Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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やばい、フェネックじゃなくてフェレットでした(殴り


皆さん、ボクのことお忘れではないでしょうか?

 えー、どもども。

 知る人は知っている、戦術人形FALのおまけことフェレットです。

 現在、大絶賛サバイバル中です……。

 

 なんでこうなったかって? 

 

 乗ってたヘリが墜ちたんだよチクショウめ。ないわー、ついに天下のアメリカ製ステルスヘリも落ちるところまで落ちたわー。

 しかもマスターはボクのことなんかそっちのけで、落っこちるリーダーに抱きついて一緒に飛び降りるなんていう非道っぷりですよ! 

 いい加減末永く爆発しやがれってんです。

 

 なんでくっついてないんでしょうねあの2人。ジョナスさんとスコピッピは2年でくっついたってのに。

 

 まあ、その直後にボクも不注意で破孔から落ちてしまったので人のこと言えないんですけど。

 

 体が軽くて助かりました。低空飛行しているヘリから放り出されても案外生き残れるものですね。

 あのあとヘリは爆発せずに墜落したので、ジョナスさんとスコピッピは生き残っていると思います。というか連中が死ぬビジョンが見えない……。

 

 で。

 

 ボクは戦術人形FAL専用の支援ユニットとして開発されたので、ロールアウト時点で普通のフェレットとは比べ物にならない性能を持ってます。

 例えば精密誘導用の赤外線レーザー、ミリ波レーダーや心音センサー、遮熱光学迷彩に通信アンプといった機能ですね。この時点で既にIOP社、というか16Labの変態っぷりが見えてるんですけど、DEVGRUに編入した際にそこの電子戦担当班がボクの擬似感情モジュールの書き換えをやったわけです。バカですよね。

 そいでもって自他共に認める愉快なメンタルが出来上がってしまったわけですが。

 

 まあこの義体はエネルギー消費が決して少なくないので、有機物を摂取する必要があるんですよね。つまりハンティング。

 

 そして、ボクの義体の能力はハンティングにうってつけなんですよ。ミリ波レーダーと心音センサー、暗視機能付きデュアルアイで索敵、獲物を見つけたら右前腕に内蔵された電磁式スパイクドライバで心臓をドキュン。

 

 いやー、ボクってばハンティングの才能あるんじゃないかな? 

 当たり前ですよねそもそも索敵暗殺用に設計されているんですし。

 警戒しようにもこちらにはオクトカムスーツ的な迷彩機能と関節の消音機能持ってるわけですし。

 あはは何当たり前のことで自惚れているんでしょうか。非常事態にハイになってるだけですねわかります。

 

 

 

 

 というセルフツッコミはさておいて。

 

 目の前に、熊がいるんです。しかも完全にこっちロックオンしてらっしゃいますし。

 

 オーケーオーケー、まずは冷静に話し合いと行こうか。

 え、無理? 

 仕方がないですね、ボクと拳で語り合いましょう! 

 

 正確には拳に仕込まれたスパイクで、ですけど。

 なぜバレたか知りませんが、まだ死ぬ気はないんですよ。

 

 バッテリーからの電力をスパイクドライバに回します。この加減が大切なんですよねぇ。スパイクドライバって装甲兵ぶち抜けるくせに威力少し上げるだけで電力馬鹿食いしますし。

 

 ちなみに他の武器はないのかって? 

 左手に2.7mm弾を使う単発ピストルが内蔵されてますけど何か。ちなみに人形相手には豆鉄砲です。非装甲のボクにとってはそれなりに脅威になりますけど、はっきり言って金と資源の無駄です。

 誰ですかつけようと思った奴。IOPの馬鹿ですねわかります。ちなみにスパイクドライバと重量は同じですね。

 

 さてさて、熊さん様子を窺っているみたいですけどどうも凶暴化してるみたいですね。あれですか、食べるものないんですか? 

