【仮】GGOのロリっ子配信者   作:タヌキ(福岡県産)

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有り得ないくらい筆が乗ったので初投稿です。

だめだこりゃ。フレンダ=サン、いろんな人を曇らせていらっしゃる。
あとシリアス(風味)だと妙に筆が乗るんだよね、俺はコメディが描きたいんだよォッ!?



と、言うわけで予想外に長くなってしまったアスナ視点の話です。修羅編じゃ無いよ!


独白

黒パン愛好会。

それは、知る人ぞ知る有名ギルドであった。構成人数は9人と小規模ながら、中層プレイヤー達から攻略組までありとあらゆる客層に人気のあった生産系ギルドだ。……かく言うアスナも、その黒パン愛好会の常連(リピーター)であった。彼らの作る絶品黒パン料理に刺激されて、無駄と切り捨てていた料理スキルを取得したのだとは、今では誰にも言えない秘密である。

アインクラッド城第一層で購入できるもっとも安価な食料アイテム《黒パン》。1コルという破格の値段と一つでそれなりに腹が充たせるボリュームに、アスナはSAO攻略初期にかなりお世話になっていた。しかし、最も安価な食料アイテムなだけあって味は美味しいとは言えないものであった。当時のアスナは、そんなパンの味も攻略のモチベーションとして毎日無謀な迷宮区キャンプを続けていた。

そんな無茶な事をし続け、案の定迷宮区で気絶した後。アスナは現在親密な関係を築いているキリトと出会った。そして、彼から黒パンの美味しい食べ方を教えて貰ったのだ。……その後、アイテムストレージの容量いっぱいに彼から教えて貰った調味料アイテムである壺入りのクリームを集めたのは、まあここでは話さなくていいだろう。

そして、アスナがそのギルドと出会ったのは、それからまた更に時間が経ち、彼女がSAO攻略終了まで籍を置いていた血盟騎士団に入団して直後くらいの話だ。今日も今日とて迷宮区に潜り、ギルドメンバーと共にレベリングを行おうと町の外周へと向かっていた彼女に、2人の少女が近づいて、声をかけてきたのだ。

アスナは驚いた。自分が異性から見ればそれなりに見目が良いことは自覚していたし、これまでも何回かそういった男性から声をかけられたことはあったが、こんな攻略最前線の街で、しかも2人組の女性プレイヤーから話しかけられるなど初めての経験だった。

 

「えーっと、そこの美人なお姉さーん!お弁当如何ですか?」

「こら、ベル。あの人今から圏外に出ようとしてるところじゃない。邪魔になるよ」

「お姉ちゃんは商売が下手だねえ。そんな人に声をかけてこそ、販路が広がるってものだよ」

 

ベル、お姉ちゃんと互いを呼ぶ2人は、しかしその役割が逆であるような印象を受けた。1人はまだ中学生入りたて、と言っても通じる程に背が小さく、まるで小動物のような印象を受ける可愛らしい少女で、もう1人は成人間際といった風の立派な女性だったのだ。ペアルックのエプロンドレスを纏った2人のどちらが姉に見えるかと言われれば、アスナは迷うことなく女性の方を選ぶのだが、なんと女性の方が少女を「お姉ちゃん」と呼んでいるのだ。

そのちぐはぐさや、同じ女性プレイヤーと言うこともあってアスナは足を止めた。まだ合流時間には充分すぎるほどの余裕がある。彼女達との交流を持つだけの時間はあるだろうという考えもあってだ。自分たちの方へと興味を持ったアスナに気がついたのか、きゃっきゃと話していた2人の姉妹(?)は、姉の方が若干申し訳なさそうに、しかしどちらも少し嬉しそうに近づいてきた。

 

「ごめんなさい、お姉さん。攻略の邪魔をしちゃって……」

「別に構わないわ。まだギルドメンバーと合流するまでには時間があったし、あなた達みたいなプレイヤーをこんな最前線で見かける事ってほとんど無いから」

「ありがとうございます。……えっと、私は《フレンダ》って言います。こっちは妹の《ベル》。料理専門生産系ギルドの《黒パン愛好会》の出張販売員として、今回はこの街にやってきたんです」

