Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー 作:ヘタレGalm
潜入は長くなるのでカットで……。
『……グレイウルフ、地下6階の2ヶ所はハズレでした。捕虜収容施設と拷問部屋のようですが、
「了解。となるとこの先か……」
突入から約4時間、すり鉢状の穴に蓋をかぶせたような地下要塞であるインビジブルフォートレスの最深層、地下7階のとある扉の前で俺たち4人は突入の用意をしていた。別行動だったジョナスとUMP45が途中で合流したこともあり、戦力的にも十分だ。
コソコソと地下を潜る様子は見ていて退屈になる長さだから割愛したが、鉄血の警備は意外とザルだったとだけ付け加えておく。
捜索対象は地下6階に2ヶ所と地下7階に1ヶ所だったが、大本命は7階と踏んでいた。最深部故に人の出入りも少ないだろうという判断だ。
スコーピオンと416が残り2つの確認を買って出てくれたため俺たちは4人で本命の調査に当たれる。もしもスコーピオンたちの方が当たりだった場合は突入せず俺たちを待つように伝えてあった。
しかし、どうやらその心配もなかったらしい。
ハンドサインで突入を指示。
ハッキングで解錠し、音を立てないようにそっと開ける。
扉のむこうは微妙な明かりが照らす長い廊下だった。
それぞれ銃を構え、左右への警戒も怠らないようにして一本ずつ歩を進めていく。
やがて、行き止まりへとたどり着いた。そこにある扉、厳密にはその鍵を見た俺は悪態を吐く。
「Holy shit! 電子錠じゃない、旧式の機械錠だ」
「ドアブリーチしましょう」
「ああ……ジョナス、頼む」
「アイ・サー」
錠に押し当てられたジョナスのM4カービンが短く振動し、鍵にめり込み貫徹した5.56mm弾が錠前の役割を失わせた。
ドアを開けて突入する。
その先に広がる空間は、黒い闘技場。
明らかに異質なその空間だ。この基地には本来不要であるはずのものであり、どうにも即席感が否めない。
ふと、俺たちの後ろに気配を感じた。首元がぞわり、となる。猛烈な寒気が駆け上がった。
「ガッデム、
振り向いた視線の先にいたのは、美しい女性が2人────否、銃を構えた鉄血ハイエンドモデルが2体だった。
「そろそろ来ると思っていたよ」
「今晩は、が抜けてるぞ」
「Fack!」
悪態を吐きながらフルオートで牽制射撃。管制している9A-91に指示されるまでもない。声かけられた瞬間に理解した。コイツらは、当てずっぽうでも撃たないと瞬殺される。
『グレイウルフ、鉄血の反応3! ドリーマーとアルケミストと……なんでしょうか、コレ……?』
視線の先にいたのは情報通りドリーマーとアルケミストだ。両者ともに武器も構えず泰然自若とした構えを見せていたが、きっちりと俺たちの奇襲を躱してのけた。UMP45に話を聞いたときから思っていたが、ドリーマーとアルケミストというのはまた妙な組み合わせだ。ただしその戦闘力は折り紙付き、油断ができる相手ではない。
当の彼女はその片割れをありったけの殺気を乗せた目で睨みつけているが。
「ドリーマー、あんただけは必ず、殺す!」
「やれるものならやってみな、UMPの45ちゃん……がっ!?」
UMP45も容赦なく撃った。45ACP弾数発ではとても致命傷にはなりえないが、それなりのダメージは負ったようだ。元から俺達も銃弾で致命傷を与えることは期待していない。
5.56mm弾やら45口径弾やらで眉間に穴をこさえられる相手ならば苦労はしないのだ。
「まったく、やってくれるじゃないの? ……相手してやりなさい、
「はい、ここに」
「……っ!?」
ドリーマーの呼び掛けに応じて向かい側から現れたのは、異形の人形だった。禍々しい服を身にまとったツーサイドアップの少女と言い換えてもいい。仮に、ナインとしよう。
装備以外はIOP純正のUMP9と変わらない癖に一目で鉄血のハイエンドモデルと分かってしまうのが恐ろしい。
「ナイン……? ねえ、私のことわかる……?」
呆然とした様子のUMP45がフラフラと歩み寄りかけたが、次のナインの言葉で凍りついた。
「……あなた、だれ?」
一瞬思考停止したUMP45を援護するようにFALが動いた。しゃがんでライフルを構え、右肩から伸びるアームとその先に保持されたレーザーガンに照準を合わせた。
ナインが回避行動を取るよりも前に、引き金を引く。
カシュッ!
