Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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遅くなってすみません!
ヴァルハラコラボイベント回ってました!


反攻作戦発令

 どーも、皆さん。愉快な仲間たちが増えて胃痛が増えたディビッドです。具体的にはやたら凸りたがるAKだとかFive-seveNをFALがやたらいじったりだとかリー・エンフィールドに左腕をやたら心配されたりだとか。それらの調整に走り回っているのは俺だ。仕方がない、半分は自業自得なのだ。

 ほら、今日も廊下の一角でFALがFive-seveNに迫って……。

 

「Five-seveN? いま私のことを露出狂って言ったかしら?」

 

「イエソンナコトハアリマセン……あ、やめて、貴女に壁ドンされたら窒息しちゃう、わざわざ野戦服を半脱ぎってどうなのとは思ったけど断じて痴女とは思ってない! 多分!」

 

「よし、死刑」

 

「あ、ちょっ、まっ……ぎゃー!」

 

 ……すまん、Five-seveN。それに関しては俺も同意だ。だがそれを悟られたら負けというのはうちの部隊の常識だった。というか口に出した時点で死は確定するのだよ……。

 とりあえずチョークスリーパーかけられたFive-seveNを救出しに行こう。このままだと窒息してしまうだろうからな。

 

 

 

 

 

 FALとFive-seveNの一悶着をさらっと解決してから、俺は全メンバーに召集をかけた。兼ねてから計画してあった作戦を説明するためだ。

 彼女たちの練成という目的もないわけではないが、現在俺たちは足を伸ばして10キロほど離れた渓谷分屯地への偵察を繰り返していた。ここはラ・パラディスを囲む山脈を貫通するトンネルの出口に近いため、奪取した後は監視所として使うつもりだ。

 これまでの404小隊による偵察で判明した敵戦力はおよそ3個小隊90体。航空支援と火力支援があれば制圧できない数ではない。

 すっかり油断しきってるようで装備も回されている人形も旧式のものが多かった。チュートリアルのシメにはいい敵だ。

 

「第2戦闘班UMP45以下5名、集結したわよ」

 

「第3戦闘班リー・エンフィールド以下4名、集結した」

 

「第4戦闘班スコーピオン以下5名、集結したよ!」

 

「召集から集合まで2分、グレイトだ。……作戦を伝える」

 

 今回の作戦は、文字通りの強襲殲滅だ。基地に残る俺とFALが全体の指揮を執ると同時に榴弾砲による支援砲撃を行う。9A-91にはMG5やFive-seveN、SAAとともにヘリに乗って監視と火力支援を行ってもらう予定だ。封鎖されてしまったトンネルを爆破し道を啓開、トンネルを通って歩兵戦闘車で突入する。我ながら無茶苦茶と言える作戦ではあるが、潜入工作を仕掛ける時間もあまりない。なぜなら、その分屯地にはあるものが隠されているからだ。

 

 すでに全員に開示されたソレの情報は、にわかに信じがたいものだった。

 

「……しかし、本当にあるのですか? ……脱出路が」

 

 M4の疑問は至極真っ当なものだろう。俺も同感だ。

 しかし、可能性を提示された以上はやってみるしかないのだ。

 

「ある。我々SASがこの地区への突入に使用した地下道、通称〈地下渓谷〉が」

 

 答えたのはロニーだった。

 彼曰く、〈地下渓谷〉とはロシアが掘った巨大な直線の粒子加速装置らしい。すでにこの一帯は鉄血の手に落ちて久しいが、〈地下渓谷〉はその長大さ故に一部がまだロシア領内にあるのだ。

 そして、彼の部隊はとある目的のためにロシア領内のメンテナンスハッチから侵入して鉄血支配域深部……すなわちこの基地を目指したのだとという。

 

「……それで、ここに来たことで目的は果たせたのか?」

 

「いや、一通り案内してもらったが、望むものはすでに無かった」

 

「そうか」

 

 短く答え、作戦の説明に戻る。

 今回の作戦目標はあくまで分屯地に存在する〈地下渓谷〉のメンテナンスハッチの奪取だ。ラ・パラディスの地下では〈地下渓谷〉がすでに埋まってしまっているため、ここから人類居住圏を目指すことは難しい。

