スペリオンズ~異なる地平に降り立つ巨人   作:バガン

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第2章
剣よ花よ その1


 

 「なるほど、つまりキミが父上の言っていた兄だということは・・・ステイッステイッ!わかった。ステイッ!落ち着け!」

 「ヨコセ・・・オレノ・・・。」

 「正確にはキミのものではないんだろう?ステーイ!」

 

 旅が終わって数日のこと。アキラはバロンの特別補充員として活躍していた。 

 

 今のところは、朝の体操のレクチャーとかそんな地味なのだけれど、ゆくゆくは戦闘員として徴用されることになるという。

 

 その一環として、アキラは隊長ワルツの元で話をしていたのだが・・・

 

 「うーむ、エリザベスが言うからには本当なのだろうけど、しかしにわかには信じ難いな。」

 「それを言ったら、ツバサがこの世界に来たってこと自体が奇跡でしょう。」

 「まあ確かに。しかし、それもさらに別の兄が来たというのは、ちょっとややこしすぎやしないか?」

 「それは運命に文句を言って。」

 

 ツバサの息子であるワルツ隊長が見せてくれたのは、兄・・・平行世界のアキラが持っていた短刀である。ガイが言っていた鷹山流短刀術に使われる、伝統の物だ。

 

 「ならウチに還すべきだろう?」

 「だが今は我が家の家宝なのだ!ステーイ!」

 

 そんなわけでアキラは我慢のできない犬のように手を伸ばしている。

 

 「この剣に相応しい、強者ならば授けることもやぶさかではないが。」

 「なら、俺は相応しい。」

 「それは果たしてどうかな?バロンの精鋭たちを相手にしても、そんなことを言えるかな?」

 「ホホーゥ?」

 

 面白いことを言いなさる、とアキラは不敵に笑う。

 

 「いっちょ、ここらで俺の実力というやつを見せつけてもいいかもな。」

 「おいおい、仲良くしてくれよ?しかしまあ、新入りのキミを優遇しすぎるというのも、彼らに対してメンツが立たんと言うもの。」

 「じゃあやろうよ!いややりましょうよ!」

 

 

 ☆

 

 

 そんなわけで俺は今、訓練所の入り口前でウォーミングアップしている。

 

 「随分と余裕そうだな新入り。」

 「おっ、ラッツ先輩。」

 「副長と呼べ副長と!」

 

 この人は若くしてバロン副団長にまで上り詰めたエリートのラッツ先輩。

 

 「今日の種目は、バロン新人いびりもとい新人歓迎の『100人組手』だ!可愛がってやるから覚悟しておけよ!」

 「先輩の時はどうだったんすか?」

 「副長と呼べ!私の時はもちろん全員突破したさ。史上最年少にして、唯一さ。」

 「当時いくつ?」

 「20だ。」

 「じゃあ今日から2番目ね。」

 

 俺はまだ19だからな。ガイの話に出てくる俺は20代前半らしいけど、なら歳が若い俺の方が強いというのが常套。

 

 「武器は?」

 「いらない。拳が一番だ。」

 

 ともかく訓練場に足を踏み入れると、視線が一斉に集まるのを感じる。教室の皆にあったほんわかとした空気はまあないが、最初から期待もしていない。

 

 「じっくり教えてやろうではないか~・・・バロンのきびしさをな~・・・。」

 「おおこわいこわい。じっくりと言わず、10人ぐらいまとめてかかってきてくれたら楽なんだけど。」

 「言うたな?最初からそのつもりだ!第一小隊出ろっ!」

 

 兵隊たちが目の前にズラッと並んだ。一糸乱れぬという具合に、同時に抜刀して同時に切りかかってくる。

 

 「トゥッ!飛龍三段蹴り!」

 「グワー!」

 「なんだ、バロンだのゼノンだのも大したことねえな!」

 

 首筋を蹴りつけて、一斉に10人をノックアウトする。

 

