大鳳が鎮守府に着任したようです。   作:grint419

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      | ○ |         r‐‐、
     _,;ト - イ、      ∧l☆│∧  良い子の諸君!
    (⌒`    ⌒ヽ   /,、,,ト.-イ/,、 l  この話は艦これを題材にしているが
    |ヽ  ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒)  皆のイメージを壊す可能性が
   │ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /|    あることに注意して欲しい!
   │  〉    |│  |`ー^ー― r' |  
   │ /───| |  |/ |  l  ト、 |  
   |  irー-、 ー ,} |    /     i
   | /   `X´ ヽ    /   入  |


大鳳が鎮守府に着任したようです。

「そう、私が大鳳。出迎え、ありがとうございます。提督、貴方と機動部隊に勝利を!」

 

自分の口から漏れでた言葉に、偽りはなかった。

生まれ変わる前、私がまだ、意思をもつことを許されていない道具であったころ、私は結局、戦果らしい戦果をあげることもなく、沈んでしまった。その時のことはよく覚えている。

道具として生み出された以上、私だって活躍したかった。けれど、色々な不運が重なって、それは叶わなかった。だから、今度こそ、という思いはあった。

 

「うん。君の就役を歓迎するよ。私がここの鎮守府の提督をやらせて貰っている、大西中将だ。よろしく」

 

そう言っていかにも(・ ・ ・ ・)好青年風とした青年が手を差し伸べてくる。一瞬、意味が分からなかった。そうか、今の私には手があるんだ。そう気づくまで、暫くの時間が必要だった。

一拍置いて握り返す。別段おかしなところはなかったはずだが、どうしてか目の前の提督はすこし驚いた様子だった。だが、いきなり「何を驚いているんですか?」と聞くわけにもいかないだろう。まだ私と彼との間に、それができるだけの信頼関係はない。

 

「よし……。それじゃあ、彼女も無事就役出来たみたいだし、これから鎮守府を案内しようか。それが毎回新しい艦娘がきた時の通例でね」

 

そう言って提督はすわり心地の良さそうな椅子から立ち上がる。普通に立っている分には、何処らへんが提督なのかよくわからないなよなよとした印象を受ける彼だが、身の回りの調度品はそれに反比例するように立派で、提督という職業に恥じないものばかり。それが、私にちぐはぐな印象を抱かせた。

 

「ははは、そう部屋をジロジロ眺め回されると困るな」

 

「あ、すいません……」

 

どうやら自分は相当目立っていたらしい。提督はあまり気にした風には見えなかったが、確かにすこし不躾だったような気もする。

 

「いいよいいよ座ってて、提督さん。私が彼女を案内してくるね」

 

今まで私たちのやりとりを、少し面白くなさげに見ていた艦娘が慌てて立ち上がって駆け寄ってくる。確か彼女は瑞鶴―――翔鶴型航空母艦の二番艦であったか。

 

「いや、今日は私が行こう。彼女は少し特別(・ ・)だからね。瑞鶴は、赤城の方を見てきてもらってもいいかい?」

 

特別?なんのことだろう。ちょっと色々と心あたりが多すぎて私には判別がつかなかった。良い意味であればいいのだけれど。

しかし、眼前の二人共がその意味について私に説明してくれる気はないようだった。瑞鶴のほうも、今のでしっかり納得したらしい。

 

「今赤城さんが暴食しちゃったら……。もう、出撃もできなくなっちゃうもんね……」

 

? 赤城とは、栄光ある一航戦の母艦であったはずだ。最も暴食などという荒っぽい言葉からは程遠い存在なはず。

そんな彼らの会話に気を引かれつつも、私は提督に案内されて部屋をでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……で、最後にココがキミの部屋だ。私もできるだけ姉妹館、同型艦で部屋分けしているのだけれど、キミはそのどちらもいないからね」

 

「いえ、そのようなご配慮は私には勿体無いです」

 

「そう言ってくれるとありがたい。まあ、ウチでは月に一回ほど要望届けっていう箱私の執務室の前に置くことにしている。もし、仲の良い艦娘ができたりして、部屋を移りたいのであれば、そのときまで待って欲しい」

 

まあ、前の要望届けが昨日だったから、一ヶ月近く待たされるんだけどね。と提督は反省しているのかいないのか、少し茶目っ気を混ぜて笑った。

 

