そして、今回エマは登場しません。
L&M本社の2号棟に数カ所に設置してあるトイレの1つ、そこでサイモンは数人の男達と一緒に黙々と便器を掃除していた。これはサイモンが進んでしている訳では無い。むしろサイモンはこういうのはめんどくさがってやらないのだが、今は社長からの命令で渋々やっている。何故このようなことをさせられているのかと言うと、任務が終わり久し振りの休日が貰えたということで昨日の夜にサイモンはアリーナとその他酒好き仲間達と酒を飲みまくっていた。そして持って来ていた分の酒を全て飲み干してしまったサイモン達は新たな酒を求めて基地内を探し回り社長が隠していた高級ワインを見つけ出しそれを全て飲んでしまった。
翌日それが社長にバレてしまい、散々説教された挙句罰として1号棟にある全てのトイレの清掃を命じられていた。全部の便器を洗い終えたサイモンは隣の女性用トイレの方に声をかけた。
「そっちはどうたー?」
「汚れが少ないのが救いだね。お陰でこの人数でも何とかなってる」
アリーナは女性用トイレの清掃を命じられていたのだが、今回の事件に関わった人達の中で女性はアリーナを含め3人。たったの3人で1号棟内の全ての女性用トイレの清掃をするのはなかなか大変だった。一方サイモン達の方は人数は逆に多過ぎる位なのだが汚れが女性用トイレと比べ多く、苦労していた。
「手伝ってやろうか?」
と言いつつサイモンは女性用トイレの中を覗く。
「一歩でも入って来てみろ、デッキブラシで頭を叩き割るからな。後、一々覗きに来るな」
「へいへい」
サイモンは大人しく自分の持ち場に戻った。第2部隊に所属しているビルは戻って来たサイモンに尋ねた。
「どうだった?」
サイモンは肩をすくめながら答えた。
「殺気のこもった目で睨まれた」
「だろうな」
デッキブラシで床を擦っていたサイモンと同じ黒人の第5部隊に所属するカールがサイモンに質問した。
「そういえば。ちょっと前に食堂で聞いたんだがお前アリーナをヤったってのは本当か?」
とんでもない内容の質問にカールを含めた数人の男達が「ハァ⁉︎」と言い驚いた。
「あ?ンなことしてねぇぞ俺は。って言うか初耳だぞそれ」
「2週間位前にだったかな?まぁとにかく少し前にお前がアリーナをベッドに押し倒してヤってただとか何とか・・・」
「2週間前ぇだぁ・・・・?あーあれか!」
カールがサイモンに詰め寄って襟を掴んだ。
「おい!マジでヤったのか⁉︎」
「落ち着け、俺はヤってねぇ」
「じゃぁどう言うことだよ」
「あん時はアリーナとスピリタスを飲みまくってどっちが先にぶっ倒れるかのチキンレースをやってたんだ。そんでお互いぐでんぐでんに酔っちまって殴り合いになったんだ」
話を聞いたカールは呆れたような顔をして掴んでいた襟を話した。
「なんだそれ、じゃぁベッドに押し倒してヤってた訳じゃ無くてベッドに押し倒して殴り合ってたってことかよ」
「そう言うことだな」
「お前ら全員後で覚えとけよー?」
隣の女性用トイレからアリーナの声が聞こえて来て、サイモン達は慌てて掃除を再開した。
それから少しして、ある程度掃除を終えたサイモンは休憩がてら2号棟の屋上でタバコを1人で吸っていた。アリーナ程ではないがサイモンもタバコはよく吸う。昔はどこでもタバコは吸えていたのだが、最近は禁煙活動が活発になり、サイモンのような喫煙者は昔のように好きなところで吸うことが出来なくなってしまった。喫煙所を設置しようとしたか社長が予算をケチるせいでここ2号棟には2箇所に小さな喫煙所が作られただけだった。
掃除していた所から喫煙所まではそれなりに距離があったのでそれよりは距離の近い屋上にやって来てたのだ。