 

 さて、諸君。

 

 短いようで長かった我々の道のりはここが1つの区切りだ。

 ここから皆がどのような道を歩むのかは知らないが、まずするべきは屑鉄の粉砕だ。

 

「作戦開始は明日の0200時、払暁攻撃を仕掛ける。出撃は第2から第4戦闘班、その他のメンバーはバックアップに回る。電撃戦だ、一気呵成に攻め上がれ」

 

 居並ぶ面々一人一人の目を見て、俺は告げる。

 

「諸君、待ちに待った仕事だ。しくじるなよ」

 

 

 

 

 作戦が決まれば、基地は途端に騒がしくなる。

 特に、今回は榴弾砲や歩兵戦闘車と言った機甲戦力まで投入するのだ。整備には余念が無かった。

 

 9A-91のラップトップ端末から統括コントロールできるように改装された歩兵戦闘車が、格納庫を出たところで砲塔の旋回チェックを行っていた。35mm機関砲ならば敵装甲兵すらも穿つことができる。砲塔側面にはもしマンティコア等の重機甲兵器が出てきても対処できるように対戦車ミサイルランチャーまでも搭載されていた。

 

 キルハウスでは実際に強襲を行うAK-47やスコーピオンが遭遇戦訓練を繰り返している。ジョナスはM4A1カービンを野戦分解していた。おそらくはCQB対策に16インチヘビーバレルから14インチバレルへと換装するのだろう。

 誰かが格納庫の前で布を広げて野戦分解しているのはADPの日常と言っても差し支えない。

 

 キビキビと動き回っている様子をキャットウォークからぼんやりと眺めつつ、俺はポケットからタバコを取り出した。適当にライターで着火して咥える。

 紙タバコはいい、葉巻と違ってある程度適当でも楽しめる。

 

 俺はたまに煙草を吸う。何故だかはわからない、なんとなくだ。

 そういえば、かつての上官に無類の煙草好きのヤツがいた気がする。一日中ヤニ吸ってるようなヤツで、全員に咎められてたが意地でも葉巻を手放さなかった。擲弾で下半身を吹き飛ばされて、それでも葉巻を咥えて笑いながら死んでいった。

 

 最期になんと言ったか。

 ああ、「生きて、帰れ」か。まったく似合わないことを言いやがる。

 

「この箱とライターは、誰にもらったんだったか?」

 

 独りごちた。

 逝く時は笑え、そんな言葉が徐々に数を減らしていくDEVGRUの中で流行りだした。だからだろうか、俺の記憶に残っている死に顔はある時から笑顔が多くなった。

 

「デヴァイア曹長だろう?」

 

「ジョナスか。……ああ、そうだな。ヤニ吸い始めたのも奴が死んだ頃からか」

 

 ジョナスが、珍しく厳つい顔で立っていた。

 

「お前がシガー吸ってるときは大抵ネガティヴになってるときだ。気づいてるか? ……お前の目、死んだように虚ろだぞ」

 

「こればっかりは発作みたいなものだからな。仕方がない……俺は、戦場にしかいられないから。脱出するとなるとどこか思うところはあるんだろうな」

 

「……そうか。お前はまだ、囚われたままなんだな……」

 

「それはそうさ。スレッジハマーやクルーガー、そしてお前ほど俺は器用になれなかった。今でも思い出す……もう15年前か」

 

「この前も似たようなこと言っていたよな? ……ここに来てから『発作』の回数が劇的に増えている」

 

「そうかもな。いつか、過去を清算する時まで、俺は思い出すんだろうよ」

 

 投げやりに呟いて、俺は肺の中に溜まった煙を吐いた。

 

「さて、陰気な追想に浸る時間は終わりだ。……ジョナス、お前にだけは伝えておく。おそらく鉄血も俺たちの作戦を察知しているはずだ。散々ちょっかい出したんだから当たり前だろうな。だから、お前たちを釣り餌に敵の主力を引きずり出す。あとは敵が分屯地にたどり着く前に榴弾砲でドカンだ」

 

