M14EBR-RIの日誌   作:MGFFM

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題名に困った時は取り敢えず英語にすればそれっぽくなると思うのは私だけだろうか?

大変長らくお待たせしました第26話です!皆さんコロナは大丈夫ですか?こっちは一ヶ月程前に近くで感染者が出たものの何とか大丈夫です。


第26話 New Face

前回の任務のせめてもの報酬として僕達アサルト部隊の面々は休暇を貰った。ネルソンとバラライカは社長と一緒に新しく作る部隊について色々話し合いをしており、オットーは愛車のハーレーに乗って何処かに行ってしまい、サイモンはジムで己の肉体を鍛え、アリーナとアンナは射撃練習場で的を撃ちまくってスコア勝負をしている。ユウヤとハルカは娯楽室でゲームをしているし、ハオレンは自室で読書に勤しんでいたりと皆各々休日を過ごしている。

 

僕の方と言えば、特にすることが無く暇を持て余していた。アリーナ達と一緒に射撃練習をしようとも思ったが、あの白熱した試合に割り込む気も起きないし、折角の休みの日にまで訓練をするのもどうかと思って結局射撃練習場には行かず自分の部屋でゴロゴロとしていた。

 

いつもの日課の日記を書こうとも思ったが書くことが無いので日付を書いたところでシャーペンの動きは止まってしまった。あ、そう言えばルナは今どうしているんだろう。また屋上でぼーっと景色を見ているのだろうか?どうせ暇だし探しに行ってみるか。そう考えた僕は書きかけの日記帳を机の引き出しにしまうと部屋を出た。

 

廊下を歩いているとエレナと出くわした。

 

「あ、エレナさん。何処かにお出かけですか?」

 

右手に握られた車のキーらしきものを見た僕は聞いてみた。因みにエレナ自身はマイカーを持っていないのだが、会社の車は申請して許可をもらえば誰でも使えるようになっている。

 

「ちょっと街の方までね。一緒に来る?」

 

別に僕は街に行ってもやることは無いんだけどここに居てもやることが無くて暇なだけだし暇潰しにはちょうど良いかな。あ、それならルナも一緒に連れて行ってみよう。

 

「良いですね。あ、ルナも一緒に連れて行って良いですか?」

 

ルナも一緒にと聞いた瞬間、エレナはあからさまに嫌そうな顔をした。エレナはコミュニケーションの取り難いルナのことをそこまで好意的には思っていないようだ。

 

「・・・別に良いけど何でアイツも一緒なの?」

 

「特に理由は無いんですけどね。いつも1人なので連れて行こうかなと思いまして」

 

エレナは呆れた様にため息を吐いた。何だろう?何か変なこと僕言っただろうか?僕が首を傾げているとエレナは再びため息を吐きながら話し始めた。

 

「アンタって本当お人好しだよねぇ」

 

「そうですかね?」

 

「うん。間違いないね。で?連れて行くの?」

 

「はい」

 

「じゃ、正門前で待ってて」

 

そう言いながらエレナは廊下を歩いて行く。

 

「了解です」

 

去って行くエレナの背中に返事をしてから僕をルナを探すことにした。先ずは前に探した時に居た屋上に向かうことにする。しかしその前に僕は一度自分の部屋に戻り机の引き出しからP320と予備マガジンを取っつ。そしてハンガーに掛けていたホルスターを取ると腰に付けてP320と予備マガジンをホルスターに入れた。前に街に行った時は何も無いだろうと銃を持って行って無かった。そしたら本社が襲撃されていて銃が無くて大変だった。だからその反省を生かして今日はちゃんと護身用の銃を持って行く。まぁ僕の使ってるP320は45ACP弾を使う型のヤツだから護身用の銃としてはパワフル過ぎる気もするが・・・まぁ良いか。

 

そして部屋を出た僕は長い階段を登って屋上に行くと予想通り居た。屋上の端に何をする訳でも立って水平線の先をジッと見ている。僕はルナの横に立つとそっと声をかけた。

 

「今から街の方に行くんだけど一緒に行かない?」

 

チラリとルナの方を見てみるが特に反応もなくこちらに視線を合わせてもいない。しかしそうなることは想定済み。今回は強引に行かせて貰うぜ。ルナを手を掴み引っ張る。ルナは特に抵抗する訳でも無く大人しく僕に連れられているので僕はそのまま階段を下って外に出るとエレナに言われた通り正門前で待つ。少しの間待っていると駐車場からフォードF150がやって来た。勿論運転席に座っているのはエレナだ。しかしフォードF150みたいなデカい車にエレナみたいな身長の低い人が乗っていると子供が運転している様に見えてしまうなw。

