「グルァァァァァアアアアア!!」
再びベヒモスが、咆哮をあげる。その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之川。その決意は、固いらしく顔は、決心した英雄のような顔だ。
どうにか撤退させようと、再度メルドが天之川に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!
刹那、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
トラウムソルジャー(骸骨の)は三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。一応俺も戦ってはいるが、指揮の取れていない戦力は、ジリ貧状態だ。
そのパニックの中、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。俺が、止めに行こうとする前に、不自然にトラウムソルジャーの足元が、隆起した。
バランスを崩したトラウムソルジャーの剣は彼女から逸れてカンッという音と共に地面を叩くに終わる。更に、地面の隆起は数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の端へと向かって波打つように移動していき、遂に奈落へと落としていた。どうやらハジメが、動き出したようだ。
橋の縁から二メートルほど手前には、座り込みながら荒い息を吐くハジメの姿がある。ハジメは連続で地面を錬成し、滑り台の要領で魔物達を橋の外へ滑らせて落としたのだろう。
魔力回復薬を飲みながら倒れたままの女子生徒のもとへ駆け寄るハジメ。錬成用の魔法陣が組み込まれた手袋越しに女子生徒の手を引っ張り立ち上がらせる。呆然としながら為されるがままの彼女に、ハジメが笑顔で声をかけた。
「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」
自信満々で背中をバシッと叩くハジメをマジマジと見る女子生徒は、次の瞬間には「うん! ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。
「流石、原作主人公なだけある。冷静さと判断力は、如何なる時も変わらないか。」
俺は、寄って来ていたトラウムソルジャーを殴り、倒す。些細な隙にハジメは、次の行動に出たようだ。
「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」
そう言ってハジメは、天之川達のいるベヒモスの方へ向かって走り出した。
ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。この直線の一本道しかない閉鎖された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の天之川達には難しい注文だ。
その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、天之川の餌にすらならないプライドは、〝置いていく"ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。
まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。ついでに、異世界の住人よりもステータスが、高いと言う事実がさらに天之川達を増長させているのかもしれない。
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
八重樫さんは、状況がわかっているようで天之川を諌めようと腕を掴む。
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
しかし、坂上の言葉に更にやる気を見せる天之川。それに八重樫さんは舌打ちする。そろそろ行こうかと、前に出ると、それよりも前にハジメが前に出る。
「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿d「天之河くん!」
「なっ、南雲!?」
「南雲くん!?」
驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。
「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
「そんなこと言っている場合かっ!」
ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。ハジメの行動力、そこに痺れる憧れるぅ!
いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。
「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」
光輝の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。ハジメが指を刺すの方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいる。
「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」
呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る天之川は、「ハッ」となってぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませn「下がれぇーー!」
天之川の言葉を遮るように、メルド団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。暴風のように荒れ狂う衝撃波が俺達を襲う。舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。
そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。天之川達も倒れていたがすぐに起き上がる。
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
天之川が二人に問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。
「やるしかねぇだろ!」
「……なんとかしてみるわ!」
二人がベヒモスに突貫する。
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
天之川の的確な指示で、皆が走り出す。ハジメは既に団長達のもとに行き、戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。天之川は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
そろそろ、俺も参加してみようかと思い、天之川達の方に歩く。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」
詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。坂上と八重樫さんは、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。
放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。
「これなら……はぁはぁ」
「はぁはぁ、流石にやったよな?」
「だといいけど……」
が、彼らの祈りも虚しく、煙が晴れた時そこには、無傷のベヒモスが立っていた。低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。と思ったら、直後スッと頭を掲げた。頭の角が「キィィイイ」という金属の擦れるような音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。
これは、本格的に俺が、出向かないと行けないようだ。ベヒモスの攻撃にやられているメルド団長達が、俺に止まるよう呼び掛ける。そんなもんは、無視だ無視。
「早速だが、俺に前振りなんてもんは無ぇ。」
俺は、懐から取り出すように見せて、破壊者の派生技能のアイテムボックスからディケイドライバーを取り出す。ディケイドライバーは、放送当時版では無く仮面ライダージオウの時のネオ版だ。俺は、それを腰の辺りに持ってきてベルトを装着する。
サイドバックルについているライドブッカーから、ディケイドのカメンライドカードを取る。そして、カードを持った右手を前に突き出す。
「今から死ぬようなヤツに名乗る必要もないが……」
俺は、少しの間を置いて、あのセリフを言う。
「通りすがりの仮面ライダーだ!覚えておけ!変身!」
『KAMENRIDE DECADE』
カードの読み込み音が聞こえたので、ベルトを回転させ変身する。カメンライド ディケイド、の音声と共に灰色の透明なディケイドが9体現れ、俺のもとで集束する。そして、ディケイドライバーから出てきた7枚のカードが頭に刺さり、体の外側がマゼンタの色になりオーシグナルが光る。
変身完了だ。俺は、手をパンパンと2度鳴らして、ベヒモスへと走る。100m3.7秒は、伊達じゃない。数十メートルはあろうかと言う距離をすぐに詰め、キックをする。ベヒモスは、後方にぶっ飛ぶ。瞬間、HPが0に近い橋に更に、ダメージが入る。さっさと決めるか。
俺は、ライドブッカーからディケイドのファイナルアタックライドカードを取る。そして、カードをベルトに装填して、回転させアタックライドを発動する。
『FINALATTACKRIDE DE DE DE DECADE』
目の前に巨大化したファイナルアタックライドのカードが、数枚現れる。俺は、ジャンプする。巨大化したカードも、俺の動きに合わせて動く。ライダーキック、又の名をディメンションキック。カードを通りすぎる毎に実体化したりしなかったりを繰り返す。そして、ベヒモスの額にキックが当たる。
こうしてベヒモスは殺ったが、ベヒモスが倒れた衝撃で橋が壊れ始めたようだ。立っているのも、やっとな程の揺れだ。橋が、奈落に崩落していく。天之川達は、無事逃げれたようだ。まぁ、なぜ彼らを心配しなきゃ行けないのかは、知らんがな。
だんだんと、体が落ちていく。生憎、走馬灯のようなものも見えないし、体感時間が変わらないので死なないが、如何せん変身解除した状態で流されるのも嫌だし、足掻くか。
「変身」
『KAMENRIDE KABUTO』
「もう少し…」
『ATTACKRIDE CLOCK UP』
仮面ライダーカブト作中における会社「ZECT」の、マスクドライダーシステムのクロックアップだ。光よりも速いタキオン粒子で、加速する理解できない科学だ。
これで、俺は近くにある大きな橋の瓦礫に飛び乗る。浮いてるのにどうやって飛び乗ったのか?だってか、そんなん作者の気合いだよ、気合い。そして、俺はオルクス大迷宮の底へと瓦礫に乗って自由落下していった。
マゼンタがカメンライドと、フォームライドを表しています。
シアンが、アタックライド。イエローが、ファイナルアタックライド、ファイナルフォームライドを表しています。
5話が、投稿されるまでの間、アンケートを取ります。黄色が見えるか見えないかのアンケートです。読者様に影響しますので、答えてくれると助かります。
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