Armee du paradis ー軍人と戦術人形、地の果てにてー   作:ヘタレGalm

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反撃の狼煙

 5人を乗せたUAZは獣道かと疑うほどの細い道を時速50km以上の高速で行く。不整地極まる道に関わらず、UMP45のハンドリングは正確極まりなかった。すでに尾根を越えたものの、相変わらずの高山地帯だ。

 そして、ガタガタと揺れる車内でグロッキー状態に陥っている戦術人形が約1体。

 

「……うぇ、う……うぷ……ちょっと、揺れすぎ……もう少し、加減して」

 

 後席左側に座るM4が今にもオロロロロしそうな惨事に陥っていた。

 しかし、それに対する運転手の返答は冷酷だ。

 

「吐かないでよ? 車汚れるし外に吐いたら痕跡ついちゃうし……第一、戦術人形って嘔吐するの?」

 

「そんな話聞いたことないわ……いい風ね」

 

 ルーフの23mm機関砲の槓桿を握る416が投げやりに呟いた。

 もちろん、そんな詩的なセリフはバッサリと斬られる運命にあるのだが。

 

「あ、ちなみにこの車が撃たれたら真っ先に犠牲になるの416さんです。私たちは伏せたらなんとかなりますけど、416さんは無防備に立ってますし」

 

「はあ!? いい風ねとか言ってる場合じゃないわよ!」

 

「その胸部装甲なら防げるでしょう?」

 

「シャレにならないわ!」

 

「……私の前で、胸の話をするな」

 

 9A-91と416のコントは怨念ドロドロのUMP45の声で終止符を告げた。なんか一瞬彼女の本性を覗けた気がするな。

 まあ、関わらないのが正解だろ……。

 

「うぷ……ルーカさんは……貧乳……と……巨乳……どっちが……いいですか? ……うぐ」

 

「ふぁっ!?」

 

 おいM4。

 全員のヘイト俺に持ってくるな。あとなんだルーカさんって。

 

「……どっち?」

 

「UMP45、脇見運転するな頼むから」

 

「…………どっち?」

 

 あれ、答えたら死ぬんじゃねこれ? 

 答えなかったらそのうち事故りかねないし……。

 

「答えて、ルーカサイト。さもなくばフレンドリファイアも辞さないわよ」

 

 Shit、416まで……。しゃーない、白状するか……。

 

「……巨乳は正義、でm」「よし殺す。具体的には左側から木に突っ込んで粉砕する」

 

「……ちなみにFALさんくらいのバストは」

 

「ジャストミートです……あ」

 

 あ、やべ。

 これジョナスとやった流れだ……。

 

「……いいのよどうせ私は絶壁よだからこんなところでサバイバルしなきゃいけないのよそもそも416とかM4とか9A-91とかさいきんだったらFALあーもーなんでこんなにも身内に胸部装甲分厚いやつが多いんだそういえばナインも胸大きかったよねあれか銃のマガジンが悪いのかたしかに私は25連発直線マガジンだけどそれ言ったらFALだって20連発直線じゃん」

 

 すげえ、これが本場のマシンガンウィスプってやつか。一息で言い切りやがった……。胸の恨みって怖いなオイ。なんか車もフラフラしてきたし!

 

 まあ、このままにするのもまずいってのと半分以上俺の責任だからフォローするか……。

 

「なあUMP45、俺はたしかに巨乳好きだが貧乳も悪くないと思うぞ? ……それに一番大事なのは大きさじゃなくて誰の胸か、じゃないか?」

 

 うっわ、いい歳こいて我ながら安い言葉しか出ねぇ。これでも30代半ばだってのに。でもジョークは苦手だからな、こんな言葉しか掛けらない自分が情けなくなってくる。

 

「……そう、そうよね……だいじょーぶ、まだだいじょーぶ」

 

 とはいえ、やらないよりはマシだったらしい。車の軌道が戻ったし、本人も大分立て直したような気がする。あくまで気がするだけだが……。

 

「……うぇ……そろそろポイントアルファじゃないですか?」

 

「……そうね……この辺に車を止めましょっか」

 

