そんな貴方にオススメ!『ソードアート・オンラインオルタナティブ ガンゲイルオンラインVII─フォース・スクワッド・ジャム〈上〉─』!!
これさえ読めばこの章で何が起こる予定で何をベル達がぶち壊しているのかが丸わかり!
いまなら時雨沢恵一先生のあとがきもついてくる!!!!
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さあ、君もソードアート・オンラインオルタナティブシリーズを買って、GGOの世界を楽しもう!!!!!!!!!
と、いう訳で今回から(前々回くらいからだけど)戦闘区域の地形の話がガッツリ出てきますが原作を読んでいないと分からない話などが多々ありますので良ければ購入していただければと。
それでは、続きをばどうぞ。
さて、時間は少し巻き戻って12時13分。
場所も変わって森エリア。
最初のスキャンが終了し、特殊ルールによってモンスターの大群と戦っていたZATを漁夫の利で全滅させたチーム《LPFM》は、その戦闘によって先程はできていなかった作戦会議を行っていました。
全員で直径数メートルの円陣を組んで、しゃがみながら外側を向いています。顔を一切向けずに、会話だけのやりとりです。円をかなり大きくするのは、グレネードの一撃で全滅しないため。
まずはエムが、大きなバックパックを背負った、全体的に四角い印象を受ける大男のエムが、
「最初のスキャンの結果だが─────良い報せと、すこぶる悪い知らせがある」
そう切り出しました。
なんだそりゃ!
レンは心の中でそう思いましたが、万が一敵に見つかることを恐れて、口に出すことはありませんでした。
「なんだそりゃ!」
フカ次郎が代わりに口に出しました。
オイ、フカ!何やってるんだ!レンは心の中でそうツッコみましたが、フカ次郎のことです。考えるだけ無駄だと半ば諦めました。
そして、面白そうな、そして半ば確信めいたような妙な表情で口を開いたのはピトフーイ。笑いをこらえるような声色で、エムに指示を出します。
「それじゃ、まずは良い報せから聞こうか?」
「分かった。まずは良い報せだが─────優勝候補の一つであったMMTMが全滅した」
「嘘ぉ!?」
「アッハッハッハ!!ダビド、ざまぁないわね!!」
レンは驚きました。つい口にも出してしまいました。反対にピトフーイはゲラゲラと笑っていました。
けれども、その情報はそれほどまでに驚くべきものだったのです。
チーム《MMTM》、正式名称《メメント・モリ》は、レンとエムが出場した第1回スクワッド・ジャムにおいて二人と死闘を繰り広げ、その後も何度か戦う機会のあった強豪チームです。
レンのライバルである《SHINC》と同等、あるいはそれ以上のチームワークを特徴としており、アサルトライフルやマシンガンでの室内戦など、攻撃的な戦闘スタイルで一時は
彼らの詳しい活躍が知りたい人は、『キノの旅』などでお馴染みの時雨沢恵一先生が書いている、電撃文庫から発売中の『ソードアート・オンラインオルタナティブ ガンゲイルオンライン』シリーズを買おう!ついでに本編も買おう!面白いよ!(ダイマ)
そんな歴戦の猛者たちが、試合開始10分で退場。
一体何があったのか、まさか特殊ルールにやられてしまったのか?いやいや、彼らに限ってそんな。レンはそう思いましたが、同時にこれはチャンスでもありました。
優勝候補であるMMTMがいなくなったという事は、単純に優勝の可能性が高まって喜ばしいのと共に、SHINCを倒すかもしれない相手が減った、更には自分達がSHINCと再戦する前にやられてしまう可能性も減った、という点でも喜ばしいのです。
彼らには悪いけれども、この時点で退場してくれて助かった。
レンは、心の中で緑色の彼らにそっと合掌しました。
「それで?そのすこぶる悪い報せってのは?」
「……SHINCのいる北東の外れ、空港エリアに近い廃墟エリアに奴らがいた。チーム名は《Bell's》」
「アッハッハッハッ!あー、なるほど、そういう事ね!なら仕方ないわ!!デビドもまあ頑張ったんじゃない!?」
そして、続くピトフーイとエムのやり取りに、レンは首を傾げました。
ベルズ。聞いたことのないチーム名です。今回初出場のメンバーなのでしょうか。だとするとそこまでピトフーイとエムが反応する理由もありませんし、SHINCとそのチー厶が近い事を嘆く必要性は─────
ん?