放たれた徹甲弾はレーザーガンの機関部に正確に突き刺さっており、その役割を完全に失わせていた。
「……っ!?」
「お見事、FAL!」
「それはどうも!」
礼を言う頃には彼女は移動を開始している。
この開けた場所は遮蔽物で射線を奪い合うという屋内戦のセオリーに真っ向から喧嘩を売るものだ。故に、高速移動することでどうにか射線を外さなくてはならなかった。
「どうあっても、撃たなきゃならないんだね……!」
UMP45が射撃を開始する。足音に交じってシュカカ、シュカカカと響く細切れの消音された銃声は、彼女が回避行動を取りながら射撃をしている証左だ。
さて、俺もそろそろ目の前の敵へと意識を戻そう。
「Hey、いつまでビビってるつもりだ、夢の国に引きこもるニートさんや?」
中指を立てて挑発する。これに乗ってくれるならばその時点で方はつくのだが、残念ながらそんなに安いやつじゃないのだ。
「ご挨拶ね、エドワーズ少佐。軍からはMIA認定されているらしいけど戻らなくていいのかしら?」
「悪いが、軍に戻る気は全くない……ジョナス、
「了解」
HK416の30連弾倉の中にはまだ21発の5.56mmNATO弾が入っている。兵士は発砲音で武器の残弾数を数えられるように訓練をしているため、15年間もやっていれば覚えるのも当たり前だ。
アルケミストの相手をジョナスに任せ、ドリーマーに向けて銃弾を指切りで撃ち込む。
ドリーマーは身軽な動きでかわして見せたが、それは予想の範囲内だ。奴の回避するであろう方向へさらに撃ち込む。空薬莢がからからとこぼれ落ちるが、その音をかき消すかのようにドリーマーの狂笑が鳴り響いていた。
背面に装備した大型レールガンを射撃位置へと移動させる。
やっとか、待ちくたびれたぞ。
「Very slow start だな、ドリーマー。お前の
「でかい口叩いていられるのも今のうちだよぉ? 泣いて土下座する準備でもしたら?」
「お断りだ、このビッチ」
猛烈な煽り文句で挑発しながら、ちょうど最後の1発を薬室に送り終えた弾倉をリリース。左手でマグポーチから取り出しておいた新しい弾倉をマガジンインレットへと叩き入れる。
タクティカルリロード、弾倉交換の隙間さえ相手には与えない。与えるものか。
「泣いて這いつくばれ、メリケン野郎!」
被弾にも構わず電磁狙撃砲をぶちかまそうとするヤツに、俺は今の今まで仕込んできた手札を切るべきか悩んでいた。
このまま射撃を続けていても戦車を撃っているようなものだ。ならば、大打撃を与えるために使ってもいいのかもしれない。しかし、これは言うなれば1発切りの銀の銃弾だ。使い方を間違えればまず間違いなく死ぬ。
逡巡の末に、通常回避を選択した。
FALとジョナス、そして
不意に、ナノマシンが猛烈な
バリィッ!
ナノマシンの半分が焼ききれた。
それでも、ギリギリ回避には成功した。着弾の衝撃によりプスプスと煙を上げている壁には目もくれず、ドリーマーへとダッシュする。
自身の攻撃の余波を喰って移動できないようだが、そいつは三流としか言いようがない。
HK416を構え、レールガンをホールドするアームを狙って攻撃を仕掛ける。
初めて、ドリーマーが怒りや嘲笑ではなく焦りを浮かべて拳銃を引き抜いた。左手1本の拳銃射撃で何が出来るとは思うが、その意気だけは買おう。すぐにクーリングオフすることは確定事項だがな。
フルオートで連射される拳銃弾をボディーアーマーで防ぎ、こちらは拳銃とナイフを引き抜いて迫る。アサルトライフルじゃ俺の望む攻撃をヤツから引き出すことができない。ならば、拳銃とナイフの近接戦闘装備でかかるのみだ。
さあ、そのレールガンを捨ててかかってこいよ、夢想家!
「
映画のセリフを叫びながら、微妙に円を描くようなコースで接近。拳銃弾を応射しつつ、接近してカタをつけるべくコアは狙わない。どだい5.56で貫通できない内装甲だ。インナーアーマーなどというアホらしい装備を搭載した夢見る乙女には手痛い目覚まし時計が必要か。
「そこ!」
拳銃弾が剥き出しの頭部めがけて殺到するが、しゃがんで掻い潜る。甘い、甘すぎる。
そう、殺意────殺すという決意が足りないから、貴様の銃弾は軽いのだ。
「ええい、ちょこまかと! つか黙ってないで何か喋りなさいよ!」
「戦場においてお喋りな奴は意外と死なないものだ。貴様を除いてな」
「誰がそんなことを言えと言った! ええい、レールガン再チャージ完了、撃ち方始め!」
ドリーマーが自らのレールガンを腰だめに構え、俺の心臓を狙った。
ジョナスがアルケミストを配置に留めていることを知覚して、このまま撃たせても問題ないことを悟る。ニヤリと笑って後ろを指差してやった。ドリーマーの驚愕した顔が見えた。
「
狭くはない闘技場に、轟音が二度轟いた。
次回、UMP45 VS ナイン
UMP45は指揮官に対して
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現状の関係を維持
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純愛
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軽ヤンデレ
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重ヤンデレ