 

フォードF150が僕達の目の前に止まる。僕は後部ドアを開けてるとルナを先に乗せてから僕も乗った。僕が乗ると同時にエレナはアクセルを踏みフォードF150を発進させた。

 

「アンタらは街で何をするつもりなの?」

 

出発してから数分後突然エレナが話しかけて来た。何とかルナとコミュニケーションを取れないかと色々話しかけたりしていた僕はそう言えば街に行って何をするかなどを特に決めていなかったことを思い出した。その場のノリと言うか勢いで来てしまったからなぁ・・・何も考えていなかった。

 

「あー特に何処に行くかは考えて無いですね。ルナと街をぶらぶらと散策でもしますよ。そう言いばエレナさんは街に何しに行くんですか?」

 

「私はブツを受け取りに」

 

ブツを受け取りに?もしかして何かの任務なのだろうか。そう言うことなら僕達も手伝うが。そう聞こうとしたが僕が言うよりも早くエレナは言った。

 

「あぁ別に任務とかじゃ無いから。本当にただ荷物を受け取りに行くだけだから」

 

「その荷物と言うのは?」

 

「人」

 

予想の斜め上の答えに僕は一瞬フリーズしてしまった。ひと・・・ヒト・・・・ひ、人⁉︎

 

「ま、まさか社長は金を稼ぐ為に人身売買とかにまで手を出したんですか⁉︎」

 

くそっまさかそんなことに手を出してしまうとは・・・ウチの会社も落ちてしまったもんだな。

 

「いや違うから。いやまぁ今のは私の言い方が悪かったけどさ」

 

なんだ違うのね。それは一安心。本当に人身売買なんてすることになったら僕全力で社長にそんなことやめろと説得しに行っただろうな。でもそうじゃ無いとなると人を受け取りに行くとはどう言うことなんだろうか?いや、もしかして受け取りに行くって言うのは比喩的な表現で迎えに行くって言うのが正しいのかな?

 

「ほら、昨日ネルソンが話してたでしょ?秘書的な人が来るって」

 

昨日ブリーフィング室でネルソンから聞いた前の任務の反省を生かして社長が暴走しない為や社長の負担軽減などの為に新しく秘書を付けると言う話だったな。成る程、その人を迎えに行くのか。

 

「あ〜。言ってましたね。その人を迎えに行くってことですか?」

 

「そう言うこと」

 

「なら私達も付いて行きますよ」

 

「いや私1人だけで大丈夫だからアンタらは街をぶらぶらしといて良いよ」

 

「これから仲間になる人を迎えに行くのに私達が遊んでいるって言うのは失礼だと思いますし、別に行く宛がある訳では無いですし」

 

「真面目だねぇ」

 

「真面目って言う訳では有りませんよ。さっきも言いましたけど街に行こうとしたのも暇つぶしの為でしたし。暇が潰せるのなら何でよ良かったんです」

 

「じゃぁそいつを連れて来たのも暇つぶしの為?」

 

エレナが親指でルナの方を指差して言った。

 

「それも無いとは言えませんが・・・・積極的にコミュニケーションを取れば喋ってくれるようになるかなと思っていまして」

 

まぁ全く喋らないって言う訳では無いんだけどね。だけど必要最低限のことしか喋らないし、喋らなくて済むことなら頷くなどしてコミュニケーションを取る。恐らくルナの声を聞いたことある人は片手で数え切れる程の人しか居ないだろう。僕が目指しているのは無駄話とかを一緒にしてくれる様になることだ。

 

「それで喋ってくれるようになったら苦労しないんだけどね」

 

「分かりませんよ?もしかしたら喋ってくれるようになるかも」

 

「なら賭けてみる?話してくれる様になるかどうか」

 

出ました賭け。この会社の人達はちょっとしたことでも賭け事にする。まぁ民間軍事会社もとい傭兵らしいけどさ。因みにアサルト部隊の中ではサイモンと賭け事をすることが一番多い。まぁその賭け事の内容は大半がどうでも良いことなんだけど。

 

「良いですよ。幾ら賭けます?」

 

「5ドルにしといてあげる」

 

5ドルと言う安い金額にしてくれたのは僕に対するエレナなりの優しさなんだろうな。しかしこの賭け、負ける気は無い。

 

「じゃぁこっちは10ドルで」

 

「自信満々みたいだね」

 

「負けず嫌いなだけですよ」

 

