【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
今日もまた、優雅で華麗で淑やかなる一日が―――
「―――あひゃぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!?待って待って待ってくださいましでございますですわぁぁぁ!!!」
―――始まりそうにない。
「―――どうしてこうなった……」
聖グロリアーナ女学園、紅茶の園主催“次期中等部紅茶の園メンバー採用オーディション”と銘打たれた垂れ幕の下、数十名の生徒がやや落ち着きなさげに整列していた。
ここに集められたのは“中等部戦車道履修生の中でも、特に成績優秀者”の中から選抜されたエリートたちである。―――正確には、来るもの拒まずで誰でもエントリーOKって告知したのだが……紅茶の園のネームバリューというのはアレだ、A●Bとかジャ〇ーズとかそういう系のアイドルオーディションに近しいモノらしく、エントリーする人はそれなりに自分を誇示できる人間でなければならない。という不文律でもあるのか、こう言った仕様になってしまった。
「―――頭が痛い話ね」
「ええ、全く」
小規模の面接をオーディションの試験枠の一つに考えていた当初の判断もあり、ダージリンとアッサムが隣り合って座っているのだが、二人とも非常に神妙な顔つきをしておられる(達観)。俺としてもこんな状態のオーディションでオレンジペコ(仮)が見つかるとは思えない。
―――だってあの子どっちかというと自己主張地味めな百合漫画・アニメのメイン主人公みたいな子やん(確信)どちらかというとこの手のエリート風吹かせてる連中にイジメられてるイメージが強いんだよなぁ……ペコ(仮)さん。
「In the middle of difficulty lies opportunity.―――困難の中に機会がある。と、願いたいものね……」
「アインシュタインだな」
ダージリンのうんざりした呟きにペコった*1俺に“よくできました”とわずかに微笑んで見せるダージリン。なおこのダージリンが格言を言って俺がペコるやり取りは最近頻繁に行われている。ペコれなかった場合罰ゲームと称して人をぬいぐるみのように抱き上げて見世物にして回るので俺にとって死活問題だったりする。精神(胃痛・吐血)的な意味で。精神的な意味で(大事なことなので二回言いました)
アッサムが言ってた「距離感」とは何だったのか?という疑問が出ないでもないが、最近ようやくわかってきた。こいつが『俺を苦しめるためにわざと抱っこ人形みたいな扱いをしている』ということに。とうの昔に距離感など掴み切っており、これらの行為は俺への嫌がらせ半分、からかい半分で行われているということだ。
くそうなんて奴だブリカスめが!おぼえてろいつか口の中に珈琲豆詰め込んでやる!!
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「―――皆さま、静粛に」
ザワザワヒソヒソと静かに騒いでいた連中がアッサムの一声で黙りこくる。心なしか、姿勢が正され列をなしているようにも見える―――軍隊かな?
静かになった講堂内を、しずしずと壇上に登るのはダージリン。皆を壇上から見下ろして、静かに口を開く。
「―――ではこれより、中等部の次期紅茶の園メンバーの採用試験を―――」
『おっ!お待ちくださいませぇぇぇぇぇぇでございますですわぁぁぁぁっっっ!!!』
講堂のスライド式の重厚な鉄扉を「でぇい!!」と気合一番、ふすまか何かのように“すぱーん!”と引き開け、ぜぇぜぇと肩で息をする女生徒が一人、講堂に入室してきた。薄紅色の髪はボサボサ、玉のように浮かんだ汗を袖を使って江戸っ子チックに拭いつつ、ややへろへろとした足取りで講堂に入ってきた少女は―――
「―――セーフでございますですの?」
「私個人の見立てだと、ぎりぎりかな?詳しくは壇上のフッド……っと、ダージリンに聞いてくれ」
俺の方へ向き直りそんな風な言葉を口にし、俺はと言えばそんな少女に返事を返しつつ、貼り付けた様な笑顔をひきつらせて努めて冷静に対処しようとするダージリンの方へ促した。