「それじゃあ、明日からはしっかり頼むよ。今日はお疲れ様」

 

そう言って、私の返事も程々に聞き流して、提督は私の部屋……に今日からなる部屋を出て行った。不思議な感じがした。

とりあえず、何もない部屋の中にポツリとおいてあるベッドに腰を下ろす。いくら時代が変わったとはいえ、半舷上陸はそう簡単にできるものではないということだから暫くはこのままだろう。別段、困ったことはないのだが。それよりも、自分()半舷上陸するという立場になったことがおかしくて、思わず笑みがこぼれてしまった。ハッとする。

 

「笑う……か……」

 

私には、できなかったこと。私には、必要なかったことだ。それなのに、今、それがさも当然のように、私は笑った。

生まれいでたその瞬間から、理解はしている。私は、艦娘。その製造(・ ・)方法は、分魂者の適正のあるもの―――つまり提督―――が、自分の(たましい)を一部切り離して概念に命を吹き込むこと。霊を吹き込むというと聞こえは悪いが、切り離した側の霊も、時間という薬を経て回復はするらしい。だからこそ、私のような大型艦を建造すると、数日間は寝込む提督もザラだという。

その点からすると、彼は見た目にそぐわず優秀なのだろうか。私が建造されたのは昨日で、就役が今日。普通なら、まだ寝込んでいてもおかしくはないはずだ。まあ、それはおいおい分かるだろうと、私は気分を切り替えて部屋をでることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほど受けた案内を即活用しながら、私は工廠へと向かった。自分の使用することになる装備を受け取りに行くためだ。その中途、私は提督の印象ある言葉を思い返していた。

 

 

 

『今日から一週間ほど、キミには僕の秘書艦を勤めてもらう』

 

『秘書艦……ですか?』

 

『ああ、要するに、私とともに一日中事務処理をするいや~な役割さ。これもこの鎮守府の慣例でね、新しく出迎えた艦娘には一週間ほど、秘書艦をやってもらうことにしているんだ』

 

 

 

戦うために創りだされた存在であるはずなのに事務処理までしなくてはいけないのか、その時はそう思ったものだが、では逆に、就役と同時に案内だけされて放り置かれても、それはそれで色々と大変だと思うとなんだ複雑だった。

艦は女であるという概念上、艦娘は文字通り女の子であるので、鎮守府とは言っても軍特有の殺伐とした空気は無いものの、その本質はあくまで軍のそれだ。だから、自分で頑張って他の艦娘と仲良くなろうと試みるよりも―――つまり横のつながりを強化しようとするよりも―――提督1人との関係を深めてしまえば他の艦娘とのつながりも同時かつ自動的に深まるのだろう。私には、それ以外に顔を合わせて間もない存在をそばにおくという発想を理由付けできなかった。

そうあれこれ考えているうちに―――いつの間にか、艦であったころには出来なかったこの『考える』という行為を好きになっている私を私自身否定できずにいる―――私は工廠へとたどり着いていたらしい。初日からこんなふわふわしていては先が思いやられるというものだ。私はそう気を引き締めた。

 

「すみません……」

 

大きめな両開きの扉をくぐって目の前に見えた、今度は逆に違和感を感じるほど小さめな受付……のような場所に歩み寄り、とりあえず声をかけてみる。声帯が喉を震わせるのを感じる。つまり、声は出ている。けれども、肝心の声を受け取る人間が誰もいないようだった。

提督の、通達ミスなのだろうか。そう思い、私の中の提督の評価度がワンランク下がったその時、私は誰かにスカートを引っ張られた。

 

「ひゃ!?な、なに?」

 

急いで振り返る。が、誰もいない。

その直後、今度は左脇をくすぐられる感触……!!

 

「ちょ!ちょっと!」

 

たまらず後ずさる。けれどもやっぱり人影は見えな……い……?

いや、いる。でも絶対人じゃない。少なくとも私の知る人間という生き物は、身長が170ほどあるはずだ。目の前のそれは、どう盛ってもその半分もない。

 

「―――!――――――!」

 

「―――――――――!」

 

しかも、1人?いや、むしろ一匹だろうか。どちらでもいいが、一匹はなかった。彼女たちはそれぞれ、その小さな手に不釣合いなボウガンや靴を持って……持って……!?