レンはふと、恐ろしい可能性に思い当たりました。
廃墟エリア。全滅したMMTM。ベル。
まさか、いやそんな、まさか。
嘘であってくれ。そう祈ったレンでしたが、その祈りは神様には届かなかったようです。
「いやー、流石は
ピトフーイのその言葉に、レンは絶叫したい気持ちに駆られました。
やっぱりベルさんだああああ!!!!
彼女の脳裏に「レッツ拳銃ライフ!」とイイ笑顔でサムズアップしながら歯を光らせる金髪幼女の姿が浮かび、そして消えていきました。
その足元には緑色の男達の亡骸が横たわっており「しいんはけんじゅう」と血で書かれたダイイングメッセージが残されています。
SHINCのリーダーであるボスに「私達並みの連携力かつ1対6の状況で戦えば勝てる」とまで言わしめた程の猛者でありながら、拳銃のみを使うという(本人にバレると何をされるか分かったものではありませんが)珍妙なプレイスタイルでGGOを実況プレイしている女の子です。
そんな彼女が、SJ4に出場している。
絶望です。勝てるビジョンが浮かびません。
いや、LPFMの6人で戦えばまだ望みはあるでしょうが、おそらくはあちらもチームを組んで出場しているはず。しかもこちらはスナイパーのシャーリーとその相方であるクラレンスが途中から裏切ると宣言していると来た。
絶望しかない。
あわわわ、とガクガク震えるレンを横目で見ながら、ベルの事をよく知らないそのシャーリーとクラレンスの二人組はエム達に質問します。その横でフカ次郎は「あー、ベルさんねはいはい知ってる。結婚式で鳴らすやつだ」などと適当な事を言っていました。
まあ、いつもの事です。
「……そのBell'sってチーム、そんなにヤバいのか?」
「ざっくり言うと、今回の優勝候補ね。それもほぼ確定」
「なにそれ、そんなに強いの?てか珍しいね、ピトフーイが負けを認めるなんて」
「やー、流石に徒党を組んだベルちゃんに勝てる気はしないわー。しかも十中八九相手は全員
「アレ……?」
シャーリーとクラレンス、双方の質問にいつもの軽い調子でそう答えるピトフーイ。シャーリーは訝しげに眉をひそめましたが、ベルと直接関わった事によってある程度彼女の事情にも精通する事になったレンには分かります。
SAO
今から2年前、全世界を混乱の渦に叩き落とした悪夢のデスゲーム《ソードアート・オンライン》から生き残った者達の俗称です。
ゲーム内のHPがそのまま現実世界の命と連動しているという、そんな馬鹿げたゲームをクリアした文字通りの「圧倒的強者」。そしてベルはその一人なのだそう。
ゲーム内での死が現実世界の死と同義であると知りながらひたすらに
このGGOでも「光剣で銃弾を切り払う」なんて人外の所業を行った生還者がいたそうです。
もちろん、彼らの中にも非戦闘員、つまりは生産職に就いていたプレイヤーや、途中で戦う事を諦めたプレイヤーもいたという事ですし、SAOがトラウマとなってVR自体に触れなくなった者が多いとも聞きます。
しかし、現在SAO生還者と呼ばれる者たちはそのトラウマさえも乗り越えて、かつて命を賭けて戦っていた仮想世界で再び戦いの最中に身を置いているのです。
……か、勝てる訳ねぇ!