「―――ええ、その娘の言う通り、ギリギリ間に合いましたわ。ですが、聖グロリアーナの生徒たるもの、時間には余裕をもって、優雅に行動なさい」
「え?あ、はい!わっかりましたわー!!」
元気いっぱいに返事をして何故か直立不動から敬礼のポーズをとる少女にダージリンがそっぽを向く。小刻みにプルプル震えているところをみると、危険域かもしれない。
「―――はい、ダージリンに代わって説明しますわ。これより皆様には基礎体力・学力・政務・ティータイム・戦車道の5種目をこなしていただきます。どれも一定のボーダーラインが存在し、それを基点に足切りを行います。成績優秀者のうちこちらが選抜した1名、または2名を紅茶の園のメンバーとして新たに迎え入れることになります。よろしいですね?」
アッサムがダージリンのフォローに回り、説明役を買って出るとダージリンはそそくさと壇上を退き、舞台袖で蹲って身体を震わせていた。
―――ダージリンは割と笑い上戸の気質がある(ドラマCD話)
―――そして確認するまでもないわ。アレローズヒップだろ常識的に考えて(確信) オレンジペコを探して募集かけたらローズヒップがやってきた。何故こんなことになってしまったんだ!?(困惑)
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―――顛末をざっくりと端折って言うならば―――該当者はナシでFAでした(徒労感)
ローズヒップ(仮)?基礎体力と学力は問題なしだったんだ……うん。わかるだろ?紅茶の園での政務―――所謂「生徒会のおしごと」に関しては無理ゲー過ぎたのと、ティータイムに紅茶の淹れ方がまるで分らなかったため、そこで足切りに遭ったのだ。そしてやはりというかなんというか、オレンジペコ(仮)は今回の募集に居なかった(落胆)本末転倒ってこういう事なのだろうなぁ……orz
で、何故合格者が一人も出なかったのかというと―――足きりが確定していたローズヒップ(仮)とその他の連中を振り分けての紅白戦で、問題が起きた。と、いうか……問題という風に見ることすらできないモノが起きたというか……
―――ローズヒップ(仮)が紅白戦だというのに孤立したのである。
エリート気質いっぱいのモブさんズは講堂に遅れてやってきたローズヒップの様子と態度に大層ご立腹だったわけで……あとローズヒップ(仮)は優秀だが、所謂BC自由学園で言う所の外部生なわけで……中等部の普通科から唐突に「戦車に乗りたい」と言って戦車道科に編入を選択して乗り込んできたノリと勢いで生きてる野生児なのだ。そりゃぁ合うはずがない。水と油だし、ローズヒップ(仮)も願い下げだと息巻くし、拗れる拗れる。
最終的にアッサムとダージリンが仲裁に乗り出し、「どうせ彼女は足切りに遭うのだし、彼女VS他全部にして戦車の動きを見ては?」という結論に至った。結局エリート側からメンバーの供出も叶わなかったので戦力差も鑑みて、思い出作りもかねてでダージリンが自分のチャーチルのメンバーから操縦手と砲手を付ける形で始まった。……わけであるが―――ここでダージリンですら予想していなかった事態が起きる。
ローズヒップ(仮)、単騎無双で残りの連中をほぼすべて蹴散らす()
試合開始とともに爆音を上げて走り出したローズヒップのクルセイダーは、その試合中決して止まらず駆け回り続け、時にブッシュを突っ切り、時に丘を利用してショートジャンプし、時にドリフトして見せ、敵の攪乱からの一撃離脱を繰り返し、気が付けば周囲で動いているのは相手のフラッグとローズヒップ(仮)のクルセイダーだけだった―――結構外してたので残弾が尽きたクルセイダーが戦闘継続不可能となったが、どっちが勝者なのかは火を見るより明らかだった。
―――ローズヒップ(仮)、未経験者だよな……?
飛び交う悲鳴と轟音。音を立てて割れるダージリンのティーカップ。手から落としてしまったことに気付いていなかったダージリン。操縦手のレベル差ともいえるが、止まらずに走り回るように指示を出し、右に左に反転前進を足踏みで刻んで送るローズヒップ(仮)の指示が的確すぎる。そういえばコイツ劇場版では単騎で大学選抜のチャーフィーと互角の戦いしてたっけ?
桃ちゃんに撃破されたって事実で上書きされてたが、割とガチ強者なのでは……??