「お疲れ〜」
後ろを振り返るとアリーナがジタンの箱をポケットから取り出しながらこちらに歩いて来ていた。サイモンはアリーナに右手を上げて答える。アリーナはサイモンの隣に来るとポケットからタバコの箱を取り出すと箱からタバコを出した。アリーナがタバコを咥えるとサイモンが何も言わずにジッポーをポケットから取り出してアリーナの咥えているタバコに火を付けた。ふぅ〜〜っとアリーナが煙を吐き出しすと手すりに寄っかかった。
「それ、エマは匂いが嫌いみたいだからエマの目の前で吸うのはやめといた方が良いぜ」
煙を吐き出したサイモンがアリーナの咥えているタバコを見て言った。アリーナが好んで吸っているタバコはジタンと言う銘柄のもので、一般的な葉ではなく、発酵した黒い葉を使っているので香りや味は独特で、その香りや味は葉巻に近いといわれている。
「だろうね。前エマの前で吸ってたら嫌そうな顔されたよ」
と言ってアリーナは苦笑いしながらタバコを吸って煙を吐き出した。このジタンと言うタバコ、その独特な香り故に嫌う人も少なからず居る。エマもジタンの匂いを嫌う人の1人だ。サイモンはフッと鼻で笑った。
「そのせいかあいつ余りあたしに近づかないんだよなぁ」
「何だ、近づいて欲しいのか?」
サイモンはニヤニヤしながらアリーナに聞いた。
「近づいて欲しいって言うか・・・愛でたい?」
サイモンはアリーナの発言に思わず吹いてしまった。
「何だそりゃ」
「可愛い後輩だぞ、愛でたくもなる」
人形の中で最古参てあるアリーナは言ってしまえばL&M社に居る人形全員が後輩になるのだが、最近入って来たエマは今までの人形達とは少し違った。いつもニコニコと笑っており快活で真面目な頑張り屋さんと言った感じで、男勝りな性格の人形ばかりいるここではエマのような真面目で可愛い子は珍しい。なのでアリーナはそんなエマをついつい愛でたくなってしまうのだ。
「ま、その気持ち分からんでも無い」
「だろ?」
「頭を撫でてやった時の顔とか可愛いよな」
「それな!」
アリーナやサイモンはエマの頭を撫でる時、エレナやネルソンと違い乱暴に撫でるのだがそれでもエマは嫌がったりせず少し目を細めて嬉しそうに微笑む。その姿にアリーナもサイモンも癒されていた。
「毎日射撃訓練とかを頑張ってしている姿なんか健気で良いよなぁ」
「実際射撃の腕も上達してるしね。バラライカも近い将来エマにマークスマンを任せるかもって言ってたし」
「それが良いだろ。対人戦とかだとバラライカは過剰火力だしな」
「今更だけど12.7ミリ弾を撃つマークスマンってなかなかのパワーワードだね」
「確かに」
アリーナとサイモンはお互いに笑った。
「ネルソンとエレナもマークスマンやれると思うんだがな」
ネルソンとエレナの使っている銃はどちらもマークスマンライフルとして使っても問題ない程の命中精度を誇っており、2人は射撃技術も高い。
「でもネルソンは狙撃より速射の方が得意だし、ネルソンに倣って戦闘技術を磨いたエレナも狙撃より速射が得意だし。それに5.56ミリで狙撃ってどうなのってあたしはいつも思うんだよね」
「あーそれは俺も思うわ。5.56ミリで500メートル先とかの敵倒せるんかねぇ?」
「人間ならワンチャン倒せるかもだけど、鉄血とかE.L.I.D相手だと無理だろうね」
「やっぱ狙撃には7.62ミリだな」
煙を吐き出したサイモンはふと遠くを走る車を見つけ、怪しんだ。ここら辺を車が通るのは別に珍しく無いのだが、その数がおかしい。恐らく10台以上はいる。10台以上の車が縦一列に並んで走っている。
「何だあれ」
「ん?何がだ?」
「アレだよ」
