Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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暗中模索ー銃爪引指

 UMP45視点

 

 信じたくなかった。

 あの時と同じことが、今度は9の身に起きている。

 過去に封じた私の罪の記憶が、軋みをあげて襲いかかってくる。

 

「どうあっても、撃たなきゃならないんだね……!」

 

 蘇るトラウマと戦いつつ、私は銃を握る。9を撃つために。

 違う、今戦っているのは9を解放するためだ。ドリーマーから、そしてその身を苛むプロトコルから解放するために。記憶が封じられていたとしても、9は9だ。他の誰でもない、私の大切な、大切な妹だ。絶対に鉄血などには渡さない、渡してたまるか! 

 

 ステップを踏みながら、細切れの弾幕を張る。45口径ホローポイント弾が9の纏う装甲の上で虚しく火花を散らした。FALの徹甲弾も効きが悪いようで、何発も撃ち込んでいるのにほぼ全て盾に阻まれる。対して9の放つ銃弾は容赦なく私たちの四肢にダメージを蓄積させていくのだ。圧倒的なスペック差だった。

 

 ナインの装備は両肩から伸びるレーザーガン2丁と腰に装備された可動装甲、そしてUMP9短機関銃と閃光手榴弾4発。

 レーザーガンは一丁が健在で、今も盛んに弾幕を張ってきている。掠めただけで人工皮膚の焼ける匂いがした。アドレナリンを入れることで痛覚をどうにかするついでに反応速度を早くしているが、それでもついていけるかいけないかという掃射を放ってくる。未だにマントを纏って反対側から撃っているFALがいなければとっくの昔にミンチになっていただろう。そのFALもギリギリの攻防を強いられており、分厚い弾幕をかいくぐって応射するその顔は苦痛に歪められている。

 

 その時、私は9が決して距離を詰めようとしないことに気がついた。

 

 確信はないため罠かもしれないが、もし接近戦が苦手ならばまだ勝機が見える。接近してからの方がこの作戦は有効だ。

 持ってきた物騒な道具類からマチェーテを抜いて、片手での牽制射撃を行いながら接近。応じて手にした短機関銃で撃ち返してくる9は、しっかりと左肩のレーザーガンのみでFALを抑え込んでいる。憎らしいほど模範的な戦法だ。私の知る9と大違いで、違和感に苛まれる。

 

 でも、私の得物は今この瞬間に限り短機関銃ではなくなっているのだ。

 

 それに気づかなかったあなたは、ゲームオーバーだ。私が今、現実に引き戻してあげる。

 

 間合いに入った。左手のマチェーテを振りかぶる。短機関銃で防御しようとしてももう遅い、私の狙いはその憎らしいバイザーだ。短機関銃ごとへし折ってでも砕いてやる。お願い、正気に戻って。

 渾身の力と願いを込めて、振り下ろした。

 

 ガキンッ! 

 

 硬質な音と共にブロックされた。

 短機関銃の外装パーツで防御されたのだ。

 無機質な目をした9はマチェーテを受け流そうとするが、私は右手のUMP45を9の太腿に突きつけた。この距離からだったら躱せるはずがない。必中の距離だ。

 

 連射。

 

 彼女の左足が爆ぜ、バランスを崩して後ろに倒れ始める。それでも私に銃を突きつけてくるのは流石だが、私は銃を払いのけて彼女の腰に飛びついていた。地面に押し倒し、即座にマカロフPM拳銃を引き抜く。その冷たい鉄の塊を、私は頭部に増設されたバイザーに突きつける。

 

「動かないで、すぐ楽にしてあげるから」

 

 彼女のバイザーを撃って破壊した。基盤から小さな火花を散らして機能を停止したそれを強引にもぎ取る。

 同時に自分に備えられた拡張機能の一つを起動した。電子戦モジュールだ。非正規部隊としてあたる任務の中には電子戦も含まれるため、404小隊編成時にミラージュ製の高性能な電子戦モジュールが増設されていたのだ。

 

 電子戦モジュールがスタンバイ完了を告げたことを確認して、UMP9のメンタルへ潜り込もうとした瞬間。

 

 ざわりと背中が粟だった。

 

 9を抑え込みつつ、後ろを振り返る。

 

 

 ドリーマーが、ディビッドにレールガンを向けていた。

 

「やめ……!」

 

 

 バリィッ! 