レンはもはや諦めムードでした。よしんばSHINCとの再戦が叶ったとしても、その後に控えているベルとの戦いに勝てるビジョンが全く思い浮かびません。
その前に、SHINCの近くにベルがいるというのです。
ボスたち逃げて、超逃げて!!
レンは必死に祈りました。これ以上ないくらいに祈りました。日本の神様、世界の神様、後ついでにいるとするならGGOの神様とP90の神様にもお祈りしました。
そんな一幕があり、優勝は絶望的になりながらも、めげずに彼女たちは作戦会議を続けます。
「……取り敢えず、スキャンの結果を伝える。先程も行った通りMMTMは全滅で、北西の廃墟エリアにBell's。北東の外れの空港にSHINCがいて、最後に南西の外れにZEMALだ」
「はいはい、我ら優勝候補チームは残り3つ、ベルちゃん達が北西と。続けて?」
「森の中には3チームいた。そのうち1チーム、ZATは今ここで消えた。今回初出場の残り1チームがいたのは、一番南の橋のすぐ近くだった。最初に地図を見たとき、ある程度のリスク覚悟で橋へ急ぐことを選んだのだろう」
なるほど。
レンは頷きました。自分達はフィールドの一番隅だったので、10分ではそこまで行けませんでした。レンだけならさておき、鈍足のエムも交えるとそれは無理。
でも、初期位置が橋まで1〜2キロの場所だったら、敵との接触のリスクは承知の上で、または10分間は敵チームも動かないと踏んで、移動していたかもしれません。
ピトフーイが、
「まあ当然、そのチームは今頃頑張って橋を渡っているでしょうね。渡り終えているかも。移動していたのなら、モンスターと戦っていないでしょうし」
「するってーと、森のエリアには、今は私達だけってことかいな?」
フカ次郎が言って、エムが大きく頷きました。
「マップを見た上であえてこのエリアにやって来ようというチームがいるとは、あまり思えない。それこそBell'sのような特殊なチームでない限りはな」
だよねえ。
レンは思います。こんな入りにくい、そして出にくい場所にわざわざ入ってくるチームはよほどの物好きか初出場で定石や戦略を知らないかのどちらかでしょう。レンだって、こんな場所はとっととおさらばしたいのです。
あ、Bell'sはもはや存在が戦略のようなものなのでその枠には入りません。あれはバグに近いナニカです。
エムが続けます。
「モンスターに邪魔されて喋ることができなかったが、スキャン前はこう考えていた。俺たちは敵チームに裏をつかれないように、南側、あるいは東側の境界線ギリギリを移動しつつ、橋を渡るか湿地帯を越えようと。シャーリーとクラレンスは、渡ったあとは、二人で自由に行動してもらって構わない」
シャーリーが、
「異存はないぞ。いっそ、もういいか?」
今すぐその場から立ち去ろうとする勢いでしたが、クラレンスは少し冷静でした。
「まあ落ち着きなよ。エムの話は終わってないぜ?そしてこう言いたいに違いないぜ?"しかし、この場所にいることは決して悪いことではない"ってな?」
「そうだ」
エムが肯定し、レンにも二人の言いたいことが分かりました。
今この森エリアにいるのが自分達だけなら、"しばらくここから出ない"という手もあるのだと。
この場所で小刻みに移動し続けてモンスターをかわし、敵チームとの交戦をとことん避ける。そうすれば時間経過と共に自然と敵チームは減るので、そうして初めて、より安全になった川を渡る。これだって、立派な作戦です。
もし、レンたちとの戦いが所望で、あるいは同じように隠れたくて敵が迫ってくる、あるいはBell'sが森に突撃してきそうなら、卑怯にも橋のどこかで待ち伏せをする。あるいは、森に来るまで待って、全力全開で迎え撃つか、罠を仕掛けに仕掛けて全力で逃走する。
