魔法科高校の妖精遣いだよ……え?そんなにチートかな?   作:風早 海月

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バトル・ボード 準決勝

(……雫………棒倒しは予選突破したね……)

 

九校戦6日目。新人戦3日目。

午前中の試合が終わった。

 

栞は少しほっとしつつ、車椅子を会場から外へ向ける。

 

「…楓、お使い頼めるかしら?」

 

栞は普段ならお使いを頼む時は紗彩に頼むが、今回は楓を起用した。

 

[私…?なんでよ。…はっ、べ、別に栞の近くにいたいとかそういう意味で聞いてるわけじゃないんだから!]

 

楓は色んな意味で末期である。

 

〔この九校戦、良くないものがいるの。本当なら雷電を使いたいところなんだけど、ほのかにこれを伝えるわけにはいかない。()()()()()行けばいいわ。〕

 

風の妖精である楓は、その名の通り()()()()ことが出来る。紗彩よりも隠密性は高く、魔法的に侵入不可能な場所にも侵入可能である。その代わり、明らかに自然から離れた風を作ると魔法的に感知されてしまうので、1~2m/sが普通である。台風の時なんかはもっと速く出来るが。

 

あえて妖精にしか聞こえない声で話す。

 

〔お願いって言うのは――――――――――〕

[―――――え?]

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

雫は大忙しで服を着替えていた。

 

朝イチでアイス・ピラーズ・ブレイクの予選決勝。それが終わって、これからバトル・ボードの準決勝。

 

本当なら振袖にするつもりだったが、時間の都合上洋服にせざるを得なかった。予選決勝はインフォーマルのドレスコードに着ていく(()()()()()、雫は()()大企業社長の令嬢である)ドレスの1着を着て出場した。邪魔にならない程度の可愛らしく何層も黄緑系統の色のレースで飾られたそのドレスはお気に入りのひとつだ。

決勝、特に栞に見せるため、深雪を相手にする時のための特別なドレスも持ってきていたが、それは後で。

 

直ぐにドレスを脱ぎ捨てて、1度すっぽんぽんになると、いわゆるスク水と呼ばれるタイプの水着を着てからその上にウェットスーツを着る。

 

「あ、北山さん、CADの調整何とか終わりましたよ。」

 

あずさがひょっこり控え室に入ってくる。同性の技術者はこういう所に気を使わなくて済むので、一般的に九校戦では同性の技術者が当てられることが多い。

 

「ありがとうございます。」

 

バトル・ボードの準決の相手は三高の四十九院沓子。古式魔法家系の1つ、白川家の血も入っている古式・現代両用する魔法師である。ちなみにもう1人はかの海の七高である。

 

(正直な話、バトル・ボードはここまで上がれれば学校への義は果たした。申し訳ないけど、手は抜かせてもらう。両方の決勝を抱えるのはキツい。)

 

雫は少しここではたと、止まる。

 

(……もしここで勝てば、決勝はきっとほのかと……ここで同じ学校だからという理由で棄権すればいい。切り札1つ使ってしまおう。栞ならここで引かない。絶対に押し切る。)

 

 

雫はカバンの中で寝ている()()()を使うことに決めた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

『On your mark.Set……』

 

バトル・ボード準決勝第2試合。その時が始まる。

 

()()、水面干渉は私たちの以外全部()()()。〕

[うん、りょーかいっ!]

 

観客席には多数の研究者たちや応援の生徒、他校の生徒、一般客がいて、満員御礼立ち見多しである。

 

カーレースのような信号式のスタート表示と音が今、スタートを告げた。

 

〔響、よろしく。〕

 

防御を涙花、妨害を響、そして自分は走ることだけに集中する。

妖精遣いの高い利点は、妖精遣い本人の魔法として妖精の魔法が使われるため、相克が起こらない点だ。

 

[もーまんたいだよ。]

 

一新して綺麗になった前方の水域の表面をを響の魔法で凍らす。その上を振動系魔法を使いながら進む。ボードと氷の間を震わせることで接地時間を減らして更なる速度向上を狙っている。

ついでに氷を割りながら進むので、後ろには氷の浮いた水面で進みづらくなっている。

 

あくまで()()()()()()なので別にルール違反ではないし、故意のショートカットもしていないので問題ない。やれる人間がいなかっただけで。

 

[魔法の消去、残り半分きったよ。]

〔涙花、お疲れ様。正面の大きい魔法だけ消して。ほかは私が。〕

[はーい。]

 

(ん、水面に干渉できるようになった…?やはり無理しておったのか。儂の時代じゃ!)

 

息を吹き返した四十九院沓子が猛追する。ちなみに、七高は地味に四十九院沓子を風除けに追従する。

 

(まだ…落ち着いて。このままならゴール手前で追いつかれる。その時に…取っておき食らわせる…!)

 

少しづつ縮まる差に盛り上がる観客。一高の生徒の懇願するような瞳が目に入る。

 

〔…最後のカーブ。ここでいく!〕

[分かったよ。]

 

カーブに差し掛かる。

雫の少し外側を四十九院沓子が走行する。七高は途中で沓子が蹴落とした。(水没させた)

 

氷は自分の取るコースのみにしか展開していないので、すぐ横に着いた四十九院沓子には効果がない。

 

「涙花!」

 

妖精遣いの言葉ではなく、物理的に鋭く発すると、対魔法戦を行っていた涙花が無効化を辞めて雫をアシストした。

 

ドンっ!という音とともに、飛び出した雫。

 

「響!」

 

さらに響の魔法で()()()()()()()()()()()にとある魔法を撃った。

 

今まで凍らせていた氷の熱量を解き放ったのだ。

 

 

ライデンフロスト効果が起こり、ボードに付着する水と少し陥没した水面の間の純粋な熱量に隙間が生まれ、氷よりもさらに摩擦が減り、振り切ってゴールした。

 

 

四十九院沓子はまだカーブの終わりの当たりにいた。突如感じた熱に思わず足を止めてしまっていた。

 

 

 

 

これを持って、新人戦バトル・ボードの決勝進出を第一高校で独占したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【涙花】
平安時代末期にいたチート適性の妖精遣いである栞よりも、もっと高い適性を持っていた人物の強い情動から生まれた妖。その人の魔法特性とその情動から生まれたことも相まって、得意としているのは魔法の消去と精神干渉系魔法。
封印されていたが、本当は自分のマスターを探していただけ。自発的に封印は解除できた。雫の精神体がかわいいからという理由でマスターとして認めた。
なお、ハルと同じく規格外の妖精で、契約枠を2枠占有する。

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