俺の周りが厨二ばかりなんだが助けて   作:里江勇二

13 / 15
なんか初めての仕事が重いんだけど助けて

 

 

 翌朝、少し早めに学校に来た俺は教室で日神といつ何と言って天翔に話しかけるかの相談をしていた。目下の課題は俺たちが小鳥遊(※杏果ちゃんの苗字)がマズイのを知っていることをどう説明するか。

 

 正直に話そうという日神の案に対して、俺は何も話さず上手くボカそうと考えていた。だって本当のこと言ったら、九割俺の罪だって分かっちゃうじゃん。そんなの嫌だ。

 

 ちなみに母さんに電話で話をすると、やっぱりと言うか何と言うか俺が対処するよう言われた。クソが。

 

 というわけで、俺は今日絶対に天翔に話を聞かなければいけない。何せ失敗したら尻拭いをさせられるであろう姉さんからの折檻が待ってるからな。え?何で家が隣なのに昨日のうちに聞かなかったかって?聞き辛かったからですが?彼女持ちだって確定するのをできるだけ先延ばしにしたかったからですが?

 

 ……何だよ、そんな目で俺を見るなよ。俺を責めるなよぉぉぉ!

 

 そんなしょうもないことを考えていると、ガラガラと教室の扉の開く音がして覚えのある気配がクラスに入ってきた。

 

 天翔だ。

 

「あ、よかった。二人とも来てたんだね。話があるんだけど、ちょっと屋上に来てもらっていいかな」

 

 教室に入ってきた天翔は何人かにおはようと言いながら真っ直ぐ俺たちの席に来てそう言った。その顔にはいつもの胡散臭そうな爽やか笑顔はなく、真剣そうな表情をしていた。そんないつにない天翔に、俺と日神は素直に頷き席を立った。

 

 多分小鳥遊の話だろう。何で昨日の今日で俺たちに話す気になったかは分からない。もしかすると、もう時間がそんなにないからかもしれない。影の具合から見ると、それなりに同化は進んでたようだし。

 

 ……あれ?もしそうなら俺、リア充憎さに相当酷い判断してね?昨日のうちに天翔に話聞いとくべきだったんじゃね?

 

 俺は廊下を歩きながら、そんなふうに珍しく自分の行動を真剣に振り返っていた。

 

 

 

「涼也に日神さん、昨日僕のことを尾行してたよね」

 

 屋上に着き俺たちの他に誰もいないことを確認した天翔は、開口一番そう言った。

 

 俺は固まった。

 

「あら、気付いてたの」

「うん、まあね。姿は見えなかったけど、僕は妖力反応とかにはそれなりに鋭い感覚持ってるからね。昨日は気も立ててたし、そりゃ気付くよ」

 

 マジかお前、妖力反応とか分かるのか。俺分からないのに。そういえば日神も昨日小鳥遊の妖力がどうこうとか言ってたな。これが覚醒してるやつと覚醒してないやつとの違いか。

 

「なるほど、そう言えば昨日は夜留も視覚面でしか能力を使ってなかったわね。私もちょっと注意力がおざなりになってたし……それより、その、悪かったわね。尾行なんかして」

「いや、別にいいよ。一回目だしね。次からやらなければ」

 

 そう思っている俺をよそに、日神と天翔がそんな話をしていた。どうやら許された模様。やったぜ。

 

 と、それより。

 

「なあ天翔、お前はとうとう彼女を作っちまったのか?初であんないい感じな子をゲットしたのか?俺を置いていくのか?俺を一人残し、童貞を卒業したのか?つまりヤったのへぶっ」

「自重しなさい。今はそんな場合じゃないでしょう」

 

 はっ。俺は今何を。

 

 ついさっき真剣に振り返ったばかりなのについついやってしまった。だって仕方ないじゃん。改めて思い出してみると、小鳥遊ってけっこう可愛かったんだ。

 