「―――惜しいわ」
「ええ、政務が-200%だったとしても、中等部でこの素質ならば戦車道でお釣りが来ます」
ダージリンとアッサムはあっさりと方向転換し、掌スクリュードリルでローズヒップ(仮)を採用としたのだが……
「―――納得ができませんのでございますですわ」
なんと当人がこれを拒否。理由は「自分がお紅茶を淹れるのに失敗したのは分かっているのでございます。試験に失敗している以上、合否判定で合格を出されるのは納得がいきませんでございます」ということらしい。
こうなるとアッサムダージリンも無理強いは出来ず、採用の件はお流れに。同時にローズヒップ(仮)が気に食わないからという理由で他の全部でタコ殴りにしようとして返り討ちに遭った他のメンバーもまた、一括で不適格として不採用人事になったのだ。
なお、紅茶の園に入室していなくても戦車道はできるということで、ローズヒップ(仮)が紅茶の園のメンバーに正式に認められるのはこれから2年後となる。
―――あれ?コレ根本的な目的(後継者問題)果たしてなくね?
******
「―――それで、どうなったんですか?」
紅茶の園の給湯室で、蒸らしの終わった紅茶をサーブしながら訪ねて来るこの間の下級生に「サンキュー」と返して受け取り、一口。
「―――うん。これはいいな、好きな香りだし、私の好みの味かもしれない」
「よかったぁ……お口にあったようで何よりです」
嬉しそうに両手を胸の前で合わせてニコニコと微笑む後輩を見てると自分が珈琲党だと言い出せないのだからしょうがないやん?飲むしかないやん?
これは紅茶への敗北ではない。この娘の持つ雰囲気に負けただけなのだ(強弁)
「―――あー……一応。紅茶の園は私と同級生で、紅茶の園に顔を出してなかった子がいたんで、その子が引き継いで隊長やることになった」
アッサムが連れてきたその子を見た時に俺も「あっ」となったわけだが―――コイツ二年生だっけ?とあの時今更なタイミングで気づいたんだ……(迂闊)
「当面の新隊長は“ニルギリ”。頭もよさそうだったし、中々いい隊長やってくれそうだよ」
いや本当、何で忘れてたかなあの人のこと(迫真)でもまぁ原作小説版ぐらいでしか登場しないし実質半分モブみたいなものだしなぁ……。なんてことを考えながらカップを傾けて紅茶を飲み干す。空になったカップを後輩に返してお礼をひとつ。
「ごっそさん。わざわざあんがとさん」
「いいえ、先輩のお役に立てたなら、幸いです」
そう言ってニッコリ微笑む後輩に手を振って、給湯室を後にする―――前に給湯室のドアの手前にダージリンが悠然と微笑んでいた。
「―――天翔エミ?いいご身分ですけど、そろそろ期末試験の時間でしてよ?お勉強はいかほどなのかしら?」
「あ、赤点は余裕で免れるし……」
日々の訓練にかまけてるとぶっちゃけ勉強なんぞやってられないのである。実際のとこ、今のままだと高校あたりで詰みそうではあるが、みほエリの芽吹きを確認できたら最悪高等部中退して中卒扱いで黒森峰学園艦の艦上街でバイトしながらみほエリを眺めていることすら考慮に入れている俺にとって、聖グロでの勉強に身が入らないのは仕方がないと言っていい(強弁&自己弁護)
ダージリンは俺の態度に「はぁ」と溜息を吐き
「いいこと?栄光あるグロリアーナにおいて、留年など許されません。私の隊で装填手に就いている以上、無様な成績は私の威信に響くと言っても過言ではなくてよ?私は自分のために貴女の学力を育てなければならないの」
「そりゃまたご苦労なことでー……」
今の気分を一言で言うならそう―――「知ったこっちゃねぇよ」である。
「こんな言葉を知っていて?【その年齢の知恵を持たない者は、その年齢のすべての困苦を持つ】」
―――やばい、わからん()
俺の沈黙にニッコリと微笑むと「じゃあそういう事で」と俺を抱き上げて連行しようと手を伸ばすダージリン。
「―――フランスの哲学者、ヴォルテール……正式にはフランソワ=マリー・アルエの言葉ですね」
後ろからかかった声と、伸びてきた腕にからめとられるようにぐっと後ろに引っ張られ、ぽすっと何かに当たって収まりよく収まった。背後に視線を向けると後輩がニコニコとした顔でダージリンを見上げている。ダージリンの伸ばされた手は対象を見失い(遊戯王感)所在無げに彷徨っていたが、やがてソーサーを支えていた片手に合流してカップを持ち上げる仕事に戻る。