 

「あの!それ、たぶん私のなんですけど!」

 

いや、自分の中では絶対にあれは自分のものだという確信があった。けれども、目の前のナゾ生物たちがあまりにも我が物然として振り回しているので断言することは憚られた。機嫌を悪くして壊されては叶わない。

 

「―――!」

 

「―――!」

 

しかし、ナゾ生物は私の言葉に耳を貸すつもりは毛頭ないらしい。むしろあの手振りと様子は……。

 

「あなた達……、それは私に対する挑戦と受け取るけれど、いいかしら?」

 

青筋が立つのを止められない。自分でもなんでこんな簡単に、とも思うし、自分で自分を制御できなっていることは分かっていたが、不思議と悪い気はしなかった。むしろ、高揚さえした。

――――――そうして、私と妖精さん(仮称)との、壮絶な鬼ごっこ(戦い)が始まった。もちろん後で提督に腹を抱えて笑われた。どうやら、初日が心配でつけていたらしい。それを知らされた時、私に、その行為をダシに彼を咎める余裕はなかった。おそらく顔も真っ赤だっただろう。全くもって忘れ去りたい黒歴史だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「今日はいい風……」

 

海上を全速力で進行しつつ、そう私はひとりごちた。

私はまだ、練度の関係で和弓は使いこなせないという判断からのこの武器(ボウガン)らしいのだが、もう私には、この武器が体の一部のように馴染んでいた。今から元に戻せと言われても、違和感しかわかないだろう。

しっかりと、それでいて素早く最終点検を終わらせ、私は零戦52型の射出体制に入る。―――そして、いい風を待つための数瞬の間の後、

 

「優秀な子たち、本当の力を見せてあげて!」

 

勢いよく、艦載機を射出。迷わず2機目の射出体制に入った。この風を逃す手はない。

次々と飛び立っていく艦載機たち。全機の射出を終えたところで、私達空母群には、しばし手ぶらな時間が湧いて出てくる。自然と、私はふと、この一週間を振り返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えば、もう既に、この鎮守府に就役してから一週間の月日が流れていた。

色んな事があった。提督は、私の思った通りに接しやすい人で、思った以上に優秀だった。

例えば、今私が使っている零戦52型。これが私に与えられた制空戦闘機だった。

心のどこかでは不満だった。他の正規空母の艦娘たちがことごとく烈風を積んでいるのに、そして、口ぶりから察するに、まだ烈風は予備があるのに、何故私は型遅れの零戦なのか、と。

それを聞いたのは秘書艦を初めて三日目の夜中だっただろうか。つい眠くて、気が緩んでしまったのだ。簡単に言うなら、愚痴をこぼしてしまったのだ。上官に。それを聞いて、彼は笑っていった。

 

「確かに、幸いにも烈風はウチの鎮守府に限って言えば余裕がある。けれど、あれは扱いが難しいんだよ」

 

烈風は、いうなれば、旧日本海軍の夢と妄執の結晶だ。

よく曲がり、そこそこの防弾性能を持ち、速く飛び、強い武器を持つ。誰にだって分かる。そんな性能を発揮することが、無理だということくらい。

しかし、この世界にはその烈風が―――映し身であるとはいえ―――存在している。だが、その扱いは並みのものではないそうだ。

私なら扱えると啖呵を切った私に課せられた課題は、零戦を用いて、実戦で左捻り込みを効果的に運用できるようになること。

もちろん、零戦の操縦特性を活かしたその技を、知らないわけではなかった。おそらく、一機のみ操り、かつ妨害が無いときならば、私にもできるだろう。

けれど、それを実戦でやれ、となると全く話が違ってくることを、私は身を持って知った。しかも、今までの私の主な戦場は内海。つまり、演習だ。何が言いたいかというと、敵の艦載機もまた、艦娘の操る艦載機なのだ。そう簡単に思う通りにやらせてもらえるはずがない。結果は、今の私の操る艦載機を見てもらえばわかると思う。けれど、コレでよかったと、操っている私自身だからこそわかる。速力と火力に頼った一撃離脱戦法は確かに優秀であるし、最前線ではそれしか通用しないらしいがそれでも、艦載機を最低限自在に操れるようになることは、必ず私を救うと、私は思うのだ。