 茶髪の明るくて楽しそうな子でさあ。昨日も時々いい感じの笑顔見せてたし。人懐っこそうでまさに、こう、後輩!みたいな。胸も高一にしてはそこそこあって……あ、いや、何でもないです。キモかったですね。

 

「はぁ……何というか、君は能力こっちの世界を覗いても変わらないね。君のモチベーションにも影響するだろうし言っておくけど、あの子──小鳥遊杏果ちゃんって言うんだけど──は僕の彼女じゃないよ。バスケ部の後輩を通して相談を受けてただけさ。最近意識がおかしい時があるって。僕は今も昔も彼女を作ったりしてないよ」

 

 俺がそんなことを考えていると、天翔はため息混じりにそう言ってきた。

 

 ほう?ほほう?ほほほう?

 

「なるほど?いやー、なんだか知らないけど急に元気になったわ。いや別に?天翔の異性遍歴とか関係ないけど?」

 

 まあ後輩から友達の、しかもバスケに関係のない相談をされるほど信頼されてるのは少し思うところがあるが、そんなことは小さなことだ。俺の心はとても晴れている。

 

「それは無理があるんじゃ……」

「いいわよ、放っときましょう。それよりも天翔、わざわざ朝から屋上まで来て話すってことは気づいてるのよね。杏果ちゃんのこと」

 

 日神が冷たい。

 

「もちろん。というか日神さんも気付いてたんだね」

「まあね。気付いたのは私じゃなくて夜留だけど」

「へえ、涼也が」

「まあな。昔何かのアニメで見てから、つい習慣で人の影には目をやるようになってるんだ」

 

 いつまでも拗ねてても仕方ないので、俺は二人の話に加わった。何のアニメだったかな。けっこう小さい頃に見たやつなんだけど。

 

 俺がそう言うと、天翔はなんだか微妙そうな顔になった。

 

「なんというか、その、僕が言うのも変な話なんだけど……その習慣、痛々しいね」

 

 そしてそんなことを言ってきた。

 

「ぶっ飛ばすぞ。お前が言うなや」

「ごめんごめん。でもそれ、昔から習慣になってたんでしょ?能力を知る前から。ってことはそれって」

「ま、いわゆる厨二よね」

 

 日神、お前までそんなこと言うのか。確かに何も反論できないけど。正直自分でも厨二っぽいなとか思ってたけど。

 

「んんっ。ほら、それより小鳥遊について話せよ。昨日母さんに話したら担当を俺にしてきたんだ。お前もその件で俺たちを呼んだんだろ?」

 

 そんな思考を咳払いで一旦止め、俺は天翔に言った。

 

「うん、そうだね。じゃあ僕がここ何日か調べて分かったことを話すよ」

 

 そうして、天翔は俺たちに話し始めた。

 

 

 天翔が調べて分かったのは、次のようなものだった。

 

 まず、小鳥遊に取り憑いているのは吸血鬼。かの有名なドラキュラとのことだった。実在するんだ、吸血鬼。そう呟いた俺のために補足してくれた日神によると、日本にはあまりいないらしい。主にヨーロッパで昔から人類と戦いが続いていて、今でも郊外では被害はあるとのこと。生まれたのが日本で本当によかった。

 

 そしてそんな吸血鬼だが、彼らは通常生き血を飲み食事としている。しかし吸血鬼として次の段階へとレベルアップする時に人間の体に憑いて同化し、同化の完了後に生命力を根こそぎ奪い取ってポイ捨てするらしい。ちょっとシャレにならない。

 

 ちなみに、小鳥遊に取り憑いている吸血鬼の強さは、並みの吸血鬼より少し上程度らしい。絶対姉さん連れてきた方がいいと思うんだけど。怪物には怪物をぶつけるべきだって。俺まだ覚醒もしてないのにそんなのとぶつけないでよ母さん。

 

 取り憑いた吸血鬼、というか怪異を取り憑かれた人から引き剥がすには、取り憑かれた人に妖力を流して強引に怪異を洗い流さなければならないらしい。

 