「はじめましてよろしくお願いします!第1層で、美味しくないけど量と値段だけはいい感じの《黒パン》ってあるじゃないですか!それをどうにかして美味しくしようって言い始めたうちのへんじ……ギルマスが始めたギルドなんですよ!」

「へー、そんなギルドがあったのね。……私は《アスナ》。ギルド《血盟騎士団》のメンバーをやってるわ」

 

フレンダ、ベルと名乗った2人の話を聞いて、アスナは興味深そうに頷いた。中層プレイヤーの存在は、アスナも攻略組のプレイヤー達も知っていた。正直なところ、自分たちと同じように最前線で戦って欲しい気持ちがなくはないが、誰もが自分たちと同じように戦えるわけではないという事を、アスナはこれまでの旅路で知っていた。そして、彼らも日々の中でできる限りの事をしているという事も。

事実、アスナがお世話になっている鍛治師も中層プレイヤーの女の子であるし、その他生産系プレイヤーは攻略組とは切っても切れない関係となっていた。その為、料理専門生産系ギルドと聞いて、アスナは「そんなギルドもあるのか」と思ったのだ。

 

「……それで、しばらくは中層プレイヤーの人達を相手に商売してたんですけど、最近ウチのギルマスが『俺たちの黒パンは絶対に攻略組にも売れる!!』って言い出しちゃいまして……。私たちはいつも売り子として働いていたので、今回も白羽の矢が立ったという訳です」

「で、今まで売ってなかった客層だから誰に話しかけようかなーって悩んでたところに」

「私が来た、って訳ね。理解したわ」

 

頷いたアスナは、そういえば最近昼ご飯は食べていなかったな、と思った。いつもなら昼食を摂っているギルドメンバーを尻目に、食事時間すらもったいないという風に仮想の空腹感を持ち前の精神力で押さえ込んでモンスターを屠っていたが、偶には昼食を摂ってみてもいいかもしれない。気分転換は大事だとこの前団長(ギルマス)であるヒースクリフにも言われたばかりであるし、と考えたアスナは善は急げとばかりに彼女達にトレード申請を行った。

 

「……そうね。こっちとしてもちょうど良かったし、一つ貰おうかな。何があるの?」

「えっ、本当ですか!?ほらほら、お姉ちゃん私のいった通りだったじゃん!!」

「あーもう、はいはい分かったから。……ありがとうございます。えっと、《クリーム黒パン》、《黒パンサンド》、《フレンチトースト風黒パン》に《ピザっぽい黒パンっぽい何か》です」

「……本当に黒パンばっかりね。というか最後の黒パンっぽい何かって、もう黒パンじゃ無いんじゃ……」

「ま、まぁまぁ!素材と名前はともかく、味はちゃんと美味しいので!!あのへんじ……ギルマスは腕だけは確かなんで」

「ベルはさっきから自分のギルドマスターに対して態度がきつく無い?……そうね、それじゃあ《クリーム黒パン》を貰おうかな」

「お買い上げありがとうございます」

「まいどありぃ!!」

 

現実でもこの世界でも出会ったことのない親しみやすい人柄だったからか、あっという間に姉妹との距離が縮まったアスナ。トレード画面に表示された《100コル》という売値の安さに驚きながら、トレードを終えた。「やったー!」と嬉しそうな様子のベルをこちらも嬉しそうに見るフレンダを見ながら、ああ、やはり彼女は姉なんだな、と感じながらアスナは口を開いた。

 

「それにしても、100コルって安くない?」

「えっと、素材は全部ギルメンがクエストや狩りで集めた素材を使っているんで、原材料費は黒パンだけなんですよね」

「そうそう。で、狩りで生活費はある程度たまるし、黒パンの強みの一つって安さだから、これくらいでいいかなーって。原価の100倍の値段って聞いたら、ちょっとぼったくりの感じもしますよねー」

 

いや、それは違うと思う。アスナはそう言いかけたが言い止まった。命がけで狩りを行なって集めた素材で作ったのなら、もうちょっと値段を高くしてもいいだろう。というか、原価1コルは無い。黒パン以外の素材の流通価格を調べて上乗せするべきじゃ無いのかそれは!?とツッコミを入れたくなったが、それが彼女達の方針と言うのならギルドメンバーでないアスナが言うことは何も無いだろう。