提督を褒めるエピソードは他にも色々とあるけれど、それは今は置いておく。

ああ、そういえば、金曜日には急にカレーを作らされたりした。あれは本当にびっくりした。

 

 

 

『あ、金曜はカレーの日なんだ。楽しみだなー』

 

『それも、この鎮守府の慣例ですか?』

 

『ん、これは日本海軍式かな……。ま、大鳳は知らないのも無理は無い』

 

『すみません……。しかし、カレーですか。楽しみですね』

 

『ん?何言ってるの?金曜のカレーは秘書艦が作るんだよ?言ってなかったっけ?』

 

『聞いてませんっっっっっっっ!!!!!!』

 

 

 

思い出しただけでクスリとしてしまう。全く、あの人はちゃんとしているのか抜けているのか。後者が計算尽くだと思わせるのが怖いところだ。

それから、グズる提督を引っ張って、一緒にカレーを作った。……恥ずかしいことに、知識の中では簡単な料理の代名詞となっているカレーでさえ、私は不安でならなかった。大体、どこに男にカレーの作り方を教えてもらう女がいるというのか。私の黒歴史が増えた瞬間である。

……けれど、提督と二人で台所に立つという行為は、訳がわからないほどに私を高揚させた。いつしか私は、自分のことを道具と見なすことさえ止めていた。着任して一週間も経たないうちに、だ。それをいけないことだと、私は思わない。

意思ある存在は、変わりゆくもの。その変化の良し悪しは、決して自分自身では決めつけられない。提督は、私の変化をどう思っているのだろうか。不思議と、否定的なことをいう提督を想像することが、私にはできなかった。たった一週間で、それが出来ないほどには私はあの人に入れ込んでいた。

 

『大鳳さん、敵機、来ますよ!』

 

「! はい!」

 

赤城さんから念がとんでくる。すこしぼんやりしすぎたらしい。いくら演習でも、褒められた行為ではない。提督はこういうところに目ざといから、またあとで叱られるな、と思う。けれど、やっぱり不快な気持ちにはならない。沸きだった気持ちをそのままに、気分を切り替えて艦載機を操作する。

私達艦娘の行動を、提督(分魂者)はある程度サポートすることができる。もちろん、特に私達空母の艦載機のような特殊な部分はそううまく行かないことが多いらしいのだが、大抵の提督は自分の艦娘を特殊な術式を通して艦娘の進路、速度、視野をコントロールできるそうだ。

しかしウチの提督は基本的に演習には介入しない。私個人が思うに、ここは見栄の張りどころではないかと思うのだが、本人は『演習が一番いい経験になるから』といって基本戦術を指示したあとは私達の戦闘が終わるまで何も言わない。だからこそ緊張するし、その視線に応えたいと思う。

 

『制空戦闘、開始!』

 

海上では頼もしい赤城さんの号令と共に、私は高度8000で待機させていた航空機軍を索敵機が発見した敵爆撃機群に向けて徐々に降下させる。私に赤城さんから割り振られた役割通り、敵の爆撃機群を足止めするためだ。

零戦はもともと、急降下に強い機体ではない。むしろ弱い。そこを突かれて数多の日本海軍のパイロットが散ったのだから、それは疑いようのない事実だ。

けれど、演習の主力戦闘機である烈風―――とんでも戦闘機ともいう―――の主戦場は主に高空。1万はいかないまでも時と場合によってはそれに迫る高度で戦う事になる。敵味方共に、位置的優勢をとるためにグルグルと円を描いて上の取り合いを始めるからだ。

けれど、私の零戦は、それについて行くことができない。高度3000以上における上昇性能も悪いし、何より、零戦は軽い。それは利点ではあるし、零戦のエンジン出力に見合っているのだから文句は言えない。ただし、上空において軽いということは、空気の薄い空域で安定性を失うということだ。たぶん、えっちらおっちら飛んでいる所を、烈風に一撃で食われて終了だろう。

だから、悔しいけれど、私の仕事は低空を飛ぶ雷撃機や艦に被さろうとする爆撃機の相手。これも侮ってはいけない仕事。なにより、私が抜かれれば後ろの味方艦隊が尋常ならざる被害を受けることになる。とくに魚雷には、私個人もいい思い出がないことも合わさって、私の神経が張り詰めるのが感じられた。

 

「敵の艦載機は……。いた!」

 

