Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー 作:ヘタレGalm
ではでは。
UMP45視点
「
その言葉に、私は凍りついた。
目の前の9が、だんだんとかつて存在した姉貴分に見えてくる。
厳重に封印したはずの、忌むべきログが蘇る。
違う、
ここは燃え盛る基地跡ではない。鉄血の基地の最深部だ。
私は何も知らない新兵ではない。特殊部隊の隊長だ。
だから、あの時とは違う。必死にそう言い聞かせた。
「現実を見て、45姉。ほら、歌声が聞こえるでしょ?私が、私でない何かになってしまったら私はあなたを殺すしかなくなってしまう。だから、殺して。私でいられる間に、早く!」
9の雰囲気に当てられて、右手の短機関銃をのろのろと構えた。銃口の消音器がガシリと掴まれ、9自身の手によって彼女の額に突きつけられる。だめだ、このままだったらあの時の繰り返しだ。
心の底から這い上がってくるものは、容易に私を苛む。軋みをあげるメンタルに、私は気がつけば滂沱していた。両目からポロポロと涙をこぼし、震え、怯えながら縋るように手にした
相対する9の眼は、至って穏やかだった。自分が姉の手によってこれから殺されようとしているのに、それを納得しているように見えた。事実、彼女は受け入れているのだろう。八方塞がりの中で、自分を除く全員が助かる未来を見つけたのだから。
それはまるで、介錯を頼む武将のようだった。それに比べて、くよくよしている私は何なのだろうか。
「しっかりやってよ、45姉。私は痛いのは嫌いだから」
まるで、人参は嫌いなんだ、というような気安さだった。
しかし、そんな話をしている間にも9を蝕むウィルスは進行していく。すでに、9の手は痙攣していた。打って変わって真剣な目で、9は泣きじゃくる私に告げる。
「もう時間がない。このウィルスは、私が死ななければ空気感染する。私を殺さなければみんなが死ぬ。生き残れるのは私以外かゼロかよ」
「でも……!」
「ごめん、45姉」
何度目になるかわからない謝罪。するりと、トリガーガードに指が滑りこんできたことを知覚した。
ダメだ、死なないで、9。でも、彼女を殺さなければみんなが死ぬ。私やディビッド、FALが死ぬ。しかし、殺せばもちろん9は帰ってこない。
極限のループの中で、私は天の啓示を聞いた。
「メンタル初期化だ!やれ、45!」
それは、FALの声だったかディビッドの声だったか。しかし、私は考えるよりも先に実行していた。
接続したままの電子戦モジュールを用いて、ある命令を送る。管理者権限は未だ私にあるから、簡単なことだった。
「さよなら、45姉……」
小さく呟いて、9は静かに目を閉じる。
ストン、と9の小さな体が崩れ落ちた。
9も死ななかった。私たちも死ななかった。記憶用のSSDが初期化された以上ウィルスも消えただろう。しかし、大団円とはいかない。私と過ごした9の記憶は、消えてしまったのだから。メンタル初期化とはそういうものなのだ。
「……結果としては、中の下ってところか」
傷だらけのHK416を抱えたディビッドが、こちらに歩きながら呟いた。
『いえ、帰るまでが作戦です。ーーーーナビゲートします、予定脱出路から脱出を』
「了解」
私は力を失った9を抱え、9A-91の指示に従って下水道から脱出した。下水道は二度と潜りたくない環境だったとだけ言っておく。
9の目が覚めたのは、基地についてからだった。
「あれ……ここは?」
そう呟く彼女はひどく病弱に見えた。それを見て、彼女の記憶を消してしまったことを実感する。
しかし、私の姿を認めるとこう言ってみせた。
「あ、久しぶりだね45姉!」
「……えっ?」
おかしい、メンタルは初期化したはずなのに。それに、記憶が無くなっていないのだとしたら久しぶりという一言目も引っかかる。
どういうことだかさっぱりわからない。
「わからない?偵察任務で本拠基地を出てから私たちはぐれちゃったでしょ」
「ああ、9はちゃんとバックアップを取っていたのね……ええ、久しぶり。あなたの姉、UMP45よ」
そういえば、9は私と同じようにいろんなところにバックアップを取っていたっけか。ともかく、当初想定していたみたいに完全初期化になっていなくてよかった。
しかし、9は浮かない顔をした。
「でもね、45姉。おかしいんだ……私がUMP9ってことはわかるし基本的な銃の使い方もわかる。でもね、指揮官のことや仲間のことを思い出せないんだ。……どうしてだろう、記憶の穴が大きすぎる」
「来たるべき時がきたら思い出すんじゃない?とにかく、ここが今の基地よ。あらためて、歓迎するわ。ナイン」
「そうだね、ありがとう!」
再びいつものニコニコとした笑いを浮かべる9を見ながら、私は彼女の記憶について考察する。
おそらく、メンタルを完全に初期化した後に私からデータを抜き取ったのだ。彼女があらかじめ私のどこか保存しておいたのは、人格データと最低限の戦闘データ、そして私との関係についての定義だろう。多分、9はもし自分が記憶を失っても同じ部隊の誰かと会うことができれば限定的に復活できるようにしたんだ。
作戦は中の下って言ってたけど、彼女のおかげで中の上くらいにはなりそうね、ディビッド。
ディビッド視点
自室でFALと並んで銃の分解整備を行っていると、UMP45が訪ねてきた。どうやら、UMP9のことで話があるらしい。
「ねえ指揮官、9の記憶が少しだけど戻った」
「……はい?」
すまん、もう一度言って欲しい。
俺もこんなオチは想像していなかったからどうすりゃいいかわからない。まるで喜劇じゃないか、あんなに悩んでいたというのに。
「文字通りよ、自分が何者かということを彼女は認識している。思わぬ収穫だね、指揮官」
「まあな、想定外は想定外だ。思い出したことはそれだけか?」
「自分のことと、私との関係、そしてごく基本的な戦い方。それだけ私のどこかに格納していたみたい」
「器用なことをするな……まあいい、よい方向に予想が外れてくれた」
「ん、そうだね。これから身の振り方を聞いていくつもり」
「ああ、頼む」
これは嬉しい誤算だ。だが、誰よりも喜んでいるのは他ならぬUMP45自身だろう。
傷だらけのハンドガードを工具で取り付け、愛銃の整備が完了する。
ちらりと横を見ると、FALもほとんどの工程を終わらせていた。
「よし、分解清掃も終わったことだし、9A-91のところからウォッカをもらってくるか」
「作戦前も一本空けてたじゃない……はあ、私も付き合うわよ」
「あ、じゃあ私も飲んでいい?」
走り寄ってくる二人を見て、俺はいつもの日常に戻ってきたことを実感した。
扉を開けると、一体の人形と出くわした。一目で分かる、UMP9だろう。
「あ、45姉!これからどうするの?」
「ちょっと仲間から酒をいただいて来ようかと思ってね。ああそうだ9、彼がここの指揮官だよ」
UMP45が俺のことを指差した。
UMP9は俺の方に向き直り、ペコリとお辞儀した。
「じゃあ、これからよろしくね、指揮官!」
だんだん文章に納得がいかなくなってくる……。
UMP45は指揮官に対して
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現状の関係を維持
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純愛
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軽ヤンデレ
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重ヤンデレ