「うーん、戦略としては悪くないがねぇ、それじゃあオイラと、右太と左子が輝けないじゃないか。おっと、私達のことはいいんだよ。それじゃピトさんが、暴れられないじゃないか。レンが、以下略」
フカ次郎、本音のあとに建前を続けました。
「悪くはない手ね。諦めずにあくまでも優勝を狙うなら、それには賛成」
ピトフーイがそう言って、
「狙わないのか?」
シャーリーからは、意外そうな声がかかりました。先程から諦めムードなピトフーイに、シャーリーは少し拍子抜けした様子です。
「もちろん狙ってるに決まってるじゃーん!まあ今回はちょっち厳しそうだけど。でもね、それよりも─────」
「それよりも?」
「レンちゃんをSHINCと再戦させたいのよ、私は。ほら、ただでさえベルちゃん達がSHINCを全滅させちゃうかもしれないし、時間が無いじゃない?だから、北に行く案に1票。ま、これは選挙じゃないけどね」
ピトさん……。
まさかの理由に、レンの心が、一瞬緩みました。
そして、いや、ピトさん何か企んでないかな?と一瞬で引き締まりました。
「ピトさーん、なんか企んでない?」
フカ次郎は正直に聞いて、
「ないないない。企んだことなんて一度もない」
「マジかー!」
12時17分になって、
「あと1分でモンスターが出る。決めさせてもらう」
エムが言いながら、周囲を警戒しつつ立ち上がりました。
そして、
「レン。南へ走れ」
そう指示しました。
12時20分。
2回目のスキャンを、まだ生きているプレイヤー達は一斉に見ました。
この時間になると流石に、
"モンスターは5分以上同じ場所にいると一体湧いてくる"
"倒すとそれが呼び水になり、しばらく大量に押し寄せてくるので、さっさと無視して動くのがいい"
ということは、言われなくても分かってきました。
ちなみに、今のところ出てきたモンスターは全て斬り殺しているBell'sはこの事を理解していません。コイツらだけ別ゲーやってない?
4分以上同じ場所にいないことでやり過ごせるので、全チームがそうしていました。
待ち伏せ作戦を取りたかったチームは、
「まったくあのクソスポンサー作家め!」
「出てこい撃ってやる!」
そうブーブー言いながら。
けれどもそれは、SJでまだ生き残っているからこそ分かること。
モンスターに囲まれて哀れ全滅したチーム、そしてモンスターとの戦闘中に他チームに襲われて全滅したZATのようなチームは、7チームにもなりました。
かなりの損耗です。
普通の戦闘で消えた分も加算して、20分現在の生き残りは全20チームになっています。
そのうちの19チームが、スキャン結果によって知りました。優勝候補の筆頭LPFMが、地図の右端、表示されるギリギリの位置にいることを。
10分前はもう少し左上、つまり西と北に移動した場所にいたはずですので、つまりは一番奥に引っ込んだことになります。
多くのプレイヤーが思いました。
アイツらは森の中で引きこもることを選んだ、と。
そしてその意気地のなさを、内心では笑いました。例外としては「生き残る」ことに偏見のないBell'sのメンバーたちがいました。彼らはいわゆる「穴熊」も立派な戦略である事を文字通り命懸けで理解していたのですから。
そして、レンのことをよく知っている数チームのプレイヤーが思いました。
ああ、これはトラップだなと。
この時間帯での位置は、全くアテにならないぞと。
「レンちゃん達が"穴熊"なんてするわけないだろうが。おめでたい連中だな」
現に、観客席でもある会場の酒場では観客の一人が"引きこもり"を笑った連中に鋭い言葉を吐いて、
「あんだとコラァ!」
ケンカになりかけていました。ちなみに、先程から言っている"穴熊"とは、将棋で王様を盤面の角っこにおいて周囲を別の駒で固める防御陣形。
