スペリオンズ~異なる地平に降り立つ巨人   作:バガン

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崩れ落ちる その4

 科学者たちは自分たちには攻めあぐねていた、このオーパーツについての情報をポンポンと引き出してくるガイとケイに驚きつつも、なるほどなるほどとメモしていく。

 

 「でだ、俺が拾ってきた円盤と同じように、まだ似たようなパーツが湖底には眠っている。全部引き上げるのは苦労するだろうな。この湖は自然の浸食によって出来上がったものだから、それが古代の地層を引き当てたんだろうな。」

 「で、結局これはなんの機械のパーツなんだよ?」

 「一部分だけじゃなんとも言えないな。一番外装の部分だとはわかるけど。」

 「使えねえの。」

 「うっせ。」

 

 せめて中身の機械が残っていれば違ったかもしれない。

 

 「で、今は何の用意してるんだ?」

 「地層のことを調べるついでに、ボーリング調査をしようってんだ。」

 「ボウリング?パーフェクトとったことあるぜ。」

 「ボーリングだっつの。お約束のギャグをどうも。」

 

 地質調査となればボーリング調査だ。円筒状のロッドを地中に挿し込み、地層を丸ごとくりぬくことで、オーパーツの埋まっていた時代がいったいいつ頃のものなのかを測定するというわけだ。

 

 「ところで、どれぐらいの深度まで掘るつもりなんだろう?」

 「あの湖が1500mはあるだろうから、まあ2000mくらいじゃないか。目当ての物の前にひょっとすると石油や温泉が見つかるかもな。」

 「地元の活性化にもなりそうだな。」

 

 しかし、仮に石油が出たとしてゼノンは燃料にしか基本的に使えないというのはもったいない。石油から作られるプラスチックは、身近なあらゆるものに使われる万能素材であり・・・まあ皆まで言うまい。アキラにもわかるだろう。

 

 「ん?なんか今バカにされたような気がするぞ。」

 「被害妄想甚だしいわ。」

 「いや、明確な悪意を感じ取った。」

 

 実際ゼノン勢力圏内には、未だ開発の手が伸びていない地域や遺跡が数多くあるそうな。それらの調査もバロンの仕事の内となることだろう。今度からガイも同行させてもらうのもいいだろう。

 

 「さーて、ボーリングが終わるまでもう一回調査するとするか。」

 「なあ、本当のところは何だと思ってるんだ、あの機械。」

 「あー、多分宇宙船のパーツだと思う。」

 「宇宙船?」

 「まだ確証はないけどな。」

 

 宇宙船。まだ飛行機すらないであろうこの世界には予想も出来ないだろう産物。

 

 「そんなものが、地中に埋まってるのか?」

 「前時代、というやつだろうな。数百、数千万、あるいは億年前にはまだ文明があったんだ。俺達のいた時代にとっては先の話のな。」

 

 この世界は、ガイやアキラたちのいた『現代』とは地続きの世界。それが、『何か』があって滅びた。

 

 簡単に整理しておこう。3000万年前、『大変動』という物凄い何かが起こり、今のアルティマが出来上がった。今発掘しているオーパーツも、その大変動より前の物だろう。

 

 大変動の原因は定かではないが、地球の極点の一部が破壊されたせいだという。『何か』とは間違いなくそれのことだろう。

 

 「その何かってなんだよ。」

 「それを今調べてるんだよ。この金属は、少なくとも『現代』では見たことが無かった。軽く3000万年は経過しているであろうそれが、未だに形を留めているのは、何か理由があるんだよ。」

 

 熱や圧力で変形しているような様子もない、そんな大層な物を持った文明が、いかにして滅んだのか。実に興味深い。

 

 「そういやケイは?」

 「また単独行動だろ。いつものこと。」

 

 そういえば、ケイはこの手の話題についていたく関心があるようだ。それに、恐獣の生態や、フォブナモのことについても詳しかった。ただなんとなく信用できるという、アバウトな感覚のもとに付き合ってはいたが、よくよく考えるとケイのことについて、何も知らない。

 

 「フォブナモ、そういえばあれもあったか。」

 「何の話?」

 「フォブナモってあったろ?あれも宇宙船のパーツ、それも一番肝要なジェネレーターだからな。きっとあれも今回のオーパーツに関係あったんだろうなってな。」

 「それは今、ヴィクトールの手に?」

 「ああ、そうだ。お前さんところが大分頑張ってくれたおかげで、無事に手元に戻ったということだ。」

 

 そのおかげで、バロンはヴィクトールと手を結んだ。これでゼノンの保守的な体制にも楔が打ち込まれた。いい方向に転がってくれるといいのだが。

 

 と、また話が逸れた。考えることが多すぎる。こういう時はもっと単純に。

 

 「メシにしようぜ。」 

 「いいな!」

 

 腹が減っては戦は出来ぬとも言うし。

 

 ☆

 

 (ここにもダークマターがある。どうにも地脈に沿って結晶化している、というだけではなさそうだ。)

 

 1人、キャンプから離れた場所を歩いているケイは、地表に析出している黒い結晶を見てそう思案している。

 

 持っていた杖の先を、コンコンとその結晶に当てると、黒い結晶がみるみる内に無色透明な液体のように溶けていき、地面に染み込んでいった。そうするとどうだろう、生きる力を失っていた草木が、青々とした色を取り戻していく。

 

 「やはり、生物に歪な力を与えているだけでなく、奪ってもいるのか。おれがプラスになるかマイナスになるかは・・・意志の力によるのか。」

 

 レオナルドくんが生存本能によって巨大化を果たしたということは、そういうことなんだろう。

 

