ラスボス系の悪役として死にたい主人公君のロールプレイ   作:醜すぎる獣の集合体

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 ネタを思いついたので


悪役への道:入り口

 悪役として死にたい。常々そう思っていた。

 

 いつからなのか定かではないが、たぶん、子供の頃からの夢だ。

 ちゃちなチンピラじゃない。ただの屑な極悪人でもない。自分にとっての『いかした』かっこいい悪役。

 

 でも、普通に悪役になるだけじゃいけない。悪役になるための『動機』が欲しかった。なるべく周囲を、世界を憎めるような動機。男女のもつれとかじゃない、もっと納得のできる『動機』だ。

 しかし、普通に生きていく上で、このような動機は容易く手に入るものではない。自分から見つけようとも思わなかった。それだけの努力をする気がなかったのだ。なんというか、美徳というか、固持というか。『ある日唐突に』をはじまりにしたかった。

 

 まあ、そんな贅沢を言っていたものだから、当然ながら悪役になれる訳でもなく。

 朝起きて、出社して、帰って。そんな毎日の繰り返しだ。

 

――そんな平凡な日常に終止符が打たれた。

 

 休日だった。なんとなく散歩に出かけて、歩道橋の途中で止まり、欄干に寄り掛かって下を見下ろす。

 歩道橋が崩れた。何の脈絡もなく、唐突に、ぼろぼろと勢いよく崩れ去ったのだ。落ちていく最中に思ったことは、ああ、つまらない人生だったな――と。そして俺は死んだ。

 

――そして俺はどこかにいた。

 

 混乱した。死んだと思ったらどこか別の場所にいたのだから。恐らく路地裏。自分の格好を見る。ボロボロの半袖に、膝丈より上の半ズボン。

 ボウフラの湧いた水たまりをのぞき込むと、薄暗いながらも、どんよりと頬の痩せこけた男が映っており、目の下の隈も相まって老けて見える。

 

 これは俺じゃない。だけど、俺だ。これは俺だ。そうだ、俺は覚えている。全部覚えている。

 

 捨てられた。必死に生きた。暴力を振るわれ、蔑まれ、それでも今日まで生きてきた。ああ、憎い。周りが憎い。幸せそうな奴らが憎い。助けてくれないやつらが憎い。

 

――今度は俺の番だ。

 

 思いがけずも願いが叶った。これこそが『動機』だ。少なくとも、死んだ俺にとっては降って湧いた幸運である。

 次に知識だ。正確には記憶だ。この青年の――前の俺の記憶が必要だった。必死に思い出した。そして理解した。この世界のことについて理解した。

 

――ポケモン。

 

 知ってる。どっちの俺も知ってる。死んだ俺はサブカルチャーのネタとして。前の俺は馴染み深い隣人であり、仲間であり、そして敵として。

 

 さあ、記憶は探った。知識もそれなりにある。いや、知識はまだ足りない。しかし行動するには元手がない。前の俺は何も持っていない。金もない。学もない。身分を証明する手立てもない。幸い、死んだ俺と前の俺の知識を照らし合わせたおかげで、多少の知識は補える。なら、次は金だ。金がいる。金があれば大抵の物は買える。

 今の俺は何がある? リュックサックを背負っている。下ろして中を確認する。汚らしい着替え、生活用品……空っぽのモンスターボール。

 

――そうだ、ポケモンを捕まえよう。

 

 この世界、ポケモンがいれば大抵のことはどうにかなる。金も手に入れられる。路地裏から表に出る。途端、通行人から蔑んだ目で見られた。もっと蔑め。動機が増える。

 町の入り口付近に叢があった。ここで捕まえよう――いた、見つけた。のんきに毛づくろいをしている。犬だ。黒い犬。ヘルガー? いや、進化前のデルビルだ。いいぞ、悪役が使いそうなポケモンだ。犬だから忠義心も高いに違いない。

 

 飛び掛かったら気づかれて火を噴かれた。熱い。鼻先を全力で殴り、怯んだところで蹴りを入れる。ひたすら蹴った。足の感覚がなくなるまで蹴った。そのうち動かなくなったので、生死を確認する。……よかった、生きてる。無駄にならずに済んだ。

 モンスターボールを押し付けると、赤い光となってボールの中に入っていく。揺れる。しばらくしてカチリと音が鳴り、静かになった。やったぞ、初めて捕まえたポケモンだ。

 

 たぶん、死んではいないだろう。ポケモンセンターに連れて行きたいが、身分を証明するものがないし、俺はこの近辺だと悪い意味で有名らしい。悔しいが、自然回復に任せる。……いや、待てよ?