 妖力供給と違い強引に流すのが重要だから、皮膚同士の接触程度がベストなんだそうだ。性犯罪者にされなくてよかった。やり方に関してはよく分からないが、まあどうにかなるでしょう。うん。

 

「ここまでが、小鳥遊さんに憑いている怪異について分かったことだ」

 

 そんなことを考えながら聞いていると、天翔はそう言って一旦話を切り上げた。

 

「対策とかはもう練ってるのか?」

「うん。吸血鬼は共通して水……特に妖力の通った水を嫌うからね。そういう札は用意してあるよ」

 

 俺の質問に天翔はそう言い、制服のブレザーの内側に手を突っ込んだ。そして数枚の古びた紙を取り出して見せてきた。

 

「その紙って術が封印されてる感じ?」

「まあ、だいたいその認識で合ってるかな。それで引き剥がすのに関してなんだけど、日神さんには妖力洗浄の時に吸血鬼の抵抗をさせない陣を描いてもらいたい。僕にそこまでの知識はないし、覚醒もまだな涼也じゃ少し不安だからね」

「私は陣に妖力の吹き込み口を作れないから陣の効力はだいぶ落ちちゃうけど、大丈夫かしら?」

「それはもちろん。あくまで保険だからね」

 

 その調子で打ち合わせを続ける天翔と日神。俺は妖力を小鳥遊に注ぎ込むのと、吸血鬼が暴れ出した時に抑え込むのを担当するとのこと。そして何でも吸血鬼は特殊な怪異で封じ込めの陣を作るためには個体情報が必要らしく、その情報が書かれた紙を天翔が日神に渡していた。

 

「まあこんな感じかな。それと、作戦の決行は今日の昼休みにしよう」

 

 打ち合わせも終わったようで聞いた話を反芻しながら教室に戻ろうとすると、天翔がそんなことを言ってきた。

 

「え?何で?早くない?」

「君も見たろ、小鳥遊さんの影。だいぶ同化が早くて、もうそんなに時間は残ってないんだ。最初に会った数日前はそうでもなかったのに、昨日には侵食は相当進んでた。あともう二、三日で完全に同化すると思う。そうなると、僕たちには彼女を救えなくなってしまうんだ」

 

 俺が聞くと、天翔はそんなことを言ってきた。お、重い。俺、初仕事なのに重すぎる。マジで責任重大なんですけど。

 

「それに吸血鬼は日光の強い昼に一番弱くなる。同化が進んでるから効果は薄いと思うけど、少しでもそういうのは使った方がいいからね」

 

 そんな俺に、天翔はそう補足してきた。

 

「日神さんは戦えないし、僕だって能力が戦闘向きじゃなくて術を使った攻撃くらいしかできないし、それじゃあ小鳥遊さんの身体を傷つけないように戦うのは難しい。涼也は潜在能力の高さでどうにかできると思うけど、未覚醒。念には念を入れよう」

 

 なるほど。まあ話からするとまだ小鳥遊に意識はあるっぽいし大丈夫だろうけど、弱いのに越したことはない。

 

「というかお前、戦闘向きじゃないってどんな能力なんだ?」

「あれ、言ってなかったっけ」

 

 そう思いながら俺が聞くと、天翔はそう返してきた。そしていつぞやの姉さんと同じようなことを言い始めた。

 

「暁が象徴するのは夜明け。世界を照らす叡智。転じて、僕は知りたい情報を対象から読み取れる能力を持ってるんだ。まあまだ未熟で時間も短くない時間かかるけどね」

「大蜘蛛の一件も、暁があんたが関わってるって調べたのよ」

 

 そんな天翔の言葉に、日神が吸血鬼のことが書かれた紙から目を逸らさずにそう言ってきた。なるほど、確かにあの時も調べて分かったって言ってたな。

 

「まあ分かった。準備はしとく」

「うん。頼んだよ」

 

 そうして、俺の初仕事は幕を開けた。

 

 

 


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。