と言いながらサイモンはその車列の方に顎をしゃくった。アリーナは目を細めてその車列の方を見た。人形なので普通の人間より視力の良いアリーナは走っている車の車種を断定できた。
「M-ATV、ハンヴィー、トラック・・・・・なーんか見たことある編成だな?」
「おい・・・まさかッ⁉︎」
気づいた時にはもう遅かった。突然後ろで爆発音が響き渡り、建物が揺れた。
「クソッ!何だ⁉︎」
後ろを振り向くと黒煙が上がっていた。黒煙の出ている所を見てみると車両の整備施設であるガレージの一角が崩れ、炎上していた。遅れて警報音が鳴り響く。
《総員戦闘用意!南南東より未確認ヘリ接近中!》
「危ない!」
アリーナがサイモンの頭を抑えて無理矢理伏せさせた。次の瞬間、ミサイルが2号棟の屋上に設置してあったレーダーアンテナに命中し爆発した。破片がサイモンとアリーナの周辺に降り注ぐ。
「クッソッ!ミサイル撃たれる距離まで気づかなかったのか⁉︎レーダー員は何やってんだ!」
「また来た!」
更にミサイルが飛来しまたレーダーアンテナに命中した。レーダーアンテナはゆっくりと傾き始め、最終的に自重を支えきれず横に倒れ下に落ちて行った。
ミサイルの飛来して来た方向を見てみると、こちらに接近して来ているヘリの姿が見えた。ヘリはあっという間にL&M社に近づいて来るとロケット弾を発射し駐車場に止めてあったハンヴィーとBMP-2を吹き飛ばした。ヘリは速度を落とさずサイモン達の真上を通り過ぎて行った。
「Аллигатор!」
ヘリを見たアリーナは思わずロシア語で叫んだ。
「あ?何だって?」
「Аллигатор。英語で言うとアリゲーター。ロシアが作った攻撃ヘリだよ」
「強いのか?」
「強いね」
通り過ぎて行ったKa-52は高度を取ると機首の方向を180度変えてサイモン達の方に向かって緩降下して来た。
「おいおい不味いんじゃないかアレ⁉︎」
「ミンチになりたく無かったら走れぇ!」
Ka-52は右側面に30ミリ機関砲を搭載している。直撃せずとも近くに着弾しただけで人間はミンチになってしまうほどの威力を秘めている。サイモンとアリーナは全速力で走り階段を下って室内に逃げ込んだ。aka-52は攻撃することなく屋上の上を通り過ぎて行った。サイモンは舌打ちをするとホルスターからM586を出しながら廊下を歩く。アリーナもホルスターからMP-433グラッチを取り出しその後に続く。
「アイツら諦めが悪いなぁ・・・」
「何が何でもあのブツが欲しいのさ」
《敵ヘリが2号棟屋上に着陸!敵兵数十名の降下を確認。2号棟内にいる職員は注意せよ!》
放送か聞こえると同時に屋上に通じる階段から誰かが降りて来るのをサイモンとアリーナは察知した。すぐさま階段に通じるドアに銃口を向ける。ドアが勢い良く開きM4CQB-Rを持った兵士が入って来た。敵の姿が見えた瞬間サイモンがM586のトリガーを引いた。撃ち出された357マグナム弾は敵兵の胸に命中し、撃たれた敵は後ろに倒れた。
すぐさま他の敵が反撃して来た。サイモン達は廊下の曲がり角に隠れた。撃った敵を見てみると、どうやら357マグナム弾は防弾チョッキにより塞がれていたようで、兵士は苦しそうにしながらも生きていた。逆にこちらは私服姿で防弾チョッキなどは着ている訳も無く当たれば終わりだ。それに向こうがカービンライフルを使っているのに対しこちらは拳銃だけというのもなかなか厳しい。
「クソッ!」
多勢に無勢、サイモンとアリーナは敵の激しい銃撃により身動きが取れない状態になってしまった。その間に敵は距離を詰めて来る。アリーナが近づいて来ていた奴の頭に9ミリ パラペラム弾を食らわせて倒した。