そんな感じで雑談をしながら車に揺られること約1時間、僕達はE-17地区の中で一番規模の大きい街にやって来た。ここに来るのはFNC達とチョコケーキを食べに来た以来だから久し振りと言う訳では無いが、やはりこの人の多さには驚くなぁ。僕がまだ人形になる前はスラム・・とまではいかないけど僕の住んでいた街はそんなにお金に余裕の無い人達が結構いたし。人の数もそんなに多く無かったからな。

 

街の中を走ること約10分、目的地に着いた様でエレナはフォードF150を道路脇の駐車スペースに止めた。人通りの少ない町外れにある廃墟などを想像していたのだがそんなことは無かった。目の前には小洒落たカフェがある。どうやらここが待ち合わせ場所らしい。

 

エレナは「すぐに連れて来るから待ってて」と言って降りて店の中に入って言った。僕とルナは言われた通り大人しく後部座席に座って待つ。店はガラス張りだったので店内に入ったエレナの姿も確認出来たので僕は様子を見た。エレナは店内を見渡してその待ち合わせている人を探している様な素振りをする。その後エレナは近くに居た店員に話し掛けた。店員は首を横に振りそれを見たエレナは店員に頷きそして店からエレナは出てフォードF150に戻って来た。

 

「どうかしました?」

 

運転席のドアを開けて乗って来るエレナに聞いた。

 

「まだ来てないみたい。もう指定の時間の5分前って言うのに。何が性格は真面目なところです〜だ。真面目なヤツなら遅くても5分前には来てるもんでしょ」

 

腕を組んでぶつぶつと文句を言うエレナをなだめる。待ち合わせの時間になっても人が来ないことの文句からいつの間にかウチの社長の文句に変わり僕はその愚痴を苦笑いしつつ聞き、その人が来るのを待った。が、10分経っても目的の人は来ず、エレナは貧乏ゆすりを始めた頃、電話の呼び出し音が鳴った。エレナはポケットからスマホを取り出すと相手はなかなか待ち合わせ場所に来ない本人からだった様で愚痴を溢しつつエレナは電話に出た。、

 

「もしもし?今何処に・・・何て?よく聞こえない。・・・・はぁ?今の場所は?・・分からないって・・まぁそっか。どんな所に居るの?・・・いや裏路地だけじゃ分からないから。近くに何か目印になりそうなのは無い?・・・・・はぁ〜分かった。今から探しに行くからそのまま頑張って逃げ回って」

 

会話の内容から察するに、相手の方は何か厄介ごとに巻き込まれてしまったのかな?

 

「チンピラに追いかけ回されているそうだから2人とも探して助けた来てくれない?」

 

つい最近までヤバめの任務をしていたせいか、何かとんでもない事に巻き込まれたんじゃと思っていたのだがエレナの話を聞いて拍子抜けしてしまった。

 

「現在は不明。唯一の手がかりは広めの裏路地を走り回っているって言うことだけ。敵の人数は5〜7人。武器はナイフと鉄パイプ。救出目標はアニー・フローレス」

 

と言いながらエレナは若い女性の顔写真が貼られた紙を僕達に見せて来た。見た目は20歳程で、普通に可愛い。茶髪の長い髪が特徴。これなら直ぐ見れば直ぐに本人かどうか分かるな。

 

「私は電話しながら現在地を何とか特定してみるから2人は2手に分かれて目標を救出して来て」

 

「了解です」

 

ずっと車内に座っていて暇を持て余したし丁度良い。昔の、まだ青年だった頃の僕だったらチンピラ相手にもビビっていただろうし、戦ってもこっちが一方的にやられるだけだっただろうが今は違う。今の僕は人形、それも戦いに特化した戦術人形のM14EBRだ。今の僕なら大抵の人間をコテンパンにやっつける事が出来る自信がある。

 

そんな妙に強気な自信を持ちながら僕はドアを開けて降りる。ルナもその後に続く。いざ探しに行こうとした時運転席側のドアの窓を開けてエレナが顔を出して来た。

 

「分かってると思うけどチンピラ連中に本気を出さないでよ?私達が本気で殴ったら普通の人間なんて簡単に骨が折れちゃうことだってあるんだから」

 

「分かってますよ」

 

「アンタも、戦うときは相手を少し痛めつけてビビらせる程度にしてよね?」

 

エレナは僕の横でいつの間にかグロック34を取り出してスライドを引いて初弾を薬室に装填していまルナに言った。注意を言われたルナは大人しくグロック34を懐にしまった。もしかしてエレナが注意しなかったらぶっ放すつもりだったのか?ルナの敵に対する容赦の無さを考えるとあり得るから笑えない。