「―――中々のお手前で」
「ありがとうございます。ダージリン様に褒めていただけるなんて、光栄です」
ニッコリ微笑み合う二人と後輩に抱っこされてる俺という構図で、俺を挟んで微笑み合いながら―――ダージリンが攻める。
「―――Envy is ignorance; imitation is suicide.*2」
「アメリカの思想家、ラルフ・ワルド・エマーソンの言葉ですね」
「―――Our riches, being in our brains.*3」
「オーストリアの作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの言葉ですね」
「―――Words are loaded pistols.*4」
「フランスの哲学者、ジャン=ポール・サルトルの言葉ですね」
撃てば響くとはこのことか。ダージリンの放つ格言を全弾撃ち返していく後輩。この漫才のボケとツッコミみたいなタイミングどっかで見たことあるぞオイ―――って言うか
―――オレンジペコ(仮)……お前だったのか(ごんぎつね感)
そりゃあオーディション来ないわ。最初から候補生で紅茶の園にいるんだもの。放っておいてもネームドになるなら一般公募に乗ってこねーわ……
唐突に真実にたどり着いてしまい、力が抜ける俺を支える後輩。ぎゅっと強く抱きしめるようにして支えてくれるのはいいんだけど、距離近い。近くない?(ジッサイ近い)だがとりあえずオレンジペコ(仮)とダージリンが出会ったし、あとは勝手にパートナーになるだろう。この漫才師並みのツーカーなやり取り見てればわかる(確信)
「―――天翔エミ、貴女ならこの子にどんな冠名を付けるのかしら?」
「え?ああ……オレンジペコで」
ダージリンに水を向けられて即座に返す。と、ダージリンがなんかこう、味わい深い表情に変わった。
「―――無知だ無知だと思っていたら……本当にこの子は……いいこと天翔エミ?
“紅茶の園の
「あぁ、オレンジペコさんは高等部にまだいるのか」
―――というかこの言い方ということは俺がパイセンに引っ張り上げられて紅茶の園でダージリンがまだダージリン(仮)だったころに一緒に紅茶の園で活動してたってことなのだろう。そりゃ呆れもするだろう。だが待ってほしい、あのパイセンのキャラの濃さで他の先輩たちが記憶に残るだろうか?いや残るはずがない(反語表現)
ダージリンはひとしきりお説教じみたことを言ってからその場を離れ、残された俺は漸く自由を取り戻せた。
「先輩。私が高等部に昇級したら、オレンジペコ様も卒業します。その時は、私にオレンジペコの冠名をくださいますか?」
「え?それまで冠名つかないけど、それでいいの?」
「先輩が私に相応しいと言ってくださった名前ですから」
と返された、何この子。天使か()
クォレハァ、ダーペコかペコダーを責任もって成し遂げてあげなければなぁ……(使命感)
「オッケーだ。約束しよう」
―――なお、ネタバレするならこの時の約束は果たされない(無慈悲)
ダー「―――嫉妬は無知のしるしであり、人真似は自殺行為である。」
(意訳:スキンシップに天翔エミの真似をして割って入るとか、無粋だと思いませんの?)
ペコ「アメリカの思想家、ラルフ・ワルド・エマーソンの言葉ですね」(無視)
ダー「―――私達の財産、それは私達の頭の中にある。」
(意訳:おつむに脳がきちんと入っているのかしら?考える脳はありまして?)
ペコ「オーストリアの作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの言葉ですね」(無視)
ダー「言葉とは、弾丸が装填されたピストルである。」
(意訳:私の言葉の意味、きちんと理解しているのかしら?直接言った方が早いのかしら?)
ペコ「フランスの哲学者、ジャン=ポール・サルトルの言葉ですね」(無視)
カス『これはベストパートナーですね(確信)』
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