艦これ【贋】 私は艦これの世界に来たと喜んでいたが。どうやらだいぶ違ったようだ 作:ヅダ神様
「はっ…! はっ…! はっ…!」
呼び出しを受け、一ちゃんを肩に乗せ艦橋に向かって走り続ける私。艦内では一度も妖精さんに会う事は無く、艦内を真っ赤に染める警報と「総員第1種戦闘配備、非戦闘員は所定の区画に退避せよ」と言う命令が繰り返し放送されていた
「次の角を左に曲がって下さい。後は道なりにまっすぐ進めば環境への直通エレベーターがある筈です」
急いでください、後5分で隔壁が閉まりますから、と大変ありがたい情報をぽろっとこぼす一ちゃんに盛大に悪態をつきながらとにかく走り続ける私。そしてふと疑問に思った事を一ちゃんに尋ねた
「なぁ一ちゃん」
「何でしょう?」
「艦娘は、今どこで何をしている?」
その言葉にぴくりと肩をふるわせた後。一ちゃんは
「後でお話しします。とにかく今は艦橋に向かう事を優先して下さい」
と、少しこわばった表情と強い口調で私にそういった。私は今は聴くべきことではないな、とその様子から判断し、とにかく全速力で艦橋へと向かった
「対潜! 対空警戒を厳となせ!!」
艦橋に着くと。発進時よりも更に慌ただしくなっており。その喧騒の中で艦長の命令が聞こえてきた。そして一ちゃんがほっぺを突いて私におりたいとアピールしてくるので掌に乗ってもらい、片膝をついて床まで降ろす。一ちゃんはぴょん、と掌から床に降り立つとすぐさま艦長の元まで早歩きで移動しながら
「艦長。副長一ちゃん並びにミー提督。現着しました」
と、報告を入れてくれる。それに艦長は振り返らずに
「来たか、間も無く戦闘になるから持ち場につけ」
と、激しい雷雨と荒れ狂う海しか見えない外の景色をじっと睨みながらそう命令した艦長に了解しました。と敬礼で返し。どこに着けばいいか分からない俺は艦橋内をきょろきょろしていると
「…提督は舵輪の前に立ってて下さい。それは使わない飾りなので…」
と呆れが半分は混ざっていると何となく感じてしまうくらい深いため息に続いて若干猫背っぽくうなだれた艦長がそう言ってくる。それに私は分かった。と言ってとりあえず舵輪の前に立つ
「…本艦の北北東約74㎞に駆逐イ級3隻、軽巡ト級2隻、雷巡チ級1隻の艦隊を捕捉しました」
一ちゃんが席に座り、防音用のイヤーマフを装着してレーダーを見ながらそう艦長に報告し
「…数に変わりはなし…全艦超長距離砲撃戦用意」
と、艦長は小さく命令を下し。その言葉と共に未来が動き出す
「全艦超長距離砲撃戦用意。草薙の剣一番、二番砲門解放」
私の左斜め後ろの妖精さんがそう言うと。艦橋正面前にある4門の巨大な砲塔の砲口を守る防護板が解放され、敵へとその巨砲が向けられる
「初弾、11式対艦用燃夷散弾。次弾は11式徹甲弾を装填」
艦長の指示を復唱した後、少しして装填完了との報告が上がり。艦長は頷きとともにこう命令した
「総員対防音装備着用! 対ショック防御!」
と、その命令に私は慌てて左側の肘おき外側のフックにかけられたイヤーマフを装着し、艦橋用員の妖精さんたちもイヤーマフがきちんとつけられているかの確認を行う。そして
「草薙。撃ち方初めェいッ!!」