 少し遠いが、シオンタウンという町なら大丈夫かもしれない。

 タマムシシティにサヨナラバイバイ。いつかお前らを恐怖のどん底に陥れてやる。

 

 関所だと間違いなく通行止めを食らうので、地下通路を通っていくことに。薄暗いから俺の格好を見られることもあまりない。隅っこの方で、何度か寝泊まりしたことがある。途中で小銭を幾つか手に入れた。ポケットに仕舞う。

 

 地上に上がる。もう少しでシオンタウンだ。道中で暴走族に絡まれた。自棄になってぶん殴る。顎に良いのが入ったらしい。仰向けに引っくり返った。

 そのまま気絶するまで暴行を加え、動かなくなったところで金と財布だけを頂いていく。他の物は地面に捨てた。臨時収入だ。

 

 道中のポケモントレーナーに嫌な顔をされつつも、シオンタウンに到着。ポケモンセンターに直行。入ると他のトレーナーに嫌な顔をされたが、構わずジョーイさんのところまで向かう。こちらを見て一瞬だけ顔を顰めたが、すぐに営業スマイルになった。

 

「あの、ポケモンがぼろぼろで……」

「身分を証明できるものはございますか?」

「すいません、こんな身なりなものですから……」

「……申し訳ございません、規則ですので」

「どうしても駄目でしょうか? 本当にひどい怪我を負っていて……」

「……わかりました。ボールをこちらに」

 

 情けに訴える作戦は成功した。俺は兎も角、ポケモンは放っておけないらしい。治療されたデルビルの入ったボールを手渡された。大袈裟に感謝しておく。こうすれば、自分より格下の相手に対して優越感で浸れるだろう。運が良ければ次も治してくれる。

 

 しつこいくらい何度も礼を言い、頭を下げ、ポケモンセンターを出る。そのまま来た道を戻り、隅っこの方でデルビルを出してやると、怯えた表情で伏せながらこちらを見上げていた。躾の時間だ。

 

「いいか、俺が上で、お前が下だ。わかるな?」

 

 渋々といった様子で頷いた。

 

「いい子だ。今は無理だが、金さえ入れば贅沢をさせてやる。だから強くなれ。俺と、お前のために強くなれ」

 

 そうやって撫でながら言い聞かせると、デルビルは最初よりも幾分か和らいだ雰囲気で返事をした。とりあえず、巻き上げた金で身なりを整えるところからはじめる。シオンタウンに服屋は……さっき張り倒した暴走族から金だけじゃなくて衣類も巻き上げておけばよかった。いや、まだいるんじゃないか? 駆け足君で向かうと――いた。

 ズボンと革ジャンを貰う。なんでこいつ半裸の上に革ジャンなんだ。まあ、初期装備の服でも誤魔化せるか。

 髪の毛は定期的に切っているが、それでもざんばらだ。床屋へ向かうべきだろう。幸い金は幾分かある。

 シオンタウンに戻り、床屋で髪の毛を整え、追加で頭も洗ってもらう。これだけでもだいぶ見違えた。これなら今までいた町――タマムシシティでもある程度は誤魔化せるはずだ。必要最低限の物をシオンタウンで買い揃えて、他に欲しいものはタマムシシティで買おう。

 

 

 

 

――タマムシシティに戻ってきた。

 町に入ると、特に誰も気に留めていない様子だ。時おり嫌な目で見られることもあるが、たぶん暴走族みたいな格好だからだろう。品がないだとか思われているのかもしれない。

 リュックサックは町の入り口に置いてきた。見張り役としてデルビルを置いて。ちゃんと見張れたらご褒美を与えるつもりだ。

 デパートに行き、服屋に向かう。安くて丈夫な服とズボンをひとつずつ。下着を数枚。それから、ポケモンの餌売り場で犬型のポケモンが喜びそうなジャーキーとガム。ポケモンフード。

 

 デパートを出て荷物の場所に戻ってみると、ちゃんと番犬としての役割を果たしていたデルビルがどや顔で鳴いた。頭を撫でてやり、それからジャーキーを与える。……気に入ったらしい。全部やる。骨ガムはあとだ。

 

 リュックを背負って再び町に入る。何人かに訝しげな顔をされたが、前の俺だと気づかれなかった。次は風呂を浴びたい。デパートへ行く前に入らなかった理由は衣類の問題だ。風呂を浴びたあとに、他人が着ていた革ジャンとズボンを着ていたくなかった。前の俺は水浴びで済ませていたようで、例えば公園の蛇口とかどこかの池で済ませていたらしい。

 民衆向けの銭湯へと向かう。ポケモンの同伴も可能らしい。ただし、蚤やダニが付いている場合はお断りだそうだ。たぶん、まあ、大丈夫だろう。石鹸も買って男湯へと向かう。

 

 

――さっぱりした。

 

 暴走族から剥いだ衣類はゴミ箱に突っ込んでおいた。あれはもう用済みだ。今は安物の長袖とジーパンを身に着けている。

 

