Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー 作:ヘタレGalm
たった2人しかいない戦闘指揮所は火の車となっていた。
分屯基地で防衛戦を行なっているジョナスたちのためにも支援砲撃で可能な限り数を減らさなくてはならないのだが、まず数が異常なのだ。さすがにたった2個分隊20体に対して4個連隊約2000体もの兵力を投入してくるとは思わなかった。
最新モデルのリッパーやヴェスピド、ドラグーンにストライカーまでいらっしゃる。オーソドックスな兵種だが、最新モデルになると戦闘能力は桁違いなのだ。確かヴェスピドがモディファイ8じゃなかったか? 8.6mm弾を使うレーザーライフルはほとんどマークスマンライフルに近い。逆に特殊戦用のタイプBは短銃身のレーザーライフルを持っていたはずだ。
余計なことを考えている暇はない、な。
武器の管制コンソールにドローンで索敵した敵の座標を片っ端から叩き込み、ファイア。大スクリーンに映る戦域情報図の基地を表すブリップから味方の砲撃を表す複数の破線が伸びた。着弾予想時刻には目もくれず、自動迫撃砲に新たな座標を指示して全自動射撃開始。
代わりにレールガンを砲身冷却させる。
レーダーとドローンの管制画面をにらんでいたFALが叫び声をあげる。
「防空レーダー識別完了、方位1-0-9機数20! 高度20000フィート、距離170㎞! おそらくは敵戦闘攻撃機よ!」
「対空ミサイルをぶちかます! FAL、機関砲の制御を任せる。近接防御は任せた」
「了解」
キーボードを叩き、対空ミサイルを起動。
|アンノウン≪敵味方不明≫表示の敵攻撃機に自動でロックオンされる。40年ほど前のイージスシステムでは人間が諸元を打ち込む必要があったらしいが、ここの防空システムはそれに比べれば相当優秀だ。方角的に鉄血機なことは確定している。鉄血が採用しているのはファーンと呼ばれるフランス製戦闘機のマイナーチェンジモデルだ。ステルス機だが、米軍のライトニングⅡと同程度の性能しかない。
すなわち、時代遅れというわけだ。
EMP兵器の発展やコーラップスによる原油不足、ELID対策の優先に伴う空軍戦力の低下がなければ人類は航空攻撃だけで鉄血を殲滅できただろう。
長距離対空ミサイルの発射ボタンをクリックし、4発を連射。散弾弾頭なので編隊を組んで飛ぶ鉄血航空隊はいい的だ。
「敵連隊は南西からふたつ、東から一つ。そしてUMP9のいた基地に一つ、か。距離はすべて20㎞を切った、そろそろ不味い」
「このままじゃジリ貧よ! いくら砲門を並べ立てたところで殲滅できる数は限られている!」
「わかっている」
わかっているさ。もう状況は詰んでいるんだ。分屯地でジョナスたちが1個大隊相手に大立ち回りをしているが、それも長くはもたないだろう。そのうえ、東からくる連中と西からくるうちの一つはこの基地へ移動してきている。
機械化されているのか、スピードが恐ろしく速い。
『UMP45よりHQ、大破2、トンプソンとナインがやられた。スコーピオンとSAAが乱戦に持ち込んでいるけど崩壊寸前。……これは覚悟を決めないとまずいかな?』
『こんな最後も、悪くはないです。でも、欲張るならディビッドさんと一緒がよかったですね』
45、9A-91。
だめだ。状況がすべて悪くなっている。
完全に誤算だった。
鉄血がこちらに気づいており、そしてここまで兵力をつぎ込んで殺しにかかってくるとは。
「アルケミストか……! クソッ!」
不意に、弾着。
対砲迫レーダーがはじき出した発射元は東の連隊だった。
さらに、西側からも複数の榴弾が打ち込まれてくる。
レールガンに直撃、一門が沈黙した。何よりも火力が必要な、この局面で。
「対空レーダーがやられた!」
「ガッデム! ……対砲射撃!」
キーボードに指を走らせ、砲身が焼けんばかりの連射を浴びせかけるが一向に敵の数は減らない。
逆に、基地への弾着はますます増えるばかりだ。
地下に設置された指揮所は核攻撃とバンカーバスター以外は耐えられるものの、兵舎や工廠には甚大な被害が出ていると見るべきだろう。
被害は許容範囲を超えている。皆が帰ってくる家を守れなくて何が指揮官か。
「クソッ……仕方がない」
悪態をついて、携帯端末を取りだした。
秘匿されたとある回線へと接続する。
UMP45に教えてもらったものとも違う、個人的なものだ。これを使ったことはないが、使えるだろうということは確信していた。
無線が、つながる。端末越しに渋い男性の声が聞こえてきた。
『────よもや、君から通信をかけてくるとは思わなかった。どうした、エドワーズ少佐』