と、艦長が命令すると同時に草薙の剣の砲口が噴火した。イヤーマフ越しにでも耳鳴りを生じさせる凄まじい爆音と席にしがみついていなければ振り落されるのではないかと思えるほどの揺れに襲われながら、激しく揺れる中で艦橋正面が見えなくなるほどの煙を見ながらにそんな事を考えてしまった。しかしこの状況の中イヤーマフもつけずに仁王立ちのままでいられる艦長のヤバさが際立っている気がするな、と考えていると
「副長、どうだ?」
と、艦長が一ちゃんの方を見ながらそう聞くと、一ちゃんは心なしか少ししんどそうな表情で
「着弾まで後15秒…目標着弾5秒前。4…3…2…1…0。目標への損害を確認、なれど撃沈は無し」
と、淡々と戦果報告を行い。続いて艦長が
「最大戦速!! 敵艦隊を一挙に仕留める!! 全艦対艦、対潜、対空戦闘用意!!」
その号令に艦橋内の空気がピリピリと張り付く
「最大戦速! ヨ~ソロ~!」
まず操舵手が命令を復唱して黄色のレバーを全開にまで降ろした後オレンジ色のレバーを一番上にまで引き上げる。すると大きな揺れと共に未来に打ち付ける波の勢いが一段と激しさを持ち、窓にかかる水滴が先ほどとは比べものにならないほどに速くなる。そして妖精さん達がそれぞれ割り振られている各種兵装等の稼働状況を口頭で報告していく
「全CIWS起動、データ-リンク中、メインサーバーの冷却機能を戦闘時にまで引き上げ」
「主砲には徹甲弾を装填、副砲同じく」
「速射砲起動。砲身を砲撃位置まで移動させます、全門初弾装填完了」
「非戦闘員の非難区画への退避開始」
「鴉、雷光、侍全機出撃準備を整え待機だ、何時でも出られるようにしておけ」
次々と艦が戦闘準備を整えて行く中、艦長がそう命令を下し、私の真後ろの妖精さんが了解と答え
「格納庫に伝達。侍、雷光は直ちに出撃準備を整え、待機せよ」
その命令と共に格納庫内に出撃を告げる警報がなら響き、酸素マスクと一体化したヘルメット(目の部分は上にスライドできるバイザータイプの物)を片手に持ち、整備班(妖精さん)たちから敬礼とともに見送られるパイロット服に身を包んだ妖精さん達が、人間サイズの侍と雷光に次々と乗り込み、然し乗り込んだ瞬間には妖精さんサイズにまで縮む
「VLS防護板のロックを解除します。防護板解放…」
と、後ろの妖精さんが報告するのに合わせてVLSの装甲版が一列ずつ上から順に開いて行く
「未来、戦闘形態に移行しました。間もなく主砲の有効射程距離に敵を捉えます」
最後に一ちゃんが報告し、艦長は一ちゃんの方に頭だけを振り返らせながら
「敵艦隊の被害状況を確認出来るか?」
と尋ねると、一ちゃんはレーダーを見ながら画面を操作する。すると敵艦1隻1隻のアイコンの上に何かのウィンドウが表示され
「駆逐艦は2隻炎上中、1隻は健在。軽巡は1隻が撃沈、もう1隻が炎上中の上左舷に傾斜しつつあり。雷巡は火災を沈下させた模様、小破判定です」
と報告する。それに頷いた艦長後ろに振り返りながらこう言った
「主砲第1目標を雷巡および軽巡とする。その後は各砲座ごとに好きな目標を狙わせろ」
と、私の後ろにいる妖精さん達にそう言った後、初めて私の右隣にいる妖精さんに話しかけた
「通信手、本土との連絡はつかないか?」
「深海棲艦によるジャミングの影響で「小笠原要塞群」司令部との通信すら繋がりません」
と、通信手は答え、艦長は左手で顎を触りながら
「副長、本艦の現在位置は」
と、一ちゃんに聞き
「小笠原諸島最南端の姉島から南に約100㎞の地点に位置しています」
と返す。それに頷いた艦長は続いてこう聞いた
「正面の敵艦隊の予測進路は?」
