魔法科高校の妖精遣いだよ……え?そんなにチートかな?   作:風早 海月

1 / 19
プロローグ編
入学試験


精霊魔法。

現代魔法的に記すと、情報次元(イデア)上に存在する独立情報体である精霊を介して事象を改変する魔法と言える。

 

精霊魔法の名門、吉田家での神霊の喚起を行う星降ろしの儀に使われる神霊も、精霊の1つと言える。

 

 

それと似たような魔法に妖精魔法と呼ばれるものがある。

物理次元に存在する霊子(プシオシ)想子(サイオン)原子(物理的要素)で出来ている、(あやかし)の一種だ。

物理的要素を持っている妖は、物理的に殺される。だからこそ、中世から近代にかけて妖というものが駆逐されていった。

 

しかし、残るところには残っているのだ。

 

(あやかし)の中でも、強力な力を持ち、契約者に契約された妖は妖精と呼称される存在となる。

妖精となった妖は姿形を大きく変える。その姿は契約する人の流派にもよるが、大抵はおとぎ話に出てくる妖精のイメージがあり、手のひらサイズの少女(稀に幼女)となる。

 

そんな妖精を使役して魔法を使う人々のことを、その業界の人々はこう呼ぶ―――

 

 

―――「妖精遣い」と。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

2092年8月にあった佐渡島襲撃事件にはひとつだけ裏が存在した。

 

その場にいた一条家さえも黙らせる程の威力を誇る戦略級魔法で援軍に来た新ソ連軍(関与は否定)を消し去った1人の少女。

御巫(みかなぎ)(しおり)

妖精を現代まで受け継ぐ御巫家の一人娘だ。

古式の十師族とさえ言われる程、古くからある魔法使いの家系で、天皇の魔術的指南役まで務めていたこともあったらしい。

 

そんな彼女は2092年9月末に国防海軍の非公認戦略級魔法師として登録されていた。

 

 

 

 

 

「…?」

「もう一度言おうか?俺はもう長くない。今や御巫を継げるのはお前だけだ。分家の者達は私の妖精―――ハルへの継承権がない上に、ついこの間も大切な妖精を1人失ってしまっている。彼らには残念だが、任せられない。ハルを継いだものがこの屋敷の全ての権限を掌握できる。俺が死ぬ前にお前に預けたい。」

 

日本人としては珍しい銀髪に透き通るほど白い肌そして水色っぽい瞳の少女と、床に伏せるまだ老人と言うには早すぎる男が話していた。

 

「お父様…」

「我らには日本を守るという使命がある。1000年以上前から受け継ぐこの使命を果たせ、栞。」

 

官職こそ貰わなかった御巫家だが、常に国を守るために正1位と同等の棒給を支払われていたという。

 

「今でも我らは特権階級にあることを忘れるな。海外の考えだが、ノブリス・オブリージュだ。権利には義務が付きまとう。それを忘れずに努力すれば、人はついてくる。……御巫を頼む………」

「お父様…わかりました。…………ハル、おいで。」

 

栞の手のひらに若草色のドレスを纏う妖精がちょこんと立つ。

 

「只今をもって、わたくし、御巫栞は……貴女と契約致します。」

[よろしくね、栞。]

 

 

2095年1月1日。

 

御巫家に若き当主が誕生した。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

『そこまで。回答をやめて、手をキーボードから離してください。訂正が必要な場合は挙手をしてください。試験官立会の元、訂正を許可します。』

 

(ふぅ…引き継ぎも大変だったけど、テストはどうにかなった……)

[もっと私を頼ればいいのよ!]

 

国立魔法大学附属第一高校の入学試験。

栞は筆記テスト(試験用のコンピュータでのCBTだが)は当主の引き継ぎで満足に勉強出来ていなかったことと…彼女のせいで集中出来なかったのだ。

 

〔雷電、やめてちょうだいって言っておいたんだけど?〕

[だって、私が教えればいいじゃない!]