 「成程、言うだけのことはあるな。第二小隊、ゼノン能力の使用を許可する!」

 「能力と言いつつ銃撃じゃないか!当たらなければどうということはないけどな!」

 「くそっ、ちょこまかと!」

 

 姿勢は低くし、目を凝らす。銃口を見れば攻撃の向きは予測できる。

 

 「魔法が使えるからって、やることは変わんねえな!何人いようと、一度にかかれる人数は3人が限度ってもんだ。」

 

 そんなこんなで、あっという間に99人を撃破した。

 

 「こっちはまだまだ余裕あるぜ?」

 「なかなかやるな。だが、次は私だ。」

 「・・・ちょっと休憩させて。」

 「よかろう。10分休止だ。」

 

 気づけば参加者以外のギャラリーが増えていた。ゼノンの他の部隊や、見物に来た民間人。いつの間にか賭けが始まっている。

 

 「新入りに賭けるやつはいねーかー?」

 「さすがにラッツが勝つだろう?」

 

 一応軍隊なのに嬉々として賭博に参加しているのはいかがなものか。

 

 「割と薄給なんだよ。」

 「こんなことしてるから薄給にされてるんじゃないすか。」

 

 国を守る軍隊が薄給と言うのもどうしたものかと思う。それにしても、この訓練場もなかなかボロっちい。壁があちこち崩れたままになっている。

 

 まあ、ここ最近ずっと平和だったらしいから、平和ボケしているのも経費削減されるのもわかるが、脅威というものは既にそこまで迫っている。

 

 事実、俺たちはスペリオンに負けているし。

 

 「よーし、続きだ続き!」

 「気合入ってるな。だがそれもすぐ叩き折られるだろう。」

 

 新人のやる気叩き折ってどうすんのさ。負けるつもりもないが。

 

 「もう一度聞くが、武器は本当に持たないんだな。」

 「いらない。鍛えたのは拳だけだったから。」

 「それは誰から教わったのだ?」

 「自己流。誰も教えてくれなかったからな。」

 「お前の環境がどうだったのかは知らないが、お前は戦いを学ぶ必要がなかっただけではないのか?」

 「・・・そうかもしれない。けど、俺は強くならなければなかった。」

 「何のために?」

 「・・・今関係ある?」

 「そうだな。さあ来い、チャレンジャー!」

 

 詮索されるのは嫌いだ。

 

 「剣に雷を纏わせ・・・斬ッ!」

 「うおっと!!」

 

 斬撃が空気を切り裂いて襲い掛かってくる。あまり大げさなのは好きではないのだが、危険を感じて大きく避ける。

 

 果たしてその考えは正しかった。

 

 「ぐっ・・・避けたはずだろ?」

 「遅いな。私の斬撃は見た目以上に広いのだ。」

 「当たり判定おかしいだろ。」

 

 跳び避けるのが一歩遅れたのか、足が痺れる。見れば地面もうっすらと焦げているのが見える。

 

 「ちょっと、マジかよ?」

 「マジだ。」

 「マジで殺す気か!」

 「本気だと言っておろう!」

 

 バリバリと電流走る剣先を向けて、ラッツはアキラを追う。

 

 「子供相手に本気出して大人げないですよ!」

 「都合で子供と大人を使い分けるんじゃない!お前も戦士を名乗るなら、大人の男だろう!」 

 

 一理ある。と言いくるめられるところ、アキラもまだまだだ。

 

 「ならこっちも、武器を解禁させてもらう!」

 「ほう、使ってみい。剣か?槍か?」

 「投石だ!」

 

 壁際には、打ち捨てられたレンガが積もっている。それを良いスピードで投げつけてやる。

 

 「ふん、なかなかいい肩力してるが、そんなお遊びでバロンがグッハァ!」

 「なかなかいい球してるだろう!」

 「おのれぇ!サーベル電磁ムチィ!」

 「はっと!」

 

 剣先から、電撃が鞭になって伸びる。アキラが避けると、そのすぐ後ろを黒く焦がす稲妻が走る。

 

