学戦都市アスタリスク 愚者の足掻き   作:8674

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帰還

「……ここは……?」

 

 

「──ようやく起きたか? リースフェルト」

 

 

 場所は変わって城内へ、行人の座る椅子の近くにはベッドがあり、そこで横たわっていたユリスはやっと目を覚ました。

 

 

 まずクローディアからいきなり連絡、何事かと思いながら森の中に向かうと、そこには綾斗とユリスを一人で運んでいるクローディアの姿があったのだ。行人がついてからは役割を分担したが、その際に持った身体の冷たさには驚きを隠せなかったものだ。

 

 

 例のギュスターヴに襲われたとクローディアからは聞いていたが、何より一番驚いたのは、クローディア曰く、あの《弧毒の魔女(エレンシュキーガル)》がいたとのことだ。あくまで予想なので確実ではないが、近くにあった土の腐り具合から可能性は高いようだ。

 

 

「なっ!? なな、何故ここに綾斗が!?」

 

 

 ユリスは同じベッドに横たわっている綾斗に今さら気づき、その眠気もこもっていた顔はすぐに炎のように赤くなった。

 

 

「いやな? 触ってみて体温も低下してたから、それならある程度暖めたらら密着させて体温維持した方がいいかなって」

 

 

「それは色々と違うだろう!」

 

 

「ぎゃーぎゃーうるさいな静かに寝てろ。大体会って一ヶ月せずに膝枕した仲なんだからいいだろうに」

 

 

「いやだからそれとこれとは……ん? おい待て、それはつまり──見ていたのか……?」

 

 

 そして今度はいつも以上に訝しげになりながら行人をジト目で見てきた。

 

 

「実はちょこっとだけ見えてなぁ、正直マジか! って思ってたわ」

 

 

「──炭になるか丸焦げになるかを選ばせてやる。さあ……好きな方を選べ」

 

 

「んなことやってみろ……そんとき撮った写真ばら蒔いてやる」

 

 

「ぐっ……! ──はあ……、お前のそういう性格は最初から変わらんな。《鳳凰星武祭(フェニクス)》に出て少しはマシになったかと思えば……」

 

 

「生憎と、俺は以前からこんな性格だぞ」

 

 

 いつも通りにユリスの口撃をいなし、さらに口撃を返す行人。この光景、もはや模式美の一つに数えてもいいのではないかと自分でも思う。

 

 

「──とりあえず、だ。あそこで何があったのかは聞かないでおく。プライベートな何かかもしれんからな。でもこれだけは言っておく。何か大変なことがあるなら、少しは周りを頼れ。わかったな」

 

 

「片隅には留めておこう」

 

 

「聞き分け悪すぎんだろ……」

 

 

 もやは慣れてきている自分が嫌になってきたが、どうしてアスタリスクの学生は色々と難儀な性格が多いのか。

 

 

「まぁ、初めてあった時よりかはだいぶ丸くなったけどなぁ。あのツンツンフェルトが懐かしいな~」

 

 

「あの頃は色々と恐ろしかったのだ。仕方あるまい」

 

 

「そこ怒んないのか、リースフェルトのくせに」

 

 

「……その手には乗らんからな」

 

 

 約一年前を振り替えって雑談をしていたが、やはりあの頃と比べてユリスは変わっていたようだ。仲間も入るし、どうにも難儀だった性格も多少改善されている。──綾斗との出会いは、それほどに大きいものだったのだろう。

 

 

「さて、俺はもうそろそろ帰るわ。ギュスターヴに対する対抗策も練っておいたし、あとは俺なんかいなくても大丈夫だろ」

 

 

「……正直に言って、お前のその、何事にも策を弄しすぎるところは、あまり好きではないな」

 

 

「お互い様だ。……俺も、お前の持つ溢れんばかりの才能は、あまり好きじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして綾斗が目覚めたその日に、ギュスターヴの襲撃は始まったらしい。今までとは段違いに強い、ヒュドラの化け物を出してきたとのことだ。