 

「じゃぁルナはあっちを。僕はこっちの方を探すから」

 

ルナは頷くと僕が指差した方に走って行った。僕はルナが走って行った方向とは逆の方に走り始めた。適当に方向を決めて走り始めたのはいいが、ぶっちゃけ何処を探せば良いのか分からない。裏路地と言われてもここら辺に裏路地は沢山ある。近くの裏路地から順に調べまくろうと思ったがそれでは時間がかかり過ぎて効率が悪い。でもそれ以外の良い方法が今思いつかないから取り敢えず近くにあった裏路地に入って探してみるがやっぱり居ない。直ぐに別の裏路地へと移動する。

 

《エレナから捜索中の2人へ。目標との連絡が途絶えた。敵に捕まったと思われる。途切れる直前に大通りの近くと言っていた。以上》

 

エレナから人形用無線を使って連絡が来た。これは不味いな。早く見つけないと何をされるか分からない。僕の覚えている地図が正しければ大通りはここから真っ直ぐ行ってから右に曲がった所にあった筈だ。僕は全力疾走で大通りに向かう。

 

しかし大通り付近にも裏路地が沢山あるのでどれが辺りか分からない。僕はその場で止まると耳を澄ました。もしフローレスさんがチンピラ連中に襲われているのなら叫び声を上げている筈。もしかしたらその声が聞こえてくるかもしれない。

 

が、大通りが近くにあるために車や人の話し声などの騒音が邪魔で叫び声らしき声は聞こえない。さっきと同じ様に取り敢えず近くの裏路地に

入って探す。ゴミが散乱する裏路地を走り回るがフローレスさんやチンピラどころか人っ子1人居ない。

 

「ん?」

 

裏路地を全力疾走している時、僕は何かが聞こえた様な気がして足を止めた。聞こえて来たのは左側、しかし左側は建物の壁だった筈なんだが?そう思いながら左を向くとそこには猫か犬が倒れる位の広さの隙間があった。そこから何か女性の男性の声が聞こえて来た。

 

「いやッ!やめて!離してッ!」

 

「うるせぇ!暴れんな!おいお前らコイツを押さえてろ!」

 

どうやら向こう側にも裏路地がある様だ。会話内容から察するに女性が複数の男性に襲われている模様。隙間を覗き込んで何とか向こうの様子を見ようとするが何か人影が動き回っているのが見えるだけで女性の顔とかは見えなかった。しかし僕達の探しているフローレスさんの可能性はかなり高い。それにもし違ったとしても襲われている女性をほっとく訳にはいかない。何とか向こうに行かないかと辺りを見回したが道どころか僕が倒れそうな隙間も無かった。

 

僕は舌打ちをしながら再び全速力で走り裏路地から出ると隣の裏路地へと向かった。念のためにP320を一度ホルスターから取り出してセーフティーを解除し、スライドを引いていつでも撃てる様にしておく。P320をホルスターに戻すとホルスターを上着で隠した。

 

前方から複数の男性の声が聞こえて来る。僕は相手に気づかれない様に慎重に早歩きで進む。暫く進むと男達がたむろしているのが見えた。人数は全部で7人だ。僕は男達に気づかれる前に距離を保ったまま物陰に隠れつつ様子を伺う。どうやら男どもは女性を押し倒して服を無理やり脱がそうとしている。女性は必死に抵抗しようとしているが男4人に押さえ込まれている。この後何が起きるのかは僕でも簡単に想像することが出来る。このままでは不味い。

 

暴れる女性の顔を確認してみると茶髪の長い髪が見えた。顔は押し倒されている状態なのでよく見えないが恐らく探していたフローレスさんで間違いなさそうだ。

 

「こちらエレナ。目標を発見。現在地は大通りにあるファーストフード店の横にある裏路地です。チンピラ7人に取り押さえられて暴行などを受けています」

 

《了解。1人で大丈夫?今ルナもそっちに向かっているけど必要なら私も加勢するけど?」

 

「大丈夫ですよ。アリーナさんに近接格闘はみっちり仕込まれましたから」

 

《了解。でも無理はしないでね》

 

「了解です」

 

通信を終えて再び男達の様子を伺うと男の1人が強引に上着を脱がせてフローレスさんの胸を鷲巣かもうとしていた。僕は物陰から出るとその男に向かって落ちていた拾って石を投げた。足は男の頭に命中し「痛ッ⁉︎」と言いながら男は頭を手で押さえた。僕は大きく息を吸い言った。

 

「その女性から離れろッ!」

 