酒場でケンカとは実にアメリカ映画っぽいですが、GGOの首都グロッケンでケンカしてもダメージを与えられず、ただ単にお互いの体を必死に殴っているだけというコントみたいなことになるのでやめて、
「おうおう"情報通様"よう、バカな俺達にも分かるようにご説明願えますかねえ。現に今、とんでもない端っこで光っているんですがね」
ガラの悪い皮肉による"口撃"に済ませました。
一方、口撃を受けたその観客は、挑発するように鼻で笑った後に答えます。
「いいか、まずLPFMのリーダーはあのピトフーイじゃねぇ。ピンクのチビだ。そしてあのチビの足なら、10分で4、5キロは走れるんだぞ。マップの端にいたって、次のスキャン前には橋にたどり着いていることすらできらーな。あれはリーダーマークだけをそこに置いておくためのトラップだよ」
「逃げよう」
ボスは、車の助手席の上でそう呟きました。
普通の車ではありません。
全長が8メートルほどの中型トラック、その荷台に巨大な階段を乗せた"タラップ車"と呼ばれる特殊車両です。
広い駐機場に止められた旅客機にお客を乗せたり降ろしたりするときに使う、空港にしかない車でした。
また少し時間が戻って、それは12時15分過ぎのこと。
乗り物を探すために鉄砲玉のように飛び出し、見晴らしの良すぎる空港の滑走路を走っていたターニャは、ターミナルビル付近でこのタラップ車を、動かせる車両を見つけました。あっという間でした。
運転するのはもちろん、追いついてきたトーマ。
リアルではロシア生まれと言う事もあり、リアルスキルによってマニュアル車だって運転できちゃうトーマによって動かされるタラップ車に乗って、SHINCは移動を開始したのです。
幸いなことにタラップ車はオートマチックだったため、遠距離メインの狙撃手であるトーマと交代にアンナを運転手にしてボスが助手席に乗り、運転席には2人。
すると残りの4人が乗っているのは─────車の後部に取り付けられた、タラップの上です。
タラップは、左右に背の高い壁がありますが、屋根はありません。飛行機のドアに届くように、斜めに高くそびえています。
飛行機の種類によってドアの高さが違うので、タラップの位置は上下に調節ができるのですが、今回は地面から4メートルほどの高さになっていました。
ひたすら真っ平らの滑走路で、これだけの高さがあるのは、かなり有利に働きます。
見晴らしの良いタラップの一番上で、ローザがPKMマシンガンを、その右でトーマが、彼女たちが唯一リアルマネーを注ぎ込んだ秘密兵器であるPTRD1941対戦車ライフルを、そして二人の後ろで、ソフィーが双眼鏡を構えていました。
遠くに敵を見つけたら、一方的に撃ちまくれる布陣です。
ターニャだけが、
「オレはー、なかまはずれー、でもー、いいのさー」
一人で車体後部に座り、歌を歌いながら後方を警戒中。
マシンガンと対戦車ライフルを載せた"移動式銃座"になったタラップ車が、空港の滑走路をゆっくりと西へ進みました。
敵チームを発見し次第、銃弾の雨霰を降らせてやるつもりでしたが─────、結局12時20分まで、広い空港で動くものを見かけることはありませんでした。
「これは、ターミナルに逃げたかな。または空港の外か」
ボスが言いました。
そして、12時19分50秒で滑走路に車を止めて、2回目のスキャンを見て─────
Bell'sが近いことを知るのです。
「に、西1.5キロの地点……廃墟エリアの外れにベルさんたちがいる。誰か見えるか?」
若干声の震えているボスの質問に、ソフィーがタラップの一番上から答えます。
「ッ……無理。高速道路や廃墟ビルはよく見えているが、人までは不可能」