 

 まあいいです。

 とりあえず、密林ならば小回りの効くボクの方が有利だってことを身をもって体感させてあげましょう。

 

 熊さんがグルグル喉を鳴らしながら近づいて来ますね、とりあえず木に登りましょうか。

 

 地面を蹴ってジャンプ、幹を蹴り飛ばして三角飛び。一気に高度4mまで上昇します。目の前には太い枝がありますね、好都合です。

 枝に飛び乗ったところで、熊さんはこちらを見ていますが……のろいですよ? 

 

 あ、立ち上がった。

 

 周囲を見渡しているつもりでしょうかね。熊が立ち上がる時は威嚇ではないらしいです。

 狙えるのは頭だけと思わないで欲しいところですけど。

 

 枝を蹴って地上に飛び降ります。頭を狙うなんて初歩的なミスは犯しません。シベリアあたりに生息する熊は頭蓋骨が固く、小銃弾でも威力不足が否めないんですよ。一応力任せにスパイクドライバでぶち抜けなくもないですけど、口径たった7.62mmなので確実に折れるでしょうね。

 というかボクは正面戦闘ほど苦手なことはないんですが。

 

 特技はスニーキングと先行偵察、趣味は写真です。

 風景写真も撮りますけど盗撮盗聴もしますよ? 

 私服マスターのパンツは丸見えなことが多いので盗撮は諦めましたけど。というか、残念仕様が突き抜けてるでしょう。パンチラなんて可愛げのあるものじゃないですよ、服のセンスが微妙に派手ですし半脱ぎってなんですか。何誘ってるんですか。

 しかも私服であぐらやら立膝やらがデフォルトですから隠す気ゼロですよね? 本人気にしてないようですけど側から見ると超残念ですよ? 

 あれはもう撮ったら負けな気がします。

 

 ちなみにボクは基地職員の方々相手に内緒で写真の取引をしているんですけど、マスターのパンモロよりも他の人形の水着写真の方が売れ行きがいいんですよね。みんな考えることは同じなんでしょうか。

 誰か黒インナー着せてあげてよって何度思ったことか……。

 

 完全な余談ですけど、ジョナスさんに盗撮写真の取引がバレたことがあります。

 スコピッピの入浴シーンの盗撮を依頼されましたが丁重にお断りいたしました。

 ボクが蜂の巣にされるのでやめてください。

 下着ならともかく全裸はダメですわー。

 

 自慢じゃないですけどリーダーとマスターにはバレてないんですよ? もう7年の付き合いになりますけど。

 

 

 おっと、だいぶ余計なことを考えていましたね。

 今は熊さんの足元に着地したところです。まあ、緊急回避並みの出力で蹴り飛ばしたので一時的に見失っていると言った感じでしょうか。

 

 で、再度大ジャンプ。

 

 狙うは首筋、穿つは必中! 

 その脳味噌、貰い受ける! 

 

 某ランサーのセリフを心中で吐いて、スパイクドライバを起動します。静かに唸れ、ボクの槍。

 

 熊さんの顎にフェレットアッパー! 

 スパイクのおまけ付きだ、お代は命で払いな! 

 

 全長10センチのスパイクが電磁石の反発力によって加速され100m/sへと到達、対戦車ロケット並みの初速で衝突しました。

 生物の構造上顎の下は無防備、顎の下に銃を突きつけるのは拳銃自殺のレギュラーな方法です。

 まあ、ボクが撃ち込むのは拳銃弾などではなく鋭いスパイクなんですけど。

 

 左の頸動脈を貫通したスパイクは気道を損傷させ、さらに頚椎にも衝撃を与えたでしょう。

 

 え、顎の下じゃないんですかって? 

 やだなあ、全長10センチの棘ですよ? 顎の下だったら気道引き裂いて終わり、反撃されるのがオチです。脳震盪くらいは狙えるかもしれませんが、亜音速にもなってないので殺傷はできませんね。

 でも、動物は頸動脈裂いたら死ぬんですよ? 