 最後の締めとして、宿泊施設へと向かう。なるべく安いところがいい。カードがあればポケモンセンターに無料で泊まれるのだが、生憎と持っていない。前の俺の記憶を必死に探り、観光客から盗み聞きした安い場所へと向かう。素泊まりで四千円らしい。……なんとか足りる。情報の記載、名前は……オトギリブドウ。植物の名前でそれっぽくする。

 

 鍵を受け取り宛がわれた部屋へと向かう。――思っていたより狭い。部屋の半分がベッドだ。ただ、狭いながらも小さなソファーとテレビはあるし、トイレ、洗面台、シャワーまでついている。ポケモン用のトイレまである。

 ボールからデルビルを出すと、主人を差し置いて真っ先にベッドに飛び込んだ。ふてぶてしい犬だ。今回は見逃す。下ろしたリュックから骨ガムを出して放り投げると、嬉しそうに噛り付く。俺も疲れたので、ベッドに倒れこんだ。

 

 勢いのままに行動しておいてなんだが、さすがに無茶があったのかもしれない。冷静になった今、そう思う。

 しかしあまりにも幸先のいいシチュエーションだったので、たぶん相当に興奮していた。暴走族相手に殴りかかるなんて、死ぬ前の自分にはとてもじゃないが想像できない。勝てるとも思わなかったし。完璧に偶然だが、案外、勢いでどうにかなるものだ。

 

 さて、これからどうしようか。目標がいる。世界滅亡とかで良いだろ。悪役としての動機はあるし。

 あと必要なものは……正義の味方。そうか、そうだな、主人公を見つけよう。タマムシシティにいると言う事は、ここはカントーだ。なら、初代か?

 

――レッドさんがいるじゃないか!

 

 原点にして頂点、レジェンドオブレジェンド、レッド。いいね、悪くない。正義感に溢れる少年に倒される悪役なんて鉄板だ。あ、いや待てよ。今何世代目だ? レッドさんはいるのか? ……まあ、いざとなったら適当な子供を捕まえて洗脳でもなんでもすればいいか。こんなチャンスはたぶんもう二度とない。妥協も必要だ。一応、レッドさんの所在を確認しておこう。産まれてないなら産まれるまで待つさ。

 

 正義の味方はこれでいいとして……最期も考えておかなくては。どんなシチュエーションでやられよう。どんな風に死のう(・・・)か。

 生きて改心して主人公側に付く? ナンセンス。本物の悪役に死は必然である。まあ、死なない悪役もいるけど、俺はできれば死にたい。ラスボスになりたい。主人公を見下しつつ笑いながら死にたい。

 

 楽しみだ。とても楽しみだ。ああ、早く悪役として暗躍したい。歴史に名を刻みたい。早く――

 

 

――疲れたから今日は寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回はちょっとだけ書き方を変えました。主人公の心情の勢いを強くした感じ。読みづらい。

 以下登場人物


 主人公君

 ちょっと背が高い以外は、サラリーマンとして平々凡々な日常を送っていた主人公君が、何らかの要員でポケモン世界の主人公君の魂と融合し、新・主人公君に目覚めた。
 幼少の頃より悪役に憧れていたらしく、家にもダークヒーローだとか敵役のフィギュアが幾つか飾ってあるらしい。特に好みなのは裏ボスだとか真のボスだとか。
 本来はもう少し慎重派な人間だが、転生、憑依した体の持ち主の、暗い過去があるという、悪役道真っ盛りの最高なシチュエーションにアドレナリンどばどば状態だった。今なら子供を保護する施設とかがあったと思うんですけどね。まあ異世界ですから。良くも悪くも寛容と言う事で。
 ちなみに今時めずらしいポケモンをやってないにわか勢で、ネットや雑誌の情報を頼りにしているらしい。ただし、妙なサブカルチャーを拾っているため、下手すると原作を既プレイした者よりも変な方向で博識だったりする。




 デルビル

 悪役っぽいポケモンってなんだろうなと思った挙句出てきたのがこいつ。毛づくろいしてたら興奮状態の主人公にぼこぼこにされて捕獲。やや恐怖心があるものの上下関係は理解したらしく、元々の性質もあって無事手持ちに収まった。決め手はジャーキー。
 なお、初代だと登場しないが、のちの作品で七番道路に夜に出てくるようになる。日向ぼっこしようとしたはぐれが捕まったってことにしておこう。
 



 ジョーイさん

 全国共通の見た目をした謎の人物。ポケモンセンターって誰でも使えるんですかね? 個人的には犯罪者とか身分の証明ができない人は基本的に使えないことにしたんですけど。その辺は各担当のジョーイさんのさじ加減なんですかね? 今回はそんな感じにしました。ゲストキャラ枠。



 一話だけの短編っていいですよね。後先考えないでその時のことだけ考えればいいわけですから。まあ、明らかに続きがあるくせに一話だけとか、読者からするとやきもきするんですけね。ポケモンは五世代までやってたから、連載できたらいいなぁ(願望)


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