〔それじゃあ試験の意味が無いでしょ。〕

[えー?そんなことないわ!私は貴女のものだもの!]

〔その言い方は犯罪臭するからやめて。〕

 

雷電はその名の通り、電気に関する妖精だ。世話焼きなのは可愛いのだが…

 

〔だいたいなんで私の胸元に入ってきてまで着いてくるの。〕

[心配でしょうがなかったのよ?最近ちっとも休めてないもの!]

 

試験のサーバーがクローズして、試験が終わる。

 

『受験番号952001番から952050番までの人は13:30~移動をしますので、それまでに昼食を済ませておいてください。それ以降の人はそれぞれ受験時間の1時間前にはここに着席して待機していてください。それでは一旦解散とします。』

 

栞は机に突っ伏す。

 

[ちょ、潰れる!]

〔…ごめんなさいね、胸小さくて。〕

 

1度起き上がってそれだけ念じると、また突っ伏した。

 

[く、苦しい………]

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

第一高校の実技試験は、処理速度、干渉力、キャパシティの3点という、魔法師ライセンスの評価方法と同じである。

 

まずはキャパシティ。

キャパシティは魔法式の規模の大きさを指す。

 

『はい、次の人ー。』

「はい。952740番、御巫栞です。」

『はい、じゃあこの目標物を移動・加速複合魔法で行ったり来たりさせて。そのCADの番号=工程数になってるから、4の倍数ずつ、ね。』

「はい。」

『じゃあ4。』

 

難なく動く。

 

『8。』

 

………

 

『68!』

………

『80!』

 

 

周囲の受験生は驚いているが、栞からしたらこんな単純作業なら100工程くらい超えることは楽勝だ。古式魔法師に必要なのは、速度よりもキャパシティだ。

 

自分の頭の中に魔法陣を描いて魔法を行使するような古式魔法師ならさらに多いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いて受けるのは干渉力だ。

干渉力はエイドスを書き換える力の大きさだ。

試験方法は放出系単一魔法での電気回路送電。

要は検流計に抵抗を付けた電源のない回路に電流を流して、その大きさで測るというもので、世界的に基準が決められているが、それは割愛する。

 

栞の場合、干渉力自体は強いが、戦略級魔法師としては最弱だろう。

 

高い水準点と言ったぐらいの点数でスルーする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の速度。現代の魔法においてある意味重要なパラメータである。そして、魔法師の優劣をつける上でとても重要なものだ。

 

『次の人、どうぞ。』

「952740番、御巫栞です。」

『どうぞ。』

 

 

備え付けのCADにサイオンを流し込む。

 

起動式を取り込んで、座標などの変数を埋める。

 

魔法式を投射する。

 

投射された魔法式はイデアでエイドスを書き換える。

 

 

 

この一連の動作の速度を測るのだ。

 

『278ms、2回目をどうぞ。』

 

 

再び行う。

 

『261ms。』

 

まあこんなものだろう。栞が自分用にカスタマイズしたCADでやれば反射限界とほぼ同じ200msに近づくだろうが、共用CADならこんなものだ。

 

 

 

 

 

 

栞としてはこの成績なら首席だと、確信していた。

 

 

 

だが、総代の話は来なかったのだった。

 

 

 

 




【ハル】
古くから御巫家に使役されている妖精。
現存する全ての妖精の中で最も強い能力を持つ。彼女を戦闘に使うにはハルが認める相手だけで、今のところ初代当主と元寇の時だけしか使われていない。その威力は戦略級魔法を上回ると言われるが、本当のことはハル以外誰も知らない。
現在は屋敷の管理が主な仕事。

【雷電】
比較的若い妖精。母性が強く、使役される人を公私にわたり面倒を見ようとする。
本領はその名の通り電気系で、エレクトロンソーサリスなんて目じゃないくらいのハッキング能力を持つ。
直接戦闘力はあまり高くないが、サポート役としては最高と言える。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。