学戦都市アスタリスク 愚者の足掻き   作:8674

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隔てる壁

 ──行人が主に担う役割というのは二つほどある。一つはいざというときの戦闘、そしてもう一つが散策や偵察による情報収集だ。

 

 

 行人自身は今までの経験による予測や星辰伝導のような他にはない技術で戦闘を行うが、圧倒的なスペックの差の前にはそんなもの所詮付け焼き刃にすぎない。

 

 

 綺凛のように技術や駆け引きが伴う戦いなら、武器の相性、ブラフ、フェイント、相手の癖……そういった情報を駆使すればなんとか勝てる。しかし、かのオーフェリア・ランドルーフェンのような者が相手だった場合前者のような小細工は一切通用せず、ほぼ確実に負ける。

 

 

 煌式遠隔誘導武装を使えばやっとその点をカバーできるかもしれないが、どちらにせよ前提は変わらない。事前にある情報が、行人の勝敗には大きく影響する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……というわけで、 

 

 

「──あんなでも一応国王なんだよな……。威厳とか一切ないが……」

 

 

「あ、あはは……」

 

 

「もう首刎ねられてもおかしくないんじゃないかな」

 

 

 行人とニア、そして綺凛は、先日襲撃してきた老人、ギュスターヴ・マルローの話をユリスの兄ヨルベルトに聞いたその後、大事な話があるといって部屋を追い出された。なのでそれで空いた時間を使い、観光も兼ねてリーゼルタニアの地理を把握中だった。

 

 

「そもそもなんであのアホどもはこういうときだけ欲望に忠実なのか……」

 

 

 ちなみに紗夜とクローディアはその大事な話を盗聴すべく、それが行われている部屋に対して必死に聞き耳を立てている。

 

 

「で、でも、少し以外でした。紗夜さんはなんとなくですけど、クローディア先輩もあんなことするなんて……」

 

 

「私はよくわからないけど、あの金髪の娘は学園だと違う感じなのかな?」

 

 

「クローディア先輩はいつもおしとやかで女性らしくて、頼りになる先輩です。フローラちゃんのときも、先輩たちの中で一番落ち着いてて……」

 

 

「付け加えると、目的のためには手段を選ばなくなる程度には図太いやつだってのも言っておk……」

 

 

「あ、うん……、もう十分かな……」

 

 

 とりあえずクローディアがどんな人間か聞きすぎてお腹いっぱいになったようで、ニアは手を出して遠慮する。

 

 

 最初は綺凛もついてきたこともあって少し不安だったが、ニアは自分のキャラクターをちゃんと守って接している。妙な素振りを見せることもなく、綺凛とはだいぶ打ち解けたようだ。

 

 

「──そういえば、今回ここに呼ばれた理由はフローラを助けてくれた礼としてだよな? ……なんで刀藤も呼ばれたんだ?」

 

 

「…………」

 

 

「──刀藤、目線逸らしても無駄だぞ」

 

 

「……は、はい……」

 

 

 その話題を出すと明らかによそよそしくなり涙目になりかけた綺凛を問いただし、あのとき何をしていたのかを聞き出した。

 

 

 綺凛は足がやられているのにも関わらず、一人で歓楽街を歩き回ってフローラのことを探していたらしい。綾斗に見つかって説得もされたが聞く耳を持たず、最後までフローラのことを探していた。──ついでにこれがユリスや紗夜たちにばれたときは大変お叱りを受けたようだ。

 

 

「ご、ごめんなさい、です……」

 

 

「……もう、怒る気にもなれん……」

 

 

「え、えぇっと……ほ、ほら、次はあっちでしょ? 早くいこうよ」

 

 

 一気に険悪となった雰囲気をなんとかすべく、ニアが次の目的地を指差し二人の背中を押す。まあ綺凛はともかく行人は言葉通り完全に諦めており、一切言及せずに元の空気を取り戻した。──行人だけが。

 

 

「……う、……うぅ……」

 

 

「──本当にごめんなさい刀藤さん、一生のお願いなので機嫌直してください……、いやほんとマジで……」

 

 

 先の行人によって強められた自責の念によって涙ぐみ、今にも泣き出してしまいそうな綺凛を必死になだめる時間が少しだけ続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ……! かわいいと思いません……!?」

 

 

「えっと──これ、一体なんなのかな……」

 

 

「……はぁ、よかった……」

 

 

 元の調子に戻った綺凛はニアと共に、店に置いてある──かなり特徴的な人形を二人で眺めていた。尚、綺凛が元に戻るよう説得に使った時間は十分程度だ。これは元々控えめで自分に自信がない性格なのが災いし、行人が思っていたよりダメージが大きくなってしまったが故の結果なのだが。

 

 

(もっと気を付けないとな……)

 

 

 女子のデリケートさをこの身でじっくり味わった行人は、心の中でさらに慎重さを深めるよう肝に命じた。

 

 

「──あー、ここのマッピングは終わったし、もうそろそろ貧民街に向かうぞ」

 

 

「わかりました」

 

 

「りょ~か~い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──行人が貧民街で真っ先に感じたのは、この国で最初に見た首都ストレルからは信じられない程、見ただけでわかる重圧感だ。

 

 

 そこらの家屋はヒビが入っていてとても安全には見えがたく、人々は焚き火を囲って残飯のような粗末な食べ物を頬張っている。なにより彼らの目には光がなく、ここにも統合企業財体の力(人間が持つ汚い欲望)が重くのし掛かっているのが嫌でも実感できた。

 

 

「これは……ひどいですね……」

 

 

 そこは綺凛も同意見のようで、周りに映る風景も痛々しくて見ていられないようだ。

 

 

 ──そしてニアの方は……

 

 

「────何?」

 

 

「……いや」

 

 

(……やっぱりか……)

 

 

 全く気にしていなかった。周りに存在している惨状に見向きもせず一切の発言もせず、ただ行人と綺凛についていくだけである。

 

 

 たまにだが、こうして行人たちとニアの違いを思い知らされることがある。確かに自分たちには関係のないしどうにもできないことで、本来はユリスやヨルベルトがどうにかすることだ。別にニアの行動は間違っていない──それは事実として受け入れるしかないが、やはりこういった感覚(人間と武器)の違いは、あまり慣れることができないと感じる。

 

 

 思わず考え込んでしまっていた行人に、利奈よりも身長が低い後輩の顔が覗き込まれる。

 

 

「……先輩? どうしたんですか?」

 

 

「──なんでもない。早めに記録して、さっさと城に戻るか」

 

 

「あ、──はい……」

 

 

 綺凛とってその時の行人の声は、少しだけ焦りを含んでいた気がした。




 最近行きたいイベントに行けなくて悶絶しそうな作者です(隙自語)

 えーっと、募集キャラクターについて現状報告すると、既に三つの案は採用決定してます。ついでにこのキャラクターたちが使われるのはグリプスでですのでもう少し先になってしまいます。

 手を加えた部分もありますが、それでも全員魅力的なキャラクターなので、お楽しみしていてください。

 それではまた次回もお楽しみに!(グリプスに入るのは第六幕からです)

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