 

 

 EMPを伴って実弾がほとばしるが、ナノマシン越しに伝えられる彼のバイタルデータは正常だった。彼は回避してみせたのだ。至近距離からのレールガンという回避不可能な攻撃を。

 彼ならドリーマーを倒してくれると信じて、自分の戦いへと戻る。EMPシールドがされていなかったせいでシャットダウンしてしまった電子戦モジュールを再起動、左手に備わっている端子を9の胸元にあるメンタルアクセスポイントに差し込んだ。

 

 先程から9の抵抗はないが、それは気を失っているのか否か。

 私はメンタル内部で戦っているからと推測する。全く根拠がないため、妄想と言い換えてもいいかもしれない。おかしいな、私は現実主義だったはずなんだけど。

 

 メンタルへのパスを開いた。傍で護衛に入ってくれているFALに目配せをして、私は9のメンタルに打ち合わせ通りの操作を叩き込む。現在、彼女の茫洋としたメンタルに潜る(フルダイブ)ことは非常に危険だ。崩壊寸前の擬似人格が罠を満載にして待っているはずである。

 でも、メンタルへのアクセスはフルダイブしなくても可能なんだよ。

 

 待ってて9、絶対助けるから。あの時の二の舞にはしないから。

 

 

「ハッキング完了……メモリ管理者権限移譲確認……フォーマット、メンタル修復」

 

 9を救うための弾丸を、放った。

 

 

 

 

 

 ディビッド視点

 

 UMP45とFALはどうやら上手くやっているらしい。

 彼女たちには、電子戦モジュールを利用してUMP9のメンタルを解放するように伝えてある。そして今、UMP45がナインを組み敷いているということはハッキングを仕掛けている最中なのだろう。

 こちらの仕事はもうほとんど終わった。あとは彼女たちの成功を祈るだけだ。

 

「嘘……あんた、最初からこれを狙って」

 

「当たり前だ」

 

 目の前の夢想家に、仲間殺しの夢想家に現実を突きつける。アルケミストを消しとばしたのは、ドリーマーのレールガンだ。俺を捉えたと思っていたようだが、その真後ろにジョナスがアルケミストを固定させていた。

 そして、普段なら気がつくはずだが今回に限り俺が散々挑発をかけていた。これがタネであり、仕掛けだ。

 結果として、俺が躱した狙撃用レールガンの強烈な一撃はアルケミストの無防備な背中へと刺さった。

 

 突沸したドリーマーががむしゃらに拳銃を連射するが、それくらいでくたばるならばすでにレールガンの巻き添えを食って死んでいるだろう。

 

「クソッ、なんて奴! 味方撃ち、それもよりにもよってアルケミスト! 復活してもご主人様に半殺しにされること確定じゃない!」

 

「はは良かったな、お前らハイエンドモデルはどこかにスペアがあるんだろう?」

 

「よくないわよ! ……って、何よその刃物」

 

 ご主人様とやらが気になるが、そろそろこの戦いも閉めなければならない。UMP9の完全確保は完了していないが、これ以上長居しても逃げられなくなる可能性がある。

 俺は軍支給品のナイフを引き抜き、つかつかと歩み寄った。

 

「何ってただのナイフだが……そうだな、対装甲ナイフとだけ言っておくか」

 

 相手の注意が自分の一挙手一投足、特に左手のナイフに引きつけられていることを確認し、俺はナイフを()()()()

 

 シュカン! 

 

 ドリーマーの側頭部に大穴が開いた。

 一杯食わされた、という無念の顔でハイエンドモデルの狙撃者は倒れる。

 

 完全に死んだことを確認するために頭部をナイフで抉ってから、俺はトドメを刺した人物へと振り向いた。フード付きの遮熱光学迷彩マントを纏った彼女はにっこりと笑う。

 

「よくやった、FAL」

 

「どういたしまして。……にしても、誘導とか心理戦とかえげつないことするわね」

 

「正面で奴らと戦うつもりはなかったからな。それくらいはしないと戦えん……UMP9の方はどうだ? 上手くいったか?」

 

「まだわからない。無茶苦茶な方法だしね」

 

「はぁ、確かにな……」

 

 ため息をつき、妹に寄り添うUMP45を見る。彼女の左手からは電子戦モジュールのケーブルが伸びていた。

 

 

 

 その時、唐突にUMP9が上体を起こした。

 45の立案した作戦は上手く行ったのか、それとも失敗したのか。

 

「……45姉、ごめんね」

 

 俺は、失敗したことを悟った。

 

「……な……んで?」

 

 作戦はうまく行ったのに、そんなUMP45の声が聞こえてくるようだった。

 

「残りの人格も、ウィルスに侵されていたってこと。────ごめんね45姉、私を撃って」

 

 

 




そろそろ日常シーンが書きたい(血涙)

UMP45は指揮官に対して

  • 現状の関係を維持
  • 純愛
  • 軽ヤンデレ
  • 重ヤンデレ

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