同時に、私にすべき事がある。それは、こちらの爆撃連隊を潰そうとする敵戦闘機の足止めをすること。もちろん、私だけ自由に爆撃機等を潰せるなんて、そんな甘いことはない。当然、向こうも同じことを考えて、こちらより性能の高い戦闘機を差し向けてくる。

今回の低空戦闘に参加する戦闘機は紫電改のようだ。烈風ほどとんでも性能でもないけれど、それでも巡航速度が大分離されている。速度とは力だ。何よりも大切な力。つまり、私は設備で劣っている。おそらくは地力も。一瞬たりとも気は抜けない。

 

「まだ、こちらは発見されてない……なら!」

 

今回僥倖だったのは、敵の紫電改よりも私の零戦のほうが初期高度が高く、また雲によって視界も良くなかったこと。こちらが相手を見つけており、相手はそうでない。思いがけないチャンスに、血が沸き立つ。

けれど、ここで焦っては戦況は一変するだろう。私は逸る気持ちを抑えて私の管制下にある彗星からなる爆撃部隊をわざと突出させる。おそらく、相手は、自分がまだ気づかれておらず、功を焦ったバカな空母が、自分の爆撃機のみを先行させたと思うはずだ。そう思ってもらわないと困る。爆撃機とは、お互いに身を寄せあって後方機銃による対空火力の向上を図るもの。つまり、セオリーから外れた動きなのだ。引っかかる可能性は十分にある。

囮を使う必要がないように思えるかもしれないが、そんなことはない。いくら今気づかれてないとはいえ、例え真上をとったとしても零戦と紫電改の間には無視できない性能差がある。――――――耐久度だ。

もし、私が上からダイブしたときに、相手が早期に気づいて下に逃げられたら目も当てられない。700以上の速度域になれば、こちらは曲がる事も難しくなる。が、相手は曲がれる。それが何を意味するのかなんて、はっきりしていることだ。

だから、餌で釣ろうとした。そして、敵は私の想像通りに動いてくれている!

 

「逆に罠かもしれないけれど……」

 

そんな思いが私の中をよぎる。あまりにも上手く行きすぎている(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)のだ。もしこれが罠なら、今回の演習の戦犯は私だろう。けれど、怯んでばかりでは、尻込みしてばかりでは勝利は絶対に手に入れられない。ここはこの一撃にかける!

 

「第一航空部隊、降下開始!敵のエンジンを狙って!」

 

逡巡を振り切り、一気に降下。速度が300から一気に上がっていく。400……500……今!

零戦の7.7mm機銃と20mm機関砲が火を噴く。果たして……!

 

「やった!初撃成功!」

 

一回の奇襲で敵機三機を撃墜。こちらに損害はない。この時点で私は罠の可能性を捨てた。どんな策士であっても、絶対数が限られている空戦において、リターンなしに三機の損失をだすことは無いはずだ。彗星程度の爆撃機ならこちらの対空戦力を潰してからでも十分に間に合う状況だった。それに反応もない。……なら!

 

「第二、第三航空部隊、降下開始!敵が立て直す前に喰いつくせ!」

 

第二陣による強襲攻撃。敵もこちらに気づいて位置エネルギーを速度に変えて振り切ろうとするが統制が取れてない。ここだ!

いくら頑丈でスピードに耐えられるからと言って、位置エネルギーの変換という作業を経る以上、トップスピードに乗るまでにはタイムラグがある。そこを、既にトップスピードに乗り切っている私の零戦部隊が食い潰していく。私の、完勝だった。

私の立てた作戦で、完勝。そんなことは初めてで、そうなると欲も出てくる。見れば私が囮に使ったはずの彗星部隊は5機が落とされたのみで、他の私の爆撃部隊もいざというときの囮追加用に他の連隊よりも少し前に出ている。

 

――――――ここで、私が敵艦に撃破判定を出したなら。

 

きっと、序盤の航空戦の働きを含めて提督は評価してくれるはずだ。提督は自分の主観が入っているから気にしないでいいと言いつつも、なんだかんだ毎回艦隊の中で一番活躍した艦娘を決め、顔がリンゴみたいになるまで褒め倒す。ほかの艦娘がいる中で、ああいうふうにされるのは、一種の拷問ではないだろうか。プライドもへったくれもない。……もちろん私がやってほしくないとは思ってない。一度偶然経験したことがあるが、あれはいいものだ。胸がぽわぽわして、何も考えられなくなる。冷静になった後に、ベットの上で暴れたが。