僕の叫び声にニタニタと笑いながら女性を襲っていた男達の動きがピタリと止まり、視線が一斉に僕に向いた。

 

「あ?何だてめぇ」

 

お楽しみのところを邪魔されたのが気に食わなかったのか男達は僕を睨んでいたが僕の姿を見ると「お、結構可愛い子じゃ〜ん」などと言いながら先程の様なニヤついた表情に戻った。

 

「女を助ける為に1人で助けに来るとは・・・可愛い割に度胸はあるねぇ」

 

恐らくボスであろう黒いジャケットを来た若い男がそう言った。僕は毅然とした態度でもう一度言った。

 

「その人に手を出すな。今すぐどっか行け」

 

と言ってみたは良いもののそれを聞いた相手の方はアッハハハハ!と笑うだけで僕の話を真面目に聞いている様子は無い。う〜ん。相手をビビらせる様な言い方が出来れば良いんだがこう言うのには慣れてないからなぁ。

 

「強気な女は好きだぜ。だが・・・・」

 

リーダーの男は頭から血を流す男をチラリ見た。うーん。もう少し力を抑えて投げるべきだったかなぁ。

 

「おいたの事は謝らないとなぁ」

 

リーダーの男が目配せをすると、一番僕の近くにいた男が立ち上がり僕の前に来た。僕は一歩も引かずその男を睨み付ける。

 

「ギャハハハハ!お嬢ちゃん可愛いねぇ。その太ももとか良いよ〜すりすりしたいね」

 

目の前に立った男は視線を僕の足に向けてそんなことを言う。男の僕でも・・いや、男の僕だからこそ気持ち悪いと思う。野郎から太ももすりすりしたいとか言われて気持ち悪いと思わない奴は居ないだろ?なので僕は先制攻撃をした。

 

男が何か行動をする前に全男の弱点である股間に下蹴りをお見舞いする。

 

「ん"がぁ”⁉︎」

 

自分の息子を蹴り上げられた男は声にならない断末魔を上げて股間を両手で押さえながらその場に倒れ込んだ。それを見た他の男達はニヤついた表情を一変させて怒りの形相で一斉に僕に襲いかかって来た。

 

「この野郎ッ!」

 

最初にやって来たのは鉄パイプを持った身長の低い男。右手には鉄パイプが握られており、これをまともに食らえばいくら僕が人形と言えども大怪我は間違い無しだ。

 

「野郎じゃないっての!」

 

と言い返しつつ僕は鉄パイプが振り下ろされた瞬間鉄パイプを持っていた右腕と襟を掴み背負い投げみたいな感じで男をぶん投げた。見た目は可愛らしい少女だが人形なので投げる力も強い。ある程度力を抜いて投げたんだけど、まともに受け身も取れず背中から地面に落ちた男は苦しそうな声を上げた。余程痛かったのか起き上がるそぶりはなくうめき声を上げるだけだ。

 

すぐさまナイフを持った男2人が僕に飛び掛かって来た。ナイフを横薙ぎに振って来たのでしゃがんでそれを回避し、がら空きの腹に強めのパンチを食らわせた。強烈な腹パンを食らった男は腹を押さえてその場にうずくまってしまう。

 

もう一人の男が刺突して来たのでナイフを握っている右腕を掴み右脇に引き込んで挟み、そして腹に膝蹴りを喰らわせた。これで4人を無力化した。これもハオレンとアリーナの訓練のお陰だな。あの厳しい近接格闘訓練を頑張った甲斐はあったな。

 

残りはリーダーを含めて3人。ただの少女だと思って舐めていた相手が予想以上に強かったのに驚いている様で僕から距離を保って様子を伺っている。

 

「動くなッ!」

 

リーダーの男がズボンから拳銃を取り出して僕に銃口を向けた。どうやらズボンのベルトに挟んでいた様だ。僕もP320をホルスターから抜き取ろうとしたが4人を倒した事で油断していて抜き取るタイミングを失ってしまった。大人しく僕は両手を上に上げた。

 

アレは・・・・ルガーMkIIか。しかもサプレッサーを内蔵した小音モデル。ルガーMkIIの使用弾薬は22口径LR弾って言うやつで発砲音が9ミリパラペラム弾とかよりも小さい。サプレッサー付きとなるとかなり発砲音は小さくなる。隣が大通りってこともあるから車の通る音とかね発砲音は掻き消され誰かに聞かれることも無いだろう。サプレッサー内蔵型のルガーMkIIとなるとそれなりに良い値段はするけど馬鹿みたいに高いわけでも無い。コイツが持っているのも不思議では無いな。