そしてトーマが、
「こちらもスコープには見えない」
「分かった。全員警戒を厳とせよ。もし見かけたら全力で撃て。後のことは考えるな、弾を使い切ってもいい」
そう答えたあとに命令を送り、ボスは、はぁぁぁ、と大きなため息を吐きました。
よし、逃げよう。
判断は一瞬でした。思考を回すことすらありませんでした。現実で森で熊と相対したときに「戦おう」などと思う人はいません。
いえ、ひょっとしたらいるのかも知れませんが、それはおそらく例外中の例外というものでしょう。
ベルの配信を見た時から、こうなるかもしれないとは全員が覚悟していました。
しかし、実際にこの状況になってみると緊張感が凄まじく、彼女が使っているアミュスフィアの安全ロックが作動するのではないかと言うほどに動悸が早くなってきます。
もはや彼女たちの頭からはSJ4の優勝やレンとの因縁の対決のことなど吹き飛んでいます。頭の中にあるのは「なんとかして生き残る」その一点だけ。
「逃げよう」
『賛成』
『勝てる訳がない』
『賛成』
「私も賛成」
『はやくー、にげようー』
ボスの呟きに、全員が了承の旨を返しました。
いつもであれば楽天的に「突撃しようよ!オレ達なら勝てるって!」などと言うはずのターニャでさえ逃げようと言う始末。
ベルの配信の視聴者であることによって必然的に彼女の異端さやそのお仲間たちの異常さも知っているSHINCは恥も外聞も無く逃走を選択しました。
タラップ車に乗っているから有利、などという考えはベル達に限っては通用しません。なにせ相手は不完全とはいえ銃弾斬りすら成功させる程の化け物。
彼女がどんなメンバーを連れてきているのかは分かりませんが、もし掲示板やSNS等で話題の《シノン》や《光剣凸子》がメンバーの場合、真正面からぶつからなかったとしてもSHINCに勝ち目は無いと言っても過言ではありません。
「よし、Bell'sとの戦いは全力で避ける。ドライブはここまでだ。ターニャ、ダクトテープ。ローザは替えの銃身を急げ」
ボスのいつになく緊張感に溢れた指示に、即座に従うメンバー達。全員装備をストレージにしまい込み、全力で走る態勢を整えます。
「─────よし、準備完了だ。これで時間を稼げれば」
そして、最後の時間稼ぎとして工作を行っていたボスがタラップ車から離れ、全員で走りだそうとしたその時。
ごっっっっっ、どぉぉぉぉぉおおおおおん!!!!!
凄まじい轟音と衝撃波と共に、数十秒前までボスが乗っていたタラップ車が爆発しました。
飛んできたナニカの軌跡でしょうか、滑走路が一直線に砕け散り、まるでそこだけに集中して爆撃を受けたような悲惨な跡を残しています。
デカネードを置土産として残そうとして、時間が無いということで思いとどまった自分をボスは大絶賛しました。でなければ今頃、誘爆に巻き込まれて蒸発した自分達は待機エリアで仲良く体育座りをしていたでしょう。
「「「「「「─────」」」」」」
言葉も無く、一瞬で木っ端微塵となったタラップ車を見つめるSHINC。目の前の光景を信じることが出来ず、ターニャに至っては仮想世界の中だというのにゴシゴシと目を擦っています。
そして、数秒ほど固まった後。
「はっ、走れ走れはしれェェェェエエエエエッ!!!?」
「「「「「んぎゃぁぁぁああああ!!!?」」」」」
ボスの号令で全員が蜘蛛の子を散らすように全力疾走で走り始めました。
目指すはマップの南。高速道路の近くに存在するショッピングモールと思わしきエリアです。
もはや体裁とかそういうのを気にしている次元ではありません。とにかくこの盤面を凌ぎきらなければ優勝どころかレンとの再戦、いや、次のスキャンまでに生き延びているかも怪しいのです。
死にたくない、死にたくない!!!