「…小笠原諸島と推定できます」
そして一ちゃんが一瞬言葉に詰まった後そう報告し、艦長はすぐさま
「このまま的艦隊をせん滅しつつ突破、全速で小笠原諸島へ向かう。面舵50」
「おもぉかぁじ50、ヨーソロー!」
復唱した操舵手がやや大きく舵輪を右に傾ける。それに従って艦も右に進路を変える。そしてこの豪雨の中、海の向こう、視界の左端のあたりが急に明るくなり始めた
「主砲目標変更。左舷全砲門で敵艦隊を一気に叩く」
「主砲の射程圏内に入りました。各砲塔データリンク開始。自動追尾開始」
後ろの妖精さんがそういうと、草薙の剣以外の各砲塔がゆっくりと左へ動き始め。砲門がゆっくりと上を向いていく
「目標への標準固定完了。各砲塔は現在も目標を自動追尾中」
妖精さんの報告に私は座席の肘お気を両手でしっかりと握りなおし。艦長は命令を下す
「主砲。撃ち方始め」
艦長の命令からワンテンポ遅れて、全訪問が一斉に火を噴く。艦を揺らす振動とイヤーマフ越しに鼓膜を震わせる轟音に、思わずつぶった目にチカチカとした光がささり、耳鳴りが起こる
そして放たれた砲弾はなだらかな弧を描きながら敵艦隊へと吸い込まれ。そして明るくなっていた海の一角を、巨大な水しぶき・・嫌水柱と爆炎によって塗りつぶされる
「軽巡、雷巡共に全艦撃沈を確認。また駆逐艦2隻撃沈。一隻が中波です」
「取り舵55! 進路を戻せ! 2番砲塔で残敵を掃討する!」
一ちゃんの報告に、艦長は振り返ることなくそう命令する。それに後ろの妖精さんたちが了解と答え、今だ砲門から煙を上げる主砲のうち、草薙の剣一番の左横にある砲塔が敵の要る方角へと向き、ほかは全て砲塔を船首、あるいは船尾へと戻し、砲門を甲板に対して垂直になるまで降ろす
「とぉりかぁじ55! ヨーソロー!」
操舵手が副賞と共に舵輪を左に傾ける
「2番砲塔射撃準備よろし、敵駆逐艦との距離は約40㎞。目標への自動追尾は継続中」
後ろから要請さんの報告が入り、それに続いて一ちゃんからも報告が入る
「目標艦首をこちらに向け移動を開始。補足されたものと思われます」
「直ちに主砲攻撃始め、撃てぇい!」
一ちゃんのそれにやや早口ながらも攻撃を明示。2番砲塔が再び噴火のごとき勢いで火を噴く。そして放たれた弾丸は先ほどと同じような軌道で敵へと飛んでいき。そして先ほどよりもさらに大きな爆炎と水柱を上げる
「目標撃沈。敵をせん滅しました」
一ちゃんがそう報告し、ブリッジ内の空気が少しだけ緩む。
「第2種戦闘配備に移行! 機関そのまま! 最短コースで小笠原諸島へ向かう!」
艦長は少しだけ声量を大きく、また声質を少し強めにしてこう命令を下した。それにブリッジの空気は再び張り詰め、一ちゃんが艦内放送で第2種戦闘配備への切り替えを伝える
「…どうだった。初めて傍観する殺し合いは?」
艦長が皮肉気にそう言って私に笑いかけてくる。それに私はこう返した
「全く現実感はなかったですね。主砲を撃つ時の轟音と揺れには肝を冷やしましたけどね」
と、若干震えた声質でそう答える私に、艦長は笑いながらこう言った
「だろうな…まぁ時期にそうも言ってられなくなる。今のうちに心構えだけでもしておけ」
それだけ言って、艦長は再び前に向き直る。私は艦長からの言葉に少しだけ背筋が寒くなる感覚を覚えながら、仕事も何もせず、ただ座っているという状況に居心地の悪さを感じずにはいられない私であった