【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
そこは権謀術数が渦巻く現代の闇鍋。常世の黒を煮詰めて作り上げた災厄のスープを、黙って飲み干してにこやかに微笑む者だけが無事に生き残り―――
「―――もーやだー死ぬー……」
―――こうして、貧乏くじを引く羽目になるのだ。
「死ぬー。このままじゃブリティッシュに染まり切って死んじゃうー。わたしつまんなーい!おうちかえるー!もしくはダージリンつれてきてーダージリンー」
テーブルの下で足をバタバタさせる女性。聖グロリアーナ現隊長で最高責任者である生徒会長の立ち位置に座る彼女こそ―――SN【アールグレイ】その人である
「―――アールグレイ様?あまりご無理を申されましても」
困った顔の女生徒が一人、紅茶を用意して途方に暮れていた。
一応テーブルの上に紅茶をサーブするも……
「―――(ぷいっ」
顔を背けてぶーぶーと子供のように駄々をこねる様子に、ほとほと困り果てていた。
「―――あら?お邪魔でしたかしら?」
紅茶の園の扉を開けて、優雅に一礼する訪問者が現れたのはその時だった。
「あーもぉだーじりぃぃぃん!!聞いてよもう!酷いのよぉ!主にマチルダ会がぁ!!」
「ああはいはい。私も他人事ではありませんから、今のうちに慣れておくためにも聞きますわよ。その前に……先輩、紅茶を戴けるかしら?」
ぱたぱたと駆けて行って、まるで子供のように泣きついてくる大人の姿に全く動じることなく受け止めると、ダージリンは微笑んで女子生徒に指示を飛ばす。上級生が下級生に命令されたというのに、状況から逃れることの方が大事だったのか、安堵した様子でその場を後にする生徒が完全に姿を消したことを確認し、
「―――それで、マチルダ会はなんと?」
「―――聞いて驚きなさい?“私たちの作戦で準優勝を得たとはいえ、皆の努力が足りないために黒森峰に惨敗を喫してしまいました。より一層の奮起を期待します”だってさ」
ダージリンの胸に顔を埋めて泣きじゃくっていたはずのアールグレイが、顔を上げてダージリンにだけ聞こえる声で話しかける。駄々っ子のように地団太を踏んでいた彼女の姿はもうそこにはない。
懐からアンテナのついた何かの機械を取り出し、密着するアールグレイの体勢を入れ替えながら周囲360度をぐるりと振り回したダージリンは、機械を懐に仕舞い込む。
「―――盗聴器の類は無いようです」
「オッケー、じゃああとは人払いだけで事足りそうね」
互いにあと一歩踏み込めば唇をついばみ合うほどの距離で、互いの耳元にのみ届く声量で会話し合う。傍目にはアールグレイがダージリンに寄りかかり、キスを強請るような構図を作りながら―――ダージリンの首筋に顔を寄せ、舌を唇を這わせてわざと大きな音を立てるように吸い上げる。
―――チュッ ちゅっ……「ダージリン……ね?」
「ぃ、いけませんわ……アールグレイ様……そんな……」
―――っちゅっ、ちゅっ……
幽かに奥の給湯室まで届くかどうかという声とやり取り。服の内側に手を入れるアールグレイを嗜めるようにダージリンが拒む様子を見せながら、“給湯室の影で覗いている先ほどの女生徒”と目を合わせる。
「―――いいでしょぉ?……それとも、私が欲しいと言ってるのに、断るの?」
「―――駄目ですわ……だって、見られてますもの」
ちらりと今度ははっきり視線を合わせてみせる。それにつられるようにアールグレイの視線が彼女の方へ向き
「しっ!失礼しましたぁ!!ご、ごゆっくりぃ!!」
女生徒は慌てた様子でガチャガチャとティーセットをテーブルの上に置き、急いで外へと出て行った。
アールグレイは満足そうにその様子を見たうえで、内側から閂を懸けて、椅子に座る。やや乱れた衣服を整え居住まいを正すダージリンを悠然とした様子で待つ姿は女帝を思わせるに足る風格だった。
「―――じゃ、ダージリン。聞かせて頂戴?中等部への連中の浸食具合と、それに伴う高等部の影響の変化について、貴女の意見を」
「畏まりました。僭越ながらご説明いたします」
恭しく一礼して書類を服の内側から取り出すダージリン。
―――ここは聖グロリアーナ女学院。常に相手を出し抜くことを考えていないといけない権謀術数の世界である―――。
「―――お話が終わったら、続きもする?」
「……しません」
―――権謀術数の世界である()
*******
聖グロリアーナの学園艦に乗り込み、中等部で一年を過ごしたその日。
私は、『運命に出会った』と、後に述懐する。
―――だってそうでしょう?他にどんな言い回しをしろというの?