「単純だ。────15年前の貸しを返せ、ベレゾヴィッチ・クルーガー大尉」
グリフィンR地区司令基地
「グリフィン本部から相当離れたR地区司令基地、そこにはとある部隊が駐留していた。
1個中隊規模の司令部直属部隊や4個小隊規模の警備部隊とは別に、増強8個小隊240体からなる大規模な部隊だ。
ダミー含めての数であるため実際は48体だが、それでも相当の規模であることがわかる。
素顔を明かしているため404小隊のような完全な暗部部隊ではないと考えられるが、任務等が一切明かされない特殊部隊であることには変わりなかった。
彼女たちは通称「第1空挺連隊《The 1st Paratrooper》 」、第1狂ってる連隊とも呼ばれるエリート部隊なのだ。各司令部直属中隊から選抜され、過酷な訓練によって並外れた練度を誇る。ちなみに激戦区であるF地区、P地区、R地区そしてS地区の各司令部基地にそれぞれ一個中隊が駐屯し、引き抜かれる人形もその地区の司令部直属中隊の人形が多い。
定員は48×4で192体、戦術人形の種類も多岐にわたる。ちなみにTAR-21やAS Valは多く所属しているらしい。
そんな彼女たちの主任務は部隊名の通り
隊内で百合の花が咲こうともそれを散らしにかかるような訓練と気風によって隊員のASSTレベルは100になっていることが当たり前、他の人形の武器でも十二分に戦闘が可能という練度を誇るのだ。
そう、「ぼくが考えた最強の兵士」を地で行くのが「第1空挺連隊」なのであるっ!」
「……なにそのこっぱずかしいモノローグ」
目の前でトンプソンがタバコを吸いながら熱弁したモノローグに、危うく引きずり込まれかけていたWA2000はドン引きしながらツッコミを入れた。自分のいる部隊は誓ってそのような変態たちの集まりではないのだが、トンプソンのトーク力の前に納得しかけていたのだ。
「なーに、気まぐれで言ったに決まってるだろ? 三割嘘だが」
「でしょうね。百合の花なんて至る所で咲いてるわよ。つかM249とMk48は声抑えろ、防音の壁を貫通して聞こえるとかどういうプレイしてるのよ」
「あれ、わーもスプリングフィールドも大分声大きい方だと思ったが」
「おいトンプソン。バラしたら殺すわよ?」
「(もうバレてるってのは黙っておいてやるか)……バラしたりはしないさ。後ろ玉食らったらたまんないからな」
おどけたようでその実気遣いをしてくれた同僚に嘆息しつつ、WA2000は描きかけの猫と少女のイラストをセーブした。ペンタブレットを仕舞い、もたれかかっていた一面硝子張りの窓から腰を浮かせる。
「どうした、わー?」
「どっかのトーク力だけはある同僚にコーヒーを入れてあげようかなってね」
「それだったら共用スペースに持ち込んでくれ。コーヒーは殺風景な喫煙所で飲むもんじゃないだろう?」
「そう? ここから見える景色もだいぶ気に入っているけど」
そんな言葉を残し、喫煙室を後にしようとした瞬間。
呼び出しのホーンが鳴った。
「なんだ?」
「第7小隊のSAAがコーラパクってきたんじゃない?」
そんなのんきな考えは、スピーカーから聞こえてきた彼女たちの指揮官の声によってばっさり切り捨てられる。
『空挺連隊および第66特殊飛行隊各位は現在の行動を放棄、至急第1ブリーフィングルームへと集合せよ。繰り返す、空挺連隊および第66特殊飛行隊各位は現在の行動を放棄し至急第1ブリーフィングルームへと集合せよ』
「緊急招集だ!」
「ガッデム、せっかくスプリングさんにコーヒー淹れようと思っていたのに!」
愚痴を吐きつつも、すでに二人は兵士としての顔に変化していた。曲がりなりにもグリフィン最精鋭部隊、招集が何を意味するかは骨の髄にまで染みていた。
廊下をダッシュし、大きめの教室程度のサイズがある第1ブリーフィングルームへと集合する。
招集から2分、すでに半数以上の人員が集合していた。
WA2000たちのあとからも次々に銃種も様々な人形たちや人間たちが集合してくる。
「招集から3分、グレイトだ。状況を説明する」
壇上の厳つい顔をした指揮官が口を開いた。
スクリーンに戦術地図が移るが、そのサイズが違うことに気が付く。普段の連隊作戦用ではなく、それよりもさらに数サイズも大きい師団作戦用の代物だったのだ。
「先ほど、社長直々に俺に電話がかかってきた。内容は至急性を要する空挺作戦だ。それと同時に敵の動向も伝えられたが、はっきり言ってナンセンスだ」
戦術地図に敵のブリップが映る。
パッと見ただけでも頭が痛くなるほどの敵がいた。大隊規模がいくつも存在するのだ。
