Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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ELIDについては情報が少ないので作者の独自解釈が多く含まれることをご了承ください。


緊急任務

 ディビッド視点

 

 M4 SOPMODⅡを回収後にヘリで楽園まで帰投する途中、通信が入ってきた。周波数はヒゲゴリラ(クルーガー)直通、その時点で嫌な予感しかしない。

 

「なんだ、クルーガー。俺は暇じゃないんだ」

 

『エドワーズ、緊急ミッションだ。R07地区に存在する放棄された研究施設に多数のELIDが確認された』

 

「ELIDを撃滅するにはウチじゃ火力が足りない。小型ならともかく中型になれば大型レールガンかレーザーカノン、あるいは対戦車ミサイルが必須だ。大型ならば極超音速ミサイルを持ち出さないと殺れないぞ」

 

 クルーガーの言いたいことを察して機先を制する。

 こればかりは私情一切抜きの事実だ。

 大型ELIDになると、戦艦を相手する覚悟がないと対処出来ない。

 正規軍のドクトリンにすら揃って〈対艦戦闘装備で攻撃せよ〉と書かれているのだ。故に、精々携行型レールガンしか所持していない俺たちは中型以上を相手することが出来ない。

 

 クルーガーもそれは分かっていたのか、当然のように次善の策を出してくる。

 

『ああ。だから、お前の仕事は殲滅では無い。……そこへ迷い込んだ戦術人形・G11の回収だ』

 

「404小隊の最後の一人か。……だが問題がある、潜入可能な部隊はM4 SOPMODⅡの回収で消耗している」

 

『そこは問題ない、確認されたELIDは小型と中型だ。それくらいならば遮熱光学迷彩が通用するから通常部隊で潜入可能だ』

 

「なるほど、そこまで俺を仕事させたいか」

 

『報酬は割増だ。安い仕事だろう……それに、当該研究施設はコーラップス液の研究も行われていた。ELIDがいることからしておそらく一部区画は低濃度汚染されている可能性が高い』

 

 拒否権などあるはずがなかった。

 仕方がない、事実コイツの傘下に入っていることは確かで、しかも敵はR07地区にいるというのだから。

 

 まったく、ままならない世界だ。

 

 俺は全部隊への通信チャンネルを開いた。

 

「オーケイ、聞こえるか諸君。ヒゲからの緊急任務だ」

 

 全員が静かに聴き入っていることを知覚しつつ、話を続ける。

 

「R07地区の研究施設内にELIDが出現したとの情報がある。運の悪いことに主街区のすぐ近くだ。さらに、グリフィン非正規特殊部隊所属の人形が迷い込んでいることも確認した。そこで俺たちの出番だ」

 

 ここで、言葉を一度切る。

 息を吸い込み、続けた。

 

「9A-91を隊長として、AK、M1911、SAA、Five-seveNを救出部隊として編成。遮熱光学迷彩を使用して救出にあたれ。リー・エンフィールド、M14、ドラグノフ、64式、PPKは狙撃支援だ。敵は小型および中型、中型には絶対に手を出すな。20分後に出撃、いいな?」

 

『了解』

 

 

 

 

 9A-91視点

 

 久しぶりの出撃です。

 私は基本的に基地管理や後方支援に就くことが多かったので、あんまり出撃する機会がありませんでした。腕を落とさないために時折偵察任務に出てはいましたし何回か強襲任務にも就いていましたが。

 

 NBC防御がなされている装甲車を使って主街区を出発します。運転は私の遠隔操作ですね。下手なドライバーよりも上手く運転する自信はありますよ? グリフィンの自律人形を使うという手もありますが、彼女たちは基本的に基地の維持管理に入ってもらっているので……。

 

 それよりも心配なことは、AKやSAAが誤って発砲しないかということです。

 はっきり言ってELIDは私たちの手に余ります。だから、彼らの眼をごまかせる遮熱光学迷彩を使用した上での潜入と相成ったわけです。

 

「もう一度確認します。今回、ELIDが相手となるため全員発砲禁止、見つかったら即座に退却(完全ステルス)です。特にSAAとAK-47。いいですね?」

 

「うっわ信用ないなぁ……安心してよ、流石に手の込んだ自殺はしないから」

 

「まー、アタシも対物ライフル持ち出さないと殺れない奴とやり合う気はないよ」

 

 その通りだと安心できるんですけど……どうにも不安感が拭えないのは私だけでしょうか。

 

 おっと、展開地点ですね。車を停止させます。

 

「全隊降車。狙撃班は展開してください」

 

 後部ドアから素早く展開、膝射の姿勢で周辺警戒へ。

 目標の施設にはそれなりの数のELIDが蠢いていますね。ですが、潜入難度はそこまで高くありません。

 

 人形の性能を舐めないでください。

 

「800m先目標施設。救出部隊は移動開始です」

 