 いつのまにか山の中腹、森林地帯へと入っており、そろそろ目標地点も近くなっていた。

 車が穏やかなブレーキ音を鳴らして停車した瞬間、俺たちは飛び降りて周囲の安全を確認した。全員が全員エリート部隊だったからか、その動きは素早い。

 夕日に赤く染まる森には、誰もいなかった。

 

「さて、そろそろ日が暮れる。組み分けは前もって話した通り私とルーカサイト、416とM4と9A-91でいいよね? ……じゃあ、作戦通り行こう」

 

「了解」

 

 仕事モードにチェンジしたUMP45の指示に従って、AR3人が森の中へと消えた。彼女たちはより基地に近いポイントブラボーから狙撃、それから車両で突入する俺たちの援護のために突入だ。

 俺たちはこの位置から狙撃、20時ジャストに突入する。

 

 森を少し歩いたところに、高台がある。ここからはちょうど麓の敵の野営地を狙えるのだ。

 その辺全てUMP45と俺が偵察して得てきた情報だった。

 

「距離650m、風向きは無風」

 

「コリオリはあまり考えなくても良さそうだな。ただあと数時間しないうちに南風が吹き始めるだろうな……」

 

 高台に伏せた俺は二脚を立ててライフルを固定し、チャージングハンドルを引いて実弾が装填されていることを確認する。

 太陽は西にあるため、逆光になる俺たちはさぞかし見つけにくいだろう。

 万が一に備えて傍にAKを置いておく。もちろん初弾は装填済み、セイフティも解除してあるから引き金を引けば5.45mm弾の嵐が吹き荒れる。

 

 隣では、ブッシュハットを被ったUMP45が伏せて双眼鏡を覗いていた。観測手となる彼女は、敵情の把握に努めているようだ。

 不意に、鈴を転がしたような澄んだ声が聞こえた。

 

「……ありがとね、ルーカサイト」

 

「いきなりどうした?」

 

 ライフルのスコープを覗きながら聞き返した。心なしか、彼女の声から不自然さが消えている気がしたのだ。

 しかし、次の瞬間には元の仮面を被ったような様子へと戻っていた。

 

「なんでもないよ〜」

 

「ほんと掴み所ない奴だな……まあいい、殺す時と殺さない時は切り替えろよ。お前に言うべきことではないかもしれんが」

 

「それはごもっともだね。ある意味あんたと私は近いのかもしれないね」

 

「さあな」

 

「ま、ある意味同業者だし?」

 

 グリフィンの存在しない部隊と、アメリカ海軍の非公式部隊。たしかに、似ているな。

 

「さて、仕事に移りましょうか」

 

「ああ。……歩哨は北東と南西に2人ずつ、監視塔にはサーチライト持ちが1人、監視塔は2本」

 

「歩哨のトコには重機関銃が1丁ずつ据え付けられているみたい。ありゃりゃ、昼間強襲制圧を選んでなくて正解だった」

 

「だれがバンザイ突撃なんてやるか。……9A-91たちも気づいてるだろうな。重機関銃自体は持ち帰った方がいいかもしれないが、射手をどうにかすればなんとかなりそうだな」

 

 俺はスコープを覗きながら敵の様子を探る。

 ……あれ、やけに警備が厳重なテントがあるな。ああいうのは捕虜がいたりするんだが。

 

 とりあえず、日没まで待機だ。

 夜間になってからが本番だから、な。

 

 

 

 

 

 

 日が沈み、夜が訪れた。

 俺たちは直ちに打ち合わせ通りの行動を開始する。

 

「まずは、南東の歩哨2。お互いがそっぽを向いた瞬間を狙って」

 

「了解」

 

 観測手からの指示を元に、暗視スコープのレティクルを敵の頭より少し上に合わせる。高低差や風速、弾の減速等全てを考えた照準だ。

 

 息を吸って止めた。

 

 話していた歩哨2人がお互い別の方向を向く。

 

撃て(ファイア)

 

 その瞬間、俺の指は動いていた。

 

 2.5kgに調整した引き金を引いた。火薬に打ち出されたM993徹甲弾が、初速毎秒898mの超音速で空を裂いた。狙い違わず鉄血製戦術人形ガードの頭部へと吸い込まれ、衝撃波でメモリやCPUを引き裂き粉砕した。