 

「そ、そう。じゃあありがたく頂くわね」

「別にありがたがる必要はないですよー。これってぶっちゃけあの変人と私達の趣味の延長みたいなものですから」

「美味しいのは本当なので、これで少しでも攻略組の皆さんが喜んでくれたら、っていうだけなので」

「……そう。それなら尚の事ありがたがらなくちゃね」

 

ふわりと笑ったアスナは、ちょうど良い時間となっていた為に姉妹と別れ、集合場所へと歩いていった。その足取りは、普段の余裕の無い歩き方と比べると、ほんの僅かにだが軽やかであった。

 

 

 

その日の迷宮区では、

 

「やっぱりこの味で100コルは安すぎるよ!!」

 

そんな声が響いたとかなんとか。

 

 

 

そんな出会いから始まったアスナとベル・フレンダ姉妹の交流は続いた。色々と注目の集まるアスナが常連となったからだろうか。黒パン愛好会の名は徐々に攻略組の中に浸透していき、生産系ギルドの中でも変わり種のギルドとして有名になっていった。あのキリトやヒースクリフもレベリングの前には間食に買っていくらしい。「俺が食ってたクリーム付き黒パンより美味いんだよな……材料なんなんだよ」とキリトは言っていた。

そして、ある時は階層攻略の日に。ある時はレベリングの前に。また、ある時はオフの散策の時に。姉妹との交流が続くにつれ、アスナは彼女達のことも知っていった。

ああ見えてもフレンダは成人していて、真実ベルよりも年上である事(一時期は()()()()ロールプレイなのかと思っていた)。

現実でも初対面だとベルの方が姉扱いされる事。

フレンダはその見た目から()()アシュレイから専属契約を結ばれている事(アイツ、ロリコンの気がありますよとは彼女の談)。

ベルは現在大学生四年生で、卒業論文からの現実逃避のために始めたSAOのせいで卒業が絶望的なこと。

フレンダの務めている会社は東都高速線というネットワーク運営会社で、仕事の一環と称してログインした結果SAOに閉じ込められた事。

同じように閉じ込められた部長が釣り好きの為、釣果の海産系食材アイテムを譲ってもらっている事。

姉妹と同じように料理スキルを取得し、お互いに試作品の試食などを任し任されるほどに仲良くなるにつれて、アスナは笑顔が増え、次第に心の余裕を取り戻していった。もちろん、キリトやリズベットといった友人達が大きな役割を果たしていたのに変わりはない。それでも、アスナが少し羨むほどに仲の良い姉妹との交流も、アスナの中でかけがえのないものとなっていたのは確かだった。

確かだった、はずだった。

 

 

 

 

 

「嘘だ……」

 

声が震えた。辺りには、止むことのない嘆きの声が響いている。当然だ、だってここはある意味で()()()()()()()()()とも言える場所なんだから。

黒鉄宮。本来であれば、HPを無くしたプレイヤー達の復活(リスポーン)地点となっていた筈のその場所は今ではSAOにログインしている全プレイヤーの名が刻まれた《生命の碑》が鎮座し、無情にも《死亡》したプレイヤーの名に横線を引いてその者の死を、残された者達に突きつける場所と化していた。

そして。

アスナが見つめるその視線の先、《Vell》と刻まれた欄にも、他の死亡した者達と同じように黄色い横線が引かれ、死亡した日時や死因が書かれていた。つい先日、大晦日の晩。死因は、()()()()()()()()()()()

HPの残量がそのまま命の残量であるSAOではあり得ない、あり得てはいけないPK(プレイヤーキル)の発生。その最初の被害者が、よりにもよってベルであった。気がついたのは今朝。新年の挨拶を交わしていなかったな、とフレンダ姉妹を探そうとフレンド欄を確認して気がついた。フレンダの名前が書かれた欄は消え失せ、また、ベルの名前は灰色に染まっていた。名前が灰色に染まったフレンド。それが示すのはただ一つ「そのフレンドが死亡した」という事実。消えたフレンダも気になるが、それよりもベルの死が信じることのできなかったアスナはヒースクリフに今日の狩りを欠席する旨を伝えると、今まで出したことがないほどのスピードで始まりの街、その中心にある黒鉄宮へと向かっていた。