……まあ、もう一度ベットに突っ伏すのも、悪くはない……か。

 

「全機、全速……。え?」

 

私がそう決め、爆撃部隊を巡航速度から戦闘速度に切り替えたそのとき、私思いもがけない内容の念が届いた。瑞鶴さんからだ。

内容は、戦闘終了。自軍の勝利を知らせるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うん、空母を主体とした戦闘を想定した編成だったけれど、全く理想的だった。これなら、通常の任務の編成に組み入れてもいいくらいだ」

 

戦闘終了後、私達は提督のもとに集まって、今回の戦闘の反省会のようなものを開いていた。これも、毎回の演習ごとに行われるものだ。

 

「まず赤城、やはりお前の統合的な艦隊指揮能力は戦艦のそれに迫るどころかそれ以上のモノを感じる。もし、この編成で実戦になるとしたら、旗艦はお前だ。精進してくれ」

 

「はい、任せて下さい」

 

旗艦……。それはつまり、ニア・イコールで秘書艦と結ばれる。秘書艦といえば、私の役割だと無条件に信じていた自分が馬鹿らしい。ハンマーで殴られたような衝撃だった。あのとき、提督は言っていたではないか『一週間秘書艦を勤めてもらう』と。一週間が過ぎたら、どうなるのか、私は無意識に考えないようにしてきた。

 

「次は、瑞鶴だ。序盤からの布石、見事だった。なにより、アレだけの隠密行動と上空での制空戦闘を両立できるところは流石だな。練度がウチで随一なだけある」

 

「えっへへ~。ま、これくらいは当然よね!」

 

「はぁ……。まあ、部隊を動かすなら、防空に務めていた大鳳に一報入れるくらいはしておけよ。まあ、今回はいいだろう。よくやった。MVPは瑞鶴で文句ないだろう。よし、今回は瑞鶴、お前が報告書をまとめて執務室に持ってきてくれ」

 

「ちょ、提督さん、それはないよ!なんでMVPなのにそんなこと!」

 

「ん?まあ、嫌ならいいけど。はあ、私の執務室の小机の下から二番目にあるアルバムを開放する時が来てしまったようだな……」

 

「ちょ!ちょぉぉおっっと!?あ、やります!私報告書まとめてきます!」

 

そう言って走り去る瑞鶴。様子を見る限りでは、どうやら提督に弱みを握られているらしい。そんな些事さえも、今の私には眩しく、羨ましく見えた。

それは絆だ。くだらない過去から、セピア色に色あせた栄光まで、それは全て絆なのだ。それは、私にはないもの。そう考えるとたまらなく悲しくなる。自分にないものを求めることは人として当然だと知識にはあったが、まさかここまで身を焦がし尽くすような衝動を伴うとは思いもしなかった。今だから分かる。これはとてもつらいものだ。

そんな私を見かねたのか、それとも単に他の理由があっただけなのか、提督は反省会が終わった後に私を伴って散策でもしてくると宣言した。MVPをとったにも関わらず、雑用を命じられた瑞鶴さんがふてくされているのを穿った目で見てしまう私は、本当に汚いのだろう。同時に、こみ上げてくる優越感がそれを証明しているように感じて、少し惨めだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ここらへんでいいだろう。大鳳、少し座って話そうか」

 

その声ではっと我に返る。どうやら、かなりの距離を会話もなく歩いてきたらしい。気づけば、鎮守府のはずれ、それも桟橋の先の方まで歩いてきたらしい。

 

「はい……」

 

提督とせっかく二人でいるのに、なまじこれからの会話をうっすらと予測出来るだけに、自然笑うことができない。

しかし、そんな私の予想に反して、提督はいつもと同じように、あの軽薄とも取れるような笑顔で笑った。

 

「一週間、この鎮守府で過ごしてみて、どうだった?」

 

「はい……?」

 

脈絡なく出された話題に、私は目を瞬かせる。

 

「いやね、他の艦娘たちは、もともと、自分の仲の良いいって存在が最低でも1人はいるものだからさ。その点、君のことは気にかけていたんだ」

 