 

っていかんいかん。銃の分析をしている場合じゃ無い。この状況は普通に不味い。下手に動くと僕は撃たれてしまう。22LR弾くらいの小口径弾なら食らっても人形だから死なないんじゃないかなとも思ったが絶対に死なないって言う確証は無いし、いくら僕が人形でも撃たれるとクッソ痛い。何度か撃たれたことがあるからその痛みは理解している。撃たれた箇所は鋭い痛みと同時に焼ける様な熱を感じる。アレは何度も体験したいとは思わないね。

 

まぁ痛覚カットって言う荒技があるんだけどね。でももし弾が頭に当たれば電脳が破壊されて僕は死んでしまう可能性だってあるし、胴体を撃たれてコアなどの重要部分が損傷してしまう可能性だってある。

 

よく22LR弾は低威力で貫通力も低く人に撃っても致命傷を与える事は出来ないとか言われているけどそんなことは無い。逆に22LR弾は貫通力が高いし、普通に人間を殺す事が出来る程の威力だってある。なので舐めていると痛い目に合うどころかあの世に行ってしまう。

 

「良い銃だね」

 

僕は両手を上げたままリーダーの男に言った。リーダーの男は既に勝ち誇った表情だ。

 

「だろ?500ドルで買ったおニューの銃何だが撃つ機会が無くてな。試し撃ちの的にされたく無ければ大人しくしろ」

 

つまりまだルガーMkIIで人を撃った事は無いってことか。それならば1つハッタリをかませば形勢逆転出来るかもしれない。一か八かの危ない賭けになるけど・・・・やってみるか。僕はニヤリと笑って見せた。

 

「あ?何がおかしい」

 

「その銃の名前はルガーMkII。使用する弾は22口径ロングライフル(LR)弾。この弾がどんな弾か知ってる?」

 

「知るかよそんなもん。撃てりゃぁ何でも良い」

 

僕はわざとらしくため息をついた。

 

「自分の使う銃のことくらい知っといた方が良いよ?その様子だと22口径ロングライフル弾が銃弾の中で一番威力の低い弾だってことも知らないんでしょ」

 

「はっ、そんな嘘信じると思ってんのか?」

 

「別に信じなくても良いよ。得するのはこっちなんだし」

 

「何でお前が得すんだよ。撃たれた死んじまうんだぞ?」

 

「だーかーらー、22口径ロングライフル弾は貫通力が低いから頭を撃っても頭蓋骨で弾は止まるし、心臓に撃っても肋骨や筋肉とかが邪魔して弾は心臓に当たる前に止まる。つまり撃たれても私は死なない。って言うか普通に考えて弱いと思わない?22口径ってことはつまり弾の直径は約0.223インチってこと。センチで表すなら5.7ミリ。直径5.7ミリの弾で人を殺せると思う?」

 

今話したことはほぼ全部嘘だ。22RL弾は普通に高い貫通力を持っているので近距離なら心臓は勿論頭蓋骨を貫通して脳を撃ち抜く事も可能だ。直径云々の話も相手を惑わせる為に言った。直径5.7ミリの弾丸で人間は死んでしまう。と言うか直径だけで言うならアサルトライフルとかは5.7ミリより小さい5.56ミリだし。

 

「だからアンタが撃った後に上着で隠しているホルスターから拳銃を抜き取って君達2人を撃ち殺す事だって出来る」

 

私の拳銃って言ったところで男2人はピクリと反応した。そりゃそうだ。銃持ってますよ〜って言えば誰でも警戒するよな。

 

「私が持っているのはP320オートマチックピストル。使用弾薬は45口径オートマチック・コルト・ピストル(ACP)弾。アンタでもファーティーファイブ(45口径)って聞いたことあるでしょ?」

 

男2人、特に部下の男は目に見えて動揺している。このまま僕のハッタリを信じて逃げるなら隙を見せるなりしてくれれば僕が反撃できるチャンスが来る。

 

「私は殺人鬼とかじゃ無い。ただそこの人を助けたいだけだから大人しくどっか行ってくれると嬉しいんだけど・・・」

 

部下の男が後ろに上がろうとしたがそれをリーダーの男が止めた。そして銃口を向けたまま言った。

 

「例え本当にお前が銃を持っていたとしても俺が有利なのには変わらねぇ。お前が銃を取り出す前に全弾ぶち込んでやるよ。幾ら威力が低い弾でも何発も食らえばタダじゃ済まないだろう?」

 