そして知った。友の死を。

 

「ぅ、う……くぅ……!」

 

歯をくいしばる。けれども、感情をダイレクトに表現するSAOのシステムは誤魔化すことができなかった。ポタポタと、仮想の涙が頬を伝った。モンスターに殺されたならまだいい。まだ納得できた。仕方のないことだ、このゲームならばいくらでもあり得たことだと、自分を強引にでも納得させることができた。

だが、プレイヤーキルなどどうやって納得すればいい?

()()()()()()()()()()()()()()など、どうやって知ればいい?

そのプレイヤーが間違いなく生きていると分かるのに、分かってしまうのに。

 

復讐のためにその他人を殺すことなど出来ない自分は、どうすればいい?

 

「う、ぅ……ぅあ……!」

 

泣いた。泣き崩れた。

悲しみのあまり声も出ず、アスナはその場で泣き続けた。

迷宮区に足を運ぼうなど、攻略を進めようなど、思えもしなかった。

 

 

 

 

 

それから暫く、アスナは攻略の鬼へと戻った。

立ち直ることなど、出来やしなかった。フレンドリストから姿を消したフレンダは、その足跡を辿ることはできないものの生きていることだけは生命の碑で確認できた。彼女が生きている。それだけはアスナにとってただ一つの救いだった。

これまで以上にSAO攻略に熱を上げるアスナの鬼気迫る姿に、周囲の人間は危険を感じていた。実際、リズベットやヒースクリフには何度もレベリングの中断を求められたし、ギルドメンバーからは狂人を見る目で見られたりもした。周囲からの視線は羨望や尊敬から恐怖や畏怖に変わり、直接的に《狂戦士(バーサーカー)》なんて渾名を付けられたりもした。

全部どうでも良かった。

私が攻略を進めなかったから、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)なんて集団が出てきてしまった。攻略組がSAOを攻略するのに手間取ってしまったから、ベルは死に、フレンダは行方を眩ませてしまった。アスナの思考は、徐々にSAOや笑う棺桶に対する怒りから自罰的なものへと変わっていった。自分のせいで。自分のせいでベルが死んだ。毎日、レベリングの前に生命の碑を確認し、フレンダが生きている事を確認してから迷宮区に潜る日々。この時、フレンダが死んでいたら間違いなくこの城の外周から飛び降りていただろうとアスナは思う。

大丈夫。

フレンダだってまだ生きてる。

だから、私はまだ頑張れる。

 

 

 

そんな考えが甘かったのだと思い知ったのは、とあるオレンジギルドの拘束依頼が血盟騎士団に来た時だった。

 

 

 

そのギルドは、笑う棺桶との繋がりが疑われていたオレンジギルドで、構成員が殺人行為を犯しているとの噂すらあった危険な集団であった。複数の情報屋から多角的な情報を仕入れ、根城を絞り込み、捕縛、黒鉄宮の監獄エリアへと放り込む。

時間の無駄だと、アスナは虚ろな瞳で会議を眺めていた。こんな奴らに構っている暇があるのならば、1分でも1秒でも早く階層を突破して新たな被害者が出る前にこの鉄の城から抜け出さなくては。アスナは、こんな無駄な事態を引き起こすオレンジプレイヤー達に殺意すら覚えていた。早く捕縛してレベリングに行こう。そして一刻も早くこの階層も、次の階層も、その次の階層も抜けるのだ。

 

そんな強迫観念に突き動かされながらアスナが向かった先で見たのは、地獄絵図だった。

 

「ぎ、ぃぃぃぃぃいいいいああああああ!!!死にたくない!死にたくない!死にたくない死にたくない死にたくな」

「腕が、おえの腕が、うえが……あ、はは、ハハハハハッ!!」

「……けほっ、けはっ……」

「俺が、俺が何したっていうんだ!!俺がなんでこんなめに」

 

