学戦都市アスタリスク 愚者の足掻き   作:8674

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運命の分かれ道

「やあっ!」

 

 

 毎度恒例のプロキオンドーム。既にここでは《鳳凰星武祭(フェニクス)》五回戦目──クインヴェールとの戦いが始まっていた。

 

 

 行人が相対するのは刀藤流の使い手である辻浦早香。序列入りはしておらず、その剣も連鶴までは至らず生粋の天才である刀藤綺凛と比べると見劣りしてしまうが、その実力は高い。

 

 

 校章を狙って右袈裟から振るわれた刀を剣状の《数多の偽り(ナイアーラトテップ)》で受け流す。

 

 

 早香は綺凛のように連鶴で斬撃を繋げることは出来ていない。しかし彼女は四十以上ある刀藤流の剣術を一つの技として使うことに重点を置くことで、本来とは違う使い方を編み出していた。

 

 

「はあッ!」

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 先ほどとほぼ同じの体制から繰り出された斬撃が、今度は全く違う方向──左から水平に迫る。

 

 

 早香の剣は一回の切り合いでの駆け引きが綺凛よりも正確だ。それこそ一瞬でも気を抜けばその隙を突かれて終わるだろう。

 

 

 ──しかし武術に心得がある者ほど、行人が持つ武器は猛威を振るう。

 

 

「せいっ!」

 

 

「あまいッ!」

 

 

 互いに間合いを測っている中、今度は行人から剣を右から逆袈裟に振るうが、当然それは受け止められる。

 

 

 鍔迫り合いになり両者は共に出方を伺うと思われたが、またしても行人は先に動きバックステップで距離を空ける。

 

 

 それを追って早香は一歩踏み出すが、

 

 

「辻浦早香、交渉破損(バッジブロークン)

 

 

「なっ……!?」

 

 

 それより先に、行人が持つ槍状の《数多の偽り》が早香の交渉を割っていた。

 

 

 武器を使う戦いで最も大切な事の一つは、徹底した間合いの管理だ。剣、槍、銃──この三つは全て、効果的な間合いが違う。それを測ることができなければ、武器を扱った戦いで勝つのは難しい。

 

 

 しかし《数多の偽り》はその名の通り数多くの形態を持っている。その無数の形を持つ特性は、相手の間合いを侵食する。その効果は初見ならいざ知らず、間合いを測る技術が高いほど顕著にでる。

 

 

 ──彼女もまた、それによって戦いを狂わされた者の一人だった。

 

 

「クレア・ライト、校章破損。──試合終了! 勝者、永見行人&白江利奈!」

 

 

 途中から陣形を崩され一対一同士に持ち込まれたが、どうやらあちらの戦いも無事に終わったようだ。

 

 

 利奈の相手であるクレアは確かに素早いが、利奈は能力の恩恵でそれより速い。さらに戦闘能力も向上してきているので、このペースだと撃ち合いでは優勝候補の一人である、あの沙々宮紗夜にも引けをとらない人物になるかもしれない。

 

 

 試合に勝ったことを喜び、行人と利奈は拳を軽くぶつけ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──と、ハッピーエンドのように締めたかったのだが、ここで終われないのが今回の《星武祭(フェスタ)》だ。

 

 

 何せまだ決勝に行けたわけでもないし優勝候補を倒したわけでもない。締め括りとして次の相手は最有力候補──アルルカントの擬形体たち。

 

 

 その事実は行人を鬱にするには十分すぎるもので、控え室に入って早々顔から生気が抜け落ちた……

 

 

「って、何度やるのその流れは……」

 

 

「何度と言われればあえて言おう何度でもできる」

 

 

 やろうと思えば無限回はやると硬い意志を露にする。は《鳳凰星武祭(フェニクス)》始まって以来、今まで見せたことのない威風堂々とした姿だった。

 

 

「ま、まぁ……状況は当初予想していたよりずっと良い。やつらに使う手の内をかなり温存できたからな。目当ての物ももうすぐ届くし」

 

 

 だがそんな姿をすぐさま投げ捨ていつもの状態に戻る。

 

 

「えーっと……ちなみに何頼んだんですか?」

 

 

「ちょっとモ○タロウでワイヤーと尖った感じのフックを」

 

 

「釣りでもする気ですか?」

 

 

 かくいう利奈の方は行人が奇行を起こすのにはもう慣れたらしく、今回も冷めた反応だ。

 

 

「実戦になったらわかるさ。ただしこれは第二の戦略だから使いたくないが……」

 

 

 行人は一転して神妙な表情になる。

 

 

「──まず第一の手は?」

 

 

 それに応じて利奈も真剣な顔をして案を聞く。これまでの戦略を考えてきたのは行人だ。彼は自分に道を示して、自分はそれに従う。そうやってここまでは戦ってきた。

 

 

「お前は打ち合わせ通り。……そして俺が取る手段は」

 

 

 ここで行人はこれまた相当にゲスい表情を浮かべて答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────奇襲だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さてさて試合はいよいよ準々決勝。ここを勝ち抜き、ベスト四の座を確かなものにするのは一体どちらかなのか! 会場はお馴染みシリウスドーム、実況と解説も、お馴染み梁瀬ミーコとファム・ティ・チャムさんでお送りします』

 

 

『いやー遂にここまで来たっスね。アルディ選手とリムシィ選手は全ての試合を一分で終わらせてきた猛者っスけど、今回の対戦相手は今大会のダークホースとも言われる永見選手と白江選手っス。どんな絡めてを仕掛けるかが重要だと思うっスね』

 

 

『なるほとなるほど……。確かに永見選手らは、ここまで手の内を大きく見せてないように感じますね。っとここで各ゲートから選手たちの入場です!』

 

 

 やはりと言うべきか、プロキオンドームも盛況はすごかったが、シリウスドームのそれはそのどれと比べても勝るものはない。

 

 

 そしてこれも予想通り、アルディのあの宣言が出てくる。

 

 

「聞くがよい! 今回も貴君らには一分の猶予をくれてやろう。我輩たちはその間、決して貴君らに攻撃を行うことはない。存分に仕掛けてくるがよい!」

 

 

『出ましたー! アルディ選手のこの宣言! 一体彼らを止めることができる者は出てくるのか!?』

 

 

 この宣言に観客からは絶叫のような歓声が聞こえてくる。──やはりうるさくてかなわない。

 

 

 ポケットに仕込んであった煙幕を手に握りながら、眼前を見つめる。

 

 

「《鳳凰星武祭(フェニクス)》準々決勝第一試合、試合開始(バトルスタート)!」




 改稿に合わせ、これから書く文も2000ほどにしてみました。これからもそうなると思います。

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