SHINCのメンバー達は全員がそんな悲壮な心の声を叫びながら綺麗なフォームで滑走路を駆け抜けます。
途中、別のチームからのものと思わしきバレットラインが見えた気がしましたが、それらは全てスルーしました。
そんなものよりも、背後から迫りくるベルと恐怖の仲間たちから逃げ切ることのほうが重要だったのです。
しかし、彼女達にさらなる試練が襲いかかります。
「─────くっそぉぉぉおおお!!!」
しばらく走り続け、空港から抜け出すまであと500メートルといったところで、高速道路のフェンスをぶち破って現れたのは3台の《ハンヴィー》でした。
《ハンヴィー》とは、「
SJ2で今は亡きMMTMが、その後ピトフーイやレン達が使ったその車両は、平べったく角ばった特徴的なボディの舳先をこちらに向けて、小刻みに蛇行しつつ、マフラーから薄い黒煙を吹き上げながらも迫ってきます。
その車体はSJ2のときと同じく、モデルはM1114タイプ。通常のハンヴィーに追加装甲を施した、防弾仕様車です。7.62ミリクラスの銃撃なら、完全に防ぐことができます。
「こうなったら……!」
ボスは覚悟を決めました。
前門のハンヴィー、後門のベル。
選ぶとしたら、断然前者です。
「私、トーマ、ターニャで攻撃するぞ、残りは別ルートで逃げろ!!」
仲間達が息を呑むのが、ボスには分かりました。さすがはリアルでもずっと一緒に過ごしてきた連中です。かつてあれほど仲が悪かったというのに、今は以心伝心でした。
「……よっしゃ!頂戴!」
次に覚悟を決めたターニャが、ボスの脇にいち早く駆け寄って来ました。そして手を伸ばします。おもちゃやお菓子をねだる子供のようでした。
「ああ」
ボスはターニャに渡しました。欲しがっていたものを。
全てを薙ぎ払うデカネードを、2つ。
続いてトーマが駆け寄って来ました。デカネードを同じく2つ、両手に抱えました。
ボスは自分の分である最後の2つを握りしめて、
「ソフィー、チームの指揮を任せるぞ。レン達を、殺れ」
最後の命令を下しました。
ソフィーが、SHINCの虎の子であるPTRD1941の運び屋をしているソフィーが、
「了解!」
悲しそうに、そして力強く答えました。
雲が増えてきた広い空の下、3台のハンヴィーが、SHINCへと勢いよく迫ってきます。
ボスはその姿を睨んでいました。背後で見えませんが、ローザ達は全力で逃げているはず。
対峙するボス達に、逃げる術はもうありません。武器をストレージに全てしまっている今、あれを撃ち抜く手段もありません。
しかし、吹っ飛ばす方法は、あります。
そう、デカネードなら。
そしてそれは、自分達の生存も望めない作戦でした。1台でも残せば、逃げた3人が追いかけられ、後ろから轢き殺されることでしょう。
ならば。
投げて壊そうなどと思ってはいけません。確実を期すために、道連れにするしかありません。
「一人1台だ。欲張るなよ。私は真ん中のをいただく」
ボスは、その場に残ってハンヴィーと対峙する二人へと指示を出し、
「オレは右ね!任せて!こういうの、得意!」
ターニャと、
「じゃあ左を。やったことないけど、まあ、何事も挑戦でしょう!」
トーマの元気の良い返事をもらいました。
残り100メートル。
もう、運転手の特徴がはっきりと分かる距離になりました。
防弾ガラスの向こうにいるのは、GGOらしい未来装備の男達です。ダークブルーのパンツに、濃い茶色のプロテクター入りジャケット。顔には緑の覆面と1枚のサングラス。
真ん中の1台には2人、左右に1人ずつ乗っていました。
ボス達3人はその場に伏せ、ハンヴィーが自分達を轢き殺しに来るのを待ちました。
そして─────
12時50分。
「……えっ?」
レンは、橋の上でそう声を漏らしました。
自爆特攻という、物騒なことこの上ない戦闘スタイルを武器にレン達を追い詰めたチーム《DOOM》との高速戦闘を終え、約束通りシャーリーとクラレンスが