「逃げるよ!」
「おうよ!」
アリーナとサイモンは敵に何発か撃ってから走って逃げた。奥から悲鳴と発砲音が聞こえて来た。どうやら奴らは非戦闘員だろうが何だろうが関係無く殺し回っているようだ。
「クソッ!」
「おい、待て!もう手遅れだ!あーくそっ!」
アリーナが悲鳴のした方に向かった。サイモンが止めようとしたがサイモンの制止を振り切ってアリーナは走って行く。サイモンも愚痴をこぼしながら後を追った。廊下を真っ直ぐ進んでから右に曲がると敵兵2名が部屋に逃げ込んだ男を追って部屋に入って行っていた。
アリーナもその部屋に入ると目の前に居た敵には目もくれず男を撃とうとしていた敵兵の心臓部に9ミリパラペラム弾を2発撃ち込んで怯ませてから頭に1発撃ち込んで殺した。次に目の前に居た敵兵がアリーナにM4CQB-Rの銃口を向けようとしたが遅れてやって来たサイモンかその敵の頭に357マグナム弾を撃って倒した。
アリーナは部屋の隅で倒れ込んでいた男に駆け寄り何処か負傷していないか確認しながら声を掛けた。
「大丈夫か?何処か怪我している所はあるか?」
「い、いえ、大丈夫です」
「よし、立てるか?」
アリーナは男の手を取って立たせようとしたが女性は立ち上がらない。やはり何処か負傷しているのかとアリーナが心配すると男は申し訳なさそうに言った。
「っ・・・・す、すいません。腰が抜けてしまって・・・・」
アリーナは屈むと男を背負った。
「しっかり掴まってて。サイモン、先行して」
「ちょっと待ってくれ」
サイモンは倒した敵兵が持っていたM4CQB-Rと予備マガジンを掠め取った。
「ひっさしぶりにM4持ったけど恐ろしく軽いな。オモチャみたいだ」
「そりゃMG3と比べたらM4は軽く感じるだろうね」
サイモンはアリーナにもM4CQB-Rと予備マガジンを渡すとドアから廊下の方を覗き込んだ。次の瞬間、銃弾が飛んで来て真横の壁に当たった。慌ててサイモンは引っ込んで隠れた。
「右に敵複数。援護すっからさっさと行け」
敵兵から奪った手榴弾の安全ピンを外しながら言った。アリーナはM4CQB-Rを構え頷いた。サイモンは手榴弾の安全レバーを外すと2秒待ってから敵の方に投げた。
床を少し転がってから手榴弾が爆発し、数名の敵兵が吹き飛んだ。爆発と同時にサイモンは部屋から出てM4CQB-Rを構えフルオートで敵の方に撃った。アリーナは全速力で走りながら部屋から出ると敵に背を向けて廊下を走り、曲がり角に隠れた。壁に隠れながらM4CQB-Rを構え発砲しサイモンを援護する。
「来て!」
サイモンは1マガジン分撃ち切ると先程のアリーナと同じように部屋から飛び出すと廊下を走ってアリーナの隣に来た。サイモンは弾切れになったM4CQB-Rに新しいマガジンを入れて敵の方に撃ちつつもう一度手榴弾を敵の方に投げ込んだ。敵は転がって来た手榴弾を警戒して後退して行く。直後手榴弾が爆発した。
「ほらさっさと撤退すっぞ!」
「イエス・サー!」
敵が引いた隙にアリーナとサイモンは逃げた。廊下を走り階段を駆け下りて行く。敵が来れないように階段の前にある防火扉を閉めておいた。サイモンは階段を降りながら腰に下げていた無線機を手に取ると周波数を合わせてトークボタンを押した。
「こちらサイモン。2号棟屋上から敵多数侵入。敵の武装はM4とショットガン。奴ら防弾チョッキを着てっから拳銃弾じゃ死なねぇ」
《了解した。今迎撃部隊が向かっている。それまで耐えたくれ》
「りょーかい」
通信を終えたサイモンはM586のシリンダーを左に振り出すと空薬莢をシリンダーから出し、新しい弾を込めて行く。それを見たアリーナはサイモンに質問した。