一目でNPCメイドの量産品と分かる質の悪いアイアンランスに四肢を貫かれ、まるで標本のように地面に固定された者。腕を二本とも切り取られ、歪なヒトガタとなってケタケタと狂ったように笑う者。まだ時間がたっていないのだろうか、水に濡れたエフェクトを身体中にまとわりつかせながら、完全に死んだ目でただ生理的に咳き込むだけの者。縄のようなアイテムで縛り上げられ、木に吊るされながら大声で泣き喚く者。まだ叫ぶだけの元気がある者はマシと言えて、半分以上の者は皆明らかに襲撃しにきた体のアスナ達に大きな反応を示すこともなく虚ろな目で何らかの拷問を受けながら横たわっていた。

全員に共通しているのが、プレイヤーカーソルがオレンジであるという事だった。依頼を受け、捕縛しに来たオレンジギルドを襲っているまさかの事態にアスナ達は凍りついた。

 

「な……なに、なんなの……?」

「まさか、笑う棺桶に襲われてるのか!?」

「クソッ、全員警戒しろ!!どこから襲われるかわからんぞ!!」

 

狼狽えるアスナ達であったが、そこは日々修羅場を潜り抜けている猛者。号令一つですぐに正気を取り戻すと、円形に陣形を組み、全方向からの襲撃に備えた。悪趣味極まった手段でオレンジとは言えプレイヤーの心を傷つけ壊しているそのやり口は、アスナが泣き叫んだ日に結成が発表された最悪のPK集団《笑う棺桶》の手口を彷彿とさせた。

そして。

 

「がっ……」

「あひゃ、ひ、ぁ……あ」

「かひゅ」

 

突然、闇の中から飛んで来たチャクラムによって、喚いていたプレイヤーの1人の頭が吹き飛んだ。驚愕の表情のまま宙を舞ったその視線は左上へと固定されていて、自分のHPゲージを見ていることが容易に想像できた。

かしゃん。

次の瞬間、宙を舞った頭と、その頭がついていた体がポリゴンの欠片へと姿を変えた。声もなく、祈ることも出来ずに死んでいった。ああ、人が死ぬ時もモンスターが死ぬ時とは変わらないエフェクトなのだな、とアスナはどこかズレた思考がよぎるのを感じていた。きっと、目の前でPKが行われたという事実に感覚が麻痺していたのだと思った。

 

「し、んだ……?」

「嘘、だろ」

「そんな……こんな事って……」

 

アスナの周りのプレイヤー達も、まさかこんな場所で人死にを見ることになるとは思わなかったのか、呆けてしまっていた。

 

それが、目の前の彼らの運命を決めた。

始まりは、四肢を貫かれていたプレイヤーだった。《槍》系統の装備最大の特徴である《貫通継続ダメージ》。それによってHPが無くなったのだろう。何もしていなかったはずなのに、彼の体が突然砕け散った。ぱしゃん、と呆気ない音と共に姿を消した次の瞬間、吊るされていたプレイヤーがまるで糸が切れたかの様に黙り込み、体から力を抜いた。だらんとした力の無い様子に目を向けた瞬間、彼もその体をポリゴンへと変えた。

そして、次の瞬間。

まるで、最初からそこにいたかのように、フーデッドケープを深く被った小さな影が横たわって咳き込むだけだった男性プレイヤーの横に出現していた。攻略組である以上、索敵スキルを鍛えているアスナ達でも気がつかない程に完璧な隠蔽(ハイディング)。その事実に彼女達が凍りついていると、その謎の人物は声もなく短剣を引き抜き、まるで雑草でも刈るかのような無造作な動作で、男性プレイヤーの首を刈り取った。サク、という人が死んだにしてはあまりにも軽すぎる音が暗い森に響く。

咳き込むだけであった彼は、まるで救われたかのような表情で薄っすらと笑みを浮かべると、ポリゴンへと分解された。

気がつくと、捕縛するはずだったオレンジギルドのプレイヤー達はその姿を消していた。……もちろん、転移結晶で逃げた、などという至極普通の要因なんかではない。

 

全員、目の前のフーデッドケープの人物に()()()()のだ。

 

「あなたは……なんで」

「……何故こんな事をした。答えて貰おうか」

 