車道が数本走る橋、その一番左側。欄干のすぐ近くで、盾を構えたエム、ピトフーイ、フカ次郎の3人に守られながら、レンは5回目のサテライトスキャンの結果を端末で確認していました。SHINCとレンの再戦を叶えるため、レンの即死だけは何があっても免れる陣形です。
5回目のスキャンは、真東から真西へと始まりました。かなりのスローペースです。
自分たちがいる場所が早めに分かるのが、吉と出るか凶と出るか。
「数はいい。まずは俺達の周囲、そしてSHINCの生死とその居場所、そして中央のバトルの結果だ」
「了解」
スキャンが始まる際、エムの指示にそう答えて確認を始めたレンでしたが─────
「周囲2キロ圏内には何もない!……けど、く、空港に1つ……名前は……べ、Bell's……」
「ありゃま、やられちったか」
「あちゃー……」
今では、すっかり落ち込んでしまっていました。
何故なら、今のままではベル達のチームにSHINCが殺されてしまった確率が高いということ。
あれだけ楽しみにしていた再戦は叶わなかった。
そういう事だからです。
周囲のメンバー達もやってしまったか、といった雰囲気を出していましたが、チームの司令塔として冷静さを保っていたエムは「中央部はどうなっている?」と続きを促しました。
「中央部だけど─────」
スキャンがマップの半分を過ぎて、凍った湖面の上辺りに、いくつかの全滅チームを示す灰色の点がつきました。
そして、その近く、湖面の白色と紛れてわかりづらいですが、かなりのチームが固まっているのが見えました。
「中央左上、凍った湖面のど真ん中で、えっと、いちにいさんし─────、7チームが固まってる!これ、結託チームに違いない!」
レンが報告し、
「今回も出やがったか。まとめてプラズマで灰にしてやる」
と、愛用のグレネードランチャーに装填する替えの弾を入れておくベルトに嵌った《プラズマ・グレネード弾》を見ながら、フカ次郎がにやりと笑いました。
「チーム名を頼む」
エムの言葉に、レンは結託チームの周囲を最大まで拡大。白い点に片っ端から触れていきました。
「"WEEI"……"V2BG"……"PORL"……」
レンが読み上げていきます。
正式な読み方が分からないので、アルファベットを直接発音。
「知らぬ奴等じゃのう」
「"RGB"……"WNGL"……"SATOH"……えっ?」
読み上げはレンの漏らしたその声を最後に止まって、エム達は思わず歩みを止めました。
振り返ると、そこには盾の囲いから大きく遅れたことにも気が付かないまま、その場に立ち尽くすレンの姿が。
「どうした?」
「……あ、あああ……」
エムの質問に満足に答えることすら出来ず、青ざめた表情のまま端末を握りしめるレン。
「おい、まさか……?」
フカ次郎が、
「あちゃー、まさか?」
ピトフーイが、
「なんと」
エムが察して、全てを理解しました。
レンは、画面の中にいるチームに向けて、再戦を誓ったライバルに向けて、
「なんでっ!」
悲しそうに叫ぶのです。
結託しているであろうチームの最後の1つは、"SHINC"と書いてありました。
生きていた事は嬉しい。
再戦が叶うのであろうことも。
ただ、何故お前たちが
レンは悲しいような嬉しいような、2つの感情がないまぜになった複雑な感情の波に襲われました。
「なんでっ!」
レンが空に向けてもう一度叫びましたが─────
当然、なにも答えは帰ってきませんでした。
SJ4のフィールドに、強い風が吹き始めました。
《SJ4 現在の状況》
残存チーム総数:10
全滅チーム総数:20
残存チーム:《LPFM》《Bell's》《SHINC》など
全滅チーム:《TOMS》《DOOM》など
試合開始から 約50分 が経過
拳銃〜拳銃〜拳銃戦闘パートに進みたい〜
あ、ちなみに第4回スクワッド・ジャムのルールは「原作と全く同じもの」です。つまり拳銃の重量制限撤廃やらなにやらは本当に原作でも同じような仕様になっております。