「敵は4個連隊、味方はたった20体だ」
「味方、ですか?」
「ああ、この山のところに陥落寸前の基地がある。そして、そこから離れたところに分屯基地があるのだが、そこで防衛戦を繰り広げているとのことだ。我々R中隊の目標は分屯基地と山岳基地の連中の救援および敵の撃滅。そのほかに、S中隊が西側に布陣する敵部隊の後方を叩き、P中隊が俺たちの相手する敵2個連隊の後方を叩く。F中隊はここに止まっている連隊の撃滅だ。支援としてS09地区とS10地区、そしてR06地区とR07地区に全力出撃が発令された」
即興にしては大がかりすぎる作戦だ、と思った。それはほかの面々も同じようで、疑問符を浮かべているものも多かった。指揮官も完全に飲み込めているわけではないらしいが、さらに恐ろしいことを告げる。
「なお、孤立している味方は劣勢であるため命令伝達後30分以内の出撃を望む、とのことだ」
「(嘘でしょ!? 無茶苦茶にもほどがある!)」
「たった20人で防衛戦をやっていて鎧袖一触されていないことも驚きだがな。この基地はロシア軍の物だったが、どうにもきな臭い。────無駄話をしている時間はないな。情報の共有は輸送機の機内で済ませよう。総員、出撃用意! Type2装備で15分後に駐機場に集合せよ!」
状況が呑み込めないとはいえ、命令されたら動くしかないのが兵士だ。
それに、久しぶりの実戦に血が躍っているということもある。WA2000は速足で更衣室へと駆け込み、制服のシャツを脱ぎ捨てるのももどかしくスーツを改造した黒色戦闘服の上衣に袖を通した。野戦ならば専用に設計された戦術人形の制服の方がベストだが、潜入作戦、こと
わざわざType2────防御強化で行けとのお達しだ、念のため戦闘服の上から軽量ボディーアーマーと熱光学迷彩マントを装備する。本来は制服に取り付けられているポーチ類をベルトに装着したら奇妙な出で立ちの戦術人形の完成だ。
己の半身であるWA2000をガンケースから取り出し、手早く消音器をねじ込む。
弾薬はあとで受け取ることになっているため、弾倉の中は空っぽだ。
「行くしかないわね」
ロッカーにガンケースと制服を放り込み、熱光学迷彩マントをひるがえして更衣室を後にした。
駐機場にたどり着くと空挺仕様に衣服をチェンジしたダミーも集合しており、格納庫から引き出された大型輸送機が4発エンジンの暖機運転を行っていた。
並べられたグライダーユニットのなかから自分のものを選んでゴーグルと接続し、待機場所にて待機する。
ほどなくして、ダミーも含め自分の指揮する小隊の面々が集結してきた。
「オーケイ、集合したわね? トンプソン、Vector、AUG、G41……それに、M16A1」
「ああ。全員揃っている」
「問題ない」
そういって答えるM16A1の眼は、どこか心あらずといった様子だった。実際、彼女は空挺部隊に配属替えになったときからずっと探しているのだ。
生き別れた妹たちを。
空挺用にカスタムされた特殊戦術機動装甲を纏った彼女を一瞥してから、輸送機に搭乗し始める。畳んだグライダーを抱えて機内に乗り込むのだ。
増強8個小隊計240体を乗せるには輸送機1機では不足で、2機目が必要になる。余ったスペースには指揮施設を設置し
自分の席に座り、弾薬箱を受け取った。
.308ウィンチェスター弾を1発ずつ弾倉に込め、銃床にカツカツとぶつけることで角を揃えた。最初の弾倉をマガジンインレットに叩き込み、残りはマグポーチに入れる。
輸送機が動き出したのか、若干の慣性を感じた。
『これより当機は離陸します。降下予定時刻は20分後、HALO降下となります。では、短い快適な空の旅を』
パイロットのアナウンスとともに、ジュラルミン製の機体が猛然と蹴り出される。エンジンの咆哮すらも置き去りにして、空へと飛び立ったのだ。
護衛のSu-78戦闘機がピッタリと横につく。
WA2000は小さく独りごちた。
「グリフィン最精鋭部隊・第1空挺連隊R中隊、ね……通常部隊としては最精鋭なのかもしれないけど、非正規戦部隊と比べたらどうかしらね」
「さぁ? ただ、スプリングフィールドが聞いたら笑い飛ばすんじゃないか? 『私たちにできることは、"
トンプソンがスプリングフィールドの声を真似てボヤく。
輸送機は、彼女たち自身も知らぬままに争いの渦中へ突入しようとしていた。
ハイ、第1空挺団モドキです。後悔はしていません。
プロット考えている時にラピュタの「親方、空から女の子が!」を聞いてしまったからね仕方ないね。
ちなみに降ってくるのは女の子(鉛玉もサービス)です。
空挺団はフリー素材です(重要)。