まあ、島風のような前例もいたしね。そう、提督は苦笑い。きっと、島風ちゃんのことで昔何かがあったのだろう。知りたい。唐突に、けれど強くそう思った。もっとこの人と、時を共有したい。

 

「いえ、皆さんよくしてくれています。私自身の練度も、上がってきたことを実感できて、今は充実しています」

 

けれど、そんなことを言うわけにはいかない。だから私は、あたりざわり無い言葉で場を切り抜けた。もちろん、嘘を吐いたわけではないが。

 

「そう。それは良かった。私としても気を使っているつもりなんだが、他の子曰く、『冗談なら笑ってあげますよ』らしいから心配していたんだ」

 

その娘の気持ちがよく分かる。こんな時に私と二人でしゃべろうとするような人だから。

 

「いえ、私は大丈夫です。でも、これで暫くは提督とあまり喋れなくなりますね」

 

その一言をいうのに、喉が詰まった。

 

「ん?どうしてだい?」

 

「いえ、提督の言葉を思い出していて。あれから、一週間たったんだな、と思うと……。なんだか感慨深いです」

 

そう言うと提督は目はめをパチクリさせた。あ、こんな顔もできるんだ。そう、意外に思った。

 

「……ああ。そういえば言ったかもしれない。けれど、次の大規模作戦まではまだ数ヶ月はあると思うし、もう暫くは秘書艦は希望してくれる子たちでローテーションしようと思ってたんだけど」

 

「え……?」

 

なんだと。それは聞いてない。私達艦娘は強大な力を持っていてもエスパーではないのだからそういうことはきちんと言ってくれなくて困る。けれど、幸運だった。この調子だと、提督はまだこのことを他の娘に伝えてない。そう思うと、歯止めが効かなかった。

 

「なら……」

 

「ん?なんだい?すまない、よく聞こえなかった」

 

「なら、私がこのまま提督の秘書艦を続けてもよいでしょうか?」

 

言った。言ってしまった。なんとなしに瑞鶴さんの顔が頭をよぎる。理由はきっと、私の心が知っている。

 

「うぅん。そんな雑用を進んで引き受けてくれなくてもよいのだが。もしかして、新入りだからって気を使っているのかい?」

 

「そんなことありません。案外、気に入っちゃいましたから」

 

そう言った時、私は自然に笑えていただろうか?それを知る人間は提督しか無いが、いつか知りたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「マルナナマルマル。体力作りは基本中の基本です。朝ご飯前にまず腹筋ですね!」

 

「いや、その……」

 

「なんですか?早くいきましょう!大体、提督は少し威厳が足りないと思います!鍛え方が足りない証拠!」

 

「ああはいはい分かった分かった。じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

提督と桟橋で話してから、更に一週間の月日が流れた。結局、私は着任してからずっと秘書艦で在り続けている。それをめぐって、他の娘とちょっといざこざもあったけれど、それは今話すべきことではないだろう。というより、まだ解決できていないので、おいそれと話を作るわけにはいかないだけなのだけれど。

 

「全く、私は文化系なはずなんだけれどね……」

 

「な に か い い ま し た か ?」

 

「いえ、何でも」

 

冗談のような掛け合いをして、二人で顔を見合わせて笑う。きっと今、私は幸せだ。

きっと、この幸せは長くは続かない。だから、私は他の新しい幸せを探すべきだ。……次の要望届けで思い切って部屋替えを要求してみるのはどうだろうか。要はタイミングだ。畳み掛けることが大切なのだ。そう決めつけて、今日も私は提督と並んで歩く。

つくづく、艦娘という不思議な存在に生まれ変われてよかったと思う。(ドウグ)のままでは、笑うことも、悲しむことも、何より、時を刻むこともできなかった。私という存在が人間でないとかそういうことは関係ない。きっと、今この瞬間を歩み、記憶することこそが重要なのだと思う。人間でない私だけれど、この記憶は、生きてさえいれば、きっとヒトにしかもつことのできない、セピア色の宝物に変わるはずだから。

 

 

だから、私は今日も提督と共に進むのだ。この、めまぐるしく動く美しい世界の中を。

 

 

 

 

 

 

 




特別・・・消   え   て   い   く   資   源
分魂者の優劣・・・課  金  力


こんな感じでどうすか(丸投げ)


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