チッ、作戦失敗か。リーダーの男は僕のハッタリを信じているのかもしれないけど思ったより動揺したりしなかった。アレは本気で僕に全弾撃ち込む気だ。リーダーの男がルガーMkIIの引き金を引き絞ろうと力を込めようとした瞬間、僕の真後ろで乾いた破裂音が響き、それと同時に僕の右耳の横を何かが超高速で通り過ぎて行った。

 

「ダッァ"⁉︎」

 

次の瞬間にはリーダーの男が持っていたルガーMkIIが弾き飛び後ろに転がって行った。驚いて後ろを振り向くとそこにはグロック34を構えたルナの姿があった。僕が喋っている間に来てくれたのか!僕はホルスターからP320を取り出して右手を押さえているリーダーの男に狙いを定めた。

 

「ゆ、指が、俺の指がぁぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!」

 

どうやらルナがルガーMkIIを撃っても吹き飛ばした時に人差し指を折ってしまった様だ。まぁ仕方ないね。部下の男は不利な状況になったと分かった瞬間逃げて行った。ルナは無言のままズンズンをうずくまっていたリーダーの男に詰め寄り銃口を頭に向けた。ルナの感情の分からない表情と冷徹な瞳を見たリーダーの男は何かを感じ取ったのか悲鳴を上げて命乞いをし始めた。

 

「やめろやめろやめてくれ!頼むッ!撃たないでくれ!俺が悪かった!金でも何でもやるから殺さないでくれッ!」

 

などと必死にルナに命乞いをするがルナは表情1つ変えず銃口を頭に向け続ける。

 

「お金とかは要らないからとっとと失せて」

 

相手をビビらせる為に声を低くして更にホルスターから抜いたP320の銃口を男に向けながら僕は言った。リーダーのボスは慌てて立ち上がると走って逃げて行く。しかし腰が抜けているのか上手く走れず躓いたりしながら逃げて行く。その間ずっとルナはリーダーの男に銃口を向けていたご姿が見えなくなると構えていたグロック34を下ろした。

 

女性の方を見てみるもポカーンと放心していた。何が起きたのかよく分かっていない様だ。僕はP320をホルスターに戻してなるべく安心させるように微笑みながら女性に話しかけた。

 

「大丈夫ですか?何処か痛むところはあります?」

 

ざっと見た感じだと口元が切れて少し血が出ていて、左頬に痣が出来ているが酷い怪我などは無さそうだ。

 

「え?・・・・あっは、はい!大丈夫です!助けて下さりありがとうございますッ!」

 

早口で何度も感謝の言葉を言いながら女性はそそくさとその場から逃げて行こうとする。それを僕は「ちょっと待って!」と言って慌てて彼女の肩を掴み引き止める。女性は恐る恐ると言った感じで振り向き僕を見た。

 

「ご、ごめんなさい。お金とかはそんなに持ってなくて・・・・」

 

「お金は取りませんよ。アニー・フローレスさんで間違いないですか?」

 

「えっ⁉︎」

 

名前を聞いた瞬間女性は目を見開き後ずさった。

 

「な、何で私の名前を⁉︎」

 

やっぱりこの人はフローレスさんで間違い無い様だな。人違いじゃなくて良かった。ワタワタと慌てるフローレスさんに僕は説明をする。

 

「安心して下さい。私達はL&M社の者です。電話を受けて助けに来たんです」

 

「L&M・・・ライアン&モリス社の人ですか?」

 

「そうです。遅くなってしまい申し訳ありません」

 

僕達が味方だと分かってくれたのかフローレスさんは「怖かった〜」と言いながらその場にへたり込んでしまった。

 

「エレナさん。フローレスさんを保護しました。チンピラ連中は全員無力化。リーダーの男はビビって逃げて行きました」

 

《了解。こっちも今大通りに着いたところだからそのまま連れて来て》

 

「了解です」

 

「誰と・・・話してるんですか?」

 

フローレスさんは怪訝な表情で僕を見ていた。そりゃそうだよな。人形用無線で話している様子は側から見れば独り言を言っている様にしか見えないもんな。

 

「あぁすいません。仲間と無線で話してまして。迎えの車が着いたみたいなので行きましょうか」

 

フローレスさんを連れて裏路地を出て大通りに行くとすぐ目の前にフォードF150が止まっていた。僕はフローレスさんを後部座席に座らせるとその横に座った。ルナを隣に座らせたら逆に怖がらせる可能性があるからな。ルナは表情1つ変えず助手席に座った。全員乗ったことを確認したエレナはフォードF150を発進させた。

 