思わず腰の細剣(レイピア)を抜きはなち詰め寄りかけたアスナを抑え、ヒースクリフが前に出た。それで少しだけ冷静になったアスナが件の人物を見ると、驚くべき事に彼か彼女のプレイヤーカーソルは緑—————つまりは、犯罪者(オレンジ)殺人(レッド)ではないという事を示していた。

そして、目の前の人物が口を開いた瞬間、アスナはその心臓を直接握られたかのような悪寒と息が止まるような衝撃に襲われた。

 

「何故……?……そんなの、コイツらが殺人プレイヤーだからに決まってるじゃない」

「殺人……?我々の情報では、あの者達は皆殺人行為までは至らなかった犯罪者プレイヤーだと聞いているが?」

「……中層プレイヤーの間では有名な話よ。奴らに殺された人は1人2人じゃない。……その手段は露見しにくいMPKだったらしいけど」

「なんだと?」

 

()()()()()。なんの脈絡もなく、何の証拠もなく、アスナはそう確信した。記憶にある声とは温度や棘など様々なものが違っているが、それでもアスナには目の前にいるのがフレンダだと分かった。分かってしまった。

 

「……それで、君はPK行為を行ったと?君は笑う棺桶のメンバーか」

「……は?馬鹿にしないで」

 

しかし、ヒースクリフの言葉を聞いた瞬間。肌を直接さしているのではないかと錯覚する程の殺気に、アスナは信じられない物を見るような気持ちになった。なんだ、あの殺気は。あれは、あれがあの優しい姉であったフレンダの出したものなのか?

 

「笑う棺桶のメンバー?私が?……冗談も大概にしないと、」

 

 

 

殺す。そう告げたフレンダは、一瞬だけアスナに視線を向けると興味を無くしたように振り返り、転移結晶で何処かへと消えていった。

アスナは、自分が思わず彼女に手を伸ばしかけていた事に気がつき、そして、それがフレンダの憎しみと怒りしか見えない瞳に怯えて止まっていた事にも気がついた。

 

「……フレンダ……」

 

伸ばそうとした手は、しかし伸ばしきる事叶わずに届くことは無く。

 

 

 

その後、アスナは笑う棺桶討伐戦に至るまで、フレンダと会うことは無かった。

そして、フレンダと話す事はもう二度とないままに、SAOは終わりを告げた。

 

 

 

 

 

「キリト君!?突然飛び出してどうし……た……」

 

だから、これは罰なのだろうか。

アスナは、突然危険も顧みずに濃い煙幕の中突撃していったキリトを追った先で、2人の少女を見つけた。

1人は、全身ピンク色に染まった装備が目立つ幼女と言っても良い程の幼い見た目の少女。しかし、その手には無骨な短機関銃が構えられており、戦闘力は見た目通りとは言い難い事を示している。

 

そして、もう1人。

髪は金髪に変わり、顔立ちもSAOの時とは異なっている。おそらく、声も違うのだろう。

涙目になって手に握っている拳銃、の残骸のようなものを見つめているから、恐らく敵と勘違いしたキリトがその剣で叩き斬ってしまったのだろう。

忘れるはずが無い。

忘れられるはずが無い。

いかにリズベット達に励まされようとも、いかにキリトとの蜜月で癒されようとも、いかにユイと過ごした日々に救われようとも。

 

ユウキから、大切なものを託されようとも。

 

いつだって後ろ髪を引かれるように、昏い瞳に憎しみを湛え、何かに駆られる様に殺人プレイヤー達を、笑う棺桶のメンバー達を殺していた彼女の事を思い出していた。

 

 

 

「……殺す」

 

 

 

フレンダ。

アスナの後悔、その最たる彼女が、亡き妹の名を騙りながらアスナの前に姿を現した。

 




アッアッアッ、時空が歪むぅ〜!!

次回はちゃんと急編描きますんで!!
まさかアスナさんが10000万字ほど語ってくれるとは思わなかったんで!!
こちらもアスナさんっも予想外だったんです!!
ガバあったら許してね(はぁと)

誤字報告とか感想とか助かる。
あと評価してくれたらうれちぃ。もっと書いちゃう。

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