 かさばる光学迷彩マントを纏い、周囲の景色に同化させながら匍匐前進で移動します。匍匐前進と言っても実際には5種類あり、使うのはその中で最も速度が出るタイプ。右手で銃を支え、両足と左手で前進します。

 

 夜間潜入ではないのでこういった工夫が必要なのです。

 

 まだ敵から離れているため、人形共通の無線プロトコルで情報交換という名の雑談をする余裕がありますね。そもそも、生身の人間が素体となって発生するELIDには通信傍受はできないと聞いたため無線封鎖の必要はなさそうです。

 

『にしても、どうして突然ELIDなんてものが出てきたのやら』

 

『さあ、でもここはごく低濃度ですがコーラップス汚染されている土地です。もしかしたら研究所ではコーラップス関連の研究がなされていたのかもしれません』

 

『ところでこの中でELIDとの交戦経験がある人はいる? 基本的に逃げるけど、万が一戦わなきゃならなくなった時弱点とかを聞いて起きたくて』

 

『……あるよ』

 

 M1911の質問に答えたのは、意外にもSAAでした。

 普段の彼女からは想像も出来ぬ、暗く澱んだ声で。おそらくはその目も光を失っているのでしょう。

 

『弱点は心臓。基本的に人間と変わらないけれど、身体性能が鉄血ハイエンド以上に向上している。小型クラスでそれなんだから、中型とか大型とかは話にならないよ……ああ、心臓といっても対物ライフルを直撃させてやっとっていう有様だけど』

 

『……戦ったことが、あるのね』

 

 Five-seveNの問いかけに対して、無言で首肯の意を示すSAA。

 

 ついでに私も補足しておきます。

 

『戦車の正面装甲を貫徹できる対戦車ミサイルであれば中型も対処可能です。ロシア軍のGsh-23M機関砲があれば小型は取るに足りません、ですが……』

 

『そんなのは持ち込めない、ですね』

 

 M1911の告げた通りです。

 そんなもの、重すぎるため人形が運用することはできません。

 

 一応“切り札”は持ってきていますけど、できれば使いたくはない代物ですしね。

 

 すでに、目の前にはELIDの徘徊する廃墟が聳えていました。

 

 間違っても見つからないように、こっそりとダクトから潜入します。

 

 

 

 

 

 およそ30分後、事前にもたらされた座標通りの場所にG11はいました。ぐっすりと眠っています。

 

『救助対象発見、情報は正確だったな』

 

『非正規戦部隊とはいえ、捨て難い駒なんでしょう……SAA、付近に敵影は』

 

『なしだよ。ただ、階段のところにいるから今すぐには降りられない。この隠し部屋で待機するのが賢明な判断だね』

 

 G11が潜んでいたのは、3階にある小さな研究室、それも入り口が崩落して封鎖されてしまっている場所でした。普通ならまず救出が望めないですが、クルーガーさんならば潜入部隊を使うと信じて敢えて密室に篭ったのでしょう。

 

 侵入経路は天井のダクトのみ、鉄血ならまだしもELIDは絶対に発見出来ない場所だから安全地帯でもあるんですけどね。

 

 ここからは動いてもらわないといけないので、彼女を起こすべくトントンと肩を叩きます。

 

「むにゃ……救援かな?」

 

『ご挨拶ですね、G11。時間がありません、早く脱出しますよ』

 

『了解』

 

 G11が人形間通信に切り替えて返事したのを聞き、私たちは行動再開。

 何をするのかは言うまでもありません。

 

 脱出です。

 

『9A-91より指揮官、救助対象を確保』

 

『了解、グレイトだ。屋上にヘリで向かう、ランディングゾーンを確保せよ』

 

Да(了解)

 

 机を踏み台にダクトへと上がり、両腕の力だけでの匍匐前進。

 そのままだとマントが邪魔になりますが、サスペンダーで固定してあるため背中に払いのけることで緩和できます。

 

 すぐ後に続くのはAK。

 ここに来た当初は隠密のおの字もなかった彼女が、それなりに特殊戦をこなせると言うのは少しばかり感慨深いです。

 

 ダクトの出口は4階の足元に繋がっている。

 徘徊する敵とかち合ったら目も当てられませんが、そんな愚は犯しません。

 

 懐から小さな鏡を取り出し、そっと鏡ごしに覗き込み。

 

 ────敵1、小型。

 

 まるで半世紀前のホラー映画に出てくるゾンビのような有様に変貌した異形の姿を認めて息を潜めます。

 

 あれが、低濃度コーラップス液に侵された人間の末路、ELID。

 

 ふと、この汚染されたR07地区のことが思い浮かびました。私たちにはあまり関係ありませんが、指揮官は人間です。

 そこに住んでいる人の状況から鑑みてELID化はまず無いと思われますが、もし、不測の状況で指揮官がELIDと化してしまったら────。

 

 背筋が、凍る。

 

 嫌。そんな状態になってしまったら、壊れてしまう。

 