「手荒な歓迎を受けたみたいだね」

 

バックミラーでフローレスさんの姿を見たエレナはそう言った。

 

「そうですね・・・」

 

フローレスさんは苦笑いしながら答えた。と言うかさっきから僕と方をチラチラと見てきているんだけど何んだろう?あ、目が合った。

 

「あっ・・・す、すいません」

 

フローレスさんは僕と目が合った瞬間僕から目を逸らしながら謝った。何だろう、気になるな。

 

「どうかした?」

 

「いえ、何でもないです」

 

「これから仲間になるんですから、遠慮なんてしなくて大丈夫ですよ?」

 

フローレスさんは数秒間悩むそぶりした後、意を決したように僕の方に向いた。

 

「間違っていたら申し訳ないんですけど・・・・もしかして貴方は戦術人形ですか?」

 

あぁ〜そう言うことか。もし人間だったら失礼だと思ってなかなか聞けないでいたのか。

 

「はい。そうですよ。あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は戦術人形のM14EBR。会社ではエマって名前で呼ばれています」

 

僕はにこやかな笑顔を見せながら自己紹介をした。そして喋らないルナの替わりにルナの紹介もする。

 

「そして助手席に座っているのは同じく戦術人形のHK433。名前はルナです」

 

ルナの方を見てみたが会釈とかをはせず無表情のままジッと前を見ているだけだ。

 

「で、私がエレナこと戦術人形XM8 」

 

「えっ貴方もなんですか⁉︎」

 

「そりゃそうでしょ。見た目で分からない?」

 

「すいません。分かんないです・・・」

 

フローレスさんが間違えるのも無理はない。人形は殆どの部分に生体部品を使っているので見た目は普通の人間にしか見えない。ぶっちゃけ僕も人形と人間をぱっと見で見分けられるかと言われたら自信が無い。

 

「もしかしてL&M社もグリフィンみたいに主戦力は人形なんですか?」

 

「いや、ウチの主戦力は人間だよ。私達人形は今のところ5人だけ。まぁ今後何人か増える予定だけど」

 

「そうなんですか。ちょっと意外ですね。グリフィンみたいなところかなと思ってたんですけど」

 

「ウチはグリフィンとは色んな意味で違うよ」

 

「ですね」

 

最新鋭の設備や装備、潤沢な資金と資源。どれもこちらには無いものだ。規模だって向こうのほうが圧倒的に大きい。

 

「私も・・・戦うことになるんでしょうか?」

 

不安げにフローレスさんはエレナに聞いた。助けた時も思ったんだけどやっぱりこの人は戦い慣れていないみたいだね。

 

「いや、アンタは机仕事が主だからチャカを振り回すことは無いよ」

 

「チャカ?」

 

どうやらフローレスさんはチャカと言う用語の意味が分かっていない様で首を傾げた。

 

「あーチャカって言うのは銃のこと」

 

「あ、そうなんですね」

 

「まぁ兎に角アンタが銃を撃つ時が来るとすればそれは敵が本社に攻め込んで来た時位だろね」

 

「敵が本社に攻め込んで来ることなんてあるんですか?」

 

「・・・滅多にないね」

 

つい最近攻め込まれたばかりなので全く無いと言い切れないのが悲しい所だな。

 

「でも射撃訓練とかは一応受けてもらうことになるから。書類には射撃経験無しって書いてたけど触った事もないの?」

 

「そうですね。撃ったことは一度もありません」

 

「悪いけどウチは全職員銃は扱える様になるのが決まりだから」

 

「了解しました。頑張ります」

 

と、返事はしていたもののフローレスさんの表情は何処か浮かない顔だった。こんなご時世でも・・・いや、こんなご時世だからこそ銃火器を毛嫌いしている人が居る。民間人が銃を所持することに反対する人達だって居るんだからな。もしかしたらフローレスさんも銃の所持には良しとしない人なのかも知れないって思ったけどそしたら何でウチに来たんだよって事になるな。じゃぁ普通に今までに銃を使う機会が無かっただけかな。

 

「あっそうだ、さっきはバタバタしてて言えなかったんですけどエレナさん。エマさん。ルナさん。助けていただきありがとうございます。そしてこれからよろしくお願いします」

 

「よろしく」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

新しい仲間を乗せて、僕達は街を後にした。




どうだったでしょうか?次回は新人人形が登場予定!そして新人人形とフローレスさんなどが参加した射撃訓練回になる予定ですお楽しみに!

そして、もしかしたらまた投稿が遅れてしまうかもしれませんが、気長に待って頂けると幸いです。

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