スペリオンズ~異なる地平に降り立つ巨人   作:バガン

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開店、ピザ屋レオナルド

 「それで、ようやく通話できる場所に着いたというわけですね。」

 『はい、遅くなってしまって申し訳ありません。』

 

 キャニッシュ私塾、塾長室の鏡台の前でアイーダ塾長は話をする。鏡に映っているデュラン先生とだ。

 

 「それにしても、まさか大陸の端まで行ってしまうなんてね。遠足でもサメルのリーチルまでだったでしょう?」

 『一応もう少し北西へ行けば、行ったことのある土地に入れます。そこからならある程度安全に案内ができます。』

 「そうしてちょうだい。生徒たちの安全を優先して。あーでも、子供たちがやりたいことも優先させてあげてね?」

 『どっちなんですか。』

 「ほら言うじゃない、可愛い子には旅をさせよってね。」

 

 じゃあね♪と話もそこそこに通話を終了させる。長距離通話は料金もバカにならないのだ。鏡台はただの鏡に戻る。

 

 「お母様、デュラン先生から連絡があったとか?」

 「ええ、もう終わっちゃったけど。みんな元気みたいよ。」

 「よかった・・・。」

 「ドロシーちゃんたら、力を日に日に増してて、ゼノンとしての修行も始めたそうよ。」

 「ドロシーが?あんなに渋っていたのに。」

 「必要は状況から生まれるものなのよ。それだけ過酷なのかもしれないわね。こちらから手を出しにくいのがなんとも言えないわね。」

 

 「それより、あなたには王子様のほうが気になってるんじゃないかしら?ドロシーちゃんと急接近!なんてもあるかもしれないわよ?」

 「べ、別にそんなことないわ!ただ無事に帰ってきてくれないと、生徒会長として・・・。」

 「そうねー、ここ毎日部屋の掃除をしてあげたり、忘れたり忘れられないようにしてるだけだものね?」

 「んもー!おかあさん!」

 

 

 ☆

 

 

 「おっ、先生おかえり。学校はどうだった?おばさんはなんて?」

 「あっちは変わりない。生徒たちの安全を任されたよ。」

 

 公衆通話鏡ボックスから出てきたデュランは、その目の前に駐車されているレオナルドの教室に入ってくる。また疲れたような顔をしている。

 

 現在、シアーの南東部に位置する都市『ジーナス』の街にいる。本来の予定として、ヴィクトール商社の本社がある『リーアン』には、西にそびえる山脈を隔てており、迂回するには遠回りになる。

 

 「なら、北側に抜けて、大陸中央の地中海を渡って、ノメルの東を目指したほうが早くない?」

 「そちら側は砂漠があるからな、おそらくレオナルドが歩けない。」

 「ノメルの東じゃなくて、サメルの東に行けば、オレかサリアの家の海運商を頼れるんじゃないか?」

 「また船が沈没するのは御免だぞ?」

 「ウチの船が沈められるんもイヤやで?」

 

 「どっちにしろ路銀も無い。」

 

 10人ほど+αの団体が生活する食費や、通行料やらに大きくとられてしまう。情けない話、結局世の中生きるには金が要る。

 

 「どうにかして稼ぐ方法を探さなくちゃな。」

 「ガイなんかある?」

 「そんなうまい話がありわけない。」

 

 ガイはもしゃもしゃとサンドイッチを口に詰め込む。賞味期限スレスレで安くたくさん買えたものだ。

 

 「おいガイ、1人二つまでだったろ?何個食った?」

 「ふたつ。」

 「嘘つけ!」

 「やーかましいわ早く食わないと賞味期限切れるだろうが!」

 

 やいのやいのとまた騒がしくなってきて、デュランは頭を抱える。諸島部の引率のほうがまだマシかもしれない。

 

 「とにかくお金を稼ぐ方法と、帰る道を探さないと。」

 「まずは情報収集だな。また手分けして何か無いか探そう。」

 

 

 ☆

 

 

 「ということで、僕たちは移動しつつピザ屋をやっていくことになった。」

 「どうしてそうなった。」

 

 半日後、そこには食材を集めた生徒たちが集まっていた。

 

 「その小麦は?」

 「農家さんを助けたらいっぱいもらえた。」

 「豊作すぎて、市場に流したら価格崩壊するんやって。」

 

 ドロシーとサリアが荷車を引いてきた。

 

 「チーズは?」

 「酪農家さんの牛乳タンクが爆発したらしくて、全部チーズに化学反応したらしい。」

 「ニオイとれねえよこれ・・・。」

 

 パイルとクリンが強烈なニオイを漂わせている。心なしか皆引いている。

 

 「肉は?」

 「ワニを狩ってたわ。」

 「やべーよあっちの河。また死ぬかと思った。」

 

 カルマとガイ。ガイはキズだらけになっているがカルマは涼しい顔。

 

 「じゃあ、このタマゴは?」

 「レオナルドが沢山生みましてよ。」

 「メスだったのね、レオナルド。」

 

 シャロンとゲイル。カメのタマゴっておいしいんだろうか?

 

 「で、これだけ材料があればピザ屋さんも開けるなって。」

 「で、誰がネズミの役なんだ?」

 「ネズミ?」

 「先生だろ。」

 「まあいい、あとはオーブンがいるが?」

 「ガイまかせた。」

 「OK。」

 

 

 

 「そういえば、なんで船沈んだんだろうな?」

 「どう考えても過積載じゃない?」

 「いやいや、さすがに船長もそこはわかってて乗せてくれただろう?たしか爆発音がしてたと思うが。」

 「出力の上げ過ぎによる、オーバーヒートだと思う。あの分だと水冷式だったんだろうが、それにはお粗末だったし。」

 「ガイわかるん?」

 「なんとなくはな。そのおかげで今役に立っているんだが。」

 

 カンカンとハンマーを振り下ろして、教室の一角にドーム状のオーブンの形を作っていく。そのパーツには、流れ着いた件の船のエンジンのスクラップが使われている。

 

 「これさ、後々商社から賠償とか求められたりしない?」

 「真偽はどうあれ、どう見てもオレたちが原因にしか見えないし、今横領してるし。」

 「知らんぷりしとけよ。」

 

 教室の床や壁の耐熱補強も必要になり、他の生徒たちも左官の格好で作業している。

 

 「ドロシー、そこ盛り過ぎだ。ゲイルは押し付けすぎ。」

 「クリンはなんでそんなに詳しいんだよ。」

 「実家が大工だからだよ。」

 「初めて知ったわ。」

 

 宮廷おつきの大工の家系だと聞いたのは後のこと。神経質で目ざとい性格なのは遺伝のようだ。

 

 「かんせーい!」

 

 こうして即興ながら、オーブンが完成した。

 

 「そして、実食!」

 「いただきまーす!」

 

 「・・・あんまうまくないな。」

 「言うな。」

 「ま、まだ作り始めたばっかりやし!」

 

 けれども屈託のない笑い声が響いた。


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