外道暗殺者に冒険者らしいことさせるとか難易度高い   作:荒北龍

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ブラックギルド

 

俺の名前は龍眞 瀧襲(たつま たきつぐ)、冒険者をやっているが、基本的人を殺す依頼を好んでやっている。

なぜなら、一番殺りやすく、金も一度に大量に手に入るからであって、ただ人を殺すのが好きだとか、殺人狂という訳では無い。

それに、新人冒険者に人を殺す依頼は受けられるはずもなく、かと言って強い冒険者は依頼でも人を殺せば自分の名前に傷が付くので絶対に受けない。

依頼は絶対ではないし、そもそも依頼のほとんどは人の道をはずれた者や、未だ逃走中の殺人鬼などが多いが、中には子供を殺す依頼もあるから尚更だ。

他にも森精霊(エルフ)や、土精霊(ドワーフ)、人魚などの人形の討伐依頼もある。

そんな依頼を好んでやっているうちに、ギルドでは、"外道暗殺者"など呼ばれるようになった。

確かに自分は何かをを殺す時、なんの躊躇いもなく殺せる。そうでないとこっちがやられてしまうからである。

別に周りの奴らが自分を馬鹿にしようと、外道だと見下そうと別に気にしていないし、辞める気も全く"無かった"。

 

「今日でギルド辞めます」

「あら瀧襲さんじゃないですか」

 

俺は退職願いと書かれた封筒を受付に出すと、受付嬢はニコニコ笑ったまま、まるで自分が退職願いを出しているのが見えていないかのように、今日の人型の魔物や人間の依頼を紹介している。

あれ?俺って退職願い出したよね?

 

自分の真正面に座る冒険者ギルドの研究員が着る青い制服に身を包む少女は、艶やかな黒髪を背中に流した女性。

青い上着の下の白のワイシャツを押し上げる胸は、慎ましやかながらはっきりとした自己主張をしており、ほっそりとした体躯は如何にも女性研究員然とした印象がある。

 整った鼻梁に、上品さを失わない程度の軽い化粧、黒の薄いストッキングに包まれたたおやかな足に、耳許を飾る控えめな金色のイヤリング。

 

冒険者やギルドの間で、相当な人気を誇る受付嬢である。

 

「今日は瀧襲さんの好きな人間の討伐依頼も来てますよ?」

「あの、俺退職願い出してますよね?あれ?字間違えてますか?それともただ無視してるだけですか?」

 

戸惑った口調で喋っている瀧襲の表情を見たモミジは、彼の手をそっと握り、誰もが見惚れるよう微笑みを返す。

 

それは正に“天使”とも称される彼女の笑みに、クエストカウンターを遠巻きに眺める者たちから、男女を問わない溜め息が漏れた。

 

この男、龍眞瀧襲を抜いては。

 

───知っている。この笑みは天使の慈愛などと言う笑みではないことを。この男、瀧襲は知っている。

 

「あの、そろそろ俺は精神的にも体力的にもやばいかなーって。それに人の討伐依頼って結構金は貰えるけどほとんど親族への慰謝料で手元にほとんど残んなくて俺も金銭的にも社会的にもやばいかなーっと·············」

 

「そうでしたか、では瀧襲さん。安心してください!」

 

小声でボソボソと呟いている俺の声を引き裂き、天使の声がギルドに響き渡った。

 

「龍眞さんは、まだ(・・)絶対に堕としませんから!」

 

ギルドだけでなく、この世界では悪名高く、彼の悪名には魔王も一目置いている程の外道暗殺者が、絶望によるものか、それとも彼女の笑顔の可愛さに見惚れたか、それとも両方か、彼は見事に沈黙した。

 

脅しである。紛れもなく自分を脅している。

辞めたり、依頼を受けないのであれば、社会的に殺すよ!(アレばらすよ)と言う可愛らしい鈴の音のような天使の声が聞こえ。

 

あ、モミジさん、いつの間にか胸元の勲章がまた増えたんだなぁ·········はぁ·····。

 

 

 

 

§

 

 

 

不幸な、本当に不幸な事故だった。

 

 

いや、実際のところは、不幸な事故と言うにはあまりにも無責任で、最低な自分が辿るべき運命であり、最悪な過ちである。

 

小さい頃から、冒険者(正義のヒーロー)に憧れていたんだ。

魔王倒せなくても良いから、小さな村を救ったり、ドラゴンを倒せなくてもいいから、誰かを守りたい。

そんな思いから、強い男になりたくて冒険者の世界に足を踏み入れた。

 

だが、男が踏み入れたのは、他者の屍で生きる、クソみてぇな外道が足を踏み入れるような世界であった。

 

自分の憧れである冒険者になった男はさぞかし喜んだであろう。

しかしながら生まれてこの方、一度も友達を作ったことの無かった男は、ゴブリンにも劣る男は、コミュ障だった。

自分に積極的に話しかけてくれたのは訓練所の教官だけ、圧倒的ぼっち臭とドン引きされるレベルのキョドりによって、彼は冒険者ギルドの中でもずっとぼっちであった。

 

そして、彼は仕方なくソロで依頼を受けることにした訳だが、彼に残っていた依頼といえば、圧倒的人気のない、と言うか受ける人がいない、人間の討伐である。

 

しかも十人くらい人間や森精霊を殺した殺人鬼。

自分は生まれつき魔法が使えず、力も特別と言うレベルまで強い訳でもない。

 

武器は、途中の店で買った、拳銃ぐらい。

これは対魔物ように作られた武器ではなく、対人型ように作られた武器で、作り方が難しい上に、値段も相当高いのに、使い所もなく、間違えて買ってしまったこの拳銃のせいで、持ち金もすっからかん。

 

運がいいのか悪いのか分からない状況で、自分はしぶしぶその依頼を受け、一人おしっこチビりそうななか、運良く殺人鬼を不意打ちで殺せた訳だが、マジ泣きしながら、殺人鬼を殺したという証拠のために、殺人鬼の死体を引きずりながらギルドに持っていって、ギルドでは人殺しの新人なんて呼ばれるようになり、それ以来、ギルドから紹介される依頼は人型の暗殺者ばかり。

そして馬鹿みたいに、その依頼を受け、殺人鬼や、ヤバい連中を殺しまくって、次第に自分の目指してる、憧れた存在とはかけ離れていき、最終的には、人殺し専門の冒険者になっていた。

 

それでも、魔物ではなく、人間を基本とした、人型の暗殺者をしていたのは、殺人鬼みたいなヤバい連中に怯える人達が、少しでも喜んでくれて、安心して暮らして欲しかったからである。

 

そして人間を一人、二人。

 

次は土精霊、獣人族、蜥蜴僧侶、闇森精霊

 

これでは冒険者なのか、殺し屋なのか分からなくなり、次第に世間からのありもしない噂や、同族殺しなど、同族を殺された恨みなど、世間からどんどん突き放されて行った。

 

そんな世間からの目が、次第に男の感情を薄めていった。

 

 

 

───そんな男に、たった一人、優しくしてくれる女性がいた。

 

冒険者(人殺し)としての外面ではなく男自身を見つめてくれて、面白くもない、面白いわけもない自分の暗殺話にコロコロと笑ってくれて、公私の隔てなく話しかけてくれて。

 

未知の土地でもぼっちで、嫌われていた男は、ものの見事に少女に惹かれ――結果、大きな勘違いをしてしまったのだ。

 

 

 

 ……俺ではない。決して俺の話などではないのだ·····絶対に俺じゃないからな!··········うう·····。

 


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