやってのけたのだし、こいつが居なかったら劇場版でみぽりんが8輛+まぽりんエリカ赤星さんの合計11輛で戦わなきゃならなくなるだろう。故にこいつを排除するという選択肢はない。みほエリのためにこいつは絶対に必要な存在だからだ。となると放置すべきか?となるとそういうわけにもいかない。
―――だってこいつ大洗にみぽりんがきたらエリカより物理的に距離が近いし(危機感)
仮にこいつが気に入った相手に紅茶を渡すというのが=好意の表れ だとするならば、俺にしたみたいにみぽりんに迫る可能性を否定できない。否定してはいけない。可能性が残る限りその危険性は憂慮してしかるべきであり、そしてそれはひいてはみほエリを根底からぶっ壊す獅子身中の虫足りえる存在と言えるのだ。
だったらこいつは排除すべきエネミーなのだが、先も言った通りこいつを排除するとみぽりんの成長や今後の展開に支障をきたす。ジレンマ半端ないぞこれぇ……
―――今気づいたけど、マチルダ会とかチャーチル会をどうにかしようとしてるときのダージリンとかパイセンってこんな気分だったのか。同じ立場になってはじめてわかる厄介さよ……
とりあえず、みぽりんに手を出すことだけは止めなければならない。それは俺の未来に向けて絶対に必要な確約である。その確約だけは取らなければ
「―――許すから、一つだけ約束してくれ」
俺の言葉に顔を上げてこっちを見るダージリン。ごめん、縋るような目ぇやめて、ダージリンで加害者だとはいえ原作キャラにそんな切ない表情させたとか俺ピロシキ不可避なの(危機感)
「―――その、この間のアレだけど……私は許すから、他の奴(みほエリ)に同じことするなよ!?いいな?!約束しろ!!」
「―――は?」
「いいから約束!!返事は!?」
「え、えぇと……はい。わかりました」
―――よしセーーーーーーフ!!!みぽりんに毒牙が向く可能性はなくなった!みほエリの芽は守られた!!
「絶対だぞ!約束したからな!!他の誰か(みほエリ)に同じことしたら許さんからな!!」
俺の剣幕に呆然とした極めてレアな表情のダージリンを放り出して紅茶の園を後にする。正直今はただこの空間から一秒でも早く逃げ出してしまいたかった。
―――無論。俺はこの時自分がどういう言い回しをしたかなど気にも留めていなかったし、それを聞いたダージリンが俺の言葉をどういう意図で受け止めるかなど、全く考えていなかった。
「―――その、この間のアレだけど……私は許すから、他の奴に同じことするなよ!?いいな?!約束しろ!!」
「絶対だぞ!約束したからな!!他の誰かに同じことしたら許さんからな!!」
ダジ「なにこの可愛い(独占欲マシマシな)いきもの」
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本編更新して、やくめでしょ
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休憩やで