―――屋上でアンニュイな気分で空を見上げて居たら【親方!空から女の子が!】してきたのよ!?これって運命じゃない!?
その日私の前に流星の如く降り立ったそれは―――
「―――そこどいてぇぇ!?いやむしろ動くなぁぁぁ!!」
大声を張り上げながら、身を捻って直撃を回避し、代わりにそのままの勢いでロンダートのようにゴロゴロと側転とバク転を繰り返して、屋上から路地の下に―――消えず、そのまま隣の建物まで跳ねたと思ったら、壁を蹴って隣の建物の上まで跳んで跳ねて、再び戻ってきた。
―――すっごーい!?なにあれ!?なにあれ?!(語彙消失)
語彙も消失しよう。それくらいありえないものを見た。三流映画のワイヤーアクションよろしく、重力に真正面から喧嘩を売っていくスタイルでアニメのような常識外れのアクションを見せてくれた目の前の少女は、一回死を覚悟したような、そんなハイライトが軽く消えたような顔をしていた。
「貴女……すごい身体能力ね!どんな鍛え方したらあんなありえない軌道で戻ってこれるの!?」
思わず声をかけ、小柄なその身体を抱き上げていた。全身汗だらけだったので私の服も汗まみれになりそうだったが、そんなの気にしていられなかった。
―――この娘のことが気になる!不思議!ありえない!知りたい!もっと知りたい!!
好奇心に後押しされるように抱き上げたその少女の腕を、脚を、腹直筋を、大腿筋を、上腕筋を、僧帽筋を確かめるようにペタペタと触って、軽く揉んで、肉の付き方を確かめていく。
「―――っだぁぁぁぁぁぁ!?」
大臀筋の辺りを触り始めたあたりで不意に弾かれたように暴れ出した少女が、私の手を離れ地面に降り立つ。そしてそのままカサカサとすばしっこいネズミのように駆け回り、屋上の端っこから飛び降りた。
焦って追いかけ、下をのぞき見た私の目に、壁を蹴って減速しながら落下する少女の姿。逃げられた?この私が?
この私の手から、逃げた?あんな小さな子が?
「―――顔は覚えたわよ!!!」
遠ざかる小さな姿に向けて、大声で怒鳴り上げる。聞いたか聞かずか、小さな影はそのまま視界からいなくなり、辺りには静寂が戻ったのだった。
かといって、少女を探す伝手が別にあるわけではない。GI6に「これこれこういう感じの少女がいるんだけど、探してくれない?」などと頼もうものなら幼女趣味のレッテルを張られるか病院を紹介されるだろう。マチルダ会やチャーチル会に弱みを見せるわけにもいかないし、悩ましいものだ。
―――ところが数日後、私は運命と再会した。
中等部の新入生と上級生の合同訓練の日。衆目に紛れるようにして紛れきれない少女のような小柄な体躯。周囲を気にしない孤高な猫のような姿。
――― ミ ぃ ツ ケ タ ♪
こっそりとその背後に忍び寄り、肩を掴んで逃げられないように軽く持ち上げる。
いかに筋力に優れて居ようと、鎖骨を押さえて両脚が地面に完全には付かない状況であるならば、抵抗などできない。肉体科学の方面からそれは明らかだ。
「こんにちは、
「―――こ、こんちわっす」
カタカタと小刻みに震えている生まれたての小鹿のような少女の様子に内心で首をかしげる。何か拙いことでもやったかしらわたし?
まぁいいかと思考を切って捨てて、少女を引きずって我が栄光の車輛、“マチルダⅡ”に引っ張っていく。小学生と見まがう小柄な少女を連れてきたメンバーの皆は「また隊長が面白いの連れてきたよ」みたいな表情を見せていた。げせぬ()
「ところで、ニンジャはどのポジションの志望なの?」
「あ、はい。装填手です」
周りから失笑が巻き起こった。当然だ。この小柄な少女が、マチルダの6ポンド砲(砲弾重量2kg前後)とはいえ、装填を十全にできるはずがない。なんていうのは火を見るよりも明らかだから。
「そっか。じゃあ装填手ね」
笑顔で応じた私に周囲が止めるのを押し切って、強引に装填手の席に座らせ、他のメンバーを配置させる。
当然でしょう?