 

 基本的に。

 

 

 

 さて、ずらかりますか。

 予測が外れて殺しきれませんでしたし、一層血走った目で睨んできますし。

 

 

 

 あばよとっつぁん、逃げるんだよぉ! 

 

 

 

 

 

 

 はい、どーも。

 無事熊から逃げたフェレットです。現在密林を出て山登ってます。

 

 

 というのも、マスターからの帰還方位測定用電波を受信したんですよ。普段は使わないんですけど、まあなんかあったんですかね。

 とりあえず向かってみるのがいいでしょう。なんだかんだ言ってボクの居場所はマスターの肩の上ですし。

 

 

 ちなみに夜通しかかってようやく森林限界超えました。フェレットのちっこい義体には高低差800メートルの斜面も苦行なのですよ。

 うわー、絶景ですねー。

 

 ちょうど朝日が昇ったところですよ。

 

 あまりにも絶景なので一枚。

 

 やばい、擬似感情が感動で破裂しそう。

 これ見たら動けないわー。

 

 その時、聴覚センサーに聞き慣れた、しかしここ2ヶ月ほどご無沙汰だった音が聞こえてきました。この特徴的な音を聞き間違うはずがありません。

 

 パタパタパタ、というヘリのローター音を。

 

 音のする方に視線を向けてみれば、いましたいました。Mi-24VMハインド、ロシア製ステルスガンシップが。国籍表示はなしでエンブレムはアトランティス大陸とこうべを垂れた大鷲、そしてマスケット銃。なんとなくNavySEALsやDEVGRUを想起させますね。

 

 ……!? 

 マスターが、ヘリの兵員室にいる……!? 

 

 見間違うはずがない、40倍望遠で視認しました。野戦服姿の戦術人形FAL、紛れもなくマスターです。

 

 ……どうやって、ここにボクがいることを伝えましょうか。

 じきにヘリは山脈を越えてしまいます。そうなると回収のめどは立ちません。

 

 いや、とっておきを持っているじゃないですか? 

 赤外線レーザーという。

 

 

 

 

 PEQ-16EI赤外線レーザー、照射開始。諸元方位2-1-3, 仰角21。追尾モードマニュアル。

 

 コマンドを実行。頭部に仕込まれた誘導弾誘導用のレーザーを最大出力で照射します。ついでに体表の迷彩も岩場仕様からホワイトに戻しましょう。大戦時のハインドならばレーザー警報装置が装着されているはず。そして、マスターならかならず暗視ゴーグルを使うはずです。

 

 レーザー光の発信源を視認するために。

 

 果たして、ヘリはこちらへと進路を変えてくれました。

 レーダー対策に角ばった形をした山岳迷彩の機影が迫ってきます。

 

 そして、ボクの目の前でホバリングしました。兵員室が開き、何ヶ月も見ることのなかったマスターが降りてきました。

 

「悪かったわね、遅れて……さ、行きましょ、フェレット」

 

 差し出される、雪のように白い左腕。

 ボクはそれを踏み台に、宙返りしてマスターの左肩に着地しました。

 やっぱり、慣れた場所が一番落ち着きますね。

 

 

 

「ふふ、この子が?」

 

「ええ。私の7年来の仲間の1人よ」

 

「撫でていいかしら? ……わぁ、もっふもふ」

 

「答えを聞く前に撫でるのはやめろよ、Five-seveN。……すまない、私も撫でさせてもらっていいか?」

 

「構わないわよ」

 

「なら私もいい?」

 

「大丈夫よ、64式」

 

 速攻で全員にモフられた。解せぬ。




すみません、前回のあとがきでフェネックと書いてましたが、正しくはフェレットでした。作者の頭の中で完全に逆になってました……お詫びに大型回して資源溶かしてきます。

ちなみにフェレットのみならず戦術人形に随伴しているペットはだいたいこんな感じの機能(独自設定)を持ってます。
でなければ戦場歩きなんてできないでしょうから……。

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