「前から思ってたけど何でリボルバーなんて使ってるの?オートマチックの拳銃にすれば良いのに」
「マグナム撃ちたいからに決まってるだろ」
「それならデザートイーグルで良いじゃん」
「分かってねぇなぁ?こう言うリボルバーでマグナム弾を撃つからこそ良いんじゃねぇか」
そう言ってサイモンは弾を込め終えたシリンダーを手首を捻りフレームに入れた。ドゴオオォォン!と言う爆発音が響き階段が大きく揺れ照明が点滅した。
「・・・おいおい大丈夫かよ」
「何?ビビってんの?」
「ンな訳あるか」
再び爆発音が響き、一瞬照明が消えたが再び点いた。
「派手にやってるねぇ」
「だね」
サイモンとアリーナは4階まで降りて来た。M4CQB-Rを構えながら周囲に敵が居ないのを確認したアリーナは階段の入り口からゆっくりと出て廊下に出た。サイモンもさらに続く。暫く廊下を進んでいると声をかけられた。
声のした方を向くとさっきまで一緒に掃除をしていた黒人のカールが居た。手にはベレッタのM84が握られている。他の人達も一緒のようだ。彼らはここ4階にある喫煙所に来ていたので襲撃には合わずに済んだようだ。
「上はどうなってる?」
「敵どもに占拠されかけてるよ」
「おい、不味いことになったぞ」
カールの後ろから出て来たビルがそう言った。彼はP225を持っている。ビルの後について行き娯楽室に入ると大勢の非戦闘員がいた。どうやら上階から逃げて来た人達はここに避難して来たようだ。因みにいつもユウヤがゲームをしている娯楽室はこことは別で2階にありここよりも狭い。
ビルは演習場が一望できる窓の方をビルは指差した。サイモン達が見てみると演習場に2機のブラックホークが着陸しキャビンから計22人の敵兵が降りて来ていた。よく見ると下を見てみると味方が即席の防衛陣地を作って拳銃で敵に攻撃している。
敵のブラックホークは離陸しながら防衛陣地に籠る味方に対して機体側面に装備されていたミニガンで攻撃した。即席で作った物だったのでミニガンの銃撃によって防衛陣地の一部が壊れた。そしてヘリから降りた敵部隊が銃撃を加える。味方達も拳銃で果敢に反撃する。激しい銃撃戦が演習場では起こっていた。
《こちらサイモン!1号棟屋上から敵部隊が侵入。現在交戦中!誰か増援に来れないか⁉︎》
《こちらバラライカ。敵車両部隊が正門ゲートを突き破って入って来た。数からしてコイツらが本隊だろう。出来ればこっちに増援頼む》
サイモンとアリーナが持っていた無線機からは味方からの報告が入ってくるが、良い話は1つも入って来ない。
「こちらサイモン。2号棟屋上から敵侵入。演習場にも敵が降下した。今は2号棟4階の娯楽室に立て籠もっている」
《サイモン、そっちは大丈夫か?》
ネルソンが聞いて来た。無線機越しに発砲音が聞こえて来てその戦闘の激しさが伺える。
「今のところはな。だが敵部隊が雪崩れ込んで来たらひとたまりも無いな」
《すまないがそっちに行けそうに無い。今の戦力で何とか凌いでくれ!》
「了解」
サイモンは通信を終えるとビル達の方を見た。今ここにいる戦闘員はサイモンとアリーナとビルとカール、その他トイレ掃除組5人の計9人。武装は弾切れに寸前のM4CQB-R2丁とそれぞれが護身用として持っていた拳銃9丁。対して敵は少なく見積もって数は10人前後。増援が来て増えている可能性も大。武器はM4CQB-Rやショットガンを持った完全装備。
「・・・・何とかなる・・かな?」
サイモンは苦笑いしながら考えた。数も武装も敵の方が上、ぶっちゃけ勝てないかもしれない。だが何もせずに死ぬのは性に合わない。死ぬまで悪足掻きしてやるよ!