「はぁ!? お前、たまにあり得ないこと考えるよな。……お前のことだから結局うまくやるんだろうよ。オーライ、増援の始末は任せた」

 

「任された」

 

 漆黒のカーボン素材で作られた義手を軽く振りながら、俺は軽く笑みを向けた。

 

 

 

 

 

 俺が装備している義手は戦闘用ではない。銃の衝撃にはある程度耐えられるが、砂塵や打撃に弱いのだ。その分軽量かつ繊細な作業も行えるのだが。

 だから、戦闘指揮所に詰めて榴弾砲と偵察ドローン、監視カメラの管制を行うには現状で十分だ。

 基本的にその説明を聞き入れてそれぞれの仕事に戻ってくれるものは多かったが、1人だけ例外がいた。

 

「指揮官、本当に痛まないのか?」

 

「ああ。四肢が持ってかれるのなんか日常茶飯事の戦場を駆け回ってた頃に比べりゃどうてことは無いさ」

 

「ならいいんだが……」

 

「Thanks, エンフィールド。心遣いは有難く受け取っておく」

 

「そうか。その、なんだ……手伝って欲しかったらいつでも呼んでくれ、私だって今は指揮官の部下の1人なのだ」

 

 リー・エンフィールドの心遣いはありがたいが、紅茶を淹れてくれるだけでも大分助かってる。

 それを伝えると、しょうがないな、という顔をされた。

 

「指揮官が年老いるまで待つのも良いかもしれないが……よしておこう」

 

「そうしてくれ。そもそも俺は棺桶に片足どころか半身漬け込んでいるような人間なんだ。……それに、俺は年老いて死にたくはない。死ぬなら誰かに撃たれて死にたい」

 

 後半は聞こえないように小さく呟いた。いけない、ジョナスに指摘された通りネガティヴになる時が増えている。

 

 プシュ、という音ともに戦闘指揮所の扉が開いた。聞こえてくる足音は2つ、片方は俺もよく知るものだ。

 

「……あら、紅茶党。ここにいたの?」

 

「そのあだ名はあまり好きじゃないんだがな、チョコ党。……FAL、いつもそこのチョコ党がすまないな」

 

「別にいいわよ? 楽しいことは悪くないし。兵士が笑えなくなった戦場なんて早晩崩壊するのよ」

 

 Five-seveNとFALだ。なにかと絡まれているFALだがまんざらでもないようで、2人同時に見かけることも多い。センスはあれだがなかなか心配りのきく相棒だからな。なんだかんだ言って優しいのだ。

 

 それにしてもなんだ、チョコ党って。

 ベルギーはチョコの国だが、今どきチョコ自体手に入らないだろうに。

 

「それで、どうした?」

 

「ディビッド、2000時を以って作戦準備完了したわ。現在は待機中よ」

 

「了解。Five-seveN、調べてもらっていたものはどうにかなったか?」

 

「ジャマー施設でしょ? バッチリこの辺に建てられていたわ。座標を転送するわね」

 

「グレイトだ、ありがとう。よし、俺が用意した分も含めて保険は揃った。……やろうか」

 

 戦闘指揮所のシステムを起動。

 大スクリーンに各所に仕掛けられたカメラの映像が映った。コンソールを叩いてドローンの制御を開始する。

 

「リー・エンフィールド、Five-seveN。君たちも待機室へ移動してくれ」

 

「「アイサー、コマンダー」」

 

 リー・エンフィールドとFive-seveNが去った。

 彼女たちの出番はまだだが、すでに作戦は始まっている。

 大型の無人偵察機を離陸させ、巡回コースを設定。無人偵察機があるだけで一気に視野が広がる。これを使わない手はなかった。

 

 

 

 

 

 

 FALととりとめのない話をしながら時間を潰し、0200時。

 作戦開始時刻だ。

 手元のHK416を手繰り寄せて、俺は無線に吹き込んだ。

 

「作戦開始。第4戦闘班、爆破せよ」

 

『I copy』

 

 

 




AR小隊に404小隊、熟練のエンフィールドにロニー、ジョナス、スコピッピ。
鉄血兵90体ならなんとかなるでしょ(慢心)

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