魔法科高校の妖精遣いだよ……え?そんなにチートかな?   作:風早 海月

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笑ってはいけないでも、魔法科でも外せないのはバスネタです!
それではどうぞ!


九校戦最初のイベント

 

 

 

 

 

九校戦は8月3日から10日間の日程で行われる。

 

しかし、開会前の懇親会は8月1日の夜行われることになっている。これは1日挟むことで万全な状態で競技に臨めるようにという配慮である。

 

とはいえ、全ての高校が8月1日に会場入りするのは機材などの大荷物もあるので大混乱を引き起しかねないため、距離が遠い順に会場入りをする。

8月1日に会場入りするのは最も近い第一高校だけだ。

 

栞は真由美が家の事情で遅刻している間、バスの近くにある作業車の1つに赴いていた。

雫と顔を合わせているのが苦しいからという理由もあるが、それ以上にこの車に搭載されている薬剤の残存量はこの夏では栞の生命線とも言えるものだからだ。

この車両は、御巫家として所有する作業車を改装して、サンシェード塗布装置を搭載している。2日3日なら要らないが、10日を超えるとなると手塗りでは大変だし、ムラがあってもおかしくない手塗りは避けたい。

そのサンシェードの液量と内容水の液量を確認しながら、機材の電気配線を確認する。そして、非常発電用オルタネーター、それを駆動させるバイオ燃料エンジン、その燃料の残量をそれぞれ点検する。

今では何かの影響で電源喪失した際の予備電源として以外はエンジンというものは使われていない。設置しているのは病院や軍事施設などの重要施設だ。

 

「栞か。七草会長が到着されたからもう出発するぞ。」

「達也、ありがと。」

「…会長はお疲れのようだから、あまり騒がないように深雪とほのかと雫に言っておいてくれ。」

「何かあったの?」

「ああ。」

 

栞は達也に起こったことを聞いて、少しいたずら心を刺激された。

 

「へー。…やっぱり達也ってシスコンだねー。今のも深雪が少しでもよく見られるようにって配慮でしょ?……いいなぁ、私兄弟姉妹いないから…」

「そうか。」

「あ!そうだ!達也がお兄ちゃんになってくれる?」

 

めいいっぱいかわいい幼女感を演出する栞に、達也はピクリと眉を動かす。

 

「…それは―――」

 

「栞ー!バス出るよ!」

 

達也の返事はほのかに遮られて、聞き取れなかった。

栞は達也にじゃ、というようなジェスチャーをすると、車椅子の舳先をバスに向けてモーターを回し始めた。

達也はほぅ…とため息をついた。

 

(しかし、なんだったんだ?今の感覚は。)

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

ほのかは、席が決まってから、本当に大丈夫か気になっていた。

 

ほのかの席は通路側左。通路を挟んで右に雫、そしてその奥は栞となっている。

雫と栞がイマイチぎこちないことははたから見ていても十分分かる。しかも片方の雫とはもう10年の付き合いである。それくらい分かるつもりだ。

 

だが、そちらも心配ではあるが、それ以上に恐ろしいのはほのかの隣の窓側の席。不機嫌オーラプンプンの深雪である。

 

雫は雫で栞を意識していて、援護は望めない。

 

無言の悲鳴を上げながらバス旅の行程を消化していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

深雪の不機嫌オーラは留まることを知らず、深雪の容姿(近くにいた3人にも少数)に引き寄せられる人達を追い払っていた。

 

だが、それにもお構い無しな2人に、その前に座っていた摩利は、

 

(まるで初々しい小学生カップルだな。)

 

と、見ていた。

 

その時、千代田花音が外を眺めていると、対向車線に普段では見ない光景を確認した。

 

「危ない!」

 

対向車線には、レジャー向けのオフロード車(バイオ燃料エンジン搭載がほとんど)が前輪をパンクさせて、火花を散らしている。

 

長距離移動用のハイウェイ(自走車用道路)は上り下りが壁で仕切られているので、比較的安全であり、多くの生徒は危機感がない。

次の瞬間までは。

 

オフロード車がスピンし始めて、壁に当たり、スピンの速度が上方向の力に変わる。

反対車線―つまり一高バスの目の前に飛び出してきた。

 

その瞬間、栞はバスの作動した回生ブレーキと摩擦ブレーキに加えて加速系魔法による減速が行われていることを把握し、栞はそれを助けるように摩擦ブレーキの摩擦係数へ干渉する魔法を使う。

直ぐに停車したバスだが、その相対距離はそう残されてはいない。

 

炎を上げながら迫ってくる車に、花音・森崎・雫が反応して車に魔法をかける。

複数の魔法師が、同一対象物に魔法をかける場合、干渉力がものを言う。だが、そのタイミングが同じでサイオンによる魔法式がエイドスを書き換えかけている状態が複数の魔法により起こると、全ての魔法が混ざってしまい、相克と呼ばれる状態になる。

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!」

「っ!」

「バカ、やめろ!」

 

摩利の静止が聞こえるほど、彼女たちは場数を踏んではいなかった。唯一森崎は相克に気づいたが、彼も冷静さに欠く状態で、それを無理やり越えようと干渉力を全力に引き上げただけだ。

強力な魔法は現実を一瞬で塗り替える。それを可能とする生徒が集まるこの第一高校九校戦メンバーだが、それを判断するだけの冷静さはなかった。

相克を起こした魔法式はキャストジャミングのような状態になっている。つまり、干渉力が桁外れに強ければ無理やり魔法を使うことは可能だ。だが、九校戦メンバーに招聘されるような魔法技能を持つ生徒数名による相克は非魔法師のキャストジャミングを大きく超えた魔法阻害を行っていた。

 

「十文字!」

 

摩利が干渉力では三巨頭一を誇る克人を呼ぶが、克人は既に魔法発動の体勢に入っていたが、めったに見せない焦りを浮かべた表情だった。

 

「十文字先輩、私が相克状態を吹き飛ばします!炎と衝突に備えてください!」

 

栞は立ち上がって“特化型CAD”を構える。雫は栞が特化型を使っているのを初めて見た。

CADの軸先から、高圧縮されたサイオン塊が発射され車のエイドスに当たって相克を起こしていた複数のエイドスに付加されていた魔法式を吹き飛ばした。

 

「…!」

 

克人は加速系障壁魔法で衝突を防ぎ、収束系魔法で酸素を奪い取った。

 

障壁にぶつかり、既に残骸となっていた車が完全に潰れる音がして、止まった。

 

 

 


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