 自分はチニートチェマッシュの開発した試験型戦術人形、言うなれば第1.5世代の人形。それ故ではないでしょうが、私は不完全です。ええ、自分でも気がついています。

 

私のメンタルは、10年くらいの孤独によってボロボロになる程度には、たかだか目の前で仲間が鏖殺されたせいで消耗するには弱っちいものです。

 

 確かにメンタルへの電子的攻撃をシャットアウトする機能は搭載されています。物理的なダメージに対してもある事情から相当強くなっています。ですが、人間の脳を模倣している以上精神的なダメージが通用してしまいます。

 

 IOPの9A-91と異なり、私は唯一無二です。

 なぜなら、数人のロシア人の狂気染みた発想によりえげつないものを搭載されてしまったから。機密保持のために、データのバックアップを取れないから。()()()()()、極限まで精神が磨耗した時に、私は死を選べてしまうでしょう。

 

 指揮官。あなたに永遠の別れを伝えることになったら、私は────たぶん、壊れてしまう。ううん、指揮官だけじゃない。他のみんなも。

 

 あの事件以来、何年も1人ぼっちだった。でも、その孤独から解放してくれたのはUMP45、M4、416、FAL。そして、外の世界を見せてくれたのは指揮官。

 

 優しい、優しいかけがえのない友人たち。

 

 だから、皆必ず私の元に帰ってきてください。

 

 

 

 

 

 

 ELIDが、通り過ぎました。

 ふとした発想から思わず思考が飛んでしまったようです。

 久しぶりに情緒不安定になっていましたね……。

 

『クリア。行きましょう』

 

 通信プロトコルを介して告げ、ダクトから這い出ます。

 即座にマントをかぶり直し、光学迷彩を起動。周囲の景色に同化します。まあ、すでに銃を抱えているのであまり意味はないのは気にしてはいけません。

 

『ピークォドより救出部隊各位、残り5分でホットゾーンへ突入する。きっかり5分だ。5分で屋上に展開してくれ。ELIDが徘徊する中を飛ぶんだ、投石で墜落など御免だぞ』

 

『9A-91了解』

 

 次々とダクトから這い出てきた仲間が警戒態勢に入ります。

 しかし、その必要もありません。

 

『まず、5階へ続く階段へ向かいましょう。屋上へ行ける階段は5階にしかありません』

 

 なるべく足音を立てないように、なおかつ迅速に。

 角をクリアリングし、ELIDが存在するならば迂回して。

 私たちは階段へと向かいます。

 

 G11はスリープモードでバッテリーを温存していたらしく、遅れることなく付いてきてくれます。それも、私たちの死角をカバーする位置で。これだけ護衛しやすい護衛対象は初めてです。

 

 5階も同様に移動し、屋上へ続く階段を確保。

 ELIDに知性が無かったことが幸いです。もしも彼らに知性があったならば、私たちはそのスペックも相まって容易く全滅させられていたでしょう。

 

 階段を早足かつ無音で駆け上がり、屋上の階段ホールをクリアリングします。窓がなくて外が見えませんが、ヘリが来るかどうかは無線で知らせられるので意味のないことです。

 しかし、1発も撃たずに済ませられたことは幸いでした。もし撃つような事態になっていた場合、少なくないどころか甚大な損害を被っていたでしょうから……。

 ちょうど、ヘリパイロットであるオグラさんから通信が入ってきました。

 

『こちらピークォド、まもなくホットゾーンへ突入する……っ!?』

 

 跳ね上げられた語尾に、嫌でも高まる警戒。

 

『9A-91よりピークォド、状況知らせ』

 

『エドワーズだ、代わりに伝える。……屋上に中型ELID1。ヘリが接近出来ない。こちらで撃破しようにも、撃破可能な装備は速度の関係で搭載していない。……すまない、極超音速ミサイルはRing and Run(ピンポンダッシュ)をするには重すぎた』

 

 最悪です。

 

 掛け値無しで最悪の事態です。

 

 そして、このあと指揮官ならどういうか目に見えています。

 

『ヘリからも支援する、ELIDを撃破せよ』

 

『……Да(ダー)

 

 




ちなみに、この研究施設はR07地区主街区と楽園を結ぶ線の延長線上にあります。

9A-91ちゃんについて独自設定をぶん投げました。
ざっくり言うとこう言うこと。

・チニートチェマッシュにより第1世代特殊戦特化型戦術人形として開発される。よって烙印システムなし。
・先端技術の試験機も兼ねており、その変態的な技術の数々により第1世代と第2世代の差を埋めている。
・ある事件によって10年前から孤独な状況に置かれていた。また、その時に仲間が皆死んだことにより精神も損耗している。
・1年前に迷い込んだM4、UMP45、416の3人に強く依存、次点で指揮官に依存。

IOPの9A-91ちゃんは別でちゃんといます。

そしてナチュラルにドンパチ予告を入れる作者(
メタルギアソリッド2のハリアー戦を思い浮かべてしまったが運の尽きでした。

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