「オラそこで座ってるやつら!死にたくなかったら入り口の前に机とかタンスとか、とにかく弾除けになりそうな物置いて行け!」
サイモンは座っていた非戦闘員の人達に怒鳴った。突然声をかけられた非戦闘員の人達はお互いの顔を見合わせているだけだったがサイモンが急かすと慌てて動き始めた。敵が侵入して来るであろう入り口に椅子やテーブルやビリヤード台やテレビなど、とにかく動かせる物は全部動かして入り口の前に置いて行く。
箒やモップの持ち手の先にテープでナイフを貼り付けて即席の槍のような物も作った。ナイフが足りず付けれなかった箒は持ち手の先端をナイフで削って尖らせた。
「箒の持ち手が木で出来ていて助かったな」
ビルが自分のナイフで箒の持ち手の先端をナイフで削りながら言った。
「いや、プラスチックでもこうやればいけるぞ」
サイモンはビルに斜めに切ったモップの持ち手の先を見せた。
「コイツで刺される奴は不運だな」
「ここに来たこと後悔させてやるさ」
サイモンは先端を斜めに切ったモップの持ち手を非戦闘員の人達に投げ渡した。
「最悪俺達が死んで敵が入って来たらこれで敵をブッ刺せ」
「マシンガン持った相手にこんなので戦えって言うの⁉︎」
若い女性職員がサイモンに非難の声を上げた。
「武器があるだけマシだろ。それと、マシンガンじゃなくてアサルトライフルだ。ほらお前らは下がってろそこに居ると流れ弾に当たるぞ」
サイモンはそう言うと入り口の前に作られた即席の防衛陣地を見た。これで敵の5.56ミリ弾を防げるかどうか怪しいが何も無いよりは良い。
「そう言えばエマとエレナは街の方に行ってるんだったよな?」
「あぁそう言えばそうだね」
「アイツら襲撃のことは知らないだろうから教えとくか」
サイモンは無線機を手に取ると周波数を合わせた。
「こちらサイモン!本社がエイレーネーの襲撃を受けた!」
無線機の奥でエマの驚く声が聞こえた。
《状況を詳しく教えて》
驚くエマに対しエレナは冷静に聞いて来た。
「敵は既に2号棟と正門ゲートと1号棟と演習場に侵入して来ている。今俺達は2号棟内で即席のバリケード作って何とか防衛しようとしてるんだが武器が無い。1号棟に取りに行こうにも包囲されてて行けない。今は敵から奪ったM4と拳銃一丁で何とか防衛してるが長くは持ちそうにない」
《了解。直ぐにそっちに向かうから待ってて!》
「頼りにしてるぜ」
そう言ってサイモンは通信を終えた。
「何て言ってた?」
「直ぐにそっちに向かうから待ってて。だってさ」
アリーナは失笑した。
「でもここに来るまで30分はかかるよね?」
ここから街までの距離は約80キロ、時速130キロのノンストップで走ってもここに着くまでには35分はかかる。
「そうなんだよなぁ・・・・結局、俺達だけで何とかするしか無いって事だな」
はぁ・・・っとため息をついたサイモンはビリヤード台の上に座ってポケットからアメリカンスピリットの箱を取り出すと箱からタバコを取り出して咥えるとジッポーで火を付けた。
「俺にもくれ」
カールとビルがタバコを吸っているサイモンを見て寄って来た。「自分の持ってるだろうが」と言いつつカールとビルにアメリカンスピリットを渡した。すると俺も私もと掃除組全員が集まって来た。
「だからお前ら自分の持ってるだろーが!」
「良いじゃん。縁担ぎみたんな感じで」
アリーナはそう言いながらサイモンの咥えていたタバコを人差し指と中指で挟んで取ると自分が咥えた。
「お前平気でそう言うことするよな」
「ドキッとした?」
アリーナはサイモンに向かって妖艶に微笑んだ。
「いや全く」
「面白く無いなぁ〜」
サイモンはアリーナの顔に煙を吹きつけた。
「何度も色気仕掛けされたらマンネリ化するっての」
「う〜ん、もっと刺激の強いものを考えなきゃかな?」
「そもそも色気仕掛けしようとすんな。ビッチって呼ぶぞ」
「どーぞお好きに」
「お前らイチャつくなら別の場所でやれ」
サイモンとアリーナのやり取りを見ていたビルがP225の動作確認をしながら言った。アリーナはサイモンから離れると机の上に置いていたM4CQB-Rを手に取るとマガジンを抜いて残弾を確認した。廊下の奥から足音が聞こえて来る。恐らく敵だろう。
「それじゃ、悪足掻きをしますか」
「あぁ」
サイモン達は遮蔽物に隠れながら銃口を廊下の方に向けた。
どうだったでしょうか?本当はエマが本社に着いて敵と戦うところまで書こうと思っていたのですが時間と文字数がとんでもないことになりそうだったので切り上げてここまで書いて投稿しました。
そしていつも誤字報告してくださりありがとうございます。とても助かってます!
それと、次回の投稿はリアル事情により遅れてしまう可能性があります。気長に待ってくれると嬉しいです。
次回はエマ視点に戻って本社でドッタンバッタンの大騒ぎになる予定です。お楽しみに!
ご感想お待ちしております!