 

 瞬く間に頽れたガード、隣で見張っていたもう1体はそれを見る前にCPUとメモリを粉砕されていた。

 

「ひゅう、やるね。この距離で2連射ヘッドショットとは」

 

「それくらい出来ないとあの職業はやってられなかったからな……っと」

 

 銃声は消音器でかき消され、弾の軌道も夜間故に視認不能。マズルフラッシュなど確認できるはずもない。

 念には念をいれて胸部のコアにもう1発ずつ叩き込む。

 

「次、北東の歩哨。監視塔のヤツが見てる」

 

「監視塔から片付けないか?」

 

「了解」

 

 銃口を監視塔に向ける。確かに、サーチライトは歩哨の元へと降り注いでいた。歩哨の前にこいつらだ。

 

 息を止めて、2連射。頭部と胸部に銃弾を叩き込んで完全に破壊する。

 

 続いて、歩哨を排除。

 

 外で仲間と喋っている馬鹿を排除。

 

 夜空を眺めていたヤツを排除。

 

 空になったマガジンを交換。

 マガジンインレットに新しい弾倉を叩き込みもう一度基地を覗くと、面白いことになっていた。

 

「おっと、装甲車までおいでなすったか」

 

「あー、歩哨死んでるのバレたね」

 

「ああ。それもだが、多分アレ、捕虜の移送だ」

 

「あ、気づいてたんだ」

 

「そりゃあな。……時間は」

 

「1830、予定より1時間は早い」

 

 捕虜の移送というのならば、助ければこちらに利がある。ついでに言うと装甲車は確保しておきたかった。アレくらいのサイズならおそらく山道も通れるはずだ。

 

 おもむろに、傍のAKからサイレンサーを取り外した。そのまま基地へと向ける。

 

「突撃ね、了解」

 

「3分の1は排除した。まあ、なんとかなるだろうし装甲車は是非とも鹵獲したい。それに、捕虜から情報をきき出せるかもしれない

 

 さて、と独りごち突入の合図を放つ。

 

 ダン、ダン、ダンと3発連続で銃弾を放った。

 事前に取り決めてあった合図で、指す意味は突撃開始。

 

「いくよ!」

 

 UMPが双眼鏡を抱えて走り、その後をライフルを抱えた俺が走る。

 車に転がり込み、即座にルーフの機銃座へとついて23mm機関砲の槓桿を握った。

 UAZの電源が入り、モーターの唸りを上げて爆走を開始。

 

「全速力でかっ飛ばす、舌噛まないでよ!」

 

「了解!」

 

 木々の根にバウンドしながら細い道を行くUAZ。

 すでにAR組が襲撃を開始してしまったらしく、行く先から鉄血特有の銃声が聞こえてきた。

 

「急いでくれ!」

 

「言われなくてもやってる! でも、AR組の突入が早い……」

 

「Holy shit! 頼むから死んでくれるなよ……!」

 

 森を抜け、崖を回り、斜面を下る。道無き道を進んでようやく基地が見えてきた。激しく青いマズルフラッシュを灯らせている建物に向かって23mm機関砲の猛射を撃ち込んだ。

 小銃弾とは比べ物にならない威力を誇る砲弾が遠慮容赦一切なしに叩き込まれ、たちまち建物は穴だらけになる。炸裂した砲弾にやられたか、銃火はおさまった。

 

 歩哨のいた南西出入り口前で車が左にドリフトし停車した。

 

「Thanks!」

 

 運転手の少女に感謝の言葉を投げて、俺はルーフに足をかけた。そのまま一気に体を起こし、天井から車外へと出る。

 

 暗視装置はとっくに装着済み、緑色の視界に激しく銃火を撃ち込む戦術人形たちが映る。プレハブの影を掩体代わりに銃撃を浴びせるAR組が見えた。

 

 人数は、2()()()()()()()

 

 AR組と対峙する鉄血人形に向けて、俺は躊躇なくFALの引き金を引く。

 

 




我ながら45ちゃんを上手く書けている自信がないです(血涙)

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