 マイナス宇宙から力が出入りする入り口。そんなものがあちこちにあるというのは、この地球も難儀な世界をしている。次元そのものが安定していないのだ。

 

 だがだからこそ、ケイにとっては都合がいい。ケイの目指す『哀の最果て』、それに一番近い世界なのだ。

 

 「あるのかねしかし?」

 「ベノム・・・なぜここに。いや、またお前か。」

 「ふっふん?」

 

 振り返ればヤツがいる。神出鬼没に策謀振りまく、悪意と舌で出来た悪魔。ベノム。

 

 「ひどい言われようだな。まあ、それだけのことはやってきたがね?」

 「今度は何を企んでいやがる?いや、当ててやろうか。あのオーパーツを発掘させたのは、お前だろう?」

 「さぁて、なんのことかね。私はただ、商売運の占いをしてあげただけだ。」

 「ピタリと当たるどころか、自分で埋めて、掘らせてるだけだろう。」

 「まあ、私が手を下さずとも、いずれ嗅ぎつけていただろうさ。ここ最近で大きく手を伸ばしているからな。」

 

 やはり、ヴィクトールとバロンの取引に一枚噛んでいたか。ケイは内心で舌打ちする。何の意味があるのか、考えが及ばないところもあるが、なんでもかんでもコイツの思う通りに行っているのは腹が立つ。

 

 「なんならひとつ占ってあげよう。」

 「いらん。」

 「そう言うな・・・そうだな、死相が見えるな。」

 「誰の?」

 「スペリオンのさ。」

 

 その時、初めてケイは目を見開いて驚いた。同時に、ベノムは笑った。

 

 「まあ、気を付けることだな。ヌッハハハハハ・・・!」

 「待て!どういう意味だ!」

 

 追いすがろうとするケイの目の前に、大きなトナカイが割り込んでくる。明らかにダークマターによって正気を失っている。ケイが気を取られているうちに、高笑いと共にベノムは悠々とその場を後にした。

 

 「くっそ・・・。」

 

 『ブルルルルルルォオオオオオ!』

 

 トナカイは大きなツノを振り乱してケイに向かってくる。

 

 「『ロックボルト』!」

 

 すかさずケイは杖を向けて、岩の壁を出現させる。しかし、トナカイはその障壁もなんのそのという勢いでぶち破ってくる。

 

 「嘘だろ・・・。」

 

 ちょっと引いたケイは、風を操って空中へと逃れる。このまま逃げてもいいが、放っておいて人間に危害を及ぼすのはマズいだろう。

 

 「動きを止めるには・・・足場を崩すか。」

 

 トナカイの暴走する先の地面を、水で泥に変える。

 

 『ブルルルルルルルル・・・!!』

 

 「暴れると余計に沈んでいくぞっ、と。」

 

 底なし沼と化した地面に、トナカイは沈んでいく。その頭に杖を突き立てると、だんだんと暴れるのをやめていく。先ほどと同じく、体内のダークマターを透明な液体に溶かしたのだ。

 

 『ブルルッ・・・。』

 

 「よしよし・・・。」

 

 ひとまず安心したが、結局ベノムはまた逃がしてしまった。

 

 だが、それよりも気になることを言っていた。スペリオンの死、殺せるもんなら殺してみろって感じだが、ベノムが言う事にはそれ以上の意味があるだろう。

 

 ともかく、ガイの元に戻ることを決めた。

 

 『ブルルルァアアアアアアアア!!』

 

 「っと、おかわりか・・・。」

 

 トナカイの群れが、森の奥からやってくるのが見えた。これらすべてを元に戻してやるのは、時間がかかるだろう。

 

 ☆

 

 「ん?」

 「どうしたガイ?」

 「いや、今なんか・・・ボーリングの音かな。なんでもない。」

 「?」

 

 一方、ガイたちは焼き魚に舌鼓をうっていた。そろそろボーリングも終わるころだ。

 

 「何が出てくるかな?」

 「温泉の方がいいなオレは。」

 

 目に見えない物を掘り返すというのは、なんだかワクワクしてくる。ガイも珍しく心の中では期待していた。

 

 と、そんな呑気に考えていた矢先、異変は起こった。

 

 「おっ、また地震か?」

 「地震だな・・・こういうパターン何回目だ。」

 「準備しとけよガイ。」

 

 にわかに地面が揺れ始めた。揺れがだんだん強くなってくると、次に地面にヒビが入り始めた。その中心には、ボーリングマシンがある。

 

 次に異変を感じたのは音だった。ボコボコと言うような、何か液体が地表へ上ってくるかのようだった。

 

 次の瞬間、ボーリングマシンを倒し、黒い液体が吹き出してきた。石油かと思われたが、どうやら違うらしい。それよりもはるかに粘性のある、ネバネバとしたスライム。

 

 『グボォオオオオオオオオ!!!』

 

 「液体が、吠えた?!」

 「ほらー!やっぱりこういうのだ!」

 

 液体は逆巻くように上へ上へと昇っていき、ついに50mもの高さに積みあがる。それが中ほどから大口を開いて、声を発したのだ。

 

 「石油と言うよりタールみたいだな。」

 「なら『タールゴン』だな。」

 

 タールゴンと名付けられた怪物は歩き始めた。その足跡にタールを滴らせながら。歩いた跡が、タールの沼となるのだ。

 

 「俺は行くぞ。お前はどうする。」 

 「ごめん、俺はまだゆるせてないわ。」

 「そうか、なら今日もスペリオン・ガイだな。」

 

 ガイは物陰に隠れ、周りに人がいないことを確認してから、右手を掲げる。


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