だって私は直接見ている。この小柄な少女の身体能力がいかほどなのかを。
―――この後は特筆すべきことはない。彼女は十全を越えて十二全に装填手としての責務を果たし、むしろ高速装填に慌てた砲手にミスが目立つ結果になった。
バツとして砲手の子の大胸筋をちょっとマッサージしたくらいは大目に見るべきだと思う。―――前回よりやや成長していたので情報を上方修正しておく。
「リトルニンジャ。貴女の烏帽子名は【ブリュンヒルデ】よ」
「ブリュ……何ですかそれ?」
【烏帽子名】を知らなかったことに驚きなのだけれど、聞いた話によると彼女は黒森峰を受験して失敗したのでこっちに流れてきた編入組らしい。ならば陸の初等部を経験してないので知らなくても無理もない。
ということで私直々に説明をしてあげることにした。
―――え?拒否権?あるわけないでしょう?私を誰だと思っているの?
がっくりと肩を落とすブリュンヒルデに思わず笑みが零れた。作り笑いではなく本気で微笑むことができたのは久しぶりな気がする。この娘といると退屈はしなさそうだし、色々な意味でこの学園で騒動を起こして私を楽しませてくれそうな気が、何となく予感できた。
――月――日
痴女に会った(恐怖)
******
パルクールで街並みの建物や路地など、主要な交通ルートを確認しつつ、自己鍛錬に割と使えそうな障害物の多い場所を見繕っていたところ、屋上に佇む人影に全く気付かず、あわや接触事故という状況に陥る俺。
必死で身を捻り、体操選手さながらの動きで衝撃を殺し、自己を回避したはいいが、今度は屋上から転落しそうになったので、隣の建物のベランダまで飛び移り、そのまま壁を蹴って上に移動、再び壁を蹴って屋上に戻る。
人間とは限界の壁にぶち当たった時、死ぬ気でやれるかどうかで壁を突破できるかが決まるとはよく言ったものだなぁ。
本気で死ぬかと思った俺のうすっぺらい記憶が走馬灯のように巡る中、思ったのはシンプルだった。
―――まだみほエリの「み」すら始まってねぇんだよ!死ねるわけねぇだろ!!
生の実感に大いなるみほエリ神(偶像崇拝)に感謝しているとなんか抱き上げられた件(なんで?)
そのままなんか腕だの足だのペタペタ触って来るわ肩揉んでくるわ服の中に手ぇ入れて来るわ、こっちの抗議の声なんざ聞いてくれないわ……何なのこの人(恐怖)
手が尻に伸びたあたりで俺は悟った。
―――こいつは俺の身体を狙っている変態だ(確信)
何なのこの人、百合なの?リリィなの?ペドなの?やばくない?ヤババない?(やばい)
必死で暴れて無理やりひっかいてゴキブリの如く逃げる!!もう恐怖で腰が立たなかったので両手両足で四つ足状態で屋上の端っこまで逃げて、そのままダーイブ!!あーばよーとっつぁーん!!と壁を蹴って減速する俺の背中に「顔は覚えたわよーーー!」とヤ●ザのような捨て台詞が聞こえてきた。怖い(怖い)
――月――日
痴 女 襲 来 !!?(EVA感)
聖グロ新入生歓迎イベント。上級生との合同練習で、メンバーを探してチームを組むため周囲をきょろきょろしていたら、背後から両肩を掴まれた件。
「 み ぃ つ け た ♪ 」
アイエエエエエ!?痴女!?痴女ナンデ?!(困惑Lv4)
痴女に引っ張られるようにして戦車に引きずり込まれる。図らずもメンバーを探す手間が省けたが、痴女に身体を狙われながらの試合とか勘弁してほしい(迫真)
「リトルニンジャは何ができるの?」と聞かれたので「装填手です」と応えたら周囲から失笑された。が、その後ガッコンガッコン装填してたら絶句していた。
俺にポジションを聞いてきた痴女の人だけがクッソ爆笑していたが……
試合は圧勝。戦車を降りて「正式にメンバーね。これ決定事項だから」と告げられる。拒否権はないんですか?そうですか(諦観)
―――試合後、なんか「ブリュンヒルデ」とか名付けられた。なんでも優秀な連中は皆「紅茶の銘」を名乗る「ソウルネーム」と、それ以外に優秀者に付けられる四股名のようなものがあるらしい。
―――後になって知ったが、この「烏帽子名」というのは名付けた相手の庇護下に入ることを意味しており、実質「烏帽子親」にツバをつけられたようなものだったらしい。最初に言って欲しかったぞこのブリカスどもめ(恨み節)
余談だが、ブリュンヒルデはシグルドに槍ぶっ刺す方の北欧神話の方ではなく、ゲルマン方面の方(ジークフリート)に登場するアマゾネスの女王のことを指しているらしい。英国なのに()
次回更新のお相手()
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本編更新して、やくめでしょ
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休憩やで