 地上に逃げ場はない、と判断するや否や、アキラは壁を走り始める。その身軽さにおおと、観衆からも驚きの声が上がる。

 

 「ちょこまかと!」

 「それっ!宙返り!」

 「舐め腐って!」

 「そして、工事ご苦労さん!」

 「なにっ?!」

 

 丸く切り落とされ、崩れ落ちる壁石。これを待っていた。大きく飛び跳ねると、オーバーヘッドキックで打ち出す。

 

 「これでもくらえっ!シュート!」

 「ぐわーっ!」

 「峰打ちじゃい、安心せい。」

 

 頭に血の昇っていたラッツは、思わぬ反撃に反応が遅れ、クリーンヒットを受けることとなった。

 

 「勝った!」

 「おのれ、まだ・・・。」

 「!?剣が!」

 

 ラッツの手を離れた剣がひとりでに浮いて、空中を舞っているアキラの喉元に迫る。

 

 「あ、危なかった・・・。」

 「ふっ、最後まで油断は禁物という事だ。」

 「殺す気かい!」

 「避けると思ったさ、あえてだ、あえて。」

 

 間一髪で避けたが、危ないところだった。抗議の一つもしたくなったが、そこに割って入る人影があった。

 

 「そこまでだ。この勝負、アキラの勝ちとしておこう。」

 「隊長!」

 「ラッツもそこは認めているだろう。」

 「悔しいですが、力はすごいものがあります。ですが・・・。」

 「うん、まだまだ遊び心が抜けていないと見える。」

 「常に余裕をもって当たれというのが、教えだったので。」

 「だが、無駄な行動が多かったように見える。無駄と余裕は違う、わかるね?」

 「・・・はい。」

 

 確かに、油断が無かったかと言われると嘘になる。締まりがなってないと思って、油断をしていたのはアキラの方だった。

 

 「賭博なんかやってる連中に負けるはずがないと、油断がありました。」

 「賭博?またか、全くそれは恥ずかしいところを見られてしまった。」

 「ギクッ、わ、私は参加してませんが。」

 

 「まあともかく、これからは忙しくなってくる。抜かれぬことが誇りであった我らの剣にも、出番があるやもしれぬ。そのための予算案提出もしてきたところだ。」

 「という事は、給料が!」

 「施設の整備もな。だがそのために、弛んだ根性に喝を入れるために、今日の100人組手を計画したのだ。」

 「な、なるほど。」

 

 実際アキラにも、今日戦った相手が弛んでいるのが見えた。本気ならもっと苦戦していたことだろう。無論負けはしないが。

 

 「新進気鋭の後輩が出来たのだ。皆、模範となれるように気を引き締めるように!」

 「オッス!よろしくおねがいします!」

 

 つまり、隊長には一杯食わされたというわけだ。ともあれ、アキラは改めてバロンの一員となった。

 

 「ところで隊長。あの短刀のことなんですが。」

 「うむ、そうだったな。約束通り君に・・・。」

 「いや、辞退しようかと。」

 「何故?」

 

 今日の戦いで分かった。短刀術は今の俺には性に合わない。

 

 「やっぱり、俺とその剣の持ち主だった俺は別なんだ。俺は俺の戦い方を磨くとするよ。」

 「そうか、それもいいだろう。代わりにラッツから剣術を学ぶと良い。」

 「俺雷出せないですけど?」

 「雷が無くても、キミはバロンなんだ。実際父上もそうだった。」

 

 そういえばそうだ。ツバサも能力がない代わりに、ツバサなりにがんばってたんだ。兄貴分の俺が負けるわけにはいかない。

 

 「フハハハ、私がみっちり鍛えてやるから覚悟しろよ!」

 「でも一回に俺に負けてるってことはお忘れなく。」

 「今日のところは、私の負けという事にしておいてやる。だが、私が本気で当たれば必ず私が勝つだろう。」

 「はいはい、よろしくおねがいしますね、先輩。」

 「副長と呼べ!いや、これからは師匠と呼べ!」

 


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