 

 

 しかしそこは、やはり《鳳凰星武祭(フェニクス)》を勝ち抜いた猛者たちだ。所詮は万応素(マナ)の塊であるヒュドラに勝ち目などなかった。念のために紗夜のための狙撃ポイントを絞りだし、綺凛にもここの土地勘を覚えさせていたのだが、この感じではそれも必要なかったかもしれない。

 

 

「──やっと見つけたぞ」

 

 

 行人が探していた人物は、アスタリスクの商業エリアの道端にある店の前にいた。それは出会ってからいつも隣にいた、全身が白と言っても過言ではない、少女の姿をした武器だ。

 

 

「……いつもは普通なのに、こういうときにいきなりいなくなるのは本当にやめてくれよ……」

 

 

「え? あぁ、ごめんごめん。リーゼルタニアに行ってから買い物に興味持っちゃって」

 

 

 相変わらずだが、ニアのいつの間にかどこかにいってしまう癖は、会ってから三年以上たっているというのに一向に治る気配も治す気もないのだからすごいと思う。もしやこの行動こそが本当の代償なのではないか。

 

 

「それにしても行人も鬼畜だよねぇ。あの……ギュスターヴ、だっけ? 自分から因縁つけたのに放置プレイなんて」

 

 

「お前……どっからそんな言葉覚えてきた?」

 

 

「行人の使ってるネット端末から」

 

 

 ……。

 

 

「いやー。母親の気持ちってあんな感じなのかなぁ。すごく気まずいけど中々おもしろく……」

 

 

節子(ニア)、それ母親やない。ただの同級生のムッツリスケベだ」

 

 

「あれ?」

 

 

 自分のせいで穢れが増してしまったニアを憐れみ、今度からは端末にフィルターをかけ直そうか、行人は超回転する脳を使って葛藤する。答えはもちろんイエス。一秒すらかからない一瞬のことだった。

 

 

 ──まぁ既に汚れているので手遅れかもしれないが……。そんなことは一旦置いておいて、急遽アスタリスクに戻ってきたのには理由がある。

 

 

「放置プレイは天霧たちが相手してるからなってない。確かに自分の手でケリをつけたい気持ちはあったがな。──だが今回早めに帰ってきたのにはちゃんとした理由がある」

 

 

「……どうせ学園祭のカジノでしょ」

 

 

「まあ間違ってはいない」

 

 

 ジト目で理由を当ててきたニアに、行人は苦笑いしかできない。実はこれは、中等部三年になってから始めた小遣い稼ぎの一環だ。実家からの収入などないので、こうしたことをしなければならなかったのだ。勿論ポーカーフェイスを鍛える目的も多少あったりする。

 

 

 駄菓子菓子(だがしかし)、今年の行人にはもう一つの理由があったのだ。

 

 

「実はな、利奈からちょっと連絡があったんだよ。お前はいなかったから知らないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──来年の《獅鷲星武祭(グリプス)》に出るつもりらしい。経験者の付き添いが欲しいとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ここから行人は、それぞれの思惑が蔓延る戦いへの、第一歩を歩み始めていた……。




 どうも、昨日(12月6日)に出そうとしたら寝落ちしてしまった作者(アホ)です。

 最近停滞気味だった物語もようやく次に移れます! ついでにネタバレするとオリキャラもようやく出てきます! もうようやく祭りです!(?)

 それでは次回もお楽しみに!

行「ちょっと待てや」

 何? もう終わらせようと思ったのに……

行「お前オリキャラについてどうすんの?」

 あ……。……えーっとですね、感想でオリキャラをくれた方々にお聞きしたいんですが、それらの感想を消してもいいでしょうか。

 理由としては、感想を見たときにネタバレの可能性が出てきてしまうので……。魅力的なキャラ案たちを消